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ヲタッキーズ188 宝くじラプソディ

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第188話「宝くじラプソディ」。さて、今回は宝くじで100億円を当て、月の土地を買った億万長者が殺されます。


億万長者への嫉妬が渦巻く捜査線上に、怪しい執事、売人、姉妹ラッパーなどが次々と浮上する中、ヒロインに巨額の遺産相続の話が…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 億万長者の死


マンハッタンの昼下がり。摩天楼に伸びる日陰。エレベーターのドアが開き、執事メイドが出て来る。合鍵を取り出す。 

目の前の床に1万円札が落ちている。しかめ面で、それを1枚1枚拾いながら億ションの廊下の絨毯を歩く。ドアが薄く空いている。不審に思い中に入る。


「ピクス様、大丈夫ですか?」


息を飲む。


「ピクス様」


ピクス様は、万札(まんさつ)に埋もれて死んでいる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「"殺してくれ!"」


後から入ってくる常連のスピア。


「最新Wi-Fiのシステム料金の請求書が来たの?」

「いや違うよ。"殺してくれ"と言う本の推薦文を頼まれてるんだ…待て。システム代がなんだって?」

「別に」


とぼけるスピア。微笑むミユリさん。


「また推薦文のリクエストですか?そんなにたくさん読めますか?」

「読む必要ない。"恐ろしすぎる力作""深海の恐怖がお茶の間で再来"。よし、もう1冊」

「ミユリ姉様に手紙が来てる」


僕が送られて来た新刊本を額に当て次々読破してるとスピアが御屋敷宛の見慣れない封筒を手にスル。


「"重要"だって」

「あぁロジャの顧問弁護士からだわ。きっと遺言書についてね。検認が終わったンだわ」

「大丈夫?」


ロジャはミユリさんの池袋時代のTO(トップヲタク)だが、途中で巨乳メイドに鞍替え…先日糖尿病が悪化して死亡。


「ソレが…未だ心の整理が出来てなくて」

「ミユリ姉様にも遺産をくれるのかな」

「私は別にいらないけど…あらイヤだ。ウソょ」


手紙を見て息を呑むミユリさん。


「どうした?」

「見て、スピア」

「わぉ!」


仰天スル僕とスピア。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「1億円も?そんな大金、何に使うの?ミユリ姉様も驚いてたでしょ」

「もっと広い物件を買って引っ越すとか?」

「1億円じゃ狭くなる」←


ピクス氏が殺された現場は、警官と鑑識でごった返している。万世橋(アキバポリス)のラギィ警部と現場に入る。


「秋葉原の良い物件は、億円じゃムリか」

「わぉ!すごいな。テーブルサッカーに室内バスケットコートにバイク。窓の外は摩天楼…あと、死体か」

「コレなら〆て1億円でOKね?」


先行してたヲタッキーズのエアリが報告スル。


「その10倍ょ。被害者はピクス。"blood type BLUE"。しかも、宝くじで100億1700万円を当てた」

「ソレで欲しいモノ全部を買いまくったのか?初歩的なミスだな」

「経験者は語るわね」


僕は、頭を掻く。


「大学の時にベストセラー作家になって大儲けしたからな。半年で全部使い切った。1発屋で終わらなかったから、今もこうしていられる」

「胸を1発屋で…じゃなかった、1発で撃たれてる」

「痣があるトコロを見ると、犯人と揉み合う内に音波銃が発射されたようね」


血染めの1万円札に鑑識番号2の黄色い札が立つ。


「死亡推定時刻は、昨夜の23時から午前2時のあたりだって」

「この銃は口径が大きすぎる。凶器ではないわ」

「ほらね。気づくと言ったでしょ?」


床に転がっている音波銃を指差すラギィ。おとなしく千円札を取り出すエアリ。感心して見ている僕。


「使われたのは9mmHz音波銃。音波弾は心臓を貫通してポーカーテーブルに埋まってた」

「きっと犯人に金庫を開けるよう指示され、予め金庫に隠してあった。護身用の音波銃で抵抗した」

「なるほど」


金庫の中に鑑識番号3の黄色い札。相変わらず警官や鑑識が室内をウロウロしている。


「その結果もみ合いになり、逆に撃たれたか」

「当選くじょ。額に入ってる。100億円の価値がある紙切れ」

「エアリ、君なら100億円当たったら何に使う?」


即答だ。


「フェラーリを買うわ」

「もう持ってる。そんな良いモンじゃないょ」

「でも、スピードは出るでしょ」


僕は、肩をスボめ天を仰ぐ。昭和通りの渋滞にハマったらスピードは関係ない。首都高上野線も同じw


「金庫にいくら入ってたかわかる?」

「銀行の袋の中に70億円」

「使用人のレジナ・イズリさんょ」


静かに憤慨するレジナ。


「使用人?私は執事メイドです。皇室に仕えた経験もあります」

「いつもそんな大金が入っていたのですか?」

「貧しい家庭で育ったので、現金があると安心したようです」


溜め息をつくレジナ。


「それを知っていた人は?」

「大勢が知っていました。浪費癖がありましたし、大金持ちであるコトを決して人に隠さなかった」

「東秋葉原じゃ強盗に入って持ってってくれと言ってるようなものだ」


ソレにしても、とラギィは尋ねる。


「いつも金庫に音波銃を入れていたんですか?」

「何でも知っているつもりでしたが、音波銃を持っていたとは知りませんでした。でも、銀行の袋の中に追跡用の染料が仕込んでありまして」

「どうすれば作動しますか?」


淡々と語るレジナ。


「盗まれた3分後に噴出する仕組みです」

「制服組に周囲を調べてもらって。きっとこの周辺で噴出したハズょ」

「ROG」


ヲタッキーズ出撃。


「最後に会ったのは?」

「昨夜です。昨日の5時頃。その後、御主人様は奥様と出かけました。奥様にお会いしに行ったのだと思います」

「結婚してたの?」


うなずくレジナ。


「YES。お2人は同性婚ですが、娘さんもいらっしゃいます。私がお仕えスルちょっと前から別居されています。大金を手に入れたことが原因で」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"Pix family collects lottery Jackpot(ピクス家、宝くじで大当たり)!"バカみたいに大きなお札を前に大喜びしてるピクス家の人々…


