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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
28/43

17.焦心更生

めちゃくちゃ体調が悪いです。そんな中文学作品を読み漁り、文章を整えてきましたので、ごゆるりとお読みください。

 夜の西回廊、ころんと夜空に横たわった月が音もなく雲から顔を出していた。開け放たれている窓からは森林から来た夜風が吹き抜け、四人の頬を撫でて髪を梳いていく。

 今は午後23時だ。そっと前を歩く三人から目を逸らして月を見上げれば、視界とは反対に心は曇っていった。

 どうして僕は、こんな夜更けに出歩かなければならないのか。良識などでなく、恐怖からくる後悔が良心を咎めロンドを苛めていた。

 消灯時間は暗い。城の灯りを全て絶つようなもので、ただでさえ広いのだから月明りは端々まで届かないのだ。ランタン一つで静まり返った廊下を行くのは少し心許なかった。それがクオン達も同じであれば、ほんの慰めにはなるものの。

「エリス、起きてるかな」

「……どうだろう」

 女子談話室の前で足を止める。ロンドの静かで小さな問に、クオンは機械的に返事をした。

 シャイルに今夜23時半、西の渡り廊下集合と言われたのだが、エリスを迎えに来ても姿がない。彼女の性格を考慮し想定内ではあるのだが、目の前にあるこの扉をノックするのはあまり紳士的と言えない。

 教師からの許可証を免罪符に、潔く扉を叩いた。


 コン コン


 手に持っている黒い鉄製のランタンは重厚で冷たく、ジャラとはとても似つかなかった。勿論同音異義であるのはわかっているが、この冷たいランタンが彼らを照らすのなら、あのカボチャは何を照らすというのだろう。少なくとも肌に温度は通っている。

 一歩後退って反応を待っていると、やがて紺色の扉が緩慢に隙間を開く。そこからはみ出た深緑の髪は、薬学の時の。

「……何の用?男子がなんでここにいるのよ」

 好意的とは言えない声音と射るような視線に目を瞬かせる。横で終始微笑んでいたウルが、少し明るい口調で夜の秩序を僅かに乱した。

「こんばんは。エリスと、シャイル先生に呼ばれてるんだ。夜遅くにごめんね」

 手には『許可証』と明朝体で書かれた紙が二枚あり、それをひとしきり凝視した彼女は訝し気に彼らを睨んでから頷く。

「……待ってて」

 扉の奥に消え入る刹那、微かに橙の光が月を反射した。



△▼ △▼ △▼ △▼ △▼



「__知ってるみたいだよ。存在を」

 その一言が、クオンの蜂蜜色の瞳を凍らせる。彼は形式的に、プログラムを実施するかのようにこちらに振り向いたが、それでも眼球は引き攣っている。無表情で、ただ氷のように冷たい風貌だ。苦虫を嚙み潰したような感覚がじわりと上顎に広がった。

「……もし、そうだとしたら?ロンドはどうかするの?」

 ふらり、と不安定に振り返ったのはウルだった。まるで何の期待もない声音だ。こんなちんけな子供に何ができるわけも無く、それを知っていて敢えて訊いてくる。

 眼鏡の奥から覗く瞳孔がロンドを柔らかく覆い尽くし、身を竦ませる。

あぁ……やっぱり来るんじゃなかった。たった14年とは言え、人生の中でこれほど心臓が窮屈になったこともない。そして諦めたような脱力した笑みを浮かべたとき、もう戻れないのだ。迷宮の中で背後の床がぼろぼろと朽ちて落ちる、それが人生だ。

 唇を固く結び、ややあってから敷かれたルートに足を踏み入れる。

「どうもできないよ……だから、何もしない」

 その言葉で、余計自分を惨めにおぼえる。それでも今更降りることもできないし、それではエリスが心配だ。彼女を放置して自分だけが救われようというのは誠実性に欠けるし、何より主義に反する。ようやく気を持ち直して顔を上げたロンドにクオンは笑いかけ、何を言うでもなく正面に向き直った。

「そう。なら大丈夫だよ」

「……わかってる」

 安心させるように呟いた後、ウルも揃って前を向く。ジャラだけはロンドの横で、心配そうに彼を覗き込んだ。

「ねぇ、どったの?目暗ぁいよ」

 そういう彼だって、あの二人と同類だ。迂闊に信用して後悔するくらいなら、まだ壁を作っていたい。その細めた冷たい目を向けても、ジャラには薄い金色の髪で見えやしない。寒夜の海を連想させる瞳。対して彼は、真昼間にイタリーの灼熱を浴び、輝く大西洋のようだった。

「ううん。ちょっと眠いだけだよ。ジャラは平気なのかい?」

「眠くないよー?楽しいと、睡魔なんて吹っ飛んじゃうから」

「楽しい?どうして」

 実を言うと、天真爛漫な彼への認識に『バイオレット寮生』という偏見が抜けないのは今に始まったことじゃなかった。こんな状況でも楽しいと口から出るなんて何処か脳味噌の調子が狂っているか、それとも肝が据わっているのか。

 彼は感覚を探り出すように徐に首を左右に揺らしだして、言葉に体現しようと唇を開閉していた。

「んー、何て言うのかな?何か、悪戯っぽいような……だってほら、誰かに隠れて大好きなお友達とワルーイことするの楽しいでしょ!わくわくする!ほんの些細なことなのに、未知の冒険を踏破しに行くみたいな感覚」

「え……?そう、かな」

「うん、それが一番ピッタリ似合う。ねー!」

 二人は同意を求める声に苦笑と曖昧な頷きを返し、それを見たジャラは満足そうに、得意げに笑って見せた。

__何だ、それ。

 自然と口元に笑みが零れる。さっきまで不貞腐れて感傷に浸っていた自分が、馬鹿みたいじゃないか。何でそんなモノの見方ができると言うのか。

 しかし、そんな意固地とは裏腹に心がスッと軽くなって、掬われるような感覚に身を任せた。今口角が上がってしまったのだって、嘲笑なんかじゃなくて『いたずら心』に近い。

「……っふふ、そうだね。確かに、ジャラの言う通りかもしれないよ」

 少しは彼のことを理解できたのかもしれない。そんな風に鼻歌を歌いだすジャラを遮るように、扉の軋み音が寒さのように突き刺さった。

「……こんばんわぁ……ふぁ~……」

 ひらり、と白いローブが現れる。喋ったことで誘発したのか、彼女は袖で口元を隠して何度か欠伸を繰り返す。少し罪悪感を覚えるくらいには眠たげだ。

 その様子に流石に心配になったのか、クオンが礼儀を踏んだ上で確認する。

「こんばんは、エリス。許可証は?」

「えぇ……?あぁ……ごめんなさ…持ってきまぁ……す」

 くるりと踵を返す彼女に呆気を取られて、遂に苦笑いしてしまう。すると、扉の隙間が拡大して、ほとんど黒に近い灰色のローブを纏った女子が出てきた。黒のローファーに制服の上着、ローブの裾には簡易的ながらも上品な刺繍が施されている。深緑の髪は赤いリボンで一つにまとめられていた。強気な面構えは相変わらずで、警戒心の高い猫のように彼らをねめつけている。しかし横でエリスが躓きかけると、咄嗟に慌てて身を支えた。

「あぁ、ほらもう……エリス、なんでこんな奴らと変な約束しちゃったのよ!怪我でもしたらどうするの?」

「んー……マリンいるし、大丈夫ー……」

「あっ、ちょっと寝ないで!起きてって……」

なんとか彼女を立たせようと肩を支えている内、ふとクオンと目が合う。彼がにっこり笑うと、眉をひそめて厳しい視線を向けてくれた。反応があるだけまだいいというものだ。

「こんばんは。ワタシはマリン・ブロムクヴィスト、スウェーデン出身よ。で、貴方達は?」

エリスに許可証を一枚渡し、片割れは丁寧に折りたたんで自分のポケットに突っ込む。なるほど、聡い子だ。

「初めまして、マリン。僕はクオン・アズリー、こっちがウル・トーグル、そしてロンド・ホーソーンとジャラ・クラークだよ」

「こんばんはー!」

「こんばんは。エリスの保護者がいて助かるよ」

「こんばんは……」

ジャラ達二人にはともかく、ロンドの苦笑いを含んだ空気の抜けるような挨拶に彼女は気を悪くしたようだった。慣れない名前に出身を補足してくれるのだから、きっと優しい子ではあるのだろう。

