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8/14

だるまさんがころんだ

ーー


数日後



「ーーここのフォルダに必要なデータが入っていますので活用してください。それから・・・。」



クロちゃんが文官としての業務を白薙に引き継ぎをしていた。

俺も一応耳を傾けているが、正直何言ってるかわからない。


あれ? もし、白薙が来なかったら誰がやってたんだろ? 俺はできないな(確信)



「・・・では、今日はここまでにしましょう。理解が早いので助かります。」


「はい、わかりました。ところで狗廊さんの期限はいつまでなのですか?」


「今日明日で最後です。もし、引き継ぎが終わりそうになかったら延長しようと思っていましたが、この分なら大丈夫そうですね。」



クロちゃんに聞いたら、結構ギリギリな予定だったらしいが、白薙の理解が早いので大分余裕ができているらしい。

なので、2人はのんびり業務ができていると言っていた。(俺には速く見えるけどね。)


2人は性格が似てるからかすぐに仲良くなれたようで、自然と会話をしている。

まぁ、白薙は社交性は別に低くないから会話も続くしね。


俺は、淹れといたコーヒーを2人に持って行った。



「ほい、どうぞ。」


「あ、すみませんありがとうございます。」

「・・・ありがとうございます。」



これしか出来る事がないからね。

2人が話してる間、暇すぎてゲームしてたから。



「そういえば暁月隊長。『黒猿』の『冴島』隊長が呼んでいましたので、後で支部に行ってください。」



・・・クロちゃん。俺の予定は考慮してくれないの?


『黒猿』とは黒獣大八連隊の中で最大規模を誇る一大部隊。


隊長である『冴島 紫煙』率いる黒獣の腕とも呼ばれている。

俺は元々黒猿部隊に所属していたので、隊長である冴島のことはよく知ってる。豪快でおおらかなよくわからない性格をしているが、その統率能力の高さは流石で、たった一部隊で西側から侵攻する異物を抑え込んでいる。


異物達は災害の起きたずっと西の先にある災害跡地から湧き出ているとされているため、西側は極めて侵攻頻度が高い。

俺は昔からそんな黒猿部隊で隊長である紫煙にめっちゃしごかれていたので軽く苦手意識があるのだ。


なので、ぶっちゃけ行きたく無い。



「・・・どうせ暇でしょう。」



その通りだけどね!


いや、でも黒猿かー。

嫌だな、怒られる気しかしない。



「あ、隊長。もしよろしければ私もその際、同行させて下さい。冴島隊長に挨拶したいので。」


「助かる!!」



やったぜ!


白薙を緩衝材にして仮に怒られてもダメージが少ないようにしよう。

クロちゃんは一度呆れた様にため息を吐き、自分の荷物をまとめ始めた。



「では、私はこれで失礼します。」


「はい、また明日よろしくお願いします。」



クロちゃんは今から、黒獅子部隊の支部に用があるらしく、早々に支部へと向かった。


そして、黒犬事務所には俺と白薙の2人が残る。


俺と白薙は基本的にあまり喋る性格ではないので無言の時間が続く。

だが、別に嫌な空気感はなく、落ち着くようなのんびりとした時間を過ごす。

俺はコーヒーを飲みながらソシャゲのスタミナを消費し、白薙はクロちゃんから教わった場所を復習した後、今日新たに入った書類仕事をこなしている。

手伝おうか聞いたら、早く覚えたいので大丈夫です。と断られてしまった。


罪悪感? 少しはあるよ。(薄氷くらい。)


すると、書類仕事が終わったのか白薙が顔を上げた。



「隊長、そういえば私イクスを所持していないのですが、イクスってどのくらいで支給されるのですか?」


「ん? あー、支給されないよ。」



俺がそう言うと、白薙の動きが止まる。



「え、されないのですか? で、では、しばらく私は魔法のみですか?」


「・・・あー、違う違う。量産品だとうちの整備員が整備を拒否しそうなんだよね。うちの整備員が一から作りたがると思うからその内データを取りに来るよ。」


「え、い、一からですか?」



彼女がそう受け取った後、しばらく考えたのちため息をついた。



「・・・はぁ、もう驚くことに慣れてきましたけど、どうして2人しかいない部隊にイクスを製造できるような方がいるのですか?」


「なんでだろうね?」



それは、俺にもわからないよ?

夏希に聞いてくれ、あと、そんな人物に配属許可を出した風霧に。



・・・大概あいつのせいだな。



「確か今日支部に戻ってくるらしいからその内ここにくると思うよ。」


「そうなのですね。わかりました。」



すると、白薙が立ち上がりこちらに近づいてきた。


え、なに? 怒られる?