当時のニュース画像、幸せだった日々を振り返る母と娘。溜め息をついてから、(おもむろ)に母?は語り出す。


「パリやローマを旅したわ。当選当時はとても幸せでした。シートヒーター付きの車も買えたし。でも、しばらくしたら周りの目が変わりだしたの。ね?」

「あんた達だけがズルい…そう陰口を叩かれるようになったの」

「何もかも上手くいかなくて…心機一転、秋葉原に引っ越したわ」


母と娘は、互いを支え合うように、腕を絡ませ、肩を寄せ合って話す。仲のよさそうな母娘に見える。


「どうして別居されたのですか?」

「お金はまるで毒薬だった。夫は浪費癖が止まらないし、ニコルは…」

「ママ、言って良いわょ」


娘に背を押されるように語る母親。


「ニコルは、スーパーヒロインに憧れて"覚醒剤"に手を出すようになった。ソレからは、夫と力を合わせるようになった。ニコルにドラックを止めさせるためにね。そして、夫は良いコトにお金を使い出したの。炊き出し所の支援ょ。宝くじが当たらなかったら、私達も路上生活者になってたかもしれないね、そう言って、毎日のように通うようになったの。それで、また私は、夫を愛するようになった」

「昨夜は2人で何処に行ったのですか?」

「昨夜?昨夜は会ってないわ。連絡があってキャンセルになりました。一緒に解決したい問題があると言っていたのに…何のコトか聞いたんだけど、話さなかった」


気になる話だ。


「連絡は何処からあったんですか?」

「多分炊き出し所だったと思います。最初は、ソコで会う予定だったから」

「炊き出し所で何か問題は?」


頭をヒネる妻。


「特には思い浮かばない。でも、意外に荒っぽい人が多かった」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィと昭和通りを署まで歩く。僕は、濃紺のジャケットに青いカラーシャツ。ラギィは茶色コート。


「コレはSF作家の勘…と逝うか、実は良くあるストーリーパターンなんだけど、犯人は絶対にメイドさ。だってそうだろう?実際にメイドが容疑者になる事件なんて初めてだ。コレでメイドが犯人じゃなかったら、そっちの方が事件だょ」

「でも通報したのは執事メイドょ?」

「アキバのメイドは賢いのさ。ところで、ラギィが宝くじに当選したら何をするか、未だ聞いてなかったな…あ、その人は警察だよ」


毛布を被った物乞いの男が、破けた手袋でラギィに手を差し出したが、慌てて引っ込めるw


「そうね。確かに未だ言ってないわ」

「何か恥ずかしいコトに使うんだな?」

「正直言ってちゃんと考えたことがないのよ」


妄想が脳内を駆け巡るw


「恥ずかしくは無いけど、秘密にしたいコトか…やや?ピクスの写真にマジックインキの落書きだ。東秋葉原は情報が早いな」


炊き出し所に入る。安ホテルの居抜きだ。ロビーから生活困窮者がタムロしてる。所長?のお出迎え。


「ピクスさんは、お人好しでした。最初、彼はココに来て1万円札を配ってたんです。でも、ヤメてもらいました。悪い連中が集まってしまうのでね。ソレでも、彼はコッソリ妊婦や子供に1万円札を渡し続けました。まるで、自分には大金を持つ資格なんかナイと思い込んでるようなトコロがありました」

「宝くじの当選者は、一般的に罪悪感を抱くコトが多いんだ」

「昨夜ピクスさんが来た時、何か気になる出来事はありましたか?」


ラギィに言われ、思案顔で思い返す所長。


「そう言われてみると、変な男がしばらくウロウロしてましたね」

「所長の御存知ナイ人ですか?」

「確かに知らナイ人でした。でも、6時頃ピクスさんが現れると、ソイツはピクスさんに話しかけて、その数分後には帰って行きました」

「似顔絵にご協力いただけますか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。ホワイトボードに似顔絵を貼り出す。


「謎の男は、恐らくピクスを待ち伏せてたんだ。だが、その後で連れ出し、何をしたんだろう?殺害は6時間後だ」

「ソレに、なぜ待ち伏せたのかしら?強盗目的ならマンションを襲って金庫を開けさせたハズ」

「ピクスが音波銃を持ってた理由も不明だな」


疑問点が次々出て来る。


「違法なルートで手に入れた音波銃よ。銃のシリアルナンバーが削り取られてた。 ピクス自身がカートリッジ弾を込めてる。指紋がついてたわ」

「ラギィ!大金の入ってた袋を見つけた!ピクスの億ションの裏に落ちてた。中身は空っぽだけど、染料は噴出した後みたい。ソレがベッタリ犯人の手についたみたいで、指紋が取れたわ。ドッド・シプリ。億ションと契約してる清掃会社のお掃除メイドでちょうど勤務明けだった」

「お掃除メイドなら染料が飛び散った後で袋を拾ったとしてもおかしくはないわ」


エアリが持ち込んだ大判ビニールの証拠品袋に入った袋を検分するラギィ。エアリが愉快そうに笑う。


「ソレはどうかしら」


捜査本部のエレベーターの扉が開いて、顔が真っ青になったお掃除メイドをマリレが連行して来る。


「あら?宇宙人?」

「いや。アバターのコスプレだろう」

「ソレか、リアルの犯人か」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。正面に真っ青な顔のお掃除メイド。事情聴取はヲタッキーズ。メイドvsメイド。


「ウソじゃないわ。袋が落ちてたから拾っただけ」

「ちょうど3分で染料が噴き出す仕組みよ。ちょうどその時に拾ったというの?タイミングがよ過ぎない?」

「でも、ホントなの。仕事が終わってソーダを飲んでたら、誰かが走って逃げるのが見えた」


ウソ臭い話だ。


「じゃその逃げた誰かの特徴を教えてよ」

「わからないわ。暗くて見えなかった」

「あら、ソレじゃ貴女の未来も真っ暗ね」


突き放すマリレ。エアリは愉快そうに笑っている。


「だから、ホントなの。そうだ!ソーダを買った店のリィンさんに聞いてみてよ。彼女もメイドよ」

「うーん確かに3分間で1階まで降りてソーダまで買えたとは思えないわ…ねぇ1つ教えて。勤務中にピクスの姿を見なかった?」

「あ。11時頃ロビーにいたわ。歩いて帰宅したみたいで汗だくだった。車は?と聞いたら誰かに持ってかれたとか言ってたわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ラギィはデスクでスマホ中。僕はデスクサイドからラギィのPC画面を覗き込む。

