第四章 第五話 救援要請
カルが大阪支部に戻って3日目のことだった。
警報音と同時に、大阪支部のスピーカーから額田支部長の緊張感に満ちた声が流れた
「全魔導士、至急集合してください!未確認怨獣、通称“Goblin”の大群が神戸市の新開地に出現しました。
神戸支部は応戦中ですが、大苦戦を強いられている模様!至急、全員で救援に向かってください!」
「Goblin……?」
カルは眉をひそめる。
Goblinという名前に聞き覚えはあるが、彼が知る限りそれは非常に弱そうなイメージがある。
周囲の魔導士たちも同様に困惑の表情を浮かべる。
怨獣が神戸支部全体を圧倒するなど、にわかには信じがたい話だった。
「神戸支部が苦戦?まさか……」
「これ、冗談やろ?」
「いやいや、全員出動とか、流石に大げさすぎるやろ」
ざわめきの中、カルの背後から聞き慣れた声が響いた。
「状況を考えるのは後でです。とにかく額田さんの指示に従いましょう。」
東田が現れ、冷静な視線で周囲を見渡す。
その一言で、場の雰囲気が一気に引き締まった。
今は東田派も額田派も関係ない。筈だ
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緊急会議が開かれ、各チームの編成が行われることとなった。
しかし、そこで問題が持ち上がる。
純魔導士主義者たちが「バイト上がりの魔導士」と同じチームになることを断固拒否したのだ。
「ふざけんな!なんで俺らがこんな奴らと組まなきゃいかんとかって!」
藤邑が机を叩き、北部九州の訛りが混じった言葉で怒りを露わにする。
彼の視線はあからさまにカルを含む「バイト上がり」の魔導士たちを侮蔑していた。
「現場で足を引っ張られたら困るんだよ!」
「まさか、任務中に逃げ出したりしないよな?」
バイト上がりである槇原桃子も橋本拓海もこれには反発した。
「いつ私たちが逃げたのかな?それに足引っ張ってるのって低ランクの魔導士でしょ?確かにバイト上がりかもしれないけど私一応Aランクなんだけど。」槇原桃子は静かに言い返す。
「そうやそうや!お前ら純魔導士主義者も大半がCランクの癖に偉そうにしてんちゃうぞ!」橋本拓海も槇原に同調した。
カルは眉をひそめたが、純魔導士主義者に何も言い返さなかった。
代わりに東田が前に出て、毅然とした声で応じる。
「任務を遂行するための編成です。個人の好き嫌いでチームを分けるなど、時間の無駄ですよ。」
しかし、純魔導士主義者たちは一歩も引かない。
結局、額田支部長が介入し、「生まれつきの魔導士」と「バイト上がりの魔導士」で別々のチームを編成するという妥協案が提示された。
カルは「バイト上がりの魔導士」な訳では無いが、やはり後天的に魔導士になった身なので「バイト上がり」と同じ括りに入れられた。
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こうして再編されたチームにおいて、カルは東田派のチームの副リーダーとして現場に向かうこととなる。
チームメンバーは全員「反純魔導士主義者」で、カルにとっては頼もしい仲間たちだ。
彼らもまた、純魔導士主義者の理不尽な思想に反感を抱いており、この任務を通じて何かを変えたいと願っていた。
「カルさん、副リーダーとは頼もしい限りです。」
同じチームの新人魔導士、風間翔が笑顔を浮かべながら声をかけてきた。
風間はCランクの「バイト上がり」の魔導士で、明るく前向きな性格だ。
AランクやSランクに昇格しようと頑張っている風間の姿はかつての自分や、師匠のイェシカを思い出させる。
「俺たちで見せつけてやりましょうよ、生まれつきじゃなくたって、やれるってことを。」
風間の言葉に、他のメンバーも頷く。
槇原や橋本もだ。
普段はカルに対して妬みをぶつけてくる槇原桃子や橋本拓海も今回ばかりはカルの味方側であり、少しだけ親近感を覚えた。
カルは少しだけ微笑み返しながら答えた。
「無理はしないでね。敵がどれほどのものか、まだわからないからね。」
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神戸市新開地に到着すると、空気が一変した。
そこには想像を絶する光景が広がっていた。
通り一帯を埋め尽くすGoblinの大群。
その姿は通常イメージするGoblinよりも遥かに弱々しい姿をしていた。
「これが……Goblin?」
カルは息を呑む。
「おいおい、これって本当に俺たちの相手かよ……」
メンバーの一人が呆れたような顔でつぶやく。
すると、東田が前に出て、冷静な声で指示を出した。
「弱そうな見た目にだまされてはいけません。少数精鋭の神戸支部がやられた相手です。まずは各自の役割を徹底すること。カルさん、後衛の指揮をお願いします。」
「了解です。」
カルは即座に応じ、メンバーたちを配置につかせる。
生き残った神戸支部のメンバーもカルたちのチームに加わった。
神戸支部ではまだ純魔導士主義はそこまで台頭していないようだ。
Goblinの群れに立ち向かうため、彼らは一丸となって行動を開始した。
だが、この戦いがただのGoblin退治で終わらないことは、彼らの誰もが薄々感じ始めていたのだった。