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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
30/43

10裏話.隠密調査1

 『メモワールフィルム』という、たったそれだけの明朝体。

 無機質な再生紙の文中に綴られていたその()()()()は、要点をかいつまんであまりにも鮮明に、事細かに要約されていた。その事実に戦慄と悪寒を覚える。

 クオンの報告を契機に動き出したノイズは、その後夜明けまで校内の影を徘徊していた。陽は花に、影は薄汚れ冷えた地中にあるものだ。勿論、根の部分も年輪を重ねるごとに深まる。

 いつしか必要悪の言い訳すら忘れてしまったノイズは、午前中に教職員達と親交を深める中で探りを入れ、重鎮のスケジュールを大まかに把握していた。人間というのは妙な真似をしないので情報源として打って付けなのだ。しかしルークという美術教師は警戒心が非常に高く迂闊な真似は出来なかったのだが、持病の話を聞き納得する。単に話しかけてくるヤツを増やしたくなかったのだろう。

 そして、ライベリーの協力もあり難なく手に入れた情報の中でも貴重なのが校長の不在。公式では諸事情により出張中とあるが、経緯を追う限り実際には()()しているのだ。しかし教職員達を観察していても動揺や違和感のある様子は見られなかった。子供組の保護者代わりとして学園の説明を受けた時も校長らしき影はなく、存在自体が無視されているようで気味が悪い。

 早い段階で存外の『闇』に気づけたことは僥倖だったが、問題はその不明瞭さ。校長自体が何らかの裏社会と繋がっているのなら、いささか安直でもノイズの十八番である隠密調査がモノを言うのだが。

(人外が噛んでるんか……)

 暗がりで灯り一つ点けず、ノイズは書類に目を通す。

 メモワールフィルムというのは人外用語でも割とメジャーなのだが、どこの輩も共通して人間に教えることはなかった。これも奇妙な話なのだが、記憶の知識は人外の武器であり、宝だ。科学的な見識のみの人間とは違い、『フィルム』として加工可能な状態に具現化することができる技術の代名詞。人外が秘密裏として自由に存在できるのも、この知恵のもたらす大きな恩恵だった。

 それが今、破綻した。

 このネタさえ掴めばあとは容易い。フィルムについては固く口を閉ざす人外も、相手が()()()()()()信用に値すると判断してしまう。知る由もないからだ。

 フィルムの技術のひとつ、防衛本部の鬼が専門とする記憶の改竄(かいざん)。人間の浅はかな素人技術でも、一時的に認識上の真実を歪ませることができる。

 鬼が使用する刀で傷をつける。それが改竄方法だ。

(鬼……紫暮が?マリオネットなら天使に操作されとってもおかしくはない、か……)

 裏付けどころか根拠すらない。あくまで推測ではあるが、それでも天使の勢力が禁忌に触れるほど進んでいる可能性を看過するわけにはいかない。それでは、トライアングルの原理が崩壊してしまう。

 ジョーカーからの手紙も内心大袈裟ではと訝しんだものだが、やはり今思えば彼も知っていたのだろう。それを敢えて教えなかったのは、きっと既に()()()であることを諭す為。その現実を受け売りにするにはあまりにも事が重大過ぎる。

 現状、天使の諜報や侵略に全く追いつけていないのは深刻だ。彼らはトライアングルの中でも最もカミサマ、つまり『修復者(リストーラー)』に近しい存在。主ではあるものの、それを縛り封ずるというのは可能かもしれない。だが、本部や協会の実行隊員は修復者のことなどまかり知らぬので邪推に尽きる。

 からこそ、人狼を初めとするノマド達の存在が大きな鍵になるのだろう。敵わないなら相手の予想をひたすらに裏切り、かつ優位に立ちまわり続けるしかないのだ。

「……めんど」

 今や人外としての裏切りに憤りはなく、この情報漏洩の後処理が煩わしいばかりだ。溜息を吐きたくなるし煙草にも手を伸ばしたいが、今は自分の書斎ではない。

「……!」

 ふと壁の向こうに気配を感じ、その瞬間ノイズの瞳は木漏れ日の色に輝いた。


時計の音。古ぼけた狭い部屋の中、背丈のあるノイズが隠れられるような物体はない。

埃っぽい暗がりに一線の白い光が射し、扉はゆっくりと軋む……。そして、見つかる。


 その光景はたった今ノイズの眼に集約し、まさに数十秒後起ころうとしている現実だった。

 『(ふくろう)の眼』、近い未来を数秒覗き込むことのできるオリアビだ。その由来はエジプト神話らしいが、話が長くなるので割愛しよう。

 とは言え大きな獲物が釣れたのもまた事実。潮時だろうと踏んで、扉が開くと隠れる位置に待機する。極限まで気配を消し、暗殺の名目と経験にこれまで幾度と助けられてきたのかと自嘲した。この体の大きさはかなりのデメリットだが、それを気にすることもなく軽々しい行動が可能なのだから。