ソンな僕達を、壁の柱に寄りかかりながら、見ているエアリ。バタバタとマリレが飛び込んで来るw


「お掃除メイド、ドッド・シプリはシロ。確かに車もなくなってるわ」

「殺された日に車も盗られるなんて、とても偶然とは思えないわね」

「車の中に家の鍵が入って強盗されたとか?」


マリレが割り込む。


「そもそも、車の中には車両登録証があるから、犯人はソレを見ればピクスの住所がワカルわ」

「なぜ車を盗られた時点で、警察に被害届を出さなかったんだろう?」

「どうも」


スマホを切るラギィ。同時に本部のモニターに地図画像が出る。緑の光点が点滅しながら通りを移動。


「ピクスの車を追跡出来た。東キャナル通りを西に移動中」

「オランダトンネルに向かってる。神田リバーを横切る河底トンネルだ」

「秋葉原から逃げるつもりだわ」


第2章 過去と闘うために


捜査本部のホワイトボードに顔写真を貼るマリレ。


「車を運転してたのは、ション・ヨーク。神田警察が捕まえた。でも、車内にお金はなかった」

「念のため、見落としがないかドアパネルとかタイヤ回りに何か隠されてないか、見て来てくれる?」

「ROG」


出撃して逝くヲタッキーズ。マリレを呼び止める。


「マリレ、宝くじが当たったら?」

「ワイナリー」

「ほら。みんな即答出来る」


両手を広げ出て逝くマリレ。入れ違いに背の高い制服警官が入って来る。


「テリィたん、何の話だい?」

「もし、宝くじが当たったら?」

「60フィートの船を買うさ。巨大なスピンネーカーに釣竿も2本だ。深海用の」


僕はラギィの方を見る。意味のないドヤ顔。


「いいね。最高だ」

「OK。男同士で竿のサイズで盛り上がって。私は尋問に行ってきます」

「え。下ネタ?」


呆気にとられる僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の取調室。机に足を乗っけているション。


「なぁ頼むよ。ソーダ、もらえるかな?」

「私は客室乗務員じゃないの。万世橋(アキバポリス)の警部ょ」

「殺人って言ったか?」


ファイルで足を払いのけられ、座り直すション。


「貴方、凄い前歴ね。渋谷で暴行。池袋で不法侵入。そして今度は秋葉原で殺人」

「ちょっと待て。俺が誰を殺したって?」

「宝くじの億万長者」


本気で慌てているように見える。


「ピクスか?いや、殺してない。俺が会った時は、未だ生きてたぞ」

「それは炊き出し所で車を盗んだ時のコトでしょ?その後、貴方は欲が出て、自宅に押し掛けて殺害、大金を盗んだ」

「だから、俺は殺してナイし、車も盗んでない」


無視して畳みかけるラギィ。


「なら、どうして被害者の車を乗り回してたの?」

「もらったからさ」

「あのね。1700万円の車をポンともらったの?」


大きくうなずくション・ヨーク。マジかよ。


「ピクスは、誰にでもチャンスをくれる人だと聞いて会いに行った。俺が金に困っていると言ったら、今日は小切手帳を持って来てないから、代わりに車をヤルと言い出した。 そりゃ最初は、俺もからかってルンだと思ったが、その場で名義変更の書類にサインをし、キーを渡された」

「ソンな簡単に車を譲ってくれたの?」

「あぁそうだ。もう車は必要ないソーダ」


瞬間呆気にとられたが、態勢を立て直すラギィ。


「…昨夜の0時頃、貴方は何処にいた?」

「近所のシネコンでレイトショーを観てた。トニー・ジャーの映画特集をやってた。なぁ良いだろ?ソーダを持って来てくれょ」

「ダメ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がり、ホワイトボードが運び込まれる。事件情報を描き込むラギィ。


「確かに、ション・ヨークは映画館の半券は持ってたし、車の名義も変更されてるわ。でも、普通会った人に1700万円の高級車をあげる?」

「何台も持ってるから気にならないんだろう」

「6時にション・ヨークに車を譲り、8時に奥さんに電話をして約束をキャンセル。一緒に解決したい問題があると言う。そして11時に帰宅し、1時間後に殺される」


"time of death 2am"。スラスラ描き込む。


「空白の時間には誰と何をしてたのかしら」

「彼は浪費家だ。カードの利用履歴を調べればわかルンじゃないか?」

「昨日に限り、金を使っていたとしたら、32枚のカードは全く使われてない」


ヲタッキーズのエアリが割り込む。


「32枚もあるの?」

「NFLのカード。チームごとに1枚ずつ。未だ驚くのは早いわ。散財しまくってる。競走馬を買って、ランジェリーフットボールのチームに出資して、ふざけてベンツを神田リバーに沈めた。ワザワザ借りた船から落としてる」

「お金で人が変わる典型ね」


ソレには異議がアル。


「いや。お金が人を変えるワケじゃナイ。お金は人の元からある性格を強く表に出すだけだ」

「うーん。じゃ彼は篤志家ってコト?当選くじを売った店員に家を買ってるし、亡くなった隣人のために立派な霊廟を建てた。ついでに、月の土地も買ってる」

「月の土地?マジか?」


権利書のコピーを見て驚く僕。


「僕が買ったトコロの近くだ!」

「…もう何を聞いても驚かないわ」

「笑いたければ笑え。でも、地球が住めなくなった近未来に泣きついて来ても知らないからな」


マリレが入って来る。あ、因みにエアリもマリレもメイド服だ。なんたって、ココはアキバだからね。


「ラギィ。ション・ヨークが乗り回したピクスの車を調べたわ」

「ごめん。ション・ヨークは犯人じゃなかったの」

「そ。でも、無駄足じゃなかった。神田警察の駐車場は今が花盛り…まぁ桜はなかったけど、こんなモノを見つけた」


マリレはデジカメを見せる。このスマホ全盛の時代に珍しいな。撮影画像をモニターに出す。


「助手席の下に落ちてた。でね、同じ男が何枚も写ってるの。きっとピクスは、この男をズッと尾行してたのね」

「誰を監視してたの?この男を知ってるか、執事メイドや奥さんに聞いてみて。私達は空白の時間を埋めるわ。奥さんには8時に電話してる。エアリ、どこからかけたか、通信会社(キャリア)に聞いてみて」

「ROG」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ギャレーでコーヒーを注ぐラギィに背後から接近。


「何?」

「仕事は辞める?…宝くじが当たったらの話さ」

「ヤメて他に何をヤルの?」


ソレもそーだなw


「スーパーモデルとか、天才脳外科医とか、女子プロレスラーとか」

「最高ね。私を女子プロレスのリングに立たせるのが夢だったンでしょ?」

「教えてくれょ」


ニッコリ微笑むラギィ。


「話すコトが何もナイわ」

「夢がナイの?」

「あるわ。お家でゆっくりお風呂に入りたい。でも、今夜は無理そうね。通信会社からデータが来た。エアリ、ピクスが電話をかけた場所は東秋葉原よ。もっと詳しい住所は聞き込みで調べて」


