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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
34/43

22.謀る子悪魔

とんでもないバグ治しました!!

すみません!!ループ終わったので!

 あまりの無味乾燥な時間に飽き飽きしていた頃、ようやく最後のベルが鳴る。睨んでいた時計から目を離し、委員長の号令で腰を上げた。

 立って、軽い礼をして、あとは点でバラバラに散らばる。秩序からの開放だ。

 さて、この後はシャイル達と食堂で集合がある。昨夜、探索に行ったメンバーの強制集合なのだが、クオンやウル達としては寧ろ都合がよかった。アリスは良い情報源だろうし、何より壁のすり抜けが可能な幽霊は何かと使い勝手がいい。

 ふと肩に誰かの手が置かれ振り返ると、目の前にスマホ画面があった。液晶に反射的に瞬きを繰り返すが、存外暗かったので痛みは全くない。

「クオン、ノイズ戻って来たって」

「ウル!びっくりし……いや、目くらましに使えるか?画面の明るさを最大にすれば、夜中だったら拉致も」

「はい、止まって止まって?そんな興奮して末恐ろしい事考えないの、もう」

 苦笑しながらも眼鏡を掛けなおす。その瞳が凛と輝くと、サイズが合っていないのかと訊く間も与えられず、彼は流暢に話し始めた。

「まずは、このままシャイル先生達と集合しようか。時間も少しあるけどできることは限られているし、それと……できれば今夜は全員で会議開ければいいかな。これまでの情報交換、あとなるべく早い内にアリスから得た情報と繋ぎ合わせたい。今までの調査内容から立案すると僕らはアリス達幽霊の証言から噂の輪郭を、教師グループには神獣について、正体を探ってもらえば相互に根拠の裏付けができる。まぁ結局は、最終的には天使がこの学園を見捨てればいい。彼らは純白を好むから、ホワイトムーン寮から洗い出す……以上だよ」

 一通り言い終えたようで、彼はまた待機中のロボットのように微笑みを浮かべる。彼はこうも饒舌に喋るヒトだったろうか。まだ古くはない記憶とは既知感が得られず、結局ウルという存在に謎めいた印象が上乗せされただけだった。

 そこで話の内容を思い出し、確かに全方面において効率がいい。彼は必要以上に口を開かないし、どこまでも効率的なだけかもしれない。人狼という存在の理解が曖昧な現時点では何とも言えないが、それはゆくゆくわかってくるはずだ。

「わかった、僕はそのつもりで動いておくから……神獣は後回しでいいんだよね?」

「充分。最適解だね」

「そう、なら例の人間と話しておくか。何処かな……」

 彼は妙に勘がいい。油断していると直ぐに勘繰るような視線があるし、それはまるで梟のように静かなのだ。気付いたときには手遅れ……といった部類だろう。杞憂かもしれないが。

