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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
39/43

12裏話.不純なやつ

ちょっと鬼さんこんにちはの回です。

「な~甘音見てぇ!サボテン!」

「サボテン?んなモン持ち帰ってどうすんだよ、枯らすだろてめぇ」

 にこにこ笑いながら両手で植木鉢を差し出す夢ツ。その顔が血で汚れていなかったり、身長が自分の頭二つ分大きくなけりゃまあまあ可愛いのだろうが、彼は生粋のサイコパスということを忘れてはならない。

「大丈夫やて、結構ええ肥料使ってるし」

「肥料?三秒前入手したくせに何言ってんだ」


 五分前、彼らは任務である廃ビルを制圧していたのだ。ここ最近半グレの扱いやすさに味を占めて人外が跋扈(ばっこ)しているようで、目立った動きこそなけれ、要注意案件だった。

 しかし、流石に今回ばかりは図に乗り過ぎた。せっかく泳がせていたというのに、愚かなことに防衛本部の怒りを買ってしまったのだ。

 ということで処理の速い二人が大本に突っ込まれたのだが、どちらかと言えば躊躇がないだけではなかろうか。甘音としても正直、分を(わきま)えずしゃしゃり出る塵なんぞ死ねばいいと思っている。そして夢ツ、殺しを餓鬼の遊戯か何かと勘違いしているようで、見ているコッチが吐き気を催すほど楽しそうに死体処理をしてくれる。

 普段なら好奇心のままに死骸を荒らして清掃班の奴らを絶望させるのだが、今日は珍しく植物なんか拾ってきた。


 __これは、どういう風の吹き回しだろうか?


 おー、とかわー、とか溜息を吐きながら変な含み笑いをするこの最年長。何なのだ、この奇行は。自分は試されているのか?馬鹿な。

「__で肥料って、これまた何の話だよ」

 とりあえず足元に転がっている呪い人に刀を突き刺す。途端呻き声は止み、また部屋の片隅から小さな悲鳴が聞こえた。人外が相手では、こうして疑死するやつが出てくるから厄介なのだ。

 溜息と共に振り向いた瞬間、息切れの声が途絶える。そこには夢ツが死骸に覆い被さるように見下ろしていた。それも束の間、彼は喉に刺さった刀を垂直に下ろし、器用な手つきで首から下を真っ二つに裂く。その溢れる血の量と言ったら、また洗濯が面倒になりそうだ。

「ん~、大抵は指やねぇ。人間のならすくすく育つんやけど、人外のやと新種爆誕するときもあるんよ。それがちょ~っとおもろくてなあ、最近趣味やねんよぉー!」

 例えば、と言いながら壁に寄りかかった死骸の瞼を閉じる。

「まぁちょい考えたらわかるけど、サボテンは天然の貯水タンクみたいなもんやろ?血を吸えば天然の輸血パックができるわけよなぁ」

「へぇ、吸血鬼に押し売りでもすんのか。速攻で取り締まって豚箱にブチ込んでやるよ、はよやって来い」

「あっはー、甘音さん俺の扱い酷くなぁい?泣くで?」

 やる気のない泣き真似をしながら死骸に振り返り、せっかく閉じた瞼を刃の切っ先で持ち上げる。そのまま上手に濁った眼玉をくり抜き、甘音は半ば感心してしまいつつ半ば眉をひそめて、その光景を眺めていた。

「……砂漠で遭難してコレ見っけたら、まぁぶった切って飲むわな。それを__」

 たこ焼きに爪楊枝を刺すみたいに、慣れた手つきで眼球を持ち上げる。手に受け取り、光に透かすようにしてソレを掲げた。

「__人外の血液に代替したら?獣は人間みたいに簡単に歪んでくれん、無理矢理魔獣化しようとしたところで直ぐ死ぬ。だから、体内からちょっとずーつ壊していく……野生の適応能力を、逆手に取る」

 眼球から赤い液体が垂れ、親指から手首に伝っていく。それはやがて植木鉢の土に浸み込み、消えてしまった。血は未だに零れ落ちていく。

「でもなぁ~……どうしたもんか、研究課コレだけは絶対やらんのよ。何でかわかるか、甘音?」

「知らね。つーか何で知ってんだよ、気色悪ぃなお前」

「んっふふ~、案外単純な理由やで?答えは、”支配しやすいから”。魔獣やら異獣は能力も知恵も高過ぎて、コントロールしにくい。まだ思い上がりの多い人間か弱小人外の方が手懐け易いからなぁ、その分ゴキブリみたいに繁殖するわけやけど」

「あぁ……確かに、トライアングルの任務課上官は異獣が起用されてんな。壱鬼よか劣るが、流石の俺らでも骨を折る」

 分かりやすく言えば、任務課の上官は実行隊員の監視係も兼ねている。異端の芽が摘まれやすいのはそういうわけだ。

 そんなことを簡潔に言ってみれば、夢ツは目玉を放って刀を収める。

「そーゆうこと。微塵でも、俺らが牽制される立場にゃなっちゃあいかんのよ。こうやって弱い内に無力化せんとなぁ」

 懐からキセルを取り出して一口吸うと、煙を解剖していた死骸に吹きかける。すると、その中から咳き込む声が聞こえた。血みどろの皮は霧のようにして剥がれ、やがて口元を手で覆った本体が出てくる。

「お~、アタリぃ。自分幻使うの上手いねぇ、感心してまいますわぁ」

「な……なん、ゴホッゴホッ!お前、どうして、わかっ」

「気配がダダ洩れとんの。そんなビクビクせんでも、()()使てる間は刺さらんやろて」

 彼はそう言って顔面から頭蓋骨をヒールで砕くものの、言ってる内容には無茶があるだろう。何しろ、自分の目の前で自分のダミーが惨たらしく解剖されていくのだ。幻を維持するだけでも精神的に大きなダメージがあっただろう、これだけ耐えたのだから、同じ幻を操る者としてよくやったものだと哀れみを覚えた。

 しかし、本当にくだらない話で洗濯物の手間を増やしてしまった気がする。こんな男の言い分に少しでも興味を示した自分に後悔した。

「……あーあ!クッソしょうもねぇ!てめぇんなこと考えてる暇があんならちょっとは手伝いやがれ、いい加減ぶった切んぞクソ狐!!!」

「えぇ、珍しく大人し思ったら何で急に怒るんよぉ!そんなにサボテン嫌いか⁉ちゃんとお世話しますて!」

「てめーに育てられるサボテンのが可哀そうだわァボケ!そんなにやりてぇならリビングでやれ!!水以外やるな、突っ込んだ生ゴミ燃やして土も正規の花屋で見繕って来い!!」

「ぅわっは……!結局ええんかいな、仏様みたいやなぁ?鬼やけどぉ~」

「テメェやっぱそこにならえ、今すぐ斬首して幽世に送ってやらァ……」




結局サボテンはリビングの棚に陳列されました。夢ツの自費で植木鉢と土買い換えた(させられた)ようです。

 来週は楽刻と夜行の回にしましょうか!楽しみですねぇ!

また、よければブックマークと評価してくれたら嬉しいです。僕の燃料になります!

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