33.回収
芝居は終わりだ。
カツン、と小気味いいタップ音が響き割る。月光を浴びながら軽やかな足取りで渡り廊下を行く少年は、芝居がかった大袈裟な止まり方をした。平べったい笑みを貼り付け、蜥蜴を袖の中にしまい込むと、後ろ手に組んで背筋を正す。
何故そうしたのか彼にも理解できなかった。否、その必要が無かったというべきか。余所見というのは視線のピントを合わせるが、本質的には無為であるのと同じように。
「こんばんは__皆さん、この錆色の世界で、いかがお過ごしでしょうか」
わざとらしい一礼に続いて、その手が弧を描いた。警戒されるのは必然、なれば敢えて殺されない敵であろう。口角を上げれば、そのネオンピンクの瞳と目が合う。
「ボクは、天使の代理で貴方方をお迎えに上がりました、ヴィクターと申します。僭越ながら……貴方達は実に害悪でしてね。直ちに立ち去ることを推奨いたします」
無反応。一縷の動揺も見せない新米教師の背後で、縮こまって隠れている子供三人を見つける。オトマーの言っていた阿保共はこれか。貴族の子は殺しづらいので苦手だ。まぁいい、これでヴィクターに手は出せない。
「もっとも__バンビは、その方がお気に召すようで。実に微笑ましいことです」
子供の口は塞いだ。
「ところで、“エクソシスト”殿。清き御使いが“情熱的”で“目端が利く”とは――世に聞こえたものですが」
アイロニーの舞踏はもう飽き飽きだろう。喜劇というにはいささか、転調がなさすぎる。
「……お遊戯の時間も、御終いに致しましょうと。仰せつかっておりますよ」
その人間は、人外と見紛うほどの狂気的な笑みを浮かべた。
嘘は方便と言う。
だが、彼の世界に嘘はひとつも無かった。嘘は機能しないし、そういった概念も無い。
何故なら全て”視える”から__そう、隠れているだけで、少し話術を磨けばカーテンに包まる幼子と何ら変わりない。
「……短気な天使サマがわざわざ伝書バト!ありがたいねぇ、おかげで念入りに準備ができそうだわ」
「これはこれは、失礼致しました。夜盲症とは存じ上げませんでしたの__」
「はいはい、んで?これ回収してくれんの?」
「……何と物わかりの良い、流石人生経験豊富なだけありますねぇ。フィルムの方は?」
「できる?」
「はは、独創的なお方ですね。そこに実現性さえあれば」
「ダリィ……五分そこで棒立ちしてろ、クソガキ」
「承知いたしました」
次に瞬いたとき、既に三人の子供は地面に倒れ伏していた。わかってはいたが、眼前で実演されると改めて冷や汗が流れるものだ。
人外とは人間の適う相手ではない。
彼らの競合に混じってはならない、身の程を弁え、そして生き残るミニマックス戦略が最も賢明。
天使の命令を笑顔で承り、余計なフィルムを消し、悪魔どもの自らを囮にした派手な演劇を終わりにさせ、舞台はようやく整う。
殺し合いではない。天使の目的は神獣を逃がすことなのだから、彼らの相手は他にしてもらう。
非含有物は、非含有物で__。
(__磁場は、ボク達が歪曲した)
笑え。
豆知識……
実は、ジャラはガムが苦手。味が失われゴムのようになるのがトラウマだとか…




