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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
27/51

9裏話.濁流

今回は、オトマーとロンドの勉強タイムです。

「……おい、聞いてるのかロンド」

「え?あ、うん。聞いてる」

 ほとんど片言で返事をすれば、向かいに座って本を広げるオトマーに睨まれてしまった。勉強を教えてやっているというのに、相手が上の空では不機嫌になるのも仕方ない。眠いだけだよ、と口角を上げてペンを握りなおすが、脳味噌の方は中々集中してくれなかった。

 彼はコーヒーを片手に、訝しげな目で空っぽな笑みのロンドを見つめた。ペンも思うように進まず、明らかにあの転校生どもが原因だろう。だが自分が関わる必要も無し、興味もさらさらないので無視を決め込んだ。気付かないふりでいい。

 しかし、ロンドの方が先に噤んでいた口を開いた。

「あのさ……」

「何だよ」

 疎ましさを声と顔に出し、最後の手段でとどまらせようとする。しまった、と気づいたときには後の祭りだ。常日頃から怪訝な対応をしているので、大した障害になってくれないのは明白。案の定、ロンドは手を伸ばしかけていた紅茶から遠ざかってしまった。

「うん、さっきあの三人と出会ったの覚えてるよね」

「は……三人?クオンとウルだろ」

「あぁ、後に来たバイオレット寮生だよ。ジャラ・クラーク、前々から繋がりがあるみたい」

「あそこの生徒か、また厄介なヤツだな」

 眉をひそめるオトマーに、ロンドは苦笑した。愉快そうな目を隠す気もなく、とするとジャラは想像以上に面倒かもしれない。

「図書館を見ている途中、エリスに双子の噂を聞いて、三人とも物の見事に食いついたんだよ。僕としてはスピリチュアル系を信じたくもないし、でも……。あの二人までも、それで信用されてるジャラも鵜呑みにしてるのが……なんて言うんだろう、違和感かな。まるで、存在を信じてるみたいな。普通ならもっと疑うだろう?()()()()()、共通認識であって潜在意識だよ」

「それで?お前は何を厭うんだよ。そんだけならヤベぇ奴らで済むだろ」

 確かに奇妙だ。しかし、それだけで他人の時間を浪費するほど彼はヤワでない。続きを促せば、彼は緊張した面持ちで椅子に背を預けた。

「まず彼らは、何故かエリスとシャイル先生のオカルト探求に参加した。それも頭が痛いんだけど、もっと現実的に悩んでるのがさ……これ」

 そう言って、ポケットからメモ帳サイズの白い紙を取り出す。

「許可証?二つも」

「そう、シャイル先生とルーク先生の。今夜、西の渡り廊下に僕と三人、エリス、先生二人集合予定なんだよ」

「はぁ……?まさかアリスの件か」

 途端、ロンドは褪せた青い瞳を曇らせる。

「何で知ってるんだい?まさかとは思うけど、あそこにある本全部読み切った……?」

「んなわけねぇだろ。興味本位で尋ねたら、エリスの語りに付き合わされただけだ。まぁ、話自体は面白かったがな」

 減らず口を叩いてにやっと微笑むと、ますます呆れ顔を向けられる。彼女のオカルト好きは有名だ。流石ご令嬢と言うべきか、普段ははつらつ元気で他の生徒と談笑しているが、一旦引き金に触れればオカルトだ。幽霊、神獣、オルゴールの怪談話やジャパニーズホラー、スパニッシュホラーなどとんでもないモノを饒舌に喋りだす。

「それじゃ、令の噂については」

「あぁ、前情報は完璧だ。でなんだ、オレに着いて来いって?」

「そうだよ。僕は、なんだか……虫の知らせって言うのか。嫌な感じがこびり付いて離れないんだ」

 はぁ、と珍しく重い溜息を吐く。気だるげな目は明後日の方を見つめていて、自然と眉をひそめつつ一通り思考を巡らせてみた結果、オトマーは彼の提案を受け入れることにした。

 普段なら絶対に断る。しかし、何故か滞っているのだ。何か、大事な考え方が滞っている。まるでいつもの充足感ある脳内の回路が、濁流にのまれるような。それが、彼にとって現状最大の違和感だった。全ては、あの転校生が来てから。

「……わかった、着いて行ってやる」

「本当に⁉意外だな……いつもなら、一言目で断るのに」

「ただし」

 嬉々として腰を浮かせるロンドを遮る。こっちだって、タダで協力するつもりも全くないのだ。面倒なことに変わりはない。

「最初っから堂々と首を突っ込みはしねぇ。まずお前が行け。オレは……」

 そう言って彼から許可証を一つ奪い取った。

これで、合法の共犯者である。








「……アイツらの欠点か」

「そうねぇ、慣れているものね。ゴーストだって人外であることに変わりないし」

彼はそう言って、地面に放置されたベッドサイズの黒い箱を見やる。自分はその箱の横にかがみ、埃で薄汚れた部分を払う。掠れた文字は人間のものでなく、仕方なしに彼を手招いた。

「ん?あら……まさかとは思うけど、これアイツの?何であのバカが」

箱を開く。ちゃんと、治っていた。これなら簡単な自立機能も搭載できるはず。

しかし、彼に頼んだ覚えはない。あのハッカー、とんでもない伝手があったようだ。

「どうする?今後もアレに頼んでいいのか」

「ハッ、今更よそんなの。もしボロが出れば、その時はぶん殴ってやるわ。必ず殺す」

いつになく真面目な目をしている。彼は鮮やかな真紅の髪を翻し、陽の光から徐々に去って影の中へ戻った。屋根裏は埃っぽく、季節にもかかわらず暑いので、彼女も汗がだらだらと流れている。塩分が欲しいところだ。

「そうか、じゃいいか。なぁコレそうする?できれば今週中に復活させてぇんだけど」

「まぁ、アタシの影もそろそろ限界よね。明後日までには確認終わらせておくわ」

そう呟く彼の目は、何処か寂しげに見えた。


彼女が、寂しく思うような瞳だった。



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