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受け継ぐ未来


「さてと。」



気絶しているうちに厄介な奴を縛っておくことにした。

放置しておくと起きた瞬間に攻撃して来そうだからな、動けないようにしておいたほうがいいだろう。



と言うわけで、


「こんな感じで縛ってみたけどどうだろう?」



とりあえず両手両足を縛って、後ろ側にしその両方をまとめて天井に吊るす。体の部分もロープでぐるぐる巻きにしたので簡単には動けないだろう。



「・・・えっと、動けはしなさそうですね。」



後ろで白薙がなんとも言えない顔をしている。

そりゃそうだろう、自分を襲って来た隊長と言え、イケメンがこんな恥ずかしい格好で吊るされてる姿を見ればこんな反応になるか。



俺はめっちゃ面白いけどね。



あ、あと顔に落書きしとこ。

えーと、油性ペン油性ペン。



あり?これも忘れたのかよ。

あ、ボールペンあった、顔に描けるかな?



「さーて、何書いてやろ・・・。」



バシュンッ!



芯を出そうとしたら、ものすごい勢いで黒い塊が排出され床一面を真っ黒に染め上げる。



「・・・。」



・・・完璧に忘れてたわ。


てか、液が出る勢いが強すぎてペンが後ろに飛んでったんだけど、おかげで手から血が垂れる。


え、痛いんだけど。


訴えようかな?勝てる気がする。


後ろで白薙が固まっていた。

突如として現れた黒い水たまりに驚きが隠せないみたいだね(俺も)



「よし、準備できたな。」



恥ずかしいから計画通りな感じを演出しておこう。



「え、でも血が。」



大丈夫、左腕に比べたらささやかなもんだから。

とりあえず美島を水溜りの上に配置してっと。



「起きろ『破壊:音波』」



ーーパキィィィイン!



「・・・ガッ、あがぅ。」


獣のような唸り声をあげて美島が目を覚ました。


まったくもっと爽やかな声をあげろよ。

・・・殴るけど。



「・・・っく。はぁはぁはぁ、・・・ックソ!」



すごい形相で睨まれるけど格好のせいで全然怖くないな。



「おいおい、怖いなー。怖すぎて縄を離しちゃいそうだよ。」


「・・・縄?」



美島がようやく周囲の状況を認識し始めた。

海老反りの形で吊られ、端の縄は天井を経由して俺の手元にある。


そして、下には黒い水溜り。



「・・・どうする気だ?」


「え?俺の質問に答えられなかったら落とそうかなって。」



下のインクの池は美島が着ている白い隊服をよく染めそうで、肌についたらしばらく落ちないだろう。



「ちなみにつくと肌がヒリヒリするし、匂いもひどいし、あと何よりよく燃えるらしいよ?」


「・・・何が聞きたい。」



あ、素直になった。


でも素直になられたらなられたで何聞けばいいんだろ?

しっかりと考えてくるの忘れてたな。



「まず一つ、・・・えっとご趣味は?」


「ふざけてんのか・・・わかった、降ろすな!チェスだチェス!」



なにそれ?

どこの挨拶?



「うん、別に興味はないね。」


「なら聞くな!」



大声出すなよ、耳がキーンとするわ。

頭に血が昇るよ?



