15裏話.懐かしい記憶
作者がティアを書きたかっただけの小話。
とんでも平和回です。
(最後に告知(?)あります)
「ライベリーちゃんいる〜?」
そんな声と共に肩を叩いたのは、研究課1級のヴァザール・ティアだった。まず印象に残ったのは本人曰く201センチもあるその背丈、褪せた黄緑のショートヘア、赤と青のオッドアイ、真っ青なリップ。
「今は寝ているよ。どうかしたかい」
「あら、そんな警戒しないで!お土産渡しにきたのよ。お、み、や、げ」
無遠慮にソファに座ると、彼は肩をすくめる様な格好をとる。途端、その両手にはカラフルな紙袋が幾つも引っ提げられた。
無反応のクロヴンに彼は今度こそ肩を竦め、つまらなそうに言う。
「ちょっと呼ばれて、アメリカ行ってきたのよ。あの子服とか好きだったじゃな〜い?将来はおしゃれ番長ね、楽しみだわ!」
「そうかい」
「何よアンタ、不躾ね。お礼の一つくらい言えないの?あーあ、あの品行方正なライベリーちゃんがアンタに余計な影響与えられたら……嫌よ!そんなのったら私、見てられないわ!」
体を奇妙にくねらせてそう宣う彼を見ていると、何故か疲れてくるのだ。まるで石像のようと協会の職員に評されるクロヴンの微笑だが、ティアにはそれが通用しない。ごく小さな変化でさえ、いや、変わっていないときでも敏感に察知する。それが少し興味深くもあり、忌避するべきものでもあり、最終的には我に返って引いたりするのだった。
何しろ、相手は2メートル以上あるオネエである。それも随分とライベリーを気に入っているようで、過去に幾らか程度に収まっていた館への訪問履歴は、一年で既に百を超えている。
彼は研究課一級という立場もあり、更には常日頃から騒がしい相棒と不眠不休の生活を共にしている事をも含めて極めて多忙な悪魔だ。わざわざ時間を作ってまで会いに来るのだから、相当気に入っているようなのだが。
「……君の方がよっぽど悪影響ではないかい」
「あらっ!失礼しちゃうわね、どーいう意味よソレぇ!!もー、せっかくアンタにも本買ってきてあげたのに燃やしちゃおうかしら?ほら、千年前に亡くなった鴉一族の著書よ。前々から欲しがってたじゃない」
「生憎だね」
「はぁッ!?アンタ、これどうやって手にしたわけ……?ニューヨーク駆けずり回ってようやく手に入れたのに、もう!無駄骨折ったわ!」
「君も一度読むといい。実に興味深い話だったよ、稀代の名作だ」
過去になぞった美しい文章を思い出しながら、非常に簡潔に伝える。彼はしばらく明後日の方向を見て悩まし気にしていたが、ややあって溜息を零した。その目には気怠さが見て取れる。早くもクロヴンという淡白な調子の受け答えに、退屈を覚えてきたらしい。
「そうねぇ、アンタがそこまで言うのなら読んでみようかしら……それで、ジャンルは?」
「おおよそSFと言ったところだろう。若干のホラーが滲んでいるが、素晴らしいの表現力の賜物だね。多面的できめ細やかな描写がリアリティのグロテスクさを出力している」
「分析的ねぇ、見解としては面白いけれど。興味のない子にもそんな風に吹き込んでるんじゃないでしょうね」
「……」
確かに、少々論ずべき点がずれていたかもしれない。興味を引くには具体的で仔細なき概要が必須だ。正直、文章に関心のないヒトからすれば全く面白みなどないだろう。
「アンタは周りが見えてないのよ。遠巻きに観察するのはいいけれど、他人が何を求めているのかちょっとは頭使いなさいな。世界は自分を中心に回ってるのよ!そしてその中心こそ私よ!!」
あくまで会話という接点において、と彼は付け足す。
「……だから、ライベリーに会わせろと言いたいのかい?」
「そうよ!悪いかしら!?」
やはりか。結局彼は、己の利しか考えていないのだ。それがまた一層、興味を掻き立てるのだが……。
「あの子は寝ているよ。午前中ずっと外出していたからね、疲れがでてしまったようだ」
「あら、それは仕方ないわね。良い子は寝て育つのよ、きっとあの子もアンタくらいには大きくなるわ!」
一瞬眉を上げて笑って見せると、さも当たり前のような顔をして紙袋を机の上に置いた。センスの良さは認めるが、押しつけがましさも否めない。
確か、つい先週も自己中から欲を出し過ぎて牢に放り込まれていたはずだ。毎度お馴染みの事なので一時間と経たずに出てきたが、看守と軽い挨拶を交わすほど常連になると益々ライベリーから遠ざけたくなる。
「お湯は要る?……ってアンタ、ポット空っぽじゃない。ライベリーちゃんが紅茶でも飲みたくなったときどうすんのよ」
「それはノイズだよ」
「最年長はアンタでしょ。言い訳しないの!」
「……ゴメンネ」
「水平線並みの棒読みやめてくれるかしら」
そう正論をかますなり何なり、彼は勝手にお湯を沸かし始める。全く自由人というか……。
相手が彼とはいえお菓子でも出そうかと、自らもキッチンに赴く。適当に棚を開けて見つけたのは、最近2級の子達から(正しくはケルル)貰った和菓子だった。確か気晴らしに仁鬼のとこ遊びに行ったとか言っていた気もする。
『そうなんッスよー、アイツらめちゃくちゃお土産くれるから嬉し過ぎて若いくせに高血圧なっちまうとこでしたわ!っつーことでクロヴンさんに譲るッスめちゃくちゃ美味いのでどーぞ』
『……ライベリーにあげるとしよう』
『是非!あ、ついでに茶葉もプレゼントフォーユーで。ゲンマイチャって言ってたッスよ』
『それならあの子も飲めるだろう。他の茶と比べて甘みがあるからね』
『へー!じゃメイジックにも出してやらなきゃなぁ、アイツ疲れると眉間にしわ寄せて新人ビビらせるんッスよねぇ』
『そうするといい。彼は甘味が嫌いではなかったろう?』
『なーに言ってんスか、このトライアングルで甘味苦手とか生きていけないッス。疲労解消の道断絶バッドエンドルートッスよ』
そんなこんなで両手いっぱいに梱包された和菓子と茶葉を貰ったのだが、ライベリーは飽きもせず食べるからいいものの、ジョーカーを始めノイズが早々に離脱してしまって在庫が半端ないのだ。これでも全体の3割にしか及ばないのだから、全く恐ろしい。
ちなみにクロヴンもそろそろ限界である。そして、彼がこの好機を逃すはずがないのだ。
「……ティア、和菓子があるよ。渡米してから和が恋しくないかい?」
「あら、そういえば……?何よアンタ、気が利くじゃなぁ〜い!ちょっとは見直したわ!」
「お前のちょっとってどんくらいやねん」
「ぎゃあああああ!?!?」
突如真横に現れたノイズ(321歳)にティアは張り裂けるような絶叫を落とす。まだクロヴンより背の低い……と言えども170あるノイズは用意周到なもので、耳を塞いでいた手をゆっくりと離した。
「はーッ……お、おかえりノイズ……お願いだから普通に登場してちょうだい……心臓に悪いわ」
「いや姐さんの家ちゃうし、おれら心臓あらへんやん。なージョーカー……って、アイツおらん!何処行ったんや……?」
「ノイズ、和菓子でも食べるかい?まだたくさんあるよ」
そう声をかけると、途端彼はげんなりと目を細めた。
「いらん……消費期限が寿命迎えそうなったら食う。ライベリーにでもあげろや、んで?」
