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訓練開始

ーー



そのままリリナちゃんとしばらくの間遊んでいた。

最初はだるまさんがころんだから始まり、鬼ごっこやかくれんぼと言ったメジャーな遊びをたくさんした後、今は3人でブランコに揺られている。



「次何する!?」



元気すぎだろ・・・。



リリナちゃんはブランコを漕ぎながら楽しそうに笑っている。

俺と白薙はリリナちゃんが落ちないかハラハラしながら見守っていた。

流石に小さい子に怪我をさせるわけにもいかないので手加減しながらリリナちゃんの面倒を見ているのだが、正直疲れてきた。



「リリナちゃん、少し休憩しよう。ずっと遊んでたから疲れたでしょ?」


「リリナは大丈夫だよ!」



確かに、会った時よりは元気になっている気がするけど。


でも、体力は子供のはずなので疲れは溜まっているはずだ。今は遊ぶのが楽しくて疲れを感じてないだけで休めばどっとくるだろう。早めに休ませてあげないと後が大変だしね。決して俺がくたびれたわけじゃないよ?



「お姉ちゃんも大丈夫だよね!」


「・・・え、えっと私は少し疲れてきましたね。」



白薙は未だに慣れないのかぎこちない。リリナちゃんは気づいてないみたいだけどね。



「えぇー、まだ遊びたい。」



リリナちゃんは目に見える様に落ち込む。


でも、リリナちゃんの肉体的には限界なはずだ。若干フラフラしてるし汗も多くかいている。子供の代謝が良いとしてもだいぶ体力を使ってるだろう。

それに、リリナちゃんは片目を包帯で塞いでいる。その分周囲の確認に神経を使ってるはずだ、精神的な負担も大きいだろう。


その後、ベンチに移動して並んで座っているとリリナちゃんが眠くなったのか船を漕ぎ始める。



「流石に疲れたみたいですね。」



リリナちゃんは白薙の腕に寄りかかりながら寝息を立て始めた。

白薙はリリナちゃんを優しく見つめながら微笑んでいる。子供に甘いよね。



「いやー、それにしてもあんな決闘みたいな状況の中よく入ってきたよな。」


「・・・う。」



少し嫌味を込めながら半目で見るとバツが悪いのか狼狽えている。

それを見て俺は面白くて笑う。



「だ、だって、隊長にどの位成長したのか見てもらいたくて。」


「あー、なるほどね。・・・いや、もうすぐ戦闘データとるでしょ、その時でよかったじゃん。」


「・・・隊長、来てくれるのですか?」



あ、こないと思われてたのね。

俺の日頃の行いか、なら仕方ないな。



「いや、流石にほっといたりしないよ。部下の戦闘能力を知ることも大切だからね。・・・まぁ、なぜかいま知っちゃったけどね。」


「あ、あの、それでですが、どうでした?」



リリナちゃん越しに不安な瞳で見上げられる。

何を心配してんだこいつは。



「いや、あんな動き見せられてすごい以外言うことないでしょ。いきなり副隊長に選出されることはあるな。」



俺がそう言うと白薙は安心した表情を浮かべる。


いや、何言ってんだか。普通魔法をあんなに連続発動するのには使いまくって慣れるしかない。

それだけで白薙が強くなろうと努力した事が窺える。

それを否定なんかできるか。



すると、



「リリナ!!」



公園の入り口から1人の青年が入ってきた。

年齢は10代後半ってところか?

リリナちゃんと同じ黒髪でくたびれたニット帽を被っている。

その青年は鋭い目つきでこちらを睨みつけてきた。


え、なんで?



「あんたら、リリナに何した!?」



何した?


何したって言われても元気だったから遊んで疲弊させてベンチに無理矢理座らせただけだよ。・・・若干アウトか?


別に手を出したりなんてしてないわ。捕まるだろ。

いきなり疑われたからか白薙の視線が鋭くなる。(こえぇー。)

青年は白薙の視線を受けたじろぐがリリナちゃんを助けるためか正面から視線を受ける。



さて、見続けてても良いけど誤解を解くとするか。



「ちょっと待って、君はリリナちゃんのお兄ちゃん? 初めまして、俺は暁月 蓮 リリナちゃんは少し前に公園に来て一緒に遊んでただけだよ。ほらリリナちゃん、起きて。」



俺が優しく肩を揺すると、リリナちゃんは目を擦りながらゆっくり目を開けた。

しばらく目を瞬かせた後、お兄ちゃんらしき人物を視界に入れてからリリナちゃんは飛び上がる。



「にーに!」



よかった、お兄ちゃんだったみたいだな。もし違う人がなりすましてたらまずかったけど、リリナちゃんのこの反応は本物だろう。



「リリナ!!」



青年はリリナちゃんを抱きしめる。

いやー、家族の感動する再会だね。


だから、白薙さん睨むのやめようか?