「ロンドなら窓際で話してるよ。引き離す?」

「いや、いいよ。それでこそ不審がられそうだし」

 そう言いつつも、気になって彼らの会話に耳を傾けてみる。どうやらオトマーと一緒に調子がいい生徒達と絡んでいるようだが、彼はかなりの世渡り上手みたいだ。

「そーなんだけどよぉ、全然わっかんねーじゃん」

「そうでもないよ。確かに急なホラーは驚くけど、素直だし……悪い子ではないんじゃないかな?」

「頭の方はすっからかんだけどな」

「あっはは!そりゃ言えてる!つーかお前さぁ、マジでびっくりしたぜ?俺ら今日は来ねぇと思ってたのによ」

「知らん、阿呆の思い通り動いてたまるか」

「ひっでぇ、ナチュラルにディスんなよオトマー!見ろよ阿呆が泣いちまったじゃねーか!」

「嘘ばっかが上達していくな?ロンドを見習えよ、馬鹿正直なコイツを」

「馬鹿は余計だって……あ、もうそろそろ時間かな?」

 そう言って腕時計を見れば、騒がしい生徒二人が首を傾げる。

「時間?デートでもすんの、てめコラ」

「違うよ!シャイル先生とルーク先生に呼ばれてるの、色々あって……」

「あー、何か新入生の奴らとつるんでるんだって?クオン?だっけ、アイツすげーよなぁ」

「そーか?オレは嫌いだなぁ、あーいうヤツ。オレらを下に見てるような風が抜けねぇんだ、傲慢って言うんだよ」

「わかるわかる、優秀なのはいいけどさ。でも何か、女子には人気なんだよなー。ずるくね?」

「クオンは良い人だよ。その内クラスの中心になった時、知らないからね?」

「はー?ロンドお前抜け駆けとか許さねぇからなオイ!」

「そーだそーだ、仲良いなら紹介しろよ!てか、そういやもう一人いたよな?誰だっけ?」

「灰色髪の奴か、ウルだろ」

「あ、そうソイツ。アイツの目なんかこえぇんだよなぁ、半分半分で別人みたいっつーか……」

「不安定?蜃気楼みたいで掴みどころねーじゃん。案外義眼だったりしてな~」

「あっは!あの新人教師の親戚だろ、ノイズせんせ怖いもんなー。一家ぐるみでヤベェ奴か?」

「ライベリー先生とかロクデナシっぽくね?あんなカンペキで美麗~ってチャラ男こそ裏で何やってんかわかんねーんだよ」

「ねぇ」

 二人の陰口がヒートアップしていったそのとき、ロンドが口を開く。その目は酷く冷たかった。

「今の何が面白いん」

 心底退屈と言ったような無表情に二人は肩を強張らせる。横ではオトマーが呆れ笑いをしていた。流石に言い過ぎたかと二人は気まずそうに苦笑いし、先程とは打って変わってロンドの機嫌を取るような発言をし始める。

「い、いやただのジョークだって。何、本気にすんなよ」

「それな!別に俺らと性に合わねぇって……いや、ごめん。言い過ぎた」

「あ!お前何一人だけ助かろうとしてんだよ!」

「うるせぇ!俺は何か強そうな方に付くんだ!」

「何かって何だよ!」

「何かは何かだーッ!」

「うっせーのはてめぇらだろうがよ。おいロンドもう行ってこい、この馬鹿どもは見といてやるから」

 オトマーの言葉に彼は頷く。また腑抜けたような控えめな印象が戻りつつあるが、流石は貴族の子と言ったところか。自然に目を逸らし、またウルと会話を始めた。

「……へぇ、何となくロンドのメカニズムが分かったかも。消極的だね」

「自己否定的なタイプかな……充分な力と知恵は持ち合わせているけど、何か欠けてる。それを自認していながらもたついてるみたいだけど」

 建設的ではない。単に愚かというしかないだろう。人間という短い時間、それを棒に振るなんて宝の持ち腐れでしかない。つくづく思うが、神とは全く計り知れないものである。

 しかし、先程の騒がしい二人。あながち間違ったことは言っていない気もする。

「……にしても、二週間か」

 じわりと焦燥が胸を焼く。まだ急がなくていいとはわかっていても、気は逸るばかりだ。

 二週間なんて、人外からすれば瞬きにも満たない一瞬だった。それと同時に睡眠日が挟まれていれば踏んだり蹴ったりである。残り日数もあと一週間と四日、早い内にドロシーを怨念か何かから解放せねば。

 しかし、この学園にはまだまだ合点の行かない謎が多い。地下水道で()()()()()()彼女らを消すのはまだしも、現世に拘束する理由に見当がつかなかった。利用価値があるとすれば、一般市民かつ子供にでもこなせる仕事……つまりゴーストとしての特性が必要な場面。

「……ゴーストって、本当に都合いいよね」

「そういう風に生み出したのは、紛れもない人間の願望だよ。死後も生身と同じじゃ面白くないでしょう?」

「あぁ……なるほど」

 妙に納得し、ついで曖昧な点を尋ねた。

「このままアリスが消滅する可能性もないし、地縛霊でもなかった。完全に人外の類に変貌してたから、僕の関知する限りフィルムの摘出をしても壊れないかも」

「それなら、やはり先に片割れの救出をしようか。噂の効力か徐々に一体化してる」

 人外化した幽霊は常人並みの存在となるが、そうでないモノ達は脆弱だ。彼女なら真実を巧妙に聞き出すより摘出したほうがずっと楽なのだが、二つで一つの命となりつつあるらしい。とすると、片割れの行方が不明なままでは人外とて脆くなってしまう。

 ふと点と点が繋がり、ポンと手を打った。

「あ、ドッペルゲンガーみたいな状態なんだ」

「その通り」

 やがて教室から急速に人が消えていく。流石に訝しく思って周囲を観察していれば、ふと横でウルが眼鏡を外す。黒いフレームが彼のシックな印象を格付けていた。

「若い内に摘んでおこうか?今なら舞台も整ってるけれど」

「長期戦が厄介なら、か……意外と大胆なもんだね」

「さあ。そうでもないよ」

 その目は仄かに灯っている。彼が人気の少なくなった教室を見渡すと、緑色だけが軌跡を描いた。

「救うんでしょう」

 悩んでいても時間は過ぎていく。彼はきっと、それをわかって尋ねてくれた。どこまでも効率的で、どこまでも都合がいい彼はまるで幽霊のようで。

「ハッ、当然」

 そうだ。伝手なら腐るほどあるのだから。


 ロンドの方を盗み見ると、彼は机の中身を片付けているようだった。もうそろそろこちらに来る頃だろうと踏んで、自分もペンケースを机の中に差し込む。その前を生徒達が通り過ぎていき、遂には教室から数人を残して去っていった。

「二人とも、ちょっといい?」

 喧騒の余韻に浸る教室は、夕焼けに染まっている。振り返れば、過ぎ去る風が目に直撃して瞬きを繰り返した。

「どうしたの?ちょっと早いけど、もう行く?」

「いや、少し聞きたいことがあってさ。言う通りまだ時間あるし」

 やはり来ると思った。今は探りを入れるのに絶好の機会だろう。環境だけの話ならこちらも同じだということに気づかなかったのだろうか。

 快く頷き、指先を机の上に滑らせる。

「いいよ、それで?」

 そのまま三人で適当な席に座ると、途端ロンドは息を詰まらせたように顔を背けた。

 その挙動にクオンは眉をひそめる。言いたいことがあるならさっさと言って欲しい。わざわざ完璧な餌を仕掛けておいたのに、何を今更戸惑うことがある。

(……油断大敵って言うじゃん)

 短気にも苛立ち始めた胸のあたりにそう言い聞かせる。焦っては負けだ。

 ややあって彼は口を開いた。

「あー……訊かない方がいいのはわかってるんだけど……。その、え__君達はさ……」

 緊張を表情に纏わせた彼にクオンは内心思う。

(駆け引き下手か!遅い!故意の挙動じゃないだろ、さっきまでの社交性どこいったんだよ!!)

 声を大にして訴えてやりたいし、何なら喝を入れてやりたいほどだ。こうも焦らされるのは初めてかもしれない。

「__何かの、潜入捜査官?」

「……はぁ?」

 ぽつりと零れた見当違いの言葉がやけに大きく響いた。

 拍子抜けした二人は思わず愕然と声を漏らし、同時に微かな安堵が胸を掠める。やはり子供だ。想像力に富むのは結構だが、所詮この程度というわけか。

 仮に捜査官だったとして、その質問一つで多大な悪影響を及ぼすことはわかるはず。鼻持ちならない好奇心が透けて見え、種族の問題ではなく彼本人に心底失望した。しかし、それとすれ違うように可笑しさが尾を引いてすれ違う。

 潜入捜査官か、あながち間違いでもなかろう。胸の奥ではニヤ、と口元を歪めさせながら緩慢に立ち上がった。

「……浅薄なものだな、ホーソーン」

 それが答えだとでも言わんばかりに声のトーンが急落する。まるで空気中に氷が張り詰めたかのように彼の肩は強張り、クオンを真っ直ぐに見上げた。

 その蜂蜜色の瞳に映る自分が独りで、彼は傍に蜃気楼を体現した、それでもひとがいて。

 咄嗟に目を逸らしたロンドに、クオンは目を細める。その紺色に焦燥より安堵が窺える。いい口実ができたことだし、少し問い詰めてみようかと表情筋を硬直させた。

 さて、尋問なんて久しぶりだ。協会には尋問係がいるのと、回って来たとしてもノイズやライベリーが請け負うからだ。


『クオン、相手より優位に立ちたきゃな__』


 相手の目元より下を見ない。

「さあホーソーン、質問に答えてもらおう。何を安心している」

「あ……安心?なに、を」


『支配しろ。与えたカード以外を許さねぇように』


「君がこの場で許されるのは三つ。呼吸、恐怖……」

 ガツッと重い金属音が響く。音のした方には、黒色に鈍く輝く銃口が机に突きつけられていた。

 言葉すら出ない。初めて見るそれの意味に喉が麻痺して、予想以上の悪状況だと薄情な脳味噌が囁く。

「__回答」

 まるで傷口に塩水が浸みるかのように、声が骨に伝わった。果たして今のは台詞か命令か、警告か。


 怖い。


『保身に走らせるんだよ。手綱は俺らが握ってるまんまっつーワケで……』


 息が震える。肺が震える。無重力にいるような感覚。

 支配されている。視線が頭を押さえつけて俯かせる。血液の音から心臓の鼓動まで全部爆音で流されているように思えてくる。


『吐かせる』


「……幽霊が」

 掠れた声だった。

 これに懲りて以降口出ししてこなけりゃいいのだが……クオンがそんなことを考えていると、途端胸ぐらを掴まれ怒気を眼前に突き付けられる。拷問なら拘束済みだから楽でいい。即興尋問となると容姿のせいか自由が余裕を生み出すのか、どうしても舐められてしまう。ことに場所が場所なら銃を前にしてもこの有様だ。上の三人ならそんなこともなかろうが……。

