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Fake and Liar  作者: うるフェリ
 
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2.浮かぶ謎と宴

Fake and Liar 第二話『浮かぶ謎と宴』

ウルの言葉により彼ら悪魔四人、始動。


「にしてもさ~…」

陰鬱な空気に耐え切れず、ソファにだらしなく寝転がっているノイズが遂に静寂を破った。暖炉に燃え盛る火は照明用らしく、暖かさはない。乾燥しているとはいえ熱いのには変わりなく、寝ようにも寝苦しいのだ。ただノイズの場合、見ればわかる。退屈この上ないのだろう。

その一方、クロヴンはトランプの家を高く積み上げそこにカエルを放って遊んでいた。崩れては積みなおし、水でできたカエルを真剣に登らせている。神経を研ぎ澄ますにはいい訓練かもしれないが、本当に何をしているのだろうか。

ライベリーは椅子に姿勢よく座り、クオンの勉強をサポートしている。

クオンは優秀ではあるが、学生の頃に飛び級を超越し協会に所属したので、それを補うべく日頃から自主的に勉強に励んでいた。よくできた子供だが、それはきっと『一級』という立場のプレッシャーからくるものでもあるのだろう。

その相方である当の本人はと言えば、一人遊びほど苦手なものはなく暇を持て余して先ほどまで眠っていたのだ。眠るのにも暖炉を見つめるのにも飽き飽きし、ノイズはぼやく代わりに話を切り出した。

「ウルってほんま何なんやろ~なぁ。あんな協力で意味わからん結界張っておれらの仕事は減らしてくれるし、人外のシルシもあるし。おれは初めて見た形やけど、クロヴン知ってるんちゃうん?」

人外とは言えど『干渉』には得意不得意がある。一部例外はあるが、結界を張るのは『空間』への干渉に分類される。世界という存在に限りなく近い『空間』への干渉は高い技術力が必須で、トライアングルでも干渉できるヒトは少ない。

その問いにクロヴンは手を止め、コップに口をつけてから彼に向き直って言う。おそらく塩酸だ。炭酸水は、もう刺激が感じられなくなってしまったとか。

「さあ、僕も見たことがない。人外なのは間違いないだろうけれどね」

そうなん?とソファから起き上がって座りなおすと、彼もそうだよと返事を返した。この分だとクロヴンも退屈していたようだ。真面目に机に向かっていた流石のライベリーとクオンもこの話題ばかりは聞き流せないようで、椅子ごとこちらに振り返って参加する。

「へぇ、クロヴンまで知らねぇの?じゃあ、あれだ。あれ。えーと……」

「『協会資料館』のこと?一級なら入館自由だよ」

「あっそれだわ!情報の掘り下げにゃ打って付けっしょ」

「お前今のでよくわかったな」

「まぁ確かに、あそこならめぼしい情報もありそうだね。仮にも協会運営の資料館だ」

協会資料館とは、一般的な『資料館』とはまた違い、今までに起こった事件、人外についての詳細、シルシやオリアビの図鑑、地図やマガ、異形についてなどの様々な資料が保管されている文化施設だ。

図書館では掘り起こせない情報も、資料館なら深く掘り下げられるので一部の悪魔には大人気である。資料は今も増え続けており、そしてその数なんと、兆を超える。

「せやんなぁ………行く?()()()()()放置するん、冗談ならんやろ。ウルのことも大穴のことも、おれらはなーんも分かってない。何人か観測部の子らに圧かけはしたけど、何かあったら報告書の隠蔽とかすぐ露見すんで」

「君が正論を流暢に積み重ねるときは、必ず裏がある。暇を潰したいんだろう?」

「あ、バレた?」

あっけからんと笑みを浮かべつつ、真剣な気配は完全には消えない。彼はお茶目ではあるが、決して愚か者ではないのだ。

しかし、暇つぶしでなくともウルやマガについては調べるべきなのだろう。ノイズの言う通り自分達には成す術どころか一切の情報がない。いずれにしろ、有事の際には致命的な問題とともに課題になることだろう。このまま何事もなく日々を過ごせるとは、この場にいる全員が信じていなかった。

「まぁ…正論は正論だし、動いた方がいいんじゃない?早いに越したことはないし」

「そうだけどさァ…いやま、そっか。全力の時間との勝負だわ」

そう言うなりライベリーは立ち上がり、先日ヨークが使った窓を大きく開く。眼下に広がる木々の先端は僅かに下にあった。ここは屋敷の二階だ、人間なら地面に落ちる前に木に刺さって一瞬でお陀仏である。

「…お?行く?よっしゃー!はよ行こはよ行こ!!」

「わーったって、押すな押すな!!あぶねーだろーが!」

窓から澄んだ夜闇へと悪魔達は溶けてゆく。月すら微笑まぬ仄暗い森は、とても彼らを歓迎しているようには見えなかった。



『さて…ようやくココも『開店』だ。ヒヒッ、私は彼らを歓迎しよう。歯車は狂う、円滑に廻る。舞台がそうある限り』

軽く手を叩き、『彼』は静かに囁く。耳をすませば微かに聞こえるような小さな金属音が本棚の奥から響き、やがて煙のように掻き混ぜられたかと思うと本棚は黒いアンティークの扉へと変化した。

『さあ、観護ろうじゃないか我らが主よ……役者はこれから揃い始める』


____そして、終わりへと向かうのさ。



▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲


------協会資料館


バロック建築の資料館は、近づくほどその壮麗さが月光に際立って厳かな雰囲気にはっきりと陰影をつけていた。油絵のような空に砦のごとく浮かび上がる石の塊は丁寧な彫刻が施され、ドーム型のブルーグレーの屋根が王宮のようにも見える。特に豪華絢爛なものでもなく単調に装飾が刻まれているだけなのに、それが逆に重厚な城塞のような威圧感を秘めていた。

「うわ~懐かしっ!来るの三年ぶりかな」

曇り空に広がる淡い光を背景に、逆光に黒く染まった資料館を見上げる。何処からかカラスの乾いた声が響き、それを合図に砂の塊が白く姿を現し四人を照らした。

「大きいね、まだ昇格して数年だから初めて来たかも」

「そうやっけ。無位のとき指導官と来んかったん?」

「へぇ、そんなのあったの。じゃあ俺ワンチャン無位のクオンと会えたのか、惜しいことしたな」

「クオンは一度ここへ来ているよ。歴史分野の前任者から聞いたことがある」

「お前いつの間に責任者なっとんねん…」

雑草が伸び放題になっている石畳を歩き、ちらと横で歩くクオンを見てみるも、彼はただ首を傾げて覚えてないなぁ、と零すだけだった。確かにクオンの歳を考えれば無理もないだろう。未成年でいきなり協会無位に抜擢されて、いちいち起きたことを記憶する間もないほど多忙だったのかもしれない。

「てか僕指導官も誰だったか覚えてないし。誰だっけ」

「マジか、めっちゃ無常に生きてるじゃん」

そんな風に和気あいあいと話していると、門の前の監視人が四人に気づいて一礼し口を開いた。

「現在、人外分野が立ち入り禁止となっております。ご迷惑をおかけします」

「そうなの?珍しいこともあるねぇ」

協会悪魔の中で最高位の一級まで立ち入りが禁じられるということは、上層部の命令だ。すると意外なことに、監視人も眉間にしわを寄せて深く頷いた。

「やはり、そう思われますか。奇妙なものです」

意味深な台詞に、頭の中に疑問符が浮かぶ。尋ねるまでもなく彼は続きを話してくれた。

「実はここ最近、本部警備課で妙な噂が囁かれていまして…。人外エリアで時々変な音が聞こえると言われているんです。しかし調べてみようが何も見つからず、警備課一級も今は不在でして。よく聞く話では鍵をかけるような音らしいですが、何しろ一か月も前からある噂なので尾ひれもついて信憑性に欠けますし、大した問題でもないと思うのですが…」

そうは言うものの、あまり大丈夫そうな顔色には見えない。昨夜のことと立ち入り禁止さえなければ暇潰し程度に調査でもするところだが、どうやらだいぶ都合の悪い事態になっているようだ。

「そのエリアで不可解な話は聞いたことがないね。一級が戻ってきたら、再調査を申請した方がいいかもしれない」

「そ、そうなんですか……?まさかとは思いますが、その類の話が……あるのでしょうか」

監視人の顔からサァッと血の気が引いてゆく。こういう話題は苦手そうだが、警備部に任命などされて悲惨なものである。

「いや……ないけれど、最近異形の出現が多いからね。君達に万一の事があっては困る」

「異形なら過去何回も資料館に出とるな。おれら(悪魔)と相性最悪やし、気ぃつけや」

「嘘だろ……い、いえ。忠告、ありがとうございます……他の職員にも伝えておきます」

すっかり青ざめた顔で彼は逃げるように身を引いた。

当たり前だ、異形と聞けば無位の職員は大抵冷や汗を垂らして逃げてゆく。悪魔は相性に全てが左右される極端な生物だ。その点で、異形は協会にとって天敵と言える。なので異形絡みの仕事は滅多に回ってこないが、任務課は勿論のこと、警備課は不可抗力である。異形による被害が最も多いのだから、彼らには気を付けて欲しいものだ。

資料館に入ると、途端に紙の特融の匂いが押し寄せてきた。中は燭台の蠟燭に照らされて割と明るく、しかし人気はない。天井は高く簡素なシャンデリアが吊るされていた。正面には二階へ続く大きな階段があり、その手前には本棚がずらりと等間隔に並んでいる。

一番調べたかった人外エリアは封鎖、面倒だが横にも縦にも広い六階建ての資料館をざっと見ていくしかないだろう。

「じゃあとりま別れるか。おれとクオンは上から見てくから、二人は下から見てってや」

「おっけ任せろ。クオン、このぼんくらがタバコ吸ったら殴っていいぜー」

「はーいわかった」

「やめてやめて、吸わんから流石に!?」

声のトーンを落としつつ騒ぐ二人を微笑ましく見ていたが、ふとさっきまで横にいたクロヴンが消えていることに気づく。もしかすると、何か面白いことがないかと早々に調べに行ったのかもしれない。気が早いなと苦笑交じりに二人に背を向ける。

「うわっ!?」

振り返ると目と鼻の先にクロヴンが立っていた。存在しないはずの心臓がバクバクと体を揺らす。こんな縦だけにやたらでかいくせして、何故こんなにも気配が感じ取れないのだろうか。そこらのお化け屋敷なんかよりこっちのほうがずっと恐ろしい。

「やあ。人外エリアを少し様子見してきたけれど、換気口の窓から侵入できそうだよ」

「侵入って…ばれたら怒られるよ絶対」

突然の登場にクオンは少し緊張した色を顔に滲ませている。無理もない、資料館は普通は厳かな場なのだ。

「バレんかったら罪にならんやろ。だって悪事は、認識されて初めて存在するもんやろ?」

「治安悪すぎだろお前ら…まぁ今更言えたこっちゃねーし、ちょっと規則違反しますか」

三人の同意にクロヴンは頷き、にんまりと笑って言った。

「人外エリアは三階だ。さぁ、一級が勢揃いで来た違和感に勘付かれない内、早く行こう」


▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲


長い階段を上ってようやく三階に辿り着き、一番端に位置する人外エリアまで足音を消して歩いていく。

室温調節の呪紋のおかげで階下よりも涼しいが、やはり紙の独特な匂いは濃くなる一方だ。不快なものでもないし寧ろ落ち着くが、肺をいっぱいに満たすほど濃いので、これは外に出た瞬間生き返るような心地がするだろう。

窓や手すりには一切汚れがなく、本や資料の宝庫にしては埃っぽさがしないので職員の管理がしっかり行き届いているようだ。虫が湧いたら困るどころの話じゃないのでそれはそうか、と勝手に納得する。そもそも悪魔は清潔を好む生物で、人外の『悪魔』は宗教となんの関係もない。仕事であくどい事をしそれが重ねられることもあるが、本物の悪魔は人外ではなく大精霊の部類である。高度な知能と技術を持ち、無情で合理的な種族だ。

人外エリアまで辿り着き、一面白い壁の上を見上げる。天井との間に換気用の一メートルほどの隙間があった。資料館中に張り詰める紙の匂いは、この換気口により密室から逃がされているらしい。これなら、確かに中へ入れそうだ。