「寝室で寝ているよ」
「ほんなら起こしてくるわ。あとティア姐さん、ライベリーに余計なこと吹き込むなよ」
「わかってるわよ〜!純粋な子にわざわざ解剖術なんて教えないわ!」
「他もアウトやっちゅーねん阿呆!!」
ティアを姐さんと呼ぶ……いや、呼んであげるのはライベリーは勿論ノイズとジョーカーだけだ。そのせいか、ティアも彼らにはライベリー並に甘い。
ちなみに後、ノイズを真似てクオンも姐さんと呼ぶようになった。無事に心不全をお届けしたようだ。
「あ、そういえば白熊。アンタ、ヘイトにライベリーちゃん会わせた?」
「……まだだよ」
「あらぁ、早く挨拶すればいいのに。あの子可愛いものが大好きだから、忙しい時とか面倒見てくれるわよ。特に変な部分もなし、比較的健全な子だし」
「ふむ……あとでノイズに尋ねてみよう。確か、ヘイトは補佐官だったろう?」
「ええ、ノイズ直轄暗殺部隊の総統よ。任務課3級の実力もあって、あと随分ノイズに懐いてたような……多分アレね、あの子治安悪い子達と仲良いじゃない」
とある下町の裏通りのことだろう。あそこはガラの悪い連中が蔓延る酒と金、賭博の世界だ。情報網を期待したノイズが十八番の賭博で一帯を押さえた所、妙に馴染んで今では皆から兄貴と親しまれるようになったという。ヘイトの出身もあの辺りなので、それに起因するはず。
「まあ今度顔合わせたら1発ぶん殴るとか言ってたけどね。またサボったみたいよ、あの子」
「ノイズは興味のない仕事を放り出す癖があるからね。仕方ないさ」
「大元がアンタって話よ。ライベリーちゃんまでそんなことになったらわかってるでしょうね。今まで隠蔽してきたアレコレ、ぜーんぶ一挙大公開よ!」
そう、このオネエなんと、実行隊員最高責任者なのだ。元より研究課は他の部及び課より地位が高く、行き届く権利も広い。それに加え最高責任者である彼が少し動けば、いかにクロヴンとてそれなりの処罰を受ける……かもしれない。
何しろクロヴンもクロヴンで生ける伝説。更に任務課特級という融通許可証擬きの身分である。
「……善処するよ」
「何がやねん。ほら姐さん、呼んできたで」
「え?何処よ」
「わっ!」
「ぎゃあああああ!?!?ちょちょちょちょっとノイズ、何要らんこと吹き込んでんの!!お化け屋敷かしら!?」
ノイズが主犯だろうが、ライベリーがティアの背後から脅かすと彼は物の見事に肝を冷やしたようだった。その様子をノイズがにまにまと眺めていると、ライベリーも愉快げに笑う。
「よっ姐さん!久しぶり!」
「ちっちゃ……!あらアンタ、そんな背低かったかしら!今292歳でしょ?ってことは中身13歳じゃない!」
「14だし。あと162cmはあるからな!」
「40センチ差よ全く可愛いわね」
「君が規格外なだけだろう」
「はああん!?アンタってやっぱり失礼ね!!確かに私はちょーっとばかし高いわよ!アンタと3センチ差でね!」
「せやぞクロヴン、お前も大して言えんからな」
「あんたら全員言えたことじゃねーよ。ノイズだって15歳だろ、デカすぎじゃね?」
「体質や」
「全員そうよ。馬鹿なのかしら」
ちなみに和菓子は半分近くがティアに譲渡された。
ちなみに後に、無事全て食べきったようです。
お察しの通り、僕が和菓子を食べたいと思いながらサブメインキャラ書きたいという欲望の元書きました。
和菓子はないです。
また、来月あたりに感想の方で「推し」を教えてもらおうと企んでおります!
見事1位に輝いた子のサイドストーリーを書こうと画策しておりますので、是非お付き合いください!