「幽霊がいたこと……!それはすなわち、この学園に不名誉な作為的事件があったということだ!!君達は此処がどうなっても構わないかもしれない、それでも数々の貴族の贔屓であることは重々承知しているだろう!?」

 彼にも一理ある。もしその虚構通りなら、全てが明るみに出た途端批判の嵐だ。マスコミから世間もそれに同調し、いかにファルベ学園とは言え瞬く間に廃墟へ変貌するだろう。更に跡継ぎとなる者を通わせている貴族の場合、その名誉に傷がつく可能性だってある。

 それが多数。とすると、これは最早双子の悲劇では済まない。英国の未来図が一気に書き換わる未曽有の事件だ。

 凄まじい勢いで捲し立てられるものの、結局鼠一匹吠えたところで何も変わらない。力とはそういうものだ。何がトリガーになったのかは与り(あずかり)知らぬが、要するに過去の惨劇が掘り返されることに憤慨しているのだろう。

 一方クオンは興奮しているロンドを相手にせず、沈黙で諫める。手首を引っ剥がして軽くトン、と胸を押せば彼は椅子に崩れ落ちた。まだ息が荒く、先程の高揚ぶりから鑑みるに一種の躁状態だろう。このときだけは包み隠さず重苦しい溜息を吐いた。

「まず……君が何を勘違いしているのかは知らないが、私達は暗闇に葬られた事件を世間に公表する気はない。墓荒らしは不作法だと教わらなかったのか?」

「……隠蔽すると?」

「そう言っているだろう。いい加減野良犬のように嗅ぎ回るのは辞めたまえ、ホーソーン。邪魔だ」

 忌むような目で一瞥すれば、今度こそ彼は身を固くする。助けを求めるか縋るかのようにウルの方へ振り向くが、彼は机に腰かけて堂々と形態を眺めていた。恐らく状況を彼らに伝えているのだろう。幸いなことに、この学園に監視カメラはないとライベリーから教わっている。

 今のロンドは行き場を失くした子供のようだった。有罪判決でも控えているみたいに冷や汗が垂れ、呼吸も少しおかしい。改めてもクソもなく完全に委縮したようだし、何より有意義な暇潰しができた。

 もういいだろう。そう判断し、クオンは銃を空間に収納する。

「じゃ行こうかロンド。みんな待たせたら悪いからね」

 ウルを真似て柔和に微笑んで見せれば、彼の引き攣った表情はそれ以上に青ざめた。


「へぇ、捜査官ねぇ……フフッ」

 少年は肩を震わせて笑った。あぁ、上手いものだ。確かに嘘は吐いていない。彼は一通り笑うと、ゆっくりとその顔を上げる。

「……でも、捜査課じゃないだろ?」

 満足そうな顔で何度も頷く。少し考えて、また悪趣味に口角を上げた。

 嘘吐きと邪推を突き付けるなんてまだるっこしいことは必要ない。ただ今までと同じように、通りすがりに殺せばいい。

 少年は立ち上がり、教科書を寝台の横にある棚に押し込んだ。その奥には、彼の目を覗きこもうとでもするような蝶の潰れた羽模様。青い羽に丸い輪郭が描かれているそれを見るなり、彼は

「食べていいよ」

 と、唇を動かした。


 △▼ △▼ △▼ △▼ △▼


「うん、ライベリー達にも伝えておいたよ」

「やっぱり。詳しくは後で情報交換するか……にしても、油断したかな」

 クオンが懸念していたことは、ウルの手によって狩られる羊が逆転した。それを踏まえた上で人間というものが余計に謎めいてしまったのも事実だ。

 一体どうすれば怪しまれずに済むのか、そもそも完全な隠密として動いた方がよかったか。しかし情報収集もなおざりにできない今、調査をひた隠しにするというのは容易い事ではない。ことに二週間という制限付きでは慎重なものも急くばかりだろう。

 ということで、結局早く着いてしまった二人は食堂で話し合っていたのだが、しばらくしてジャラが現れるとクオンはふと気づく。

 昨夜あんな無責任かつ無防備に放り出されたのは、彼らが幽霊を視界の枠に捉えることができないからだ。そのはずが、アリスはエリスとまがりなりにも握手を交わしていたばかりか、彼ら人間と目を合わせて会話をしていたのだ。

 ジャラが何かしたか?

「待って、昨日__ジャラ、何かした?人間にも見えてるじゃん」




















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