エアリが小切手をヒラヒラさせる。


「その必要はないわ。彼は東秋葉原でカードの支払いをしてる。ほら、この小切手。先月100万円を2度ミーチ社に支払ってる」

「ロガン・ミーチ?」

「ええ。そいつの会社ね。誰?」


ウンザリ顔のラギィ。


「6回は逮捕してるわ。詐欺師ナンだけど、凶暴で暴力沙汰が絶えない。確か前回はクリーニング店のプレス機で男を焼こうとして…」

「そんな奴にどうして金を払ってたんだろう」

「殺人でも依頼したのかしら?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。凶暴と逝うから勝手に筋肉隆々かと思ったら、ロガン・ミーチはお洒落な高身長女子だ。

まぁ案外こういう女が、冷酷に人を切り刻むのかもしれないけどな。ラギィと共に取調べに臨む。


「ラギィ警部!コレはまた、一段ときれいに…」

「ミーチ。お座り」

「…ねぇこの男は誰?」


僕とは目を合わそうともしない。


「ミーチ。貴方は今、死刑に直面してる」

「ちょっと待って。私は誰も殺してないわ」

「じゃ宝くじ億万長者のピクスが、射殺される直前にアンタといたのは偶然?」


目を見開くミーチ。リアルか芝居か、にわかに判然としないw


「ピクスが死んだ?彼女は太客、じゃなかった、大口の投資家だったわ」

「投資家?何に投資してたの?」

「きゅ、救援組織よ。難民の」


どーやら、リアルに慌ててる。


「あらあら。億万長者からの救援で助かったのはアンタだけでしょ?詐欺がバレて、殺したンじゃないの?」

「だから!私は殺してないし、最近は会ってもいなかったわ」

「あーらソレは変ね。大家さんに聞いたわ。昨夜、彼はアンタの家に来た。ホントのコトを話さないなら、検事局に殺人罪で起訴するように伝えるけど、それで良いの?」


暫し黙り込み、光速で損得勘定を終えたミーチは、一転、人が変わったようにスラスラと歌い出す。


「わかったわ。待って。さっき言ったコトは確かに正確ではなかったわ。昨夜、実はピクスが会いに来た」

「何の用?」

「足のつかない音波銃を欲しがってたわ」


今度はラギィが慌てる番だ。


「音波銃?なぜ?」

「何かに怯えてた。だから、タマタマ偶然に家にあった357マグナムを100万円で譲った…カモしれない」

「何に怯えてたの?」


意外な答え。


「過去よ」

「え。」

「過去に押し潰されそうだと言ってたわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室から出て来て、僕とラギィ。


「過去に押し潰される?何で違法な音波銃を買うの?警察に行けば良いのに」

「警察じゃ信用出来なかったんだろう。にしても、過去と戦うのに音波銃が要るか?」

「ピクスの部屋から2人の指紋が出た。ピクスの故郷、青森の犯罪者よ。ページ姉妹。銀行強盗の前歴あり。今は重窃盗で服役中だって」


マリレが合流。


「ラギィ、その情報はちょっと遅れてる。蔵前橋(けいむしょ)が満員になって先週釈放されてる。で、重窃盗の被害者って誰だと思う?」

「ピクス!」

「あらあら。ラギィとテリィたんが異口同音?宝くじを当てた1ヵ月後よ。姉妹は、マスクをしてたけど声でピクスにバレた。法廷では、彼の証言で有罪が確定した。姉妹は釈放の2日後、荷造りし秋葉原へ向かった。近所の人には狩りに行くと言い残して」


ラギィは唸る。


「狩りの獲物は宝くじ億万長者ね」


第3章 ラップと売人


ミユリさんが御帰宅。珍しいコトに両手に買い物袋をいくつも下げている。

梅雨前の蒸し暑い時期だが、何とヒョウ柄のファーのコートを着込んでるw


「どーしたの?ロジャの遺産を早速使ってる?秋葉原中の豹柄を買い漁ったとか?」

「スゴく笑えますけど、その通りカモ。実は下着も…ラムちゃん状態」

「とにかく!おめでとって逝っておくよ。宝くじ当選者が経験する 5つのステージの第1ステージをクリア出来た。つまり"ショッピング"さ」


ミユリさんは憮然としている。しかし、ヒョウ柄のミユリさん、萌える。同じ電撃系なのも笑えるw


「では、第2ステージは何でしょう?」

「ピクスは、次にチャリティーを始め、部屋で射殺されたな」

「ソレはパスですね。やっぱり遺産は全額返すコトにします」


ミユリさんが、実は関西のオバチャン的なヒョウ柄好きと知ったホドじゃないが、少なからず驚く僕。


「ホントに?どうして?」

「そもそも、池袋を出る時に別れたつもりだったのです。ロジャがソレを知ってたら、状況は多分違ってた。買ったモノは全て返品して、遺産も全額返却します。そうするのが1番なの」

「一挙に第5ステージアをクリアだ。悟った」


(ヒョウ柄の)ミユリさんは微笑む。


「でも、推されてたコトは確かだから1枚だけ取っておきます。フェイクファーですが」

「やや?ラギィからだ…警部、寝る前に素敵なお話が聞けるかな?」

「今すぐ来て」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


真夜中の東秋葉原。裏通りを速足で急ぐ僕は、ラギィの覆面パトカーを見つけて、助手席に滑り込む。


「どの車?」

「ボルドー色のSUV。乙女ロードのナンバープレートで登録者はページ姉妹。1時間前に違反切符が切られて、場所が割れた」

「姉妹はどこだかわかる?」


ドライバーズシートで肩をスボめるラギィ。


「さあ?誰かが現れるまで、ココで張り込むしかないわ。そっちはどう、エアリ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「異常なし」


ラギィからの無線を切ってダベるヲタッキーズ。


「宝くじに当たったらワイナリーを買うんだって?」

「うん。ジェニと前に行ったコトがあって」

「億万長者になって農家をヤルの?貴女、ジェニと付き合ってから変わったわ」


"彼女"が出来た彼女を責めるw


「あら?貴女達こそルイナの影響を受けてる」

「何のコトょ?!」

「隠さないで。貴女達の関係はバレてる」


陽気に笑い飛ばすエアリ。


「あはは…まさか。ミユリ姉様やラギィも勘づいてるの?あの鈍感なテリィたんまで?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。僕とラギィ。


「さっき、お金で人の性格が強く出るって言ってたわね?テリィたんの場合は、どんな部分の性格が出たの?」

「幼児性だな。ピクスと同じさ。高級志向になった。自家用ジェットに買って、自家用CAを雇ったり、とにかく、少しでも高価なモノを買った。でも、結局欲しいモノは"自由"だと気づく。好きな仕事をして、推し活を楽しむ。まぁ確かに、お金があるから思い通りの人生が送れるコトは確かだけどね」

「つまり…成長したのね」


珍しく感心した様子だ。バカにされてる?


