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Fake and Liar  作者: うるフェリ
長編シリーズ1:赤い学園編
22/43

8裏話.『廃棄の意味を教えてください』

六花が降る

時々、滅多でもない衝動に駆られることがある。それは心がある限り、誰しもが未経験の感情。

殺意。

そこらに転がっているネズミの死骸を摘まみ上げるほど簡単で、少しなら痛みすら消える。そういうことは本当にあったらしい。

嘘だと思っていた。そんな空想染みた話など誰も信じない。紫暮もそうだった。

「…………」

ぎこちない顔だ、と鏡の破片から指先を離す。パリンッと響いた音は風鈴のように儚く、その欠片は白い天井を見上げる。

自分の顔を見ることすらままならなかった。無関心な目、陶器のような皮膚、蒼白な血色。まるでビスクドールだ。 

薄笑いを浮かべる心中に反し、表情は上手く動かせない。その必要性がないのだろうか。あくまで駒である自我に、自己顕示は不要だというのか?

いずれにしろ、彼には関係ない話。

細い溜息を吐き、冷えた夏の空気と似た匂いを感じて宙を見上げる。この気温は快適だ、同時に体には毒でもある。まるで麻薬のような夢見後事が、ひたすらに記憶を歪にする。

そう思えば、トライアングルは極めて姑息な機関だった。それは未だって変わらない。駒に感情を伴わせ、あえて物語を造りだしては異端の芽を摘んでいく。どういう意味にしても契機を用意する理由が全くわからない。何故離反をさせるような真似を?何故この機関が存在する?何故駒に感情を、仲間を、信頼を与えた。

その疑問は、マリオネットとなった今でも解消されない。

あの頃紫暮が抱えていたのは、単純な怒りだった。

「善人()した組織」を上手に模倣した、この上なく腹黒い組織。そのシナリオを改編し、初期化と代替を繰り返しては駒に新たな才能を見出すのだ。陰謀すら、トライアングルの掌の上。

あぁ、殺したい。殺す。死ね。死ね。死ね。死ね。あらゆる罵詈雑言など要らない。ただ直球に、洗練された嫌悪の語彙を用いて恨み言を呟く。

「………神々よ」

瞬きをすれば、朱に染まった鳥居が目に入った。よく見るモノとは少し風貌が違う。巨大な鳥居の柱には黒い筆文字で解読できない言葉が連なっている。何となく思ったのは綺麗な字だ、ということ。

鳥居は天高くそびえており、本当に門のようだった。天守閣のような威圧感と、神格すら漂う神秘性。鬼であった自分がくぐれば、きっとその先は地獄だろうとほくそ笑んで中へ侵入する。厳かな鎮静作用のある空気、深い森の中、紫暮が足を踏み出せば白い霧は避ける様に晴れていく。

シャン、と舞のような鈴が鳴る。

境内は外よりも少し暖かいような気がした。春の陽光、冬の森、秋の匂い、夏の風物詩。全てが混在した中で、彼は風鈴の鳴る方へと誘われるように歩いて行った。

「……傀儡の得る知遇も、悪くなかろうか」

世界線の掌握。それは紫暮が持つ知恵の一つだった。絡まり結わえ、解けてはまた絡まり合う糸の巣が世界線だ。そこを惑うことなく行く道を悟れるのは、便利なものだった。


__この世界は憎たらしいものだ。


そう俯瞰するように心の裡で流し、神社のさらに奥地へと進んでいく。鬼であろうが傀儡であろうが、紫暮はこの世に生を授かったその瞬間から、この世界を愛した覚えはない。そんな彼は人付き合いばかりが非常にうまくなり、鬱陶しい相方を適当にはぐらかしては付き纏われていたものだ。

懐かしい。ただそれだけで戻りたいとは思わない。昔から感情も希薄だった気がする。それでも、夜行という鬼には何か引っかかったのだ。違和感がある。

それは最早、追憶の範疇を大きく超える。

「__一体。何故だと云うのですか、」

沈黙の名。

それを口にしたとき、紫暮の黄金の瞳は確かに『ソレ』を反射した。






懐かしいと思うのは、感情なのか?












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