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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
46/51

28.異形と天使

 耳元からした鼓膜を突き破る破裂音に、クオンは我に返って銃を取り出す。その直前に弾丸は白い一閃を跳ね返し、金属音が薄気味悪く湿った地下水路内を貫いた。シャイルはと言えば、首筋に赤い筋を残したまま、ルークに引っ張られて驚愕を表す頸を切り落とされずに済んだ。

 天使が暗殺を仕掛けてきたということはすなわち、クオン達を一介の不審な第三者としか認識していないからだ。一級を相手にするには陳腐な策謀であるとともに、クオン達には返って都合が良い。

 これほど相手に分が悪い対面もそうそう無いと思って、ノマドも否定の意を示さなかったのでクオンは徹底抗戦を判断した。

 最低条件として、人間二人は無事にしなければならない。しかし、シャイルは教師という境遇を過信しているのか向こう見ずをやりたがるようで、生徒に厳しい目を向けると共に脱力する。そのまま前のめりになり、背後から手刀を入れたルークが我関せずといった容貌で彼女を片腕に抱えた。三人が目をしばたいてその様子を眺めていると、彼は一つ跳んで対岸の通路を曲がり物陰に隠れ、渡る前に小さく呟いていた。

「量見する」

「……わかりました」

 今この旬から終わる時まで、彼は一切の関与を持たない。それは同時に現場監督の放棄を意味した。またその彼の鮮烈な赤い瞳は、呆れか興味が濃い光となって溢れていた。

 通路の前方は暗闇に侵されており、クオン達の目には色素がすっかり削ぎ落とされたように映った。金属光沢のない銃を構え、やがて背後から伸びる白い鋭利な切っ先に一瞬凍り付く。憂慮も虚しく、それはジャラの構える大ツルハシだった。かなりの大きさで、彼らの背丈を優に越すそれは錆びれた骨のように見える。柄は確かに金属だった。

「どーする?食べていいの?」

「駄目だよ、此処においては何人にも手を出さないって約束したでしょう。それよりも、遊んでないでちゃんと相手してあげてね」

 ウルが柔らかく諫めれば、ジャラは多少不服そうに眉を伏せるも、直ぐに子供の悪戯心から来る笑みを浮かべた。

「__此処で何してるの~、危ないよぉ迷っちゃ」

 曲がり角の奥から、噴水で聞いた声がする。まるで機械が笑っているような違和感が空気を伝い、湿気と同化して肌に纏わりついた。

「__水に溺れても助けは来ないし、水質も長年検査してないから粘膜に触れたら怖いよねぇ……君等が来た入り口も分からない、此処は()()()()()()()()()()。もしかしたら、行方不明のジョン・ドウに早変わりだ」

 やはりクオン達よりは幾分年上であろう、少年の嘲りが響く。やけに愉し気な風を装っても、拭いきれない違和感はないざいする無機質に嫌悪感を抱かせる。

 こちらは黙って相手の出方を窺っていると、今度は重厚な金属の先端を引き摺るような、固い石か何かが搔き削られるようなざらついた音が接近した。その音は舌に鉄の味を錯覚させた。

 鎖の音と非常に不快な金属音に混ざり、水滴が滴る。時間経過と相手の距離を測る術はそれしかなかった。

 応答が無いことで機嫌を損ねたのか、少し声のトーンが落ちてふと音が消える。

「……あれ、黙ってるよアイツ。()れないなぁ、どうしようかバアル」

「どうもこうも……元々始末する予定だったんだ、お人形さん相手なら手間が省ける」

「だっからぁ、情報搾取できないじゃんよ」

「煩い。時期は来たんだから黙れ」

 時期、という言葉にクオン達は目を合わせる。誰も何を言っているのかわからず、真っ暗な未知の疑問を抱えたまま通路の奥に目を戻した。十メートル程向こう、三つ奥に僅かに開いた通路の続きの闇が蠢く。

 そのとき彼らが目にしたのは、確かに天使と呼ばれる種だった。髪から睫毛に至るまで色素を排除し、絹そのものを見繕ったかのような相貌。無生物を思わせる陶器みたいな肌、精巧で生きたビスクドールが感情だけ失ったかと見せる美しさ。

 石膏の如き見目は、決して暗がりのせいだけではないだろう。

 この場で邂逅(かいこう)した悪魔と天使は、宗教のそれとも異なるのだが、俗世に紛れた悪魔と比べれば彼らは確かに神秘を内在している。とても脈打つ生命とも見えず、人形か何かと言われた方が理解に容易かった。