俺がそう怯えていると、彼女は嬉しそうに手をワキワキさせながら近づいてくる。




「隊長、もしよければ肩でもお揉みしますか?」



・・・逆じゃね?


どう考えてもソシャゲしてた俺と仕事してた白薙、労う相手がちがうよね?


えぇ、怖いよ? 後で金取られるのかなー。



「・・・えっと、いや、別に肩凝ってないからいいよ。」


「・・・そうですか。」



そんなに露骨にガッカリされても困るんだけど!?


でも、流石に仕事してた白薙に肩を揉んでもらうのは申し訳なさすぎるからな。



「よし、逆に俺が揉んでやろう。」


「・・・へ!?」



有無を言わせずに白薙を椅子に座らせ、その後ろで手をワキワキさせながら後ろに立つ。


絵面がすげぇやばいな。俺の犯罪者臭がすごい。



「え、えっと、隊長。そ、そんなに疲れてないので大丈夫ですよ?」


「ダメダメ。頑張った人のことは労わないと。」



ふっふっふっ。俺は肩揉みだけは自信がある。昔からババアにやらされてたからなぁ!


白薙の細く柔らかい肩に手を添える。

しっかりとツボを狙って、力を入れすぎないように気を付けながら肩を揉み始めた。



「・・・っん。」



・・・無言の空間に時々白薙の息が漏れ出る。


あれ? 俺がやってるのってマッサージだよね?

なんかイケナイコトしてる気分なんだけど!?

それにまだまだ序章に過ぎない。俺の真価はこれからだ!



「・・・へ?・・・っひゃ。・・・ッ。た、隊長!も、もう大丈夫です!大分良くなりましたので!」



え、まだ半分もやってないよ?


白薙に顔を真っ赤にさせながら壁際に逃げられた。



・・・結構自信あったんだけどな。



「・・・蓮くん。そう言うことは部屋でやってね?」



すると、いつの間に扉を開けたのか夏希がお菓子を咥えながら呆れた目でこちらを見ていた。



・・・ふむ、改めて俺の状況を見直してみる。



壁際に美少女を追い詰めて手をワキワキさせる俺。


うん、捕まるね。


すると、夏希は懐から端末を取り出して耳に当てだした。



「あ、紫煙さん? あのね、蓮くんがね。」


「やめて!?」



迷いなくチクられそうになったけど、あのババアだけは勘弁してくれ!!

あいつの折檻マジで辛いんだぞ!?


夏希は本当に電話をかけていなかったのか電話をそのままポケットを戻して新しくポケットから飴を取り出して口に含んだ。



「で? 説明よろ。」


「・・・はい。」



悪いことしてないのにぃ・・・(泣)




ーー




とりあえず夏希にこんな状況になった説明をしてから、白薙に謝罪をしておく。


その後、白薙が改めて夏希に挨拶をした。



「お初にお目にかかります。先日より黒獣大八連隊、黒犬部隊副隊長に任命されました。白薙 エリスです。これからお世話になります。」



相変わらず綺麗な所作で挨拶するな、、、。


無表情だけど。


実際それを見た夏希は口の飴を転がすことも忘れて固まっている。

びびった?



「・・・えっと?」



目の前でフリーズしてしまった夏希に白薙は困惑しているようだ。

そのまま、フリーズされていても困るので軽く後ろから頭を叩いておく。



「・・・っは! ご、ごめん。わ、私は司馬 夏希だよ、・・・です。黒犬部隊の専属整備員をしてます。ど、どうぞよしなに、、、。」



なんか喋り方がおかしくなってない?


何故か緊張している夏希に白薙は微笑む。

おぉ、笑った。クロちゃんときは終始無表情だったのに。



「そこまで緊張しないで下さい。副隊長は肩書きだけでまだなったばかりの新米ですから。敬語も使わなくていいですよ。司馬さんの方が先輩ですのでいろいろ教えてくれると助かります。」



その表情を見た後夏希は目をぱちぱちさせた後、口を開く。



「・・・か、かわいい。」


「・・・え?」



突然褒められたことで白薙はさらに困惑した表情になる。



「蓮くん! どこでこんな可愛い子見つけたの!? 髪は真っ白で透き通ってるしツヤツヤ、顔はお人形さんみたいに整ってるし目はクリクリ。肌もスベスベ。お持ち帰りしたい!」