「本当だ、でも監視は?」

「一級の実力あれば、見つかる可能性皆無ちゃう?監視とかその辺に転がっとるサソリ思えばええねん」

「どっからサソリ出たんだ?」

それはともかくと横を見る。やはり、いない。

「はっや。下見の安心感半端ねーな」

「静かにおし、見つかったら元も子もないからね」

「すんません…」

中に入ると、そこには言葉通り『資料』が大量に所蔵されていた。それぞれファイルにまとめられているが、これをしらみ潰しに見ていくとなると気が遠くなる。

時々一定の間隔で足音がするが、恐らく監視二人だけだろう。

「じゃあ書物探すか。僕上の段届かないからノイズついてきて」

「お~う、じゃ後頼むでお二人さん」

ノイズは静かにそう告げると、すっかり気配を消しクオンについて棚の向こうへと消えていった。

「…俺らは別行動だな、別れよう。一番端から見てきて」

「いいよ」

音もなくふらっと消えた影を見送り、クロヴンの速読能力を考え自分は7列目から見て行くことにした。

棚の向こうから監視の足音が響いてくる。その音を気にかけながら、目についたものを手あたり次第漁っていく。

人外の特徴は外見に現れやすい。灰色の髪と黄色の目から判断すれば狼男の可能性があるが、彼らの頭部は人型ではない。別種族だろう。獣人の可能性もあるが、耳や尻尾は隠せても彼らに結界を張ることなどとてもできないのでこれも違う。だからと言って、悪魔などのトライアングルでもないだろう。

調べている内に、昨夜のことが奇妙なほど鮮やかに色づいてきた。細かなことまで、全部。

そういえば、と目についての書物を探す。彼の瞳はオッドアイで、言い表しがたいほど美しく洗練された色を宿していた。右の黄色い目は瞳孔が妙に小さく、色素が極端に薄い人外の瞳。緑の目は、澄んだ水面に映る鮮やかな森を覗き込んだような。本当にそれしか表現方法がないような、それでいて暗い奥行きを思わせる色をしていた。こちらは色を覗き人間に近いが、瞳孔も緑だった。ライベリーの知る限り、こんな複雑で奇麗な目を持つ人外は存在しない。

だが、何か違和感を感じる。脳内に埋もれている蚊の鳴くような声が、記憶を揺さぶろうとして何度も躓いているのだ。

ただ一つ分かったのは、あのシルシに見覚えがある、ということだけだった。

人知れずライベリーは苦笑を零す。これは、大変そうだ……。


▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲ ▽▲


「……ないな」

あれから3時間、30列は完全に調べ終えたが、微塵も手掛かりが見つからなかった。監視の足音は一定に鳴り続け、これ以上聞き続けているとノイローゼになりそうだ。

「これはちょっと予想外やな。まだ20列あるけど期待はできん…」

「そうだね。ところで、調査中におかしなものを見つけてね。棚と壁の間に変に隙間があって、ちょうどここらの本がはまりそうなくぼみが床にあったのさ。けど、当てはまるものが無くてねぇ。少し調べてみたけれど、何らかの仕掛けになっているのは間違いなさそうだよ」

クロヴンの台詞に、冷えた蝋燭に灯がつくような感覚を覚える。それだけでなく、クオン達までもが首を傾げて口を開いた。

「そうなんだ。何か隠し…棚?本…?があるのかな?」

「あ、そういやおれらも何か変な本見つけてんよ。赤と青の本しかないはずやのに一つだけ紫のんがあって、確か……」

「『真実と謎』って本。絶対エリア間違えてるってノイズと言ってたんだけど、まさかこれが?」

根本的な問題は解決していないが、雀の涙ほどの手掛かりは得られたようだ。クオンにその本が何処にあるかと尋ねる前に、ノイズがへらりと笑って言う。

「ならおれ持ってくるわ。すぐ見つかるやろ~」

そう囁いてノイズは棚の奥へと消えていった。何故赤と青だけなのかは知らないが、足したら紫だ。関係ないかもしれないが。

「うっわぁ…。立ち入り禁止じゃ飽き足らず、ついに仕掛けまで導入したか協会」

「ねぇクロヴン、ソレどこにあったの?どんな仕掛けかわかる?」

「恐らく隠し扉だと思うよ。大きさはわからないから規模もわからないけどね」

「へぇ、じゃアイツ戻っ……てきたわ。はえぇな」

狭い廊下から見慣れた仮面が現れ、その手には深いバイオレットの分厚い本があった。辞書ほどではないが、読み終わるのには時間がかかりそうだ。中身は哲学書か何かだろうか。

「これこれ、妙に目立たんから一回通り過ぎたわ。巧妙やな」

確かに、大した装飾があるわけでもなくただ「真実と謎」と黒い文字が刻まれているだけで地味なデザインだ。

全員揃ってクロヴンを先頭に静かな廊下を歩いてゆく。この空間で聞こえるのは、秒針が時を刻む音と監視の固い靴音だけだ。

一番端の棚の奥に進むと、壁との間に廊下からは気づけなかったほどの隙間が確かにあった。床には本のはまりそうなでこぼこが見える。

「…これおれの腕入らんわ。クオンいける?」

一瞬やる気を見せたものの、それもすぐに引っ込んでクオンに本を託す。

頷いて4人の中で一番細いクオンが隙間に手を突っ込み、しばらくして小さく()()()()()()()()()()()がした。

「コレ……。!もしかして」

流石にバレはしないだろうと高を括って、4人は仕掛けが起動するのを身構えつつもそのまま待機する。

妙に静かだ。このカラクリの起動音に耳を澄ましているからだろうか。しかし、それも何だか変な気もする。まるで、こうなることを予測していたかのように思えて仕方がない。監視の足音が遠ざかり、突如棚だったものが扉に姿()()()()()。これはただのカラクリではない。人外の類だ。

黒いアンティークの扉は不気味に、そして平然と棚の横に佇んでいる。何の躊躇もなくドアノブに手をかけたクオンを内心冷や冷やして見守り、四人して中を覗き込む。扉の向こうは真っ暗な深い闇に包まれている。鍵である本は見つかる心配もなさげなので、今更退くこともできないと察し扉を大きく開いた。

ノイズが最後に扉をくぐると、途端視界が真っ暗になる。

「なっ……!」

「やば、単純なのに引っかかってもうた……」

扉から届く光は急速に遠のいてゆき、完全に途絶えたと思えば刹那、視界にアンティークの景色が刻まれる。

そして薄暗い部屋の奥から、愉快を孕んだ不気味な声が響いた。

「やぁ、やぁ。お客が来たようだ……。開店して初めての客だよ。ということは、『真実と謎』を見つけたんだねェ?君達が」

低くも高くもない、不思議と落ち着く声。それでいて常に心を見透かされているような、そんな不快感がある。

声の主は何処にもいない。部屋の奥には黒い机と木製の椅子があり、天井には何もいない黒い鉄製の鳥かごが一つ、吊るされている。光源も見当たらず、ただ室内は本の山に埋め尽くされていた。秩序的に並んでいるせいか、机の上に蝋燭でもあれば何かのカルト宗教の祭壇にも見えたろう。

「迷い込んだのは黒い羊(悪魔)か、それとも(悪魔)か……?世界で何が起こっているのかも理解していない、無知な君達に教えてあげよう」

突如、背後から背筋の凍る冷たい空気が四人を襲う。そこに感じたのは、ただの恐怖だった。

「灰色は()()だ」

「!?」

反射的に後ろを振り返るも、そこには誰もいなかった。まさかと机のほうへ視界を戻し、ようやく声の主らしい『ヒト』を見つける。

たったこれだけで十分理解できる。彼の身のこなしが、一級と同等以上ということの意味が。

困惑したライベリー達の様子に、床まで垂れる白銀の髪の男は心底面白そうに嗤った。

「ヒヒヒ……!そうだねェ、君達が知りたいのは私の正体。初回限定サービスだ、私は『浮謎宴』。ココで情報屋を営んでいるよ。あぁ、それと次からは代償を貰うからねェ」

「情報屋?ココ、協会の管理下だぜ?なんで」

しぃ、と口元に人差し指を立ててライベリーの台詞を遮る。その顔は口元以外が一つ目模様の紙に隠れて、全く見えなかった。黒いローブとハイネック、黒いブーツに白く輝く優雅なまでの長髪。しかし、拭い切れない不気味なオーラが静かな威圧感を放っていた。

「言ったろう?代償を貰う、と。まぁ今回は特別だ。

協会は決して君達の味方じゃぁないのさ…ここに来るまでに見てきただろう?『真実』を」


____生涯消え癒えることのない、不協和音を。



歯車が廻る。廻る。廻る。

事実へと、意義へと。





















この小説、実は2023年の夏くらいに作り始めたんです。

その頃は趣味程度で、全然文法終わってたり語彙力無かったりで死んでいました。徐々に火がついて今では膨大が過ぎる内容になってます。

まだ未熟で目が滑る文章ですが、この物語に最後までお付き合いいただければ幸いです。


次回は土曜の21時更新です。

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