 ただ人外種の内天使と証明するシルシだけは他と全く異なり、至ってシンプルなものなのだ。涙袋から頬骨にかけて真っ直ぐ横断する白か黒の線。それが、眼前の二人にはあった。

 つまり、学園が夜の帳に閉ざされ切っている間、彼らは人外として活動できるのだろう。悪魔三人やノマドも、此処に滞在する間は印を視界の枠から消去している。人間に見られれば、殊更それがこちらの世界に精通している者であればそれだけで厄介事だから。

 一瞬、背丈のある方がジャラのツルハシを見て目を丸めた。他二人は銃を握りしめているのだから当然だろう。

「……地下だけどさ、まさか、坑道開発するつもり?」

「違うよ、ちゃんと武器だもん。おっきいけどね、慣れたら銃とおんなじだよ」

 ジャラが天真爛漫に微笑うと、天使二人は掌中に紙屑を収束し始める。それはやがて構成され、背丈ほどある大鋏(おおばさみ)と鎖鎌に成った。いずれも白く、石灰のような無機質さだ。

 比較的静かな”バアル”という少年は眉間に皺を寄せると、訝し気に彼らを見据える。それを横目で見た天使は愉快気に唇を歪めた。

「……要らないと思ったのに」

「だから言ったじゃん、情報引き出そうぜーって。コイツら何だ、少しは魅力的なネタ持ってそうに見えるよオレ」

「何遍も言わせるなウェリエル。牡蠣みたいに寡黙、吐く可能性は薄いでしょう。割らせる時間は無い」

「えー、有益そうなのに。それにさぁ、痺れも切らさずずーっとオレらの茶番見てるんだけど。情報漏洩狙ってたりぃ?あっはは、ムリムリ!!」

 ”ウェリアル”は大鋏を縦に構え、金属音を滑らせるとジャラに向かって一直線に跳躍する。その異質さに目をつけたのだろう、クオンとウルが反応する前に白い刃と刃は激突した。火花が散ることはなく、やはりジャラのツルハシは金属製ではないらしい。

「うおー、かったッ!コレって斬れない物無い筈なんだけどなぁ、ねぇねぇ君」

 ツルハシを薙ぎ払い、ジャラの頸に刃をかける。

「何?」

 断裁音が一閃鳴り響き、ウェリエルは獲物を見失ってふと刃重ねの下を見た。途端、後方に倒立したジャラはしなやかな動きで大鋏を蹴り上げ、バク転して距離を取る。

 その衝撃で顔面に打撃が入り、ウェリエルは顔をしかめながら鼻血を拭った。

「いった……人間の動きじゃねぇだろ、脊椎何処行ったんだよ」

「……」

「連れねぇの。バアルより面白そうとは思ったんだけどなぁ、じゃあせめて名前教えてよ」

「ジャラだよ!」

「え、そこで教えちゃう?馬鹿なの?」

 切れ長な瞳をまた見開くと、今度はツルハシが胴体を狙っていた。

「うわぁ〜、大胆」

 その背後では、クオンとウルがバアルと戦闘中だった。言っても、ウルはひらりひらりと紙のように躱すだけで、攻手はクオンの銃撃だけが響く。ウェリエルは一瞬そちらを盗み見ると、口を裂いてジャラへ向き直る。同じ白でありながら決して交わることのない刃を交え合いながら、その視線同士だけが衝突し、火花を散らした。

「いいの?バアルはオレと比較にならないくらい強いけど、お友達の生首掻っ攫われちゃうぜ?」

「ううん、大丈夫。ふたりとも僕と同じくらい強いもん」

 そう豪語するジャラの切っ先は、確かに凄まじい勢いでウェリエルに迫る。それを軽薄な笑みで易易と躱し続けては大鋏を食い込ませる彼も、また手練だとジャラは察していた。

 それに、大振りなジャラのツルハシは狭い空間では十分に扱うことができない。その性能を発揮できておらず、ハンデがあるのもまた事実だ。

「てかさー、そのツルハシ何なの?斬れねぇんだけど」

 無骨な切っ先を躱すと、彼は重力を無視する動作を見せる。地面を軽く蹴り、それを見たジャラは先んじて背後にツルハシで弧を描いた。

「__あ!」

 虚しく空を切る刃。暗闇を更に陰らせる大鋏に、ジャラは心臓が凍え、そして滾るのを感じた。冷えた以上に熱の激流を持ち、身体の闇に抱擁された炎が血流と代わって迸る。

 __あぁ、愉快。

 身に渦巻き、眼を爛々と輝かせる興奮を幼子が抑制できるわけもない。ジャラは体内の業火を二の腕から上腕二頭筋にかけて伝わせ、怒涛の勢いのままにツルハシを天井へ向けて襲わせた。

 大鋏が頸を断裁しようとすると、苛烈な金属音を立てた。ウェリエルは響き渡るそれに真珠の如き眼を見開く。

「うわ、傷一つ付かねぇ!かッた!」

「そっちもじゃんか!おかしいでしょ、そんな薄っぺらいのに」

 ツルハシで何度垂直に穿ってみようが、大鋏は真新しい様子を崩さない。極限の人間擬態状態では渾身の一撃さえ満足に威力を発揮せず、ジャラは焦れったく口を経の字に曲げた。

 一方、クオンも同様にもどかしい攻防を繰り返していた。一級悪魔であるだけに世に匹敵する存在は多くないのだが、相手と己の実力がどうも、拮抗して一向に状況が転じないのだ。

 推し量ろうとすれば、相手も此方のその行動や思惑までを模倣している気がする。かえって銃口だけに神経を集中させ、全力で狙撃を加えようとすれば天使もふと驚いたように此方を見てくる。

 同等の能力。比較的穏便な戦闘が叶うのは、ウルがバアルの妨害をしているからだ。クオンは荒事の熱で浮かされた思考回路を一旦冷やし、弾丸を弾き返すその真っ白な鎌から目を逸らす。

「__……一翼か」

 そう呟いたのは、紛れもなく己の口。ご丁寧に虫の知らせという言葉があるように、嫌な想像ほどよく当たるというのは真実なのだろう。

 案の定天使は白い睫毛を柔らかく垂らし、ダイヤのような純白の瞳の燐光を残して後ずさる。鎖の音が途切れたと見たのか、ウェリエルもジャラと一線引いて、更に大鋏でクオン達を捌けて合流する。空気中に残った仄かな白い光は蛍のように尾を引いて、すぐに消えてしまった。

 天使はしばらく黙って徐々に表情を消していく。表情筋の一筋一筋を解くように脱力し、やがて冷たい銀の瞳孔をキュッと縮めた。

「そうか、君、クオン・アズリーだ。協会が勘付いた?独断?一体どうして此処に紛れ込んだ……答えろ」

 沈黙の人形が目を細め、怒りの視線を射る。互いに人間の化けの皮が剥がされ、空気には触れれば砕ける霜のように、脆くも危機感に満ちた緊張が張り詰めた。

 疑惑の視線を絡め合い、相手の機微を探ろうとしばらくの時間が経過する。ややあって痺れを切らしたバアルが武器を崩壊させ、白い塵は煤のように湿気った空気に弄ばれて消えてしまった。

「もういい。僕らは君達を殺せない、同様に君達も僕らを殺せない。これでは意味が無い」

「……トライアングル間での殺生は禁じられている、から?同盟は規則を違反の中継地点としか見ていないだろ、相変わらず姑息だな」

 前にも記した通り、トライアングルは決して有効な関係を築いているわけではない。個人個人の付き合いがあったとしてそれが機関に当てはまるものでもなく、腐れ縁と言うのが正しいだろう。

 故に諍いが日常的に勃発する為、古くに制定された規則がある。


『何人も、時期、態様、動機その他一切の事情を問わず、トライアングル間における争い又はこれに準ずる行為を行ってはならないものとする。』


 という項目だ。要するに現時点で立派な違反行為に値するのだが、この瞬間監視の目は無い。控えているルークも此方の世界に通じているようだし、安心はできずとも融通は利くだろう。

 一旦生命の危機という動機が失われ、臨時体制になるとクオンはそんなことを考えていた。一方バアルはウルに目をつけると、しばらくそのオッドアイと睨み合う。

「ところで、君悪魔じゃないよねぇ……ん〜、見当もつかないんだけど。マジで何?」

 目線でバアルに尋ねるも、彼も首を横に振って訝しげにするだけだった。

「亜人にしては奇妙な雰囲気を纏ってる。乱れがない、統率された生態を感じる」

 言われてクオンも彼を見てみるが、天使の言い分は理解できなかった。超自然と密接な天使にしか無い第六感だろうか。この世で唯一神に仕える種であるのも納得できる異様さは、トライアングルでも歪に目立っていた。

 いや、もしかするとクオン達に気を遣って、彼らにだけ気配を隠しているのかもしれない。人狼ならそのくらいできるだろう。

「……一翼で間違い無いな。一体何を企んでいるとは問いたださない。が、一介の諜報にしては度が過ぎている」

 眉間に皺を刻んだクオンに、バアルは薄い笑みを浮かべて嘲った。

「何が訊きたいよ?小悪魔ちゃん、今君に勝ち目なんてない。オレ達天使種の肉体は……人外の中でも成長が遅いの、知ってる?小悪魔ちゃんが約200歳と仮定すると、オレらとは1000年の経験差があるん__」

「その減らず口を閉じろ。餓鬼のお遊びに付き合う暇は無い、報告が先でしょう」

 冷えた声音の切っ先がウェリエルを遮る。彼は大人しく口を閉じ、情らしいものを全て削ぎ落としたマネキンのようになってしまった。先程の彼から隔絶された”彼”が、あまりにも似つかない。これ以上、ウェリエルに情報は期待できなさそうだ。

彼らは背を向ける。

神獣と呼ばれる”何か”に報告する為に。

「……蛇、というのは魔廻物か」

呼び止める為にそう放つ。

噴水にいる時点で気づいていたのなら、ウェリエルが『蛇ちゃん』と喋ったのは妙だ。既にこちらの動向が筒抜けなら、悪魔と認知されていて当然。

彼らは、クオン達の正体も知らず地下水路へと誘い込んだのだ。

トライアングルと知って真正面から攻撃を加えるはずもない。鎖の音を響かせたのも故意だ。全ては侵入者を惑わせ、陥れ、弄ぶ為__……いや、その”蛇”の元へ連れ去る為?

だが、彼らがそれに答えることはなかった。

その背後にひらりと、純白の羽が落ちる。次々とばら撒かれた羽は無風の空間で宙で踊り、紙吹雪となってクオン達を襲う。咄嗟に庇った腕の向こうには、酷く奇妙な光景があった。

その背中から、大きな翼が姿を現したのだ。

彫刻のように思えては、肉感的で脈を感じるようなソレ。クオンは湿った空気を吸い、肺が震えるのを感じた。

「待て!!まだ話は終わっていないだろう!!」

そんな訴えを聞くはずもなく翼は彼らを柔らかく包み込む。翼は凹凸を失って蚕繭へと成り、テレビが消えるとき一瞬映るノイズのように、急速に縮まっていった。

焦りは細い糸となってクオンと天使を繋ぐ。逃してはいけない。渇望の想いでそれを掴み取ろうとすると、糸は無慈悲にも途絶えてしまった。


クオンの手は虚しく空を切る。後に残ったのは僅かな羽と、閑散とした闇だけ。



△▼ △▼ △▼ △▼ △▼



扉を開き、オトマーは教室へ入った。

時だけでなく、空気の流れごと奪われたみたいに沈んだ空間。床や壁は襤褸(ぼろ)雑巾のように朽ち、所々捲れている。机や椅子は腐敗し、飴細工のような輝きの代わりに酷い損傷を負っていた。