「リリナ、ちゃんと出掛ける時は声を掛けてくれっていつも言ってるだろ。」


「・・・う、ごめんなさい。にーに出かけてて、リリナ、遊びたくて。」



怒られたと思ったのかリリナちゃんの顔が泣きそうになる。青年は頭を撫でて辛い笑顔を浮かべる。



「ごめんな。もう少しで時間作れるはずだからもう少し待ってくれないか?」


「・・・うん。」



なんか、重い雰囲気だな。



・・・第八区の外周区に住んでるなら生活は楽ではないだろう。


両親もいないみたいだし、お金を稼ぐには青年が働く必要が出てくる。

リリナちゃんも留守番する必要があるだろうし、面倒を見るのに時間はかけられないだろう。


でも、頑張ってそうなのを見ると良いお兄ちゃんに見えるけどな。


すると、青年がこちらを見る。その瞳からは未だに敵意を感じられる。

まぁ、自分の妹が知らない連中と共にいるのを見たら疑うわな。



「えーと、まぁ、俺とこいつは怪しい連中じゃないよ。ほら。」



いつも通りの適当な笑みを浮かべながら腕章を指差す。

だが、青年の敵意を持った視線は緩む事はない。


「・・・だからなんだ。あんたらが軍人だったら良い人なんて証明されるのか。」



・・・うん、確かに。


危機管理がしっかりしてるな、言ってる事は正しい。

決して軍人はいい奴が多いわけでもないし、かと言って野蛮な奴らが多いわけでもない。ただの肩書きで安心する様じゃ妹を守れないだろうしね。


でも、いきなり敵意を持って接するのは感心しないけどね。無駄な敵を作ることになるからな。


ほら白薙を見てみ、超怖いもん。



「その通りですね。私もあなたが決して良い人物には見えませんので。」


「・・・なに?」


「力を持っていないのに無闇に敵を作れば危険なのはあなただけでなくリリナちゃんもです。そこを理解せず、無駄な虚勢を張って危険を呼び寄せてるのは愚かでは?」



青年が歯噛みする様な険しい表情になる。


いやいや、白薙さん? その通りだけどあなたも喧嘩腰では?



「ストップストップ。喧嘩腰になる必要はないよね?・・・2人ともリリナちゃんが見てるよ。」



俺の言う通り青年の腰ではリリナちゃんが不安な表情を見せていた。

まぁ、そりゃあさっきまで遊んでた人と兄が喧嘩しそうだったら不安になるわな。

白薙と青年も慌てた様子を見せる。



「にーに。お兄ちゃん達は悪い人じゃないよ。リリナと遊んでくれてたんだよ。」


「そ、そうだったんだな。ごめんな、悪い人なのかと疑っちまった。・・・すまなかった。つい悪い勘繰り方をしちまった、許してほしい。」



青年も少し過敏になり過ぎたと反省したのか素直に謝ってきた。


俺はその謝罪を適当に受ける。



「いいよー。」


「・・・隊長。それでいいのですか?」


「良いでしょ別に、変に拗らせる必要なんてないし、めんどくさいからね。それに黒獣に偏見が付きまとうのもいつも通りだし。」



白薙は納得したのか目を瞑って座り直した。

すると、俺の端末から呼び出し音がしたので開いてみると夏希から『準備できたよー、場所は支部の訓練室ね。暇だから早く来てー(*´∇`*)』


・・・準備できたんだな。よし、そろそろ行くか。



「白薙、準備できたらしいから行くぞ。」


「はい。」



2人で席を立ち、公園を後にしようとする。

すると、リリナちゃんがトコトコ歩いてきた。



「お兄ちゃん、もう遊べないの?」



リリナちゃんに寂しそうな表情で聞かれた。

また遊ぼう。と言わない辺りリリナちゃんの気遣いが感じられる。

俺はできるだけ優しく微笑みリリナちゃんの頭を撫でた。



「また遊びに来るよ。でも、いつくるか待ち合わせは出来ないから偶然会えた時に遊ぼっか。それでいい?」



流石にリリナちゃん家はお兄ちゃんが教えてくれないだろうから、このくらいが妥当だろう。会えない可能性もあるけどそれはそれで仕方ないな。



「うん!!」



リリナちゃんは花咲く様な笑顔で俺と白薙に手を振って送り出してくれた。お兄ちゃんからも軽くお礼を言われ、俺と白薙は公園を後にするのだった。



・・・そういや、お兄ちゃんの名前聞いてないや。




ーー




俺と白薙は再び黒犬支部へと戻った。

訓練場は地下にあるためエレベーターを使い下に降りる。

下に降りると真っ白な通路が続き、そのまま進んだ先に厳重な大きい扉が現れた。


横にある認証端末に手を当てると、



『認証しました。 ようこそ暁月 蓮様。』



高めの機械音声が流れた後、空気の抜ける音がしながら扉が開く。


室内は大きな白い空間で、全体を照明で照らしている。

あまりの明るさに目が眩むが、しばらくすると視界が慣れてきてその全貌が窺えた。


大きさはだいたい支部の敷地面積くらい、高さはビル2階分はありそうだ。

そのだだっ広い空間をしばらく歩くと急に視界が歪み、次の瞬間にはコンクリート製の壁に囲まれた射撃場が現れた。



「最初は射撃テストか、武器は・・・うわぁ、ガッツリ用意してある。」



突如として出現した机の上にはいろんな種類の銃火器が用意されていた。

異物には役に立たないがその人物の能力を試すためにはもってこいだよなー。

軽く呆けていると音声が流れてきた。



『ようこそー。遅かったね? じゃ、早速やってみよう!』



どこから聞こえてるのかわからないが元気で溌剌とした声が耳に届く。


この部屋は全体をホログラムで変化させてさまざまな環境に対して訓練ができる訓練場になっている。

もちろん仮想敵も表現できるし、雨や雪、砂漠といった気象条件ですら再現が可能だ。

今回はそこまで大きなフィールドは必要ないので、仮想の壁を表現して丁度いい大きさの射撃場を現している。仮想といっても壁の質感や手触りもあるためさながら現実の様な感覚がある。一体どんな原理なのかね? さっぱりわかんないや。

この施設は有事の際に一般人に避難所として解放される事はあるが、有事以外では支部の隊員しか使用することができない。


いやー、ほかの隊ならまだしも3人しかいない部隊では宝の持ち腐れだね。



「・・・的を撃てばいいのですか?」



確かにそこの説明が一切ないよね。



『そうだね、とりあえず基礎フォームと精度、まぁ、他にも色々確認するけど気にしないで撃ってて。あ、ちゃんと用意されてる銃火器は全部使ってねー。』


うへぇ、結構な数あるのにこれ全部使うのかよ。大変だな。

白薙は少し固い顔をしている。



「どした?」


「いえ、緊張するなと。」


「あー、確かに採点されてる様なもんだからね。」


「あ、えっと、そちらではなく。」



なんか、白薙がこっちをチラチラみながらしどろもどろになっている。

どしたんだろ、トイレか?



『あー、ダメダメ、リラックスしてもらわないと正常なデータが取れないから。てことで蓮くんは後ろ向いててあげてね。』


なんでだよ。


あれ? だった白薙って俺に見てもらえるか不安だったんだよね? なのに俺がここまできといて見てあげないなんて可哀想だろ。


「夏希、俺はみるためにここにきたからな。だから・・・。」


「え、えっと、隊長後ろを見ていてもらっても良いですか?」


・・・解せねぇー。




ーー




『おー、すごいね。この練度なら飛び級で副隊長になるのも納得だね。』



様々な銃火器の銃声や硝煙の匂いが立ち込める中、感心した様な音声が室内に響いた。

おれ? 俺はコンクリートの壁面を見てるよ、何この苦行。

壁を見ながら後ろの銃声を聞くのって全く落ち着かないのだが。



・・・俺ってなんでこんなところにいるの?



壁面を見続けるなら帰って良くない?



「・・・終わりました。」



ーーカシャン



最後に撃ち尽くしたSMGを机に置きながら白薙は息をついた。

もう見て良い?



『おっけー。大体わかったかな。』



・・・もうなんなの? なんで俺呼ばれたの、帰って良いでしょ。


俺が複雑な気持ちを顔に出さない様にしてると、



『・・・あはっ、蓮くんはこれからやる事あるからまだ帰らないでね?。今からフィールドを変化させるよ。』



なんで俺が帰りたがってるのわかったの?

エスパーか。



「すみません隊長。お願いしたのに申し訳ないです。」



・・・ほんとにね。



「・・・まぁ、また壁を見ててって言われなければなんでも良いよ。」



視界がグニャリと歪み、目の前の風景が一変する。


気づいたら自分は荒廃した都市の中心に立っていた。

地面の砂利の感覚、緩やかに流れる風、その風と共に感じる砂埃の匂いが鼻につく。

相変わらず再現がすごいな。

軽く地面を触ってみると、砂利が指につく。

地面から離れたものにもしっかり感触があり、匂いもする。


・・・オーバーテクノロジーだったりしない?


まぁ、それならイクスもそうか。



『仮想敵、異物Lv1〜2まで、ダメージは通常兵器で与えられる様にしてあるからイクスじゃなくても平気だよ。環境条件は壁外廃墟、敵は基本的に遠距離タイプは出現しない様に設定したから極力接近戦でお願いね。いやー、蓮くんのデータ取れるなんて貴重だなー。』


「そうなのですか?」


『そうなんだよー。蓮くん全然データ取らせてくれないから。』



テストみたいの嫌いなんだもん。


まぁ、俺が今のイクスを貰ったのも特殊な経緯だし、夏希は製造班で俺の現場についてくることも無かったからな。



「・・・俺の話はいいだろ。とっとと終わらせて帰ろう。」


『相変わらずだなー。・・・じゃあ、訓練開始。』



訓練場内にサイレンが響き訓練の始まりを告げるのだった。



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