「どうかな。月はともかく、火星の土地を買ったのは、実は先月だ」

「そーなの?…誰か来た。12時の方向。ドレッドヘアの男。ヲタッキーズ?」

「ROG。拘束スル」


夜空から舞い降りたメイド達が、いきなり、男の頭を姉妹のSUVのドアに叩きつける。音波銃を抜く。


「ヲタッキーズょ。ページ姉妹は何処?」

「痛ぇよ、メイドさん。上だょ」

「ココで大人しくしてて」


SUVに手錠で繋がれる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ウサギ飛び前進だ。廊下の角で音波銃を突き出し、前進を援護スル。次の角で前進は援護に回り、先を逝く。すると、真っ赤なランプの明滅が見え…


「ツキを逃がすな、フロアを揺らせ。アタシはセクシー、アンタはロキシー…」


ヤタラ調子の良い節回しは、ラップ?意味のない言葉の行列がムダに続く。


「ビビって漏らすな金を出せ、アタシに払えよ、いただくぜ…」


レコーディング中だ。調子の良いラッパー姉妹が録音機材の前でノリノリでレコーディングしている。ミキサー卓の、これまたドレッドヘアのエンジニアにバッジを示して、高圧的に命令するラギィ警部。


「止めて」

「…あら?何なの?アゲアゲだったのに。誰?」

「警部と作家の登場だ。メイドがアンタを逮捕する…フロアから降りろ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


現場でラッパー姉妹から事情聴取。


「600万円?1000万円わあるハズよ。ラップに使っちゃったの?」

「勘違いしないで。私達は殺しちゃいない。奴を助けただけよ」

「模範囚だわムショから釈放、アタシは望むわ超能力(パワー)の解放…」


妹が勝手にラップを始める。耳を抑えるラギィ。


「ラップはヤメて。奴を助けた?」

「娘が、また薬を始めたから、助けて欲しいって泣きつかれた」

「あらあら。ラッパーのアンタ達に、なぜ助けを求めるの?…あ、ラップはヤメて」


今にも歌い出しそうな妹を抑える姉w


「あのね。アタシらにしか助けるコトが出来ない状況だったワケ」

「だ・か・ら!アンタ達が、ニコルをどうやって助けたの?」

「だからね。問題はドラッグじゃないワケ。ヲッズって名前の売人。ニコルはヲッズの言いなりになってた。ソレをピクスが知って、ヲッズに忠告しに行った。俺の娘に手を出すなってね。でも、ヲッズは無視した。信じられないならアタシのポシェットを見て」


何とJKが使うような100均製?の仔犬の絵入りポシェットからクシャクシャのメモを取り出して示す。


「ナンてコト?私が聞いた時はニコルは何も知らないと言ってたのに!」

「ピクスが監視していた男じゃナイの。コレがヲッズなの?」

「YES。和泉パーク近くのクラブの外で不意打ち仕掛けてヲッズを襲った。先ず"火炎使い"のボディーガードを鉄パイプでボコって、ついでに、奴を車のトランクに詰め込んで、ボコボコにしてやった。その後から、ココでずっとレコーディングしてるワケ」


マジかょ?


「つまり昨夜から?ずっとレコーディング?」

「やっと調子が出て来たトコロ。ヲッズに言ってやったわ。ニコルに関われば神田リバーにぶち込むと。ヲッズは、お前ら全員を焼き殺すと言ってた。ピクスを殺したのは間違いなくヲッズね」

「ピクスの音波銃はヲッズからの護身用だったのか。警察に行かなかったのは娘が関係してるからだ」


外でスゴい爆発音が轟くw


「なんだ?」

「エアリ、見てて」

「アンタ達、ソコを動くな」


通りに飛び出すと、ボルドー色のSUVが炎上中w


「確かヲッズは、焼き殺すと逝ったンだっけ?有言実行の売人だな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


真昼の"秋葉原マンハッタン"。摩天楼の谷間にある万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ギャレー。


「ニコル。また薬を使ったってホント?」

「1度ヤメた後、またヲッズに見つかって、戻って来てくれと頼まれたの」

「 あぁ、ニコル!」


長い溜め息をつくママ。


「ごめんなさい。ママ、ホントに」

「パパは知っていたのね?」

「パパはズッと自分を責めて、俺が何とかスルと言っていたわ」


両手で顔を覆うニコル。


「そのヲッズって奴がお父さんを殺したと思う?」

「YES。あぁ!全部私のせい。パパが死んだのは私のせいだわ!」

「ニコル…」


大声を挙げ泣き出すニコル。ニコルを抱き寄せ、ソファの上で2人で大泣きスル母と娘。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。


「本名は、マビン・ヲズミ・コフスキー」

「そりゃ名前を変えたくなるワケだ」

「セレブを相手に、ドラッグを売っては大儲けをしてる輩。以前も、ライバルの売人を車ごと爆殺してる。ただ、十分な証拠がなくて逮捕出来なかった」


ラギィのまとめ。


「じゃヲッズは暴行された復讐にピクスを撃ち殺し、姉妹の車を爆破し、丸焼きにしようとしたのね?」

「とりあえず、そのヲッズを連行だな」

「ソレがテリィたん。なかなか難しいの。そもそも居所が不明。姿を現すとしたら、行きつけのナイトクラブね。タマに顔を出しては商売に精を出すそうょ。でも、用心棒やウェイターがついていて、容易には近づけナイ。"覚醒"した焔使い(スーパーヒロイン)を薬漬けにしてボディガードとして雇ってる。警察の匂いがすれば、直ぐに姿を消すし」


ラギィとメイド2人は顔を見合わせる。


「私達は、もう何度も店の手入れで面が割れてる。今さら潜入捜査(アンダーカバー)は無理だわ」

「ソレにしても、近づく方法は何かあるハズだ…え?何?その思わせぶりな目つき?」

「テリィたんのケッテンクラート、貸してくれる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ミユリ姉様、素敵!何てゴージャスなの?」


