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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
41/43

14裏話.準備は未だ

クオン達がアリスと出逢う前の話。

「うわッ__!?」

 不味い、そう思った時には階段から足を踏み外していた。焦るなんてもんじゃない、心臓は痛いほど脈打って警鐘を鳴らす。

(やべっ……)

 突如、首元に衝撃が走る。ガクンっと頭が揺れ、誰かが腕を掴んでくれたのだと気づくのに数秒要した。

「アンタ、やっぱ睡眠不足じゃないの。体に悪いわよ」

 そう言いながら彼女を引っ張りあげ、静かに溜息を吐いた。安堵か呆れかは知らないが、彼にはあまり言われたくない。

「助かった、確かにやべぇなこりゃ……つか、第一暗いし」

 今では使用されていない、屋根裏の古びた物置部屋。定期的に行っているにも関わらずこの体たらくときたら、流石に危険かもしれない。

 重い瞼を擦って再度階段を上がると、微かに目眩がして一瞬視界が黒く染った。

「ほら、眠いんじゃない。今夜はアタシ一人でも充分よ、アンタは帰って寝ときなさい」

「いや、まだ大丈夫。これでも自分の限界はわかってるつもりだぜ?私」

 何なら作業中に寝るし、と笑えば彼は苦笑する。

「限界が来たらダメなのよ。アタシはともかくアンタには命に関わるからね。でもまぁ、可能な限りは守ってあげるけど……」

「わかってら、ハナから当てにするつもりもねぇよ。頼りきりじゃ元軍人の風上にも置けやしねぇ」

「あら、自覚あるのね」

「だーれが風上にも置けないって?」

 少々癪なので、背後から背中を小突いてやる。彼は特に反応も示さず、全くつまらないものだ。本気で殴ればきっと驚かせられるだろうが、そんな気力もない。

 まあ要するに、元気さえあれば実行していたということだ。

 しばらくし、二人は物置部屋に辿り着いた。

 彼は真っ黒な棺を足でつつくと、気難しそうに眉をひそめる。

「やっぱり、この箱じゃちょっと心配ね……中身が暴れても大して耐えれやしなさそうだわ」

「そーか?私は充分だと思うがな、アイツの特製品だろ」

「あの医者信用ならないのよ!何かよく分からないけど、アタシあのヤブ医者好きになれないわ……」

 彼はそう悪態をつきながら真っ赤な長髪を揺らし、棺の反対側へ回る。用心深くソレを開き、ややあって中を覗き込んだ。

「どう?もういけそうか」

「……本体は問題なさそうね。後は動作確認で終わりよ、アタシはいつも通り一夜漬けだけど。アンタは眠くなったら寝ていいのよ」

「元からそのつもりだよ。私にゃよくわからんことも多いし……よっと」

 中のモノを掴み、二人がかりで床に引きずり出す。重量はあるが、精々模倣品なので仕方がないだろう。言えば自律神経のようなものが搭載されていないので、どうしても脆くなるのだ。

「結局エネルギー源が何なのかわからないのよねぇ……アタシの力で動かすにも、前はパーツが耐えきれなかったわけだし。また壊れたら今度こそ脳筋プランに突入よ」

「私の腕を折る気か?あんなの骨が悲鳴あげるわ、ぜってぇムリ」

「やるときはやるわよ。アタシだってアンタに怪我させたいワケじゃないの」

 そう言い放ち、深紅の瞳を灯らせる。

 すると、床に落ちていたモノがゆっくりとあちこちを揺すぶり始め、やがて自立した動きを取ろうとした。

 成功だ。

「おぉ!よかった、ひとまず安寧は守られたか」

「そうね。あとは基本的な動作と、発声と受け答えかしら。だから__」

 ふと彼は言葉を切る。不自然さに訝しく思い横からその顔を覗き込むと、彼は能面のように無表情だった。

「……不味いわ。アイツ、もうこの部屋を探し当てたみたいねぇ」

「は?早過ぎねぇか、どうする……!?まずソイツを棺に戻すか」

「いえ、適当な布でもかけておきましょ。認識阻害ならしてあげるから」

「布ぉ?……あ」

 焦って部屋の中を見渡せば、古びた絵画に乱雑にかけて__正確には置いて__あった。駆け寄って埃まみれの白い布を取り上げ、シャットダウンされたソレにかける。布はふわっと煽られると、直ぐ床におちついた。