試験監督の教師がするように机の間を緩慢に歩き、しばらく埃臭い空間を眺める。窓は外界を嫌がるかの如く曇り、覆うはずのカーテンは無惨に破けていた。

「……クソ」

此処が生まれ育った世界ではないとわかっている。廊下には撒いて来た醜悪な異形がうろついており、出て行くのは自殺行為だとも。

ロンド達を遠くから見張っていたのだ。噴水が大音量で鳴ると同時に、空気が狂った。

まるで世界の裏に張り付いていた地獄が、慣れ親しんだ場所に成り代わるかのように。あるいは、世界が剥がれるという形で彼らを残して逝ったかのように。

そして気付けばすぐ横に悍ましい異形が現れ、逃げてきた。ロンドと合流しようにも道が閉ざされてしまい、成す術無くここまで走って来たのだ。

塞ぐ気持ちを無視し、あの噴水の光景を脳裏に描く。ランタンに照らされた流れる鮮烈な赤は、未だに瞼の裏に焼き付いていた。

噴水は一度開かれ、そして閉じた瞬間全てをこの辺獄に変えた。つまり契機なのは間違いない。


__もう一度起動すれば、元の世界に戻れるかもしれない……。


埃を被った教卓の横に座り込み、目元を覆う。

廊下からは何かを引き摺るような足音が響いてくるのだ。出れば見つかるが、異形が退く様子も窺えない。月光に照らされて、廊下側の窓にその影が映っていた。

追って来たのは、吊られた死骸など見たことも無いのに、それを彷彿とさせる邪悪な姿。顔面の皮膚が引き延ばされて、天井に張り付いていた。それだけで全体重を支えていたのだ。腹は切り裂かれ、遠慮がちに垂れ下がる内臓が糸を引いて滴る。そいつが動く度に、雨の日踏んだ紅葉と同じ音がした。

オトマーはソレを見た瞬間から、身に集る虫のような気持ち悪い違和感を感じていた。悪寒でもあるだろう。

あれは化物というには、少し繊細なようだった。確かに歪で醜悪なのに、迫りくる凶悪さは無い。それどころか何処か哀愁を感じた。人工的に見えて、その一方血の流れる生命体のように見えて。

悪意を持つ悲嘆。

そんなところか。

「……あの婆、いつか地獄に堕ちやがれ。でなきゃ惨殺されろ」

歴史は嫌いだ。あの目に晒されるのが不愉快で、教科までもが影響されてしまった。

今こうなっているのも、全部あいつのせい。

そして否定ができなかった、無力な己のせいだ。

自分はただの操り人形。替えなど幾らでもあるだろう。戻っても、精々その手間が省けるだけ。

そんな苛立ちを脚の筋肉に込めて、オトマーはようやく立ち上がった。怒りが胸の内を擦り抜けると随分楽になった気がする。

「……やるか」

ロンドとあの二人の頭脳では、まず答えに辿り着くことすら不可能だ。オトマーが起動するしかない。

覚悟を決めて扉に近づき、慎重にドアノブを回す。

その瞬間、扉の隙間から薄い紫の煙が覗いた。

「ッ……」

息を止めて扉を開き、反対側へ逃げる。振り返ってみると、先程まで異形が彷徨っていた処に小さな紙片が落ちていた。

オトマーは急速に薄まる煙を凝視しながら、袖で口元を覆ってその紙を拾い上げる。

紫の目玉、薄い緑の逆三角形は瞳孔だろうか。

「なんだ、コレは」

形代のような形をしているが、まさかこれで異形を払ったとでもいうのか。ありえない。

……本当にそうだろうか。

相容れない世界を目の当たりにしている時点で、そんな考えは捨てるべきだろう。考慮すべきは有害か否か。

この紙は恐らく、後者だ。

オトマーは形代らしきモノをポケットに突っ込み、廃れた廊下を歩き始めた。

此処は何なのか、ロンド達は何処にいるのか。疑問を挙げては思考の片隅に保留し、小さく溜息を吐く。

廊下は仄暗く、月の光だけが唯一世界を照らし出していた。空中に舞う埃が煌びやかに見える。しかし、一度床を見れば乾いた赤黒い痕が残っているのだ。人間でも引き摺ったのかと嫌な想像をしながらそれを追っていくと、今夜訪れたあの渡り廊下に出た。

「小瓶……目薬?」

鋭い反射光が目に入り、手に取って見れば冷たい感触が指を伝った。中身はまだ大量にある。

一体誰のだろう。オトマーはそれも拾い、渡り廊下の向こうへ進む。もしかすると、あの馬鹿三人の内の誰かの物かもしれない。

背後で、ロンド達を見失った顔の潰れた異形がオトマーを見つける。

か細く漏れた呻き声は生温い息を伴い、それはまるで獲物を捉えた肉食獣のようだった。









\\第一回!推しキャラアンケートー!!//

[褒賞]

・最多得票のキャラの”sideストーリー”投稿(一万文字以上)

・一票以上投票があった場合、1/5までにエピソードを3話更新

[投票方法]

”小説家になろう”の感想にてお教えください。待ってます! 

 例(ウル。好きだから!(←こんな雑なのでも大歓迎です!とりあえず票があれば、めっちゃ嬉しいんです!!(必死))

[対象]

登場人物全員

[対象者]

この世界が好きな方全員投票可

[期限]

2025まで。

[目的]

Fake and Liarの世界をより楽しんでいただく為。コンテンツとして成長する為。


読者の皆様、ご協力お願い致します!





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