捜査本部にミニの肩出し黒のメイド服で現れたミユリさんに期せずして本部中から拍手が沸き起こる。


「素敵にお洒落して…素敵じゃない?まるでコレからデートね」

「ラギィ、違うでしょ?コレ、潜入捜査(アンダーカバー)だから」

「ミユリ、テリィたんに聞いたけど、遺産は返すコトにしたンだって?」


ミユリさんは額に八の字w


「ソレが…ロジャの御家族には断られたの。ロジャは私を愛してたから、父の望みなのでゼヒもらって欲しいって…だから、今はどう使うべきか悩んでる。でも、私が考えつくコトなんて、全部自分勝手で無駄なコトばかりょ」

「そんな風に考える必要はナイわ。ある人が言ってた。お金で人は変わらない。性格が強く出るだけだって」

「え。ソレって…」


慌てて物陰に隠れる僕。


「じゃこーしたらどう?ロジャの栄誉を称えるコトにお金を使うの」

「ソレは素敵なアイディアね。スゴく良いアイデアだわ。気に入ったわ。ありがと」

「…さぁキーは見つかったぞ。出撃だ」


今カノと元カノが良い感じで話してる内に出撃だ。


「テリィ様。運転は私が致します」

「ええっ。ケッテンクラートだぜ?操作性に重点を置いた高いパフォーマンス。戦場におけるキメ細かなリクエストにも対応出来る…」

「参ります」


キーを奪い取られる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜の昭和通りに飛び出す真っ赤なケッテンクラート。タクシーや乗用車を次々追い抜き先頭に出る。


クラブの前でターンをキメて、鋭く停車w


「スゴく良い(ハーフトラック)ですね」


ミユリさんから鍵が返って来る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


最近流行りの昭和なサパークラブ。グラスに酒を注ぐバーマン。踊り狂う女達。バリーライトの海で。


「テリィ様」


ミユリさんが…踊り狂ってる。一心不乱に手を挙げ黒髪をかき上げる。

挑むような眼差し、半分開いた唇、跳ねるような腰つき…耳元で囁く。


「ヲッズが私を見てます。ドリンクお願いします」


え。お仕事モード?ちょっち残念…さらに揺れるヒップに見とれていたら、スゴい目つきで睨まれる。


「バーボンでマンハッタン2つ」


僕がカウンターで注文する内に、ミユリさんはVIP席に向けて媚を売る。

既に売人ヲッズの目線は、ミユリさんの揺れる腰に釘付けになっている。


立ち塞がる火焔使いの女用心棒w


「あら?貴女のボスがお呼びなの」

「何なのアンタ。彼はアタシのボスょ」

「みんなのボスょ。挨拶がしたいの」


火焔使いを押しのけ右陪席をゲット。


「やぁ。どうも見ない顔だね」

「引っ越して来たばかりなの。ヴァニ島から」

「ほぉ。波の静かな良い島だ」


ソンな島はナイw


「ある人から貴方のコトを聞いたわ。貴方がいるとパーティが盛り上がるって」

「で、その人の名前を知りたいな」

「ダメ」


意味なく笑い合う2人。


「待ってろ!今、逝く」


僕は、両手を挙げて踊る女達の中で、必死に2つのグラスを掲げ、VIP席へとアプローチを試みる。


「アレ、君の男か?」

「クラブに入る時だけね。アレで、実はアラブの大富豪なの」←

「どーやら…俺は君を好きになったよーだ」


キツネとタヌキのバカ試合、いや、バカし合いだw


「じゃ証明してょ?」

「どんなパーティが好きなのかな?」

「そうね。キラキラしてるのが良いわ」


目を輝かすヲッズ。


「キラキラか!良いモノがアルけど…少し高いぞ」

「そうょ。いつだって良いモノはタ・カ・イ、の」

「話が早いな」


ヲッズはポケットから出した何かを握りしめ、その拳をミユリさんに差し出す。

ミユリさんは、その拳を大切に両手で包み込むようにしながら、流し目を送る。


「ゴツン!」


次の瞬間ヲッズの頭はテーブルに激突し右手は限界までねじりあげられてるw

さらに、フロアには股間を押さえのたうつ火焔使いの女用心棒。ミユリさん…


彼女の何処を蹴ったンだょw


「テリィ様!」


ヲッズをねじ伏せ、僕に手を伸ばすミユリさん。


「はい!バーボンのマンハッタンだょ?」

「違うでしょ、手錠プリーズ」

「あ、そうか」


慌てて手錠を渡す。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部の捕虜尋問室。


ダークスーツに黒の開襟シャツのヲッズがヤタラ間抜けに見える。ミユリさんも普通のメイド服だ。


「がっかりな格好に着替えちゃったな」

「貴方はもっとがっかりな格好になるわ、囚人服だから。販売目的の薬物所持は懲役20年だって。どっちにせょ第1級殺人罪だから、ソレに比べると大したコトは無いカモ」

「あと、ページ姉妹の車を爆破した罪もある」


微罪?を付け加える僕。黒のジャケットに赤の開襟シャツなんだけど、 やはりマヌケに見えるかなw


「何の話をしてルンだょ?」

「この男に見覚えは?わかるでしょ?貴方が殺した人だから」

「あと、この姉妹も殺そうとした」


タブレットで次々と画像を示す。


「あのな。確かにあの姉妹には(用心棒がw)復讐した。だが、ヒクスには何にもしてない」

「ソレが、不思議なコトに現場で聞き込みをしたトコロ、殺害時刻に君が目撃されてるんだ」

「貴方はページ姉妹に襲われてる。貴方を襲えと指示したヒクスを恨んでた上に、現場で目撃されてる。ココでウソをついたら、どんどん不利になるだけよ」


ラギィと2人でブイブイ押し込む。愉快だ。


「そうか。わかったよ。仮にだ。仮に俺がヒクスに腹を立てていたとしよう。そして、アパートまで話をつけに行ったとしよう。だが、俺は部屋までは行ってない。途中でヤメたんだ」

「あんなに恨んでたのに、なんで突然ヤメたの?」

「確かにエレベーターには乗ったが、ピクスのフロアでドアが開いたら、目の前に執事メイドがいたのさ。で、ソイツにバッチリ顔を見られた。だから、そのママ、ピクスの部屋へ行っても何かすれば、俺が犯人だと必ずバレる。だから、帰った」


僕とラギィは机に、ヲッズは椅子に座っている。


「で、ソイツの顔は見た?」

「メイドだぜ?モチロン見だ。一緒に1階まで降りたしな。キッチリとタキシードを着て小綺麗な感じの執事メイドだった」

「タキシード?」


僕は、先ずラギィと顔を見合わせ、ドヤ顔で宣言。


「犯人は執事だ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「執事メイドのレジナ・イズリ。忠誠心にあふれ、主人の死を悲しんでいるかに見えたが、だがしかし、その服従的な仮面の下には、殺人者の顔が隠されていた」

