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第1話 一年付き合った彼女が寝取られてしまった

「好きです」


 人生ではじめてそんな風に真面目(マジメ)な告白を受けた。

 クラスで一番可愛いと名高い女子・山田(やまだ)樹里(じゅり)からまさかの告白だ。びっくりした。ドキドキした。死ぬかと思った。


「な、なんで俺なんかを」

「そ、その……君がこの前、子猫を助けていたから」

「ああ……」


 記憶を掘り起こす。

 三日前、俺は道端に捨てられていたボロ雑巾のような子猫をダンボールから拾い上げた。近場のお店で子猫用のミルクを買い与え、どうしようかと悩んでいた。

 そんな時、偶然通り掛かった山田さんに子猫を任せたんだった。


 無責任だけど、あれからどうなったのか知る由もなかった。

 山田さんは人気者で近寄るのも大変な存在だからだ。でも、彼女の顔を見てきっと無事なんだと察することにした。


「前川くん、良い人なんだなって思ったから」

「そうかな」

「そうだよ。だからね、ストレートに好きになっちゃった」


 真正面から告白を受け、俺はただただ「お願いします」としか返事を返せなかった。でも良かった。偶然とはいえ俺はラッキーだ。

 アイドルのように人気者の山田さんと付き合えるとか夢のようだ。



 けれど一年後。



 あんなこと(・・・・・)になるだなんて、想像もしていなかった。


 この一年はずっと幸せで、拾った猫もすくすく育って……一緒に見守ってきた。この先もきっと青春を謳歌して、卒業前には思い出作りとかして……何事もなく卒業と思っていた。


 だが、それは俺の勝手な妄想でしかなかったのだ。


 山田さんは違った……。


 ある日、忘れ物を取りに教室へ向かった時。



『……前川くんより……良いです』

『そうだよなァ! あんな陰キャより、俺の方がイイだろ』

『はい。先輩の方が気持ち良くて……』



 パンパンとリズムの良い音が俺の鼓膜に突き刺さる。放課後の教室内で山田さんと男の先輩が交わっていた。あれは……津田先輩じゃないか。

 イケメン先輩と女子人気の高い……そんな、ウソだろ。


 なんだよ、これ……。

 なんなんだよ、これは……!!


 山田さんは、俺と付き合っているんじゃなかったのかよ。


 この一年間はなんだったんだ?


『なあ、山田。前川と別れて、俺の女になれよ』

『……そ、それは……ごめんなさい。彼のことはまだ好きなんです』

『そうかよ。じゃあ、前川のことを忘れるくらい気持ち良くしてやるからなァ!』


 津田先輩は、なんどもなんども山田さんを――ダメだ。これ以上はもう見ていられない。俺の脳も心も破壊される……。


 いや、もうされた。

 手や足が震え、動悸が乱れている。息が……できない。



(………はぁ、はぁ。そんな、こんなことって……ないだろ)



 俺は目の前が真っ暗になって、そのまま一人で帰ることに。

 覚束ない足取りで帰路につく。



(なんで、なんで……)



 そんな思いだけが無限ループする。あの光景が脳裏に浮かぶたびに泣いた。


 悔しい……。

 悔しい……。


 よりによって、あのイケメン先輩が山田さんを……!


 もういい疲れた。なにも考えたくない。

 その夜、山田さんからスマホにメッセージが飛んできた。



 山田:今日は用事で会えなくてごめんね! 明日はデートしようね!



 ……用事だと? デートだと?

 なんて白々しい。お前は俺の気持ちを裏切って、イケメン先輩に股を開いていたクセに!

 理由なんて知りたくもないけど、俺はしょせんその程度だったってことだよな。


 連絡する気も失せて、俺は既読スルーした。



 次の日。



 学校に当校して、教室へ入ると山田さんが少し怒った表情で向かってきた。



「ユズルくん、既読スルーしたでしょ! ひどいよ~」



 どっちが!!

 怒りが込み上げて、つい追及したくなったが感情を抑えた。昨日は証拠を撮り忘れていた。次は証拠を押さえてから徹底追及してやる。



「こっちもいろいろあったんだよ。悪いな」

「そっかー。じゃ、またあとでね」


 教室の隅の席へ座り、俺は窓の外を眺めた。

 ……クソ、イライラする。

 山田さんめ、俺をおちょくっているのか! 見下しているのか! 許せん、絶対に。



「ねえ、前川くん。機嫌悪そうだね」



 前の席の()()()さんが爽やかな表情で話しかけてきた。


 ()()() (いちご)


 同じクラスの女子。美少女。山田さんの次に人気が高く、二番目に可愛いと男子の中では評判だ。

 スタイル抜群、黒髪ロングの清楚でお嬢様系。気品あふれるし、絶対お金持ちだ。


「そ、そうでもないよ」

「ううん。顔に書いてあった」

「いや、まさか」


「落ち着いて。悩みなら聞いてあげるから」


「あ、ありがとう。伊井野さんって優しいね」

「前川くん限定だよ~。ほら、席近いし」


 そういう問題なのか?

 てか、高校二年になってから、はじめて話したぞ。


「ま~、恋の悩みというか」

「あらまぁ! そういえば、山田さんと仲良いよね」

「そうなんだ。一応……付き合っている」

「一応?」

「詳しく話すと長くなる。あとで聞いてくれるかな」

「いいよ。恋の悩みなら任せて! 付き合ったことないけど」


 付き合ったことないんかいッ!

 でも、今は誰かに聞いてもらいたかった。

 この鬱屈した俺の心を誰かに癒してもらいたかった。


 まさか、伊井野さんが相談に乗ってくれるなんて。ありがたく聞いてもらうことにしよう。

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