「おいおい、白薙はうちの備品だからダメだ。」


「備品扱いしないでもらっていいですか?」



突然褒めちぎられ顔を真っ赤にしていたが、俺の発言で少し落ち着いたらしい。



「こんなの言われ慣れてないの?」


「あ、あまり正面からこれほどハッキリ言われたことはないですよ。」



まぁ、夏希はストレートだからな。


思ったことをハッキリ言うし、忖度はしないからその純粋さが刺さるのかもね。


でも、このままだと残念な印象を持たれそうだからとりあえずフォローしておくか。



「ま、こんな感じだけど腕は確か・・・なのか? まぁ、余計なことをしなければ優秀な整備員だからよろしくやってくれ。」


「ちょっとちょっと、常に優秀でしょうが。」


「お前、この前のボールペンの件忘れたの?」


「すみませんでした。」



あの後、ちゃんと説教して反省させた。


せめて人に渡すときは安全性をしっかり確認するようにと技術者にとって当たり前のことを教え込んでやったからね。



「ふふっ。隊長から優秀だと言うことはよく聞き及んでいます。イクスも製造出来るのですか?」


「そうだよ! イクスだけじゃなくて日用品から電化製品までなんでもござれのスーパーエンジニアなのだ!」



腰に手を当てて誇らしげに胸を張る。


まぁ、確かに凄いことは凄いんだけどね。ちょっと残念なだけで。



「・・・あ、そういえば整備室にイクス増えてなかったけど副隊長のイクスはどこにあるの?」



夏希が単純な疑問を口にすると、白薙がギクッと体を震わす。



「え、えっと、私が以前使っていたイクスは破損してしまいまして、私の実力が及ばずにすみません。」



すると、今度は夏希がキョトンとした。


あー、技術者だからね、仮に他者が作り上げた道具でも壊されてると知ったら嫌な空気を出す奴もいるだろう。



「え、別に仕方ないでしょ。戦ってるとイクスが壊れるのなんて良くあることだし、持ち主の命を守れたなら製作者としても本望だよ。ま、ぞんざいに扱わられるのは流石に嫌だけどねー。」



ま、夏希はこんな奴だよな。


道具は役に立つのが至上だと思ってる。

だからこいつは決して妥協なんてしない。自分が思った物は徹底的に作り上げる。



「それに壊れたのなら、次はもっと壊れない物を作り上げるだけだよ。性能の向上は常に私達技術者が追い求めるものだからね。むしろ、情けないのはこっちの方だよ。任せて次は最高の逸品を作り上げてみせるから。」



ドンと胸を叩く。


その瞳には淀みなんて一切ない。常に真っ直ぐ前を見続けている。

この曲がらない信条が夏希らしさなんだろうな。

めちゃくちゃカッコいい。本人には言わないけどね。調子乗るから。


白薙の雰囲気も大分柔らかくなる。

夏希の真っ直ぐな暖かさに当てられたみたいだな。



「・・・ってことは、エリスちゃんのイクスってないの? じゃあ、私が作っていい!?」



夏希が目を爛々と光らせて興奮している。

てか、急に名前呼びにして距離詰めようとしてるな。



「おい、夏希。お前の後輩ではあるけど副隊長なんだから敬語使えよ。」


「えぇー、蓮くんは隊長って呼ばれなくても気にしてないじゃん。」


「俺とお前は付き合い長いだろ。」


「大丈夫ですよ隊長。私も気にしてませんので司馬さんの呼びやすいように呼んで下さい。あと、そうですねイクスの件もよければお願いします。」



白薙にそう言われて夏希は目を輝かせた。



「まっかせといて!! 私が最高の逸品を作り上げてみせるよ! あ、後私も夏希でいいよ。よろしくねエリスちゃん!」


「はい、よろしくお願いします。」



2人は性格が反対そうな感じがしたが大丈夫そうだな。


仲良さげに手を繋いでいる。、


「・・・うわぁー、本当にスベスベ。」


「あ、あまり、言わないでもらってもいいですか?」



・・・もうしばらくは夏希に振り回されそうだな。




ーー




とりあえず夏希はデータを取る準備をするらしいのでしばらく待っていてくれと言われた。


そのため俺と白薙は再び空き時間になる。


ずっと事務所にいても暇だったので2人で外回りすることにした。

いわゆるデートって奴だね。(恋愛感情はない。)


ただ、第八区の街中は人が多いので今日は外周寄りの街を回ることにした。街中は疲れるからね。



「・・・外周区ですか、あまり行ったことありませんね。」



外周区は第零区から最も遠い壁外近く自然と形成された街である。


外周区は基本、中心街で生活が難しくなり溢れた者達が最後に流れ着くので、貧民街のようになっていた。



「んー、まぁ俺も黒獣だから来ることはないな。」



基本的に黒獣は内地の警備に関与していない。


たまに手伝いとして派遣されることはあるが俺の所属していた黒猿では全く呼ばれることはなかったのでわざわざ外周区に来たことはなかった。


必要な物資は内地で揃うからね。


では、何故今日外周区に行こうとしたのか。


理由としては白薙が内区では目立つのでのんびりしたいといった感じになる。

白薙は内区だと何故か視線を集めるし、白花からあまり良い印象を持たれていない。


まぁ、白花にとって白薙は自分の隊長を告発して黒獣に逃げ込んだ裏切り者だからな。

事件の内容を知らない一隊士からは散々な言われようらしい。


なので今日は適当に外周区をフラフラしようと決めた。


それに貧民街ではあるが、環境が劣悪すぎると言うわけではない。

井戸の水はしっかり水質管理されているし、掃除や食料品の支給なども国から支援されている。


ただ、贅沢はできないし、犯罪者が集まるため治安はあまり良くない。

でも、俺と白薙なら大抵の輩には対処することができるだろう。


しばらく歩いているとちょっとした公園に出た。

遊具はブランコと滑り台の二つだけで他にはベンチが数個しかない。


その中のベンチに2人で並んで座る。



「・・・これ、ただのサボりですよね?」


「仕方ないじゃん。やる事ないし。」



事務所の書類仕事も白薙が終わらせてくれたので、本格的にやる事がない。



「・・・何する?」


「隊長も思い付いてないじゃないですか。」



いや、外歩けば何かあるかなって思ったんだよ。



「・・・でも、今日はいい天気だから昼寝日和だよ。」


「疲れてないじゃないですか・・・。」



そうだね。

任務があるときに比べて疲れるどころか体力は有り余ってる。でも眠いんだから不思議だよね。


外周区は内区と違いビルが無いので涼しい風が吹く。

いつもなら風は冷たくて鬱陶しいが、今日は陽が出ていてとても暖かい。

暖かい日差しと冷たい風が気持ちいい。



「・・・暇ですし、ゲームでもしません?」


「え、ハード持ってきてないよ?」


「鬼ごっことかそういった遊びですよ。」



あぁ、そっち系の遊びね。

2人でやるの? 夏希呼ぶ?

あ、忙しいんだった。じゃあクロちゃんか。



「いいけど何やるの?」


「だるまさんが転んだでもします?」



2人で盛り上がるかなー。


絶対微妙な空気になる気がするんだけど。


ま、暇だしやってみるか。



「では、どっちが鬼やります?」


「俺やるよ。」



誰もいない寂れた公園の端と端で黒い隊服を着た2人が立つ。

完全に不審者だな。今から何するかといったらだるまさんが転んだなんだからやばいよね。



「じゃあ、行くぞ。」


「はい。」



後ろを振り向き滑り台に顔を当てて声を出す。



「だーるまさんがー・・・。」


「『強化:脚力』」



なんか聞こえたんだけど!?



「転んだ!!」



急いで振り向き白薙の位置を確認する。

だが、後ろを見ても誰もいない。



・・・え!? なんでいないの? いじめられてる?



すると、頭上から風を切る音が響く。

その音を頼りに上を向くが、



「『隔絶:暗幕』」



視界が塞がり目の前に闇色の幕が広がる。

そのため相手の位置がわからない。


やりすぎじゃね!?



・・・いいぜ、そっちがその気なら。



「『強化:脚力』!」



今の勝負としては白薙の動きを俺が視界に収めれば勝ちだ。その間に俺は捕まらない様に立ち回る必要がある。

そのため脚力を魔法で強化し、後ろに後退する(公園の敷地内です。)

暗幕を張られた範囲を抜けるがその先に白薙の姿は見えない。


それなら、



ーーズガンッ!



俺は脚に力を込め上空に飛び上がった。


さっきまで白薙は飛び上がっていた分、今は下にいるはずだ。

下を向き、目を凝らす。



だが、



「い、いない?」



上から見下ろすことになったのに公園の敷地内には誰も見当たらない。

遊具は少なく見通しがいいのに見つける事ができなかった。


・・・敷地外に出た? それは流石にルール違反じゃ無い?


なら、滑り台の下か?