「テリィ様。しかし、彼女には殺す動機がありません」

「ミユリさん。コレが僕のSFミステリーなら、あらすじは2つ考えられる。先ず、バカテク絶倫の執事メイドがヒクスと不倫をしてる説」


ミユリさんはニッコリ微笑む。


「テリィ様、キモいです」

「だろ?すると、動機はお金さ」

「珍しくテリィたんの言う通りカモ。過去にレジナ・イズリが仕えた家の人達は、全員こう言ってる。彼女が辞める前、いつも高価なモノが消えるって!」


マリレが飛び込んで来て報告。ドヤ顔の僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ピクスの億ション。僕は黒ジャケ。ミユリさんは赤のスプリングコート(の下はメイド服w)だが…


ミユリさんが音波銃を抜く。僕の腕をつかむ。


「故ヒクス宅の扉が空いています。恐縮ですがテリィ様。とうぞ私の後ろに」


嫌だょと逝う前に、もう音波銃を構えたミユリさんが飛び込んでいるw

室内には、手袋をしたレジナ・イズリが漆器を丁寧に包装、箱詰め中。


「身辺整理?」

「いや。ジャスト窃盗中とか?」

「コレは、全てピクス様のモノです」


音波銃を向けられても冷静なレジナ・イズリ。


「辛くないか?自分のモノで無いコトが」

「ソレも運命ですから」

「ホント?執事メイド協会で貴女を調べたわ。貴女は、シングルマザーの裁縫師に育てられた。エレガントな身のこなしや津軽訛りを矯正し、母親の年収を1時間で使うほどのお金持ちに仕えるようになった。だけど、ピクスはどう?貴女と似た境遇なのに…コレ全部、彼のモノでしょ?貴女自身も含めてね」


ミユリさん、ウマいコトを逝うなw


「でも、決してピクスが実力で手に入れたワケじゃない。単に宝くじを当てただけだ。貴女が彼から盗んだのは、彼が宿命に逆らってたからだ」

「貴女、金庫を開けさせたわね?中に音波銃が隠されてるとは知らずに」

「言いがかりはヤメてもらいたいわ」


あくまで冷静なレジナ・イズリ。


「犯行時刻に貴女がココにいたコトはわかってる。ホントは遅くまでいたんでしょ?」

「…ピクスは、夏目漱石の初版本を25冊も持っていたわ。とても貴重なモノょ。全く、読書もしないくせに革の背表紙が気にいったそうょ」

「イズリ。あのさ…」


僕が割って入るが、何とミユリさんに止められるw


「thanks…2冊盗んだわ。愚かなコトをした者への罰のつもりだった。でもね、途中で気が変わって、あの夜23時過ぎに、本を返しに行った。誰もいないと思ってたけど、何と御主人様は帰って来てて、口笛とシャワーの音がした」

「おいおい。気が変わったから、事件の夜は殺人現場にいたと逝うのか?」

「YES。私は…彼女を御主人様として見直すようになった。社会奉仕をしている者から、モノを盗むワケにはいかないわ…本音を言うなら、彼女の悪運が(うつ)るのが嫌だったの」


待て待て待て。どーゆーコト?


「悪運?宝くじで100億円を当てたんだぜ?ソレの何処が悪運なのかな?」

「妻とは離婚寸前、娘は"覚醒剤"に手を出した。そもそも本人は御屋敷で撃たれて殺されたのょ?コレ全て、どう見ても宿命に逆らった罰だわ」

「どーゆーコト?教えて」


僕は、既にメイド達の会話が半分くらいわからなくなってる。レジナは、ミユリさん"だけ"に語る。


「ウチの御主人様は、酒に酔った時によく話してたの。自分は、宝くじを買う時には、いつも妻と出会った日と、結婚記念日の数字を選ぶんだって。いつも同じ数字らしいわ。即ち2017年の1月3日と2021年の10月24日ね」

「おいおいおい。当選クジの数字と、まるで違うじゃナイか…そうか!」

「ピクスは、宝くじを当てたのではなく、当選くじを盗んだのね?だから、悪運に憑かれてた?」


執事メイドは、ユックリうなずく。半分ポカンと口を開けたママ、顔を見合わせる僕とミユリさん。


第4章 当たりくじの行方


潜り酒場(スピークイージー)"で鳩首会議w


「確かに、彼女には物を盗む噂がありましたが…じゃミユリ姉様、ピクスは、当選くじを盗んで殺されたってコト?」

「いいえ」

「そうさ」


ミユリさんと異口異音。顔を見合わせるw


「何だょミユリさん。そうだろ?あんな大金だぞ」

「そんなの全部、レジナ・イズリの作り話に決まってます。いつもと違う数字で宝くじを買ったからと言って、当選くじを盗んだコトの証明にはなりません」

「でも、マジで当選くじを盗んだのなら、炊き出し所の所長が話してた、彼が自分は大金を手にする資格がナイと思ってたって話は筋が通るね。つまり、宝くじの当選くじを盗んだ罪悪感から来た言葉だったのさ」


意味もなくドヤ顔になる僕w


「仮にテリィ様の推理が正しくて、ピクスがくじを盗んだとしても、殺人と関係してるかは不明です」

「おいおいおい。殺人捜査に偶然はナイと僕に教えてくれたのは…確かラギィだぜ?」

「テリィ様のおっしゃってるコトにも一理アリます。ピクスは、確かに過去に押し潰されそうだと話してた。ホントの当選者に殺される、という意味にもとれるし、実際に殺されたコトも理解出来ます。でも、この妄想をどうやって証明しますか?」


妄想は得意だが、証明は苦手だw


「当選番号かな?描き出してみよう。6224 89 4179…可能性は低いけど、何の番号かがわかれば、誰が買ったかがワカルかも。みんな!宝くじを買う時は、どんな番号を買うの?」

「元カレの誕生日!」

「私は初体験の日ね!」


マジかょw


「ミユリさんは?」

「テリィ様。私は宝くじをやりません」

「もしも、の話さ」


ミユリさんは、暫し考え込む。


「当選したのは1年前なのに、結局、持ち主は名乗り出なかったのですょね?モノホンの持ち主は、どーなってしまったのでしょう」

「そっか!ピクスが殺したんだな?月の土地だ。ピクスが当選後に買ったのは、月の土地と近所の人の霊廟だったょね。月の土地を買うのは正常で合理的な決断だとスルと、その隣人の霊廟ってのが怪しいな」

