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Fake and Liar  作者: うるフェリ
 
15/43

10.箍を外す自戒

ジャラの時間と、オシャレ組の議論

「結局こーなるかァ……」

暖かい色の照明、小洒落たBGMにガラス製のコップに注がれた半透明な白ワイン。そして、テーブルの反対側で抹茶ラテを飲むクオン……。

ひっそりとしたカフェに二人は落ち着いていた。

「仕方ないじゃん、店混んでたし」

「まぁ時間も時間だしな~、いいトコ見っけたしプラマイ百か」

「マイナスちっさテンション高」

手短にツッコミをいれるクオンに小さく口角を上げる。彼は無表情でスマホを見ながらラテを口にし、ガラガラと氷を搔き回した。こういうところが無愛想と言われるのだが、ノイズに聞かれれば消されるので毎日平和なものである。

に、しても不思議だ。

「お前昔っから大人びてんよな、それとあの”暗示”よ」

「……何か関係あるの?」

少し考える様にライベリーを見つめたあと素直に尋ねる。変に見栄を張らない分、まだ可愛いというものだ。

「あるある。解除後、妙にこう……落ち着いてねぇ?いや寧ろこっちが平常なんだろうな、考えてみれば年齢に対して精神が脆弱すぎるだろ。純粋な教育課程から継続的に洗脳することで怯みを作ってたとか、クオンのケースだと教育課程修了してねぇから未完成なワケじゃん?だから心の隙をまだ崩されてねーの、恐らくね」

「あぁ、なるほど……!じゃあ壱鬼は?少なくとも僕らよりずっと早期解決してたじゃん」

ライベリーの言葉を聞くうちに、冷静な表情ながらも興味津々で目をみはる。知らない話を聞いて自分の獲物にするのが非常に上手な子なのだ。

「アイツらも同じじゃね?民族って言うか地域の特性もあるだろうけど、明らか慎重だったろ。岐路整然っつーか」

「それは思った。逆に言えば僕らの方がおかしかったのか……」

クロヴンを除き思慮の浅さが表立っていた。そんなのが実行隊員でよくトライアングルを保てたなと言う話だが、仕事関連の際には妙に頭が冴えていた気がする。暗示にそういう効果があったのだろうか、でなければ見事な本末転倒である。その方面の調査も軽くしておいた方がいいかもしれない。うまくいけば、二級や仁鬼をこちら側に引き入れることができる。

そもそもの話、暗示があるということは、トライアングルは思惑を知られたくはなかったはずだ。上層部かトップかは知らないがいずれにしろ、暗示の解除作用の因子を有するものなど徹底根絶しているはずである。

にもかかわらず、人狼がいたとはいえ随分あっさりと解けてしまった。

と言うか、例の『青バラ』自体疑問が多いのだ。暗示を解く作用というのも都合がよすぎて微妙に引っかかるし、それに対しては浮謎の言動を思い出すのだからなおさらだ。

「……じゃあ、僕はあくまで普通ってこと?」

そこまで考えたところで、頬杖をついたクオンが尋ねる。その目はただ黄色くて、幼いはずだった部分には真剣な光が備わっていた。

その質問がどういう意味であれ、クオンは賢いのだからわかっているはずだろう。

「おう、危なかったけどな。お前マジで未来明るいぞ~?」

「さっき悲しい生物とか言ってたじゃん」

そりゃそうだ、と小さく口角を上げる。とはいえ彼の将来が有望なのは紛うことなき事実である。年齢や学習スピード、技術力と根性を踏まえた上で既に確約みたいなものだ。

だが、いくら優秀でも子供は子供なのだ。彼がどれだけ努力しても無駄、それだけは待つしかない。ただ、同時に子供でいられる時期を一級として一級と過ごすのも酷な話である。

「んじゃ今日は奢ってやるから、何でも好きなの食え。ガキは食って成長しろ」

「一言余計なんだけど!」

もう、と怒りつつ横に挟んだあったメニュー表を開く。お子様ランチなどとからかえばさぞかし面白いだろうが、多分後に倍返しを喰らうのでやめておいた。触らぬ神に祟りなしである。

ぼーっとこんなことを考える時間ができるのも、恐らくこれが最後だろう。何もない少しの時間だけが心のゆとりを増幅させていたのは、そしてそれをこの先に望むのだって言うまでもない。