「いいえ、上です。」



自然落下していると再び頭上から声が聞こえる。

またあがってたの?


いや、どうやったの!?



「・・・舐めんなよ。」



自然と口元に笑みが浮かぶ。

悪いけどこっちにも隊長としての矜持があるんでな!



「『隔絶:障壁』『移動:加速』!」



斜めに障壁を展開、そのまま滑り台の要領で公園に降って行く、先ほどは真上から声が聞こえたのですぐ近くにいたのだろう。

そのまま自分の降るスピードに加速を加えた。

すると、視界がグングンと地面に近づき、目の前に地面が迫り来る。



「『強化:暁月』!」



ドガァン!



地面に衝突し土埃が上がる。

移動魔法の停止でも止まれるが、急加速から急停止すると内臓がぐちゃぐちゃになる可能性があるので絶対しない。


土埃は白薙にとってプラスに働くだろう。


事実周りは何も見えない、ここからは気配把握の勝負になるだろうな。



「よっしゃこいやー!」



気配を全力で探知し、相手の存在を探る。

すると右斜め前から薄く気配を感じた。


そこか!



ーーギュ



「・・・へ?」



右斜め前に手を伸ばそうとしたら、左足の裾を掴まれた。



「お兄ちゃん、何してるの?」



そこには黒髪で左目に包帯を巻いた小さな女の子がいた。



「・・・え?」



土埃が晴れ、こちらを見つけた白薙も困惑した表情を浮かべている。

そりゃあ、俺と白薙の間に突如として知らない子がいたら驚くわな。



・・・なんで、俺って幼女に遭遇する事が多いの?




ーー




気を取り直して、とりあえず幼女に話しかけてみることにした。

白薙はどうしていいのか分からないのか固まっている。


怖い怖い、もっと笑顔でいようよ。



「・・・ねぇねぇ、続きしないの? 私も遊びたい。」



まさか、さっきのだるまさんが転んだをちゃんと遊びと理解してたの?


俺には決闘に感じたんだけど。

いやー、調子乗りすぎたな。軽く地面が陥没してるし。

てか、よく土埃の中近づいてきたな、恐怖心はないの?



「うん、その前にお嬢ちゃんはどうしてここにいるの? 迷子?」


「・・・ここ、公園。すごい音がしたから遊びに来た。」



うん、恐怖心はないんだね。



「にーにはどっかにいる。」



・・・にーにか。


迷子かどうか聞いて親じゃなく兄の名前が出た時点で彼女の境遇に少し察しがつくな。



「そっか、お兄ちゃんは心配してない?」



そう聞くと、少女は少し考える振りをして晴れやかな笑顔を見せる。



「大丈夫!」



ダメだなこりゃ。


まぁ、お兄さんがそのうち探しにくるだろ。



「よし、じゃあ、遊ぼうか。名前は?」


「リリナだよ!」


「そうかリリナちゃんね。じゃ、リリナちゃんは何したい?」


「お兄ちゃんみたいにお空を滑りたい!」



ーーッブ!



軽く吹き出しそうになるのを堪える。

子供に見せちゃいけないところを見せちゃったな。

後ろを振り向いて白薙の方を見ると視線を逸らされた。

原因の一端はあるからね?



「えっと、あれは疲れちゃったからもっと簡単な遊びをしよっか。」


「えー、・・・むー、わかった。じゃあだるまさんがころんだしよ!」



さっきまでやってたんだけどね。

まぁ、あれがそうだとはリリナちゃんも思わないだろう。



「後ろのお姉ちゃんもやろ!」



リリナちゃんが白薙にも声をかける。



「・・・私もですか?」


「そうだよ! やろ!」


「は、はい、わかりました。」



前に子供には懐かれないといっていたので、物怖じせずに話しかけてこられて少し困惑してるみたい。

でも、まぁ、会った時よりは険が取れてるから圧は減ってるし、そんなに怖い雰囲気はないね。



「じゃあ、お兄ちゃんが鬼ね! 行こ、お姉ちゃん!」



リリナちゃんは白薙の手をとって端に行こうとする。

連れてかれる前に軽く声をかけておく。



「・・・さっきみたいなことはしないでよ?」


「さ、流石にしません。・・・少し反省してますので許して下さい。」



白薙は顔を赤くし申し訳なさそうにしている。

そんな白薙をリリナちゃんが引っ張って端に連れて行った。

俺はため息を吐きながら始める。



「だーるま・・・。」



・・・なんか、最近こんなのばっかじゃない?



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