「なるほど。住基ネットでも何でもハッキングしちゃって構わないから、洗ってくれる?スピア、お願い」


常連のスピアがうなずく。彼女はハッカーだ。


「その御近所の人は、宝くじを当てた人生最高の日が、人生最後の日になってしまったのカモね」

「ミユリ姉様、いたわ!ハンク・ウルズ。当選発表の日に亡くなってる。お誕生日は1980年2月8日。当選番号と3つの数字が合致!」

「ピクスが名乗り出たのは、当選番号の発表の2日後だ。ウルズの死因は何かな?念のためだけど」


御屋敷(メイドバー)のモニターから超天才の声。


「自然死ね。スピアが検視証明書をハッキングしてくれたンだけど、特に不審な点はナイわ」

「きっとピクスは、近隣の、カラダが不自由な老人を世話してたんだ。すると、ある日、宝くじを買うように頼まれた。発表の日、ウルズの宝くじが当選してしまう。ところが、報告に逝くと既に彼は死んでいた…」

「直ぐに名乗り出なかったのは、きっと悩んでいたからでしょうね。心の葛藤があったのです」


僕は、うなずく。


「でも、散々悩んだ末ではあるが、結局お金は受け取るコトにした。誰にもバレないと踏んだからだ」

「スピア。ウルズさんの御家族は?」

「はい、姉様。役所のDBに拠ると、ウルズの身内はトォムと言う甥しかいません。で、彼は何処に住んるでしょう?」


潜り酒場(スピークイージー)"の全員がグラスを上げて唱和スル。


「秋葉原!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。トォムは何処にでもいる普通の青年。


「おい、 俺は100億円を相続出来てたカモしれなかったのか?」

「もう白々しいな。ソレは知ってたンだろ?だから、問い詰め、モミ合いになり、思わず殺してしまった。そして、お金を盗んでトンズラした」

「何だって?」


トボける甥を追い込むラギィ。


「だって、動機があるのはウルズの身内、つまり貴方しかいないの」

「待て。僕だけじゃないぞ、息子がいる」

「眠たいコト言わないで。子供はいなかった。ちゃんと調べてあるのょ」


イライラと話を遮るトォム。


「だから、モノホンの息子じゃなくて、交際相手の息子さ。血がつながってるワケじゃナイ。彼女とは別れた後も、モノホンの親子並みに仲が良くて、この10年間、毎年一緒に休暇を過ごしてる」

「何だって?…もしかして、その息子の誕生日は2008年の4月19日か?」

「よく知ってるな。知り合いか?」


ミユリさんと顔を見合わせる。


「当選番号は2人の誕生日を合わせたモノだw」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再びSATO司令部の捕虜尋問室。宝くじの画像コピーを示すミユリさん。


「ション・ヨーク、全てウソだったのね。コレは、お父さんが買った宝くじ。貴方とお父さんの誕生日を合わせた番号で買ってるわ」

「何のコトだか、ワカラナイなぁ」

「ピクスがお父さんの当たりくじを盗んだと、いつ知った?蔵前橋の重刑務所にいた時か?ソレとも、ピクスが父親の霊廟を建てたと知った時か?」


ミユリさんが後を続ける。


「腹が立って仕方がなかったのね?このママ、許すワケには逝かナイ。だから、貴方は復讐のために秋葉原に来た。炊き出し所でピクスを待ち受け、脅した。脅されたピクスはスッカリすっかり震え上がって、とりあえず、1700万円の車を差し出したけど、モチロン貴方は、ソレだけじゃ満足しなかった」

「フン。その妄想を証明スル方法はナイだろう?」

「いいえ。今、全部証明されたトコロょ。貴方がココにいる間、万世橋(アキバポリス)のラギィ警部が令状を取って、貴方のアパートを捜索した。ピクスの血のついたお札が見つかったそうょ」


顔面蒼白になるション・ヨーク。


「その後は、どうする気だった?ホンキなら、1億や2億じゃ足りないょな。ホントなら100億円もらえてたんだ」

「…そーさ。金を奪うために、奴のマンションに行ったさ。全て俺の金を奪い返すためだ。奴は言った。お前がこの金をもらう資格はナイ、なぜなら、お前は人間のクズで、大金を手にしても、どうせドラッグ代に消えるのがオチだ、とかホザいてた。だから、宝くじの当選金は、ホントに困ってる人のために使うンだそーだ」

「ほぉ?残ってるお金全部をか?」


適当に相槌を打つ僕。こーゆーの得意ナンだ←


「そーだ。ふざけるな!困ってるのはこの俺だぜ?だから、困ってるのはこの俺だって言ってやったさ。そして、俺が奴の音波銃を掴んで、奪おうとする内に…撃っちまったのは、事故なのさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「良い絵が撮れたね」


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。僕は

茶のジャケットに青の開襟シャツ、黒のズボン。


「で、結局お金はどうなるのかな?」

「どーでしょう?後は弁護士次第ですね。ソレと、ニコルはリハビリ施設に入るコトになりました。お母さんが寄り添ってくれるそうです」

「ソレは良かったね。さ、もう帰るょ今宵はもう疲れた。ミユリさんは、宝くじに当たったら何をスルかを教えてくれないし」


すると、カウンター席の常連スピアが、クスクス笑いながら、何やら書類をヒラヒラと見せる。


「ややっ?ロジャの遺産で不動産を買う気になったのか?ヤタラ手堅いンですけど?」

「いいえ。ミユリ姉様の遺産の使い道、私は大賛成なの。姉様、テリィたんにも話してあげれば?」

「えっと、実は、メイドの学校を作ろうと思って」


上目遣いで僕を見る。萌え満載の勝負目線キターw


「す、す、素晴らしいな…でも、ソレじゃロジャに関係ナイのでは?」

「いいえ。ソレが関係大アリなのです。だって、ロジャは、私の才能で人助けをしろと、いつも言っていましたから…ソレと、ロビーにロジャの肖像画を飾ったらどうかなと思ってますし…」

「そ、そっか。ソレなら問題ナイね?…OK!じゃ僕は資金集めパーティをやるょ。良し!絶対にアキバ特別区(D.A.)の大統領は呼ばなきゃな。彼女の支援者にも軒並み芳名帳を回そう。ガサツな奴が多いけど、結構使えルンだ…」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"宝くじ億万長者"をテーマに、宝くじ億万長者、その家族、執事メイド、お掃除メイド、隣人、隣人の親類、暴力系詐欺師、姉妹ラッパー、億万長者殺しを追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。


さらに、ヒロインの元TOの遺産騒ぎなどもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、インバウンドばかりがパンピーな秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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