「集合は何時?」

「あと25分。ひとまずいきさつを説明すると……」

 さて、とクオンは思考を巡らせる。まずこの馬鹿げた話を聞いて、彼女はどのような偏見に塗れてくれるだろうか。そのあとエリスを連れて帰るもあり得るし、それを引き留めやしない。エリスという人間は教師二人に唯一融通が効きそうな人材でも、調査という面では邪魔になるのも明白だった。

 しかし、彼女はどうだろう。上手いこと噂に真摯に向き合ってくれるような口実こそなければ、そもそもスピリチャルに信憑性もクソもない。そんな中でクオン三人が画策し、ハーメルンの笛吹きとなって彼女を誘い込むことができればエリスよりは使い物になるだろう。一度はそう思ったものの、彼女自体の真価を見極めるまでは何とも言えない。

 とは言え、まずハリネズミの針を収めてもらわなければ元も子もなかろう。

「……というわけなんだけれど、やっぱり信じられないかな?」

「いえ、いえ……ハナから突っぱねる気もないわ。科学的証明さえできれば噂も落ち着くでしょうし、何より実際の行方不明者が現時点で()()()じゃない。噂がでっちあげの可能性もあるし。シャイル先生達はえらくご執心のようだけど、それだって生徒への被害や学習の支障を考えた上での行動かもしれないでしょ?」

 というか、と彼女は食い気味にクオンに突っかかる。

「信じられないかな、じゃないわよ。あくまでプレゼンする側の自信がなくてどうするの?今日一日の活躍が嘘みたいね」

 恐らく授業のことを指しているのだろう。薬学ではすらすらと回答を述べ、体育では一時間きっかり生き残った。

 忌々しそうにクオンを横目で見つつ、ふらふら千鳥足になって非常に不安定なエリスの腹部に軽く手刀をいれる。というよりかは反射的に支え、これはいいかもしれない。手間が省ける上に、オカルト情報源も滞りない同行が可能だ。

「そうだね、君がとても……機敏に見えたものだから」

「はぁ~あ?ワタシが、機敏って?」

「あの話を聞いて、科学的証明なんて言葉が出たのは君が初めてだった。他の子にも聞いてみたけれど、話の本質を探ろうとするなんてできた人はいなかったよ」

 中には幽霊を食べようとする意見もあったけど、とジャラを横目に呟く。そんな彼をマリンは異物でも見るような目を向け、怪訝に他二人を見比べる。少しの間をおいてロンドに目をとめ、思い出したように口を開いた。

「あ、貴方のことはエリスも言ってたわよ。ホラーとか苦手そうだけど、深夜に呼び出す羽目になって申し訳ないって」

「そうだったの?意外だな……」

「でも確かに頼りないわね、貴方。エリスみたいなのに心配されるなんて、大丈夫?」

「酷い言い様だなぁ」

 今度は呆気からんと笑ったのを見て、マリンは肩を竦めた。

「貴方はウルよね」

「そうだよ。よろしく、マリン」

「ええ、よろしく。ジャラもよろしくね」

「よろしく!ねぇねぇねぇ、マリンは紅茶何が好き?明日からさ、毎日一人づつみーんなに聞いて制覇するつもりなの」

 ずいっと前乗り気味に尋ねられ、彼女は少々驚いたらしく顎を引く。ジャラに対する免疫は、クオンでさえもまだついていない。現状慣れているのはウルとノイズ、ライベリーくらいだ。初めて突撃された時、クロヴンがわっと驚いていたことに驚愕し、悪魔3人して紅茶で咳き込んだのを覚えている。

「えぇ…っと、ダージリンかしら?そういう貴方はお気に入りが?」

「ないよー。だから見つける!」

そう意気込む彼に、マリンも表情を綻ばせた。



___ジャラは、何を照らすというのだろう。

第17話、いかがでしたでしょうか。テンポダウンしましたが、次回は……。

面白いよー!と思っていただければ幸いです。よければ、是非評価して行ってくださいね。とても喜びます!僕らが。


それと、投稿頻度上げたいと思います。

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