「コッチよ、入って」

 彼はいつの間にか部屋の隅に移動していたらしく、スタジャン(上着)を広げて彼女を手招く。足音はすぐそこまで迫っていた。

 彼のことだ、恐らく音も遮断しているはずと踏んで速度優先で駆け寄り、懐に入れてもらう。彼が瞳を灯らせると、姿も気配も全てが掻き消された。

「……」

「……」

「……」

 一瞬の間。そいつが猫のように室内を窺う様子は、酷く長かったようにも感じる。

(……あ、()()()じゃない。ノイズ)

(は?ちょっと見せろ)

 人外とは便利なもので、こちらの思考を勝手に読み取って上着を少し開いてくれた。窮屈な隙間から顔を覗かせ、ややあって眉をひそめた。

(マジじゃん。最初から真っ黒だったけど、もうこりゃ確定だな。アイツは……いや、アイツらか)

(そうねぇ、まぁ随分と厄介なノマド連れてるみたいだけれど……どうしようかしら、このまま殺してもいいのよ)

(やめろって、そのノマドがキレたらどうするつもりだよボケ!アホなのか?厄介って意味わかる?)

(失礼ね!アンタに言われたくないわよこの地味女!!)

(野郎が宣ってんじゃねぇよこのオカマが!ってあぁ!アイツ出てったぞ……⁉)

(えぇ?あら本当、何しに来たのよアレ。ちょっとムカつくわね)

(短気さでは森羅万象に引けを取らねぇなてめ)

 互いに売り言葉に買い言葉、嫌味をぶつけ合いながらしばらく様子を窺う。すると、突如悪魔はするりと部屋に忍び込むと、芸術性を見出してしまうほどの速さで扉を閉める。まるで流れ作業だ。

「……ん?」

 ふとしたようにその木漏れ日色の瞳孔がきゅっと縮められ、吸い寄せられるようにこちらへ向く。ただ、一瞬目が合った気がした。息をするのも忘れ、煩い心臓が脈打つ血潮を聞いていた。アイツの蓑隠れを看破するのか?そんな焦燥ばかりが脳裏を過り、それを疑問の概念に当て嵌められることは終ぞなかったのだ。

「……選択?好み……名声」

 唯一の純粋な疑問と言えば、彼のその呟きだった。

 ただ悪魔が興味も失せたように目を逸らしたのを認識し、安堵で胸をなでおろす。

 彼は終始無表情で部屋の中を漁ると、突然思い立ったように部屋から出て行く。壁で錆びた針を鳴らしている時計も、まだ一、二分の経過だと訴えていた。

「……仕事が早いわねぇ、流石一級は見てくればっかりじゃないようね」

「見てくれ?……あぁ、確かに着いて行っちゃいけないタイプの容姿だよな」

「そうかしら」

 即答され、思わず「何が」と反問する。彼はしばらく遠くの床を食い入るように見つめて物思いに沈んだ後、深い溜息を吐いた。その目の意味を理解しえなかった彼女は、ゆっくりと首を傾けてからぐるんと回す。背骨から軽い衝撃が伝わり、少しだけ肩の荷が軽くなった気がした。わからないのならどうでもいい。自分は、頭を使うのはそれほど好きじゃないのだ。

「ま、いいや。早く続けようぜ、また邪魔が入っちゃ堪らねぇ」

「いいわねぇ、アンタみたいに短絡的なのは……あら、勘違いしないで。誉め言葉だから」

 嘲るようにそう零した後、彼はそのモノから古ぼけた布を掴み取りって乱雑に剝ぎ取った。布が空気を切る大きな音が響き、ふんわりと床を覆う。

「__さて、さっさと起動しましょ」


 この、世界で最も哀れで愚かで、純粋な神の子を。










△▼ △▼ △▼ △▼ △▼


ノイズ目線__


(……何や、あの奇妙な絵画)

彼女達のすぐ横にある、林檎が腐食していくゴシック調の絵画。

(林檎……確か花言葉は__)

「……選択?好み……名声」

じっと筆の跡を眺め、ただただ絵の考察をしていただけだった。


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