__あぁ……。

あぁ、と優しい溜息を心の(うち)に流した。


△▼ △▼ △▼ △▼ △▼


その頃、ジャラは例の『ランタン』達と会っていた。

「どう、ランタン達よ!青バラは見っけれた?」

意気揚々と足元に集まったランタン達に本題を投げかける。りんりんと鈴の音を鳴らす彼らは子犬のようでとても可愛く、寄って集って足に擦りついてくるのだから余計に愛着が湧く。

「りん!」

と、1番前にいたランタンが大きな声でジャラの注意を引いた。ラムネのように透き通った水色の瞳を彼ーーーもしくは彼女に向けると、ランタンはぺっと口から青い花を出す。何も消化物を吐き出したわけではない。彼らには体内に胃袋と保管用の空間があるのだ。

「あ、ソレだ。本当に見つけてくれたんだね、ありがとぉ〜!!やっぱランタン可愛いぃ〜!!よしよしよし!」

そう言ってランタンを抱き上げ、優しく撫でてあげるとまた鈴のような声で鳴く。

さて、ここからが勝負どころかな。

ジャラは上着のポッケから小さな包み紙を幾つも取り出し、色とりどりのそれをにやにやしながら開く。

「さて、今回はみんなにご褒美あげるね!久しぶりに探してくれたんだし!」

木漏れ日が優しく彼らを照らし、無人の廃れた公園を鮮やかに染め上げる。きらきらと輝く木の葉は美しく、真っ青に晴れた空は何処か瑞々しかった。

その陽光は暖かく、ガラス細工のような飴玉を輝かせる。

「はいどうぞ!コレ美味しいんだよ、最近できたお友達がくれたんだ!ここのヒトみーんな優しいから大好き!皆も気に入るよ絶対、ほら食べて」

「りん!りんりん」

ランタン達は疑うということを知らない。子供なのは勿論、その前に好奇心で構成されたような種族なのだから仕方がない。

ジャラは水晶のような飴をひとつつまみ、試しに見つけてきたランタンの口に放り込んでみた。

ジャラには自分でもびっくりするほどクリーンヒットしたのだから、恐らく種族全体にも適用されるはず……。そう考えて反応を待つ。

「……りん」

「りん!りん!」

「りん?」

「りん…?!」

「りんっ!りん!」

騒がしく彼らが会話し出し、遂に一斉にジャラを見上げる。どうやら予想は的中したようだ。

「おっけ!全員分あるから順番に並んでね、じゃないと食べちゃうよ!」

わっと鳴きそうなランタン達を先手を打って牽制し、先に並んだ子から飴を与えていく。結構な数なので大変な作業だが、ほとんど戯れみたいな感覚のジャラには大した負担ではなかった。寧ろ楽しい。

とはいえジャラはジャラなので最後の方は飴玉選びも雑になっていたが、完遂しただけ自分を褒めてやりたいものだ。

「さて、コレで皆食べたかな。じゃあこれからも暇あったら探してね!また近いうち招集するから、ちゃんと接続しとくこと!はい、かいさーん!!」

「りん!」

意気込み良く返事を残し、小さなランタン達は体を淡く発光させながら茂みの奥へと消えていった。

今度こそ誰もいなくなった寂寥立ち込める公園を改めて見渡し、大きなジャングルジムに目をとめる。

「あ、何アレ面白そう」

ウルに今すぐにでも褒めてもらいたい気持ちはあるが、未知のという名の誘惑に勝利できるほどジャラは複雑ではない。

てくてくと木陰から陽の下に出て、青い鉄の棒を掴む。思ったよりひんやりしている。ソレで気づいたが、もう夏は終わりかけなのだろう。じりじりと肌を焼き付けるような痛い光も息を潜め、徐々に近ずく枯れた空気に震えている。

よいしょっと足を棒に引っ掛け、一気に体を持ち上げる。なるほど、コレは……面白い。するすると器用に頂上まで登ったところで腰を下ろし、少し高くなった視点で周囲を見渡す。

蒼天に浮かぶ陰のある雄大な雲、微かに聞こえる小鳥の声、風が連れてくる木の葉の擦れる音、少し静かな雑踏。廃れて客が植物に変わった公園は虫もいたが、よく見かけるのは蝶やアリだった。ジャングルジムも今は青いペンキがはげていて、曇った銀色の光がむき出しになっている。

風が吹いて、ジャラの頬を優しく撫でて行った。

「……ふふんっ」

小さく口角を上げ、足をぷらぷら揺らす。しばらくそのまま何の変哲もない景色を眺めていた。


時間が許す限り、ずっと。



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