暗いところから出ると目がチカチカするよね。
ーー白薙 エリスーー
ーーコンコン
今のご時世では珍しい木製の扉をノックする。
「白薔薇部隊 白薙 エリスです。召集に応じ伺わせて頂きました。」
「入っていいよ。」
中から応答があったので、
扉の前で一度深呼吸をしてからドアを開けた。
ーーガチャ
「失礼します。」
両脇に本棚が備え付けられ、中央にデスクが一つある大きめな部屋。
全ての家具が木製に合わせられていて、部屋からは木の匂いが香る。
装飾品も置いてあるが派手すぎず地味すぎず、うまく調和が取れていて、威圧感のない落ちつく雰囲気が漂っていた。
その中心のデスクに 美島 優 は腰掛けている。
私は中央まで歩みを進め、姿勢を正して隊長を見据えた。
すると、隊長は口を開く。
「・・・なぜ呼ばれたか分かるかい?」
冷淡で淡々とした口調。
言葉には鋭さが感じられた。
「・・・昼間の件でしょうか。」
「そう、その通りだよ。」
隊長は机の上で腕を組み顎を乗せた。
目を鋭く細めこちらをみる。
それだけでこちらは緊張で声が出せなくなる様な錯覚に陥ってしまう。
「・・・いいかい、エリス。君は優秀なんだ。君が提出する書類は不備がないし、この間の宝石店に侵入した強盗を取り押さえたのも君だ、それにリグルス連合国の大使への対応も素晴らしかったよ。・・・そんな君があの男と関わるべきじゃない。」
今の前置きが暁月さんに関わっていけないことにどんな繋がりがあるのだろう?
別に自分が優秀だなんて感じたことはない。
書類に不備がないのは当然だし、取り押さえでは犯人が最後の抵抗で暴れ出し、逮捕に来てくれた別の白花隊士に怪我を合わせてしまった。
全然誇れることなど一つもない。
それにリグルス連合国の大使との会合は一番忘れたい記憶の一つだ。
苦手な愛想笑いを精一杯浮かべ、心にも無いことを言い続ける。
しまいには、相手から婚約者を紹介され、それをどう断るかにとても神経を使った。
その会談の後も大使は何度も訪れ、その度に相手をさせられた。
もう、自然な笑顔など忘れかけた程だ。
・・・そう思うと、今日は本当に久しぶりに笑えた気がしましたね。
そう考えていると緊張していた心に少し余裕ができる。
「何故ですか? 理由になっているとは思えません。彼は黒獣大八連隊の隊長です。他の連隊の有識者の意見を聞くのはいけませんか?」
「いや、別にそれは構わない。」
すると、隊長から予想外の返答が返ってきた。
私はそう返されたことに軽く驚く。
てっきり私は、暁月さんが黒獣だからここまで否定的なのだと勝手に思っていた。
すると、隊長は困ったような表情を浮かべる。
「・・・一つ誤解を解こうか。別に私は黒獣が嫌いなわけではない。黒獣の若くして統括隊長になった風霧は素直に賞賛するし、他の者たちも素晴らしい戦果をあげている。・・・私が嫌いなのはたった一つ、無能な連中だ。」
彼の形相が徐々に歪んでゆく、
「下に存在する者たちは優れた者の足を引っ張り続ける。・・・何故私達が奴らに煩わせられなければならない。下を気にしていては足を取られる。だから君の祖父も命を落としたんだ。」
・・・ッ。
急に引き合いに出された祖父という単語に思わず動揺してしまった。
「何故君の祖父が命を落としたのか、知らないわけではないだろ? 特に君の事だ、ちゃんと調べ上げてあるはずだ。君の口から説明してもらえるかい?」
・・・調べてはある。
白百合部隊の統括隊長が亡くなった大きな事件でもあるし、大好きな祖父がいなくなった出来事だ。知らないわけがない。
「・・・第六区に存在する、無法者たちが築き上げた街『自由の街』にユーガル統括隊長は視察に行きました。」
隊長に目線を送ると、続けるように促される。
「ユーガル統括隊長は、自由の街にある孤児院へと向かい、視察の後、無法者たちから襲撃に遭いました。ですが彼も白花統括隊長の名に恥じぬ実力を持っていましたので、子供達を守りながら襲撃者を撃退しました。」
「彼の実力は国が認めたものだからね。」
統括隊長の名は伊達じゃない。
国の最高戦力である連隊の一部を率いている隊長がただの一般人に負けるはずがなかった。
・・・相手が人であれば。
「・・・ですが、その場にLv3の異物が現れました。」
そう、一般人には負けない。
だが、Lv3という強力な異物の出現は予測できなかった。
「ユーガル統括隊長はイクスを装備しておらず、魔法で応戦し撃退することに成功しましたが、その際重傷を負い命を落としました。」
・・・何故こんな確認をしたのだろう。
この情報は白花の隊士であれば誰でも見つけることができる。
彼の感情を読ませない笑顔を私は初めて不気味に思った。
「・・・うん、その通りだよ。でも、その話は断片に過ぎない。実際は現場で黒獣の隊員や無法者から守った孤児もその場には居たんだ。」
「そうなのですか?」
黒獣の隊員がいて対応できなかったのか。
いや、確かLv3は一般隊士が対応できる強さじゃないらしい。
その人物はどうなったのだろう?
そこで気づく、この話のつながりに。
「・・・まさか。」
そこで彼は笑みを深めた。
「察しが早くて助かるね。そう、その場に居た黒獣の隊士が 暁月 蓮 だよ。」
どうしてこの人がこの話を促してきたのかがわかった。
・・・あの場に暁さんも、、
あの人は最初から私とユーガルさんが血縁関係だと分かってたのだろうか?
「あいつは異物を倒すこともできず、ユーガル統括隊長を残して逃げた愚か者だ。」
・・・!!
逃げた? あの人が、、、
私はあの人のことをそこまで分かってはいないが、逃げるようには思えなかった。
祖父にもお世話になっていたと言っていたし、見捨てるなんて、、、。
だが、ある時に話した。
できないことは人に任せるって言っていたことが私の頭をよぎる。
倒せないから、祖父に撃退を任せて逃げ出したのだろうか?
考えたくない展開が思いついてしまう。
「・・・そんな事、ありません。」
自分の口から否定の言葉が出た。
自分の口からでた言葉に私は自分で驚く、私は一体彼の何を知っているのだろう?
確信もないし、そこまであの人のことを理解してなんていない。
でも、何故か嫌だった。
あの人がそう言われるのが、
隊長は不思議な顔をしている。
「・・・一つ疑問なんだけど、どうして君はあいつを庇う? 君から話を聞いