第四章 第二話 焔の槍
カルの目は炎の槍を握る中性的な男に釘付けになった。
「闇バイトの中に魔導士が混じってるなんて、聞いてないぞ!」と心の中で叫びながらも、冷静さを装う。
「おいおい、そんな驚いた顔をするなよ。」男は口元に不敵な笑みを浮かべた。
「俺らにも事情があるんでね。お前みたいな正義の味方とは違ってな。」
彼の口調には軽薄さが混じっていたが、その目には鋭い知性と闇が宿っていた。
「事情だって?こんな夜中に人の家を襲っておいて、事情があるなんて聞いて呆れるわ!」
カルは自分の心臓が高鳴るのを感じながらも、強気な言葉を返した。
しかし、相手は動じるどころか、さらに楽しそうに笑った。
「まぁまぁ、そんな怖い顔をするなよ。俺たちはただ、“招かれて”来ただけなんだよ。」
「招かれて…?」カルの眉が動く。
「誰が、何のために?お前は闇の魔導士なのか?」
「それを知るには、少しばかり痛い目を見てもらう必要がある。」
その言葉と同時に、男は炎の槍を振りかざし、カルに向けて突進してきた。
「ちっ、やるしかないか!」
カルは瞬時に魔法を発動し、両手から火花を散らせた。
「Flame Shield(フレ゜ーイム・シェーウドゥ)!」
燃え盛る炎の壁が男の槍を受け止め、激しい衝撃音とともに火花が飛び散る。
だが、男はその勢いを緩めることなく、さらに力を込めて押し込んできた。
「いいぞ、その顔だ!」男は興奮したように叫んだ。
「お前みたいな正義の魔導士とやり合うのは久しぶりだ!流石光の魔導士ってところかな」
その瞬間、背後から他の闇バイトたちがカルの家族に向かって再び動き出した。
「まずい!」カルは炎の壁を維持しながら、家族を守るための行動を考える。
「カル!」
二階から聞き覚えのある声が響いた。
そこには、カルの兄が木刀を手に駆け下りてきていた。
「俺も戦う!」
「兄貴は逃げて!」
カルは必死で叫ぶが、兄の目には恐怖の色はなかった。
いつもの臆病な兄とは違った。
兄の勇気に一瞬心を奪われたその時、炎の槍がカルの防御を突き破り、かすめるように彼の肩を切り裂いた。
「ぐっ…!」
「油断したな!」
男は歓声を上げ、次の一撃に備えて構えた。
「くそっ、こんな奴らに負けるわけにはいかない!」
カルは体を震わせながら立ち上がり、再び魔力を高めていく。
その時、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえた。
「警察…!」
闇バイトの他のメンバーたちは動揺を見せ始めたが、中性的な男は冷静だった。
「ここは退くぞ。」
「何だと?」カルは驚きの声を上げた。
男は槍を消しながら、意味深な笑みを浮かべて言った。
「今夜は前哨戦だ。だが、次はそうはいかない。覚悟しておけ。」
そして彼は闇バイトのメンバーたちをまとめ、姿を消していった。
静寂が戻った家の中で、カルは息を切らしながら肩を押さえた。
「奴ら、一体何者なんだ…?」