カツン、カツ……カツン。


 磨かれた床に響く軽い足音に拍子抜けする。子供だ。

 今は扉を一枚隔て、子供は……()()は向こうに立っている。光は誰もいない白く霞んだ床を照らし出し、粉雪のように舞う埃の姿を見せた。ちょうどノイズが通れる隙間が開いたその瞬間、まるで蛇のように生徒の横を通り抜ける。そして瞬いた次に瞼に焼き付いた世界は、三階上にあるはずの教員室だった。

 スピードと梟の眼は戦闘以外にも充分応用できるのだ。

「……アイツ、妙なもん連れとったな」

 眉をひそめて窓の向こう、青空の下輝く生徒達を見やる。その姿は、果てしないと思い込む青春を謳歌する若者そのものだった。

 それに反して、扉を開いたあの少年。澄んだ薄紫の瞳と白髪のハンサムショート、そして肩に乗せていた小さな緑色の蜥蜴(とかげ)。動物は気配に敏感なので、気づかれた可能性はあるが信憑性など皆無。伝えようとすらしないだろう。

「使役……?あんなガキが?」

 動物を完全に従える方法はある。その多くは外道と忌み嫌われているが、友好的に接する『協力者』として契約を結ぶことはできるのだが。

 魔術に関わった者の瞳があれほどに綺麗に澄んでいた試しがない。魔術はたとえ癒しであり光であっても、人間や一般動物とは相容れない。

 一応、他の奴らに報告しておいた方がいいだろう。

 しばらく物思いにふけって外を眺めていると、突然背後から底抜けに明るい声がかかった。

「よう!何してんだ、ノイズ先生?」

「わっ……何やシャイルかいな」

 子供のようににかっと歯を見せて笑った彼女に呆れの苦笑を漏らす。彼女の言動にはライベリーと似たものを感じるが、彼の声には思慮深さが滲む。一方シャイルは直感で動くタイプだ。ノイズのようにやましいことを数多抱えている者には厄介な存在である。

「いや、アイツら元気やな思て。クオンは変に大人びてるからなぁ……」

「へぇ~、寂しいんすか?そんな厳つい風貌してて、案外可愛いよなノイズ先生って」

「誰が可愛いねん。精神科か?眼科か?いや小児科連れてったろか」

「誰がクソガキかよ!立派な23だっつーの」

 そう言い張るシャイルは二十歳くらいに見える。口が軽いので実年齢より若く思えたのだ。

「意外やな、もっと若く見えんのに。18や言うても全く違和感ないで」

「うっわ~、兄弟揃いも揃って天然人たらし自尊心爆上げマシーンか?こえぇー」

「何それ」

「てかセンセ何歳?おっしゃ当ててやる、外見無視内面から推測するに、多分26!どうだ!」

「19歳」

 今の一級が若手と言われるその理由、人間に換算するとクロヴンの思う通り『学生の集団』だからだ。

 ライベリーは815歳、人間の年齢に置き換えると17歳。ノイズは844歳、同じく17歳だがあと六年で18である。クオンは209歳、13歳が妥当だが、検査の結果精神年齢が15歳であることが判明した。クロヴンは年齢不詳なので分からないが、人外の成長はしょせん27歳どまりである。何故なら、不老不死は人類の夢。永遠の若さと美しさは、社会で立ち回るにも大きなメリットがある。

 だが、ノイズは知っての通り顔が怖い上に背が高い。年下が二人もいるので普段から兄貴面が板についたのか、こうして20代後半に見られることが多かった。19歳というのは勿論、調査における妥協点だ。

 案の定、シャイルは真面目な顔で見下ろしてくるノイズに驚愕の眼差しを向けた。冗談だろ、とその目が言っている。

「……マジで?」

「書類に書いてんで」

「何でそんな大人なんだ?何経験した?話聞きます?」

「いやいや、家庭環境考えてみろて。二番目やぞ、親無しやぞ」

「こわ……19。19?大学生……19⁉」

「……そんなに?」

密かに思う。17歳と伝えれば、一体どんな顔をするだろう。

つまりノイズは未成年なのだ。

201歳~300歳:13歳~14歳

301歳~500歳:15歳~16歳

501歳~850歳:17歳(未成年→成人の時期が精神的に850歳なので基準となった)

851歳~1000歳:18歳

1001歳~1400歳:19歳~20歳

以上、年齢公開主要キャラの基準です。ちなみに飲酒は実年齢20歳から認められていますが、外見の都合上人間に合わせているヒトが多数になります。

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