ま、そろそろ真面目にやるか。



「・・・まず、どうしてここに転移先を設定してたんだ? お前達白花にとって壁外なんて全く縁がない場所だろうが。」


「え?」



後ろから白薙が驚く声が聞こえた。



そう、今いる倉庫は壁外に放置されていた災害前の倉庫。


そのため外観は蔦に覆われてるし、窓ガラスも曇っている。

ただ、中だけは頻繁に人が出入りしているのか、結構綺麗に保たれていた。



「暁月さん、ここ壁外なんですか?」


「あぁ。でも、黒獣の見回り地域ではあるからこの周囲には異物はほとんどいない。だから大きな音を出しても異物が襲ってくるってことはないと思うよ。」



ゼロじゃないけどね。

無言でこちらを見ている美島を見つめ返す。



「・・・教えてくれるか?」


「貴様、知っているのか?」



よくわからないこと返すなー、知らないから聞いてるのに。



「何が?」


「・・・。」



美島はしばらく無言でいると、訥々と語り出した。



「・・・ジオルド皇国に、・・・連れ出すためだ。」



後ろから白薙が息を呑む音が聞こえる。



なるほどね。まぁ、壁外を選んでる時点で密輸関係だとは思ってたけど送り先はジオルド皇国か。



「単純な取引をしてる、ってわけじゃないだろ?いや、むしろジオルド皇国はあまり関係ないのか?」


「貴様、分かってて言ってるな?」



まあね。


相手のことを調べてから尋問するのは基本だからな。



「ま、こっちは優秀な諜報員がいるからね。」



さて、確認は取れたな。

こいつが今のところ嘘をついてないことも分かった。



「んじゃ、次。お前の、いやお前達の目的って何?」



美島が物凄い形相で睨んだきた。

殺気が重い重圧としてのしかかる。



「答えると思うか?」



美島を水溜りに少し降ろすが、奴はこちらを睨むのをやめない。



・・・言う気はないか。



「白花の優秀な隊士をジオルド皇国に送ってるのは知ってる。だけどその先がわからないんだよね。一体何に使って何を得てるのか。教えてくれると助かるんだけど?」


「・・・。」



・・・はぁ、頑固だな。


まぁいっか、いずれ暴けばいい。


さてと、どうしようかな、次の質問はできれば白薙には聞かせたくないんだけど。


チラリと後ろを見る。

目が合うと首を傾げられた。



「えーと、ここから先は聞かない方がいい気がするよ? 下手に聞くと危険だからね。」


「・・・聞かせて下さい。何も知らないでいるのは嫌です。」



強い意志を持って答えられた。


んー、そこまで言うならいっか。

まぁ、こいつがどうするかは俺が決めることじゃない。



「・・・そ。んじゃ美島。3年前、どうやって孤児院に異物を連れ込んだ? いくら治安の悪い第六区でも異物に関してはデリケートなはずだ。『黒蛇』や『黒鷹』に聞いてもLv3が入り込めるような隙はないってさ。だからどうやったの?」


「3年前って、祖父が亡くなった時ですか?」


「そ、ユーガルさんが亡くなった事件だね。・・・あんな調べれば調べるほど不自然なところが増えてくる事件なんか初めてだよ。」



白薙の目に明確な敵意が宿る。

大事な祖父を失った事件の容疑者が目の前にいるなら当然か。



「・・・。」


「これもだんまり? じゃあ、最後に一つだけ『終焉導者』は今何処にいる?」



この言葉に初めて美島は激しく動揺を見せた。



「貴様!どこまで知ってる!?」



その反応に俺は笑みを深くする。

ようやく欲しい反応が見れたな。



「さて、どこまでだろうな?・・・まったく、ここまで調べるのに3年もかかったんだ。おかげでたくさんの奴らに借りを作っちまったよ。」



美島は今日初めて俺のことを警戒し始めた。

今までは見下していたようだが、知るわけのない真相に手を伸ばされたことで大きな焦りが見える。



「安心しなよ。これは俺しか知らない。だから俺を消せば握り潰せるかもしれないよ?」


「ふざけるな、魂胆は読めてる。そうやって狙いを貴様一人に絞らせる気だろう?・・・私たちを誘き寄せる気か。」


「・・・さぁ、なんのことかな?」



・・・ッチ、向こうから来てくれりゃ楽だったのに。


実際俺が追えてるのはここが限界、もう半年以上は進捗がない。少しでも情報が得られればいいと思ったがこいつは口が固そうだしな、なら最悪こいつの仲間に俺を襲わせれば近づけると思ったんだけど。



「・・・はぁ、せめてユーガルさんを狙った理由くらい教えてくれない?」



もういいや、多分こいつは何も答えないだろうな。

なら答えてくれそうなのだけ教えてもらうとするか。



「・・・奴の思想が邪魔だったからだ。」


「思想?」


「そうだ、奴が目指していた『世界の奪還』そんな夢物語を追うあいつは我等にとって障害となった。・・・だから、消した。それだけだ。」



ただそれだけね。


ユーガルさんから『世界の奪還』の話は聞いていた、でもそれを実現するには途方もない時間と労力がかかるし、実現できるかもわからない。


それにそればかりに構っていられるほど連隊は暇じゃないし困ってる住民や建造物の建て直しなどやる事が多く、職務は多忙を極める。


それなのにできるかどうかもわからない夢物語をユーガルさんは目指していた。

皆からできるわけないと笑われていた、現実を見ろと言われていた。

実際、俺もできるわけないと遠巻きに眺めていた。


だが、


もし奴等がユーガルさんを消す必要があったとしたら、実現される可能性があったってことか?


そう思うと、顔から自然と自嘲の笑みが漏れた。



・・・後悔がすごいな、あの事件で何も出来なかった自分が本当に哀れに感じる。



俺はあの人の助けにはなれなかった。


そう感じていると美島が俺を鼻で笑う。



「・・・フン。貴様は何もできなかった。彼の方を残し、救う価値があるかもわからない孤児どもを選んだんだ。貴様に力などない、貴様なんかに誰も救えない!」



吠える美島を見下げる。

何言ってるんだろうな。

そんなの俺が一番わかってるし、何度も痛感した。


でももう乗り越えた道だ。今更迷ったりなんかしない。



「そんなのわかってるさ。俺にはあの人の助けることはできなかった。だからこそあの場で誓ったんだ。俺があの人の意思を受け継ぐ、ユーガルさんがあの時望んでた未来を俺がこの手に引き寄せてやる。それが俺の決意だ、もう曲ったりなんてしない。」



絶対に揺るがす気のない強い意思を込めて美島を見つめる。

美島はそんな俺の目を見て目を見開いていた。

でも、これは美島に言ってなんかいない。これは自分への誓いだ。


少しの間静寂が訪れ、間が空く。



「よし、もういっか。」



右手で掴んでいた縄を離す。

すると天井へと掴んでいた縄が昇っていき、逆に美島は下に落ちた。



ーーバチャンッ



「ッカ、プハ、ゲホゲホ、きさま、ゴホゴホッ!急に何する!」


「ん?もう用無くなったからね。よし、じゃあ白薙帰ろっか。」



美島は黒い水溜まりに頭から落ち全身を黒く染める。

口に入ったのか咽せている。てか、この黒インク口に入っていいのかな?


後ろを振り向いて歩き出すと、白薙が狼狽した様子で話しかけてくる。



「え、え、え? 暁月さん、いいのですか? 逃げちゃいますよ?」


「え、うん。もう興味ないしね。別に捕まえたって他の侵入してる奴らに逃がされるだけだし、なら今逃したほうが怪我人も出ないでしょ。」



それでも納得できないのか口を濁している。



「・・・なら、考えを変えよっか。今こいつを捕らえたところでどうせ口なんて割らない、ならこいつを逃した方が後で別のやつがきっと来てくれる。そいつを捕まえた方が有意義だ。こいつは権力がある分、個人的な尋問をしたら国に潜んでる別の敵に隙を見せることになる。こっちに付け入る隙を作る必要なんてない。別に復讐したいならしてもいいよ、そこは俺が決めるところじゃないから。」



別に強制する気はない。

彼女にとって彼は大事な祖父を奪った相手だからな、俺よりも思うところはあるだろう。

復讐するななんて綺麗事を言う気はないしね。


だってやった奴がのうのうと生きてんのムカつくじゃん。



「わかりました。」



え、どっちに?

何をわかったのかな?

とりあえずナイフ渡しとくか。



「・・・普通止めません?」


「めんどいんで。」



彼女はため息を吐きながらナイフをしまい、俺の後について来た。



「いいの?」


「・・・はい。ですが後で説明はしてもらいます。あなたが知っている事を。」



あれ?


一番めんどいことになった?

まぁ、いっか逃げれば。



「おい、待て!この状態でほっとくな!」



後ろから叫ぶなんかうるさい人を放置して、俺と白薙は倉庫を後にしたのだった。




ーー




あれから三ヶ月が過ぎた。



「いやー、あっという間だったな。」



結局あの後、美島は行方不明となり姿をくらませた。


おそらくあいつの仲間が回収したのだろう。


その後の状況説明や処理、白薔薇部隊の処遇やら何やらを全部白薙に放り投げて俺は黒犬部隊でのびのびとしていた。

書類仕事は事件の前にある程度片付いていたので、あとはのんびりするだけ、部隊も俺1人しかいないため入る仕事はほとんどない。

たまに、他の部隊の手伝いには駆り出されたがそれだけで、特に敵の組織が襲撃してくることもなかった。

なので、基本支部でだらだらと携帯ゲームをしていた。お陰で最強装備が揃ったぜ、やったね。



「・・・やることなんて探せば沢山ありますよ。」



そんなつまらない事を返してくるのはクロちゃん。

もうすぐ期限が来るのでお別れだと言うのに冷たいもんだな。



「よっし、お別れ会でパフェでも食べ行く?」


「甘いのは苦手なので遠慮します。」



酷い、心がないの?



「はぁ、クロちゃんがいなくなったらこの事務所はついに1人だなー、寂しくなるなー。」



すると、クロちゃんが目をぱちくりさせながらこちらをみる。

なに?可愛くないよ?



「・・・聞いていないのですか?今日から新しく隊員が配属されるそうですよ。」


「へ?」



思わず間の抜けた声が出る。

新しい隊員? そんなの聞いてないけど、普通こう言うのって隊長に連絡いかない?



「しかも、副隊長らしいですよ。」



まじかよ。


て事はそれなりにベテランの隊員なのかな。

まぁ、颯太が探しといてくれるとは言ってたもんね。ようやく見つかったってことか。


クロちゃんが腕につけていた時計を確認する。



「確かもうそろそろ・・・。」



プシュー



すると、事務所の自動扉が開き外にいた人物が中に入ってきた。



カツカツカツ



「へ?」



その人物を見て俺は本日二度目の間抜けな声が漏れた。



「本日より黒獣大八連隊、黒犬部隊副隊長に任命されました。白薙 エリス です。よろしくお願いいたします、隊長。」



黒と赤の隊服に帽子まできっちりと被った白薙はこちらに、見惚れるほど綺麗な敬礼をして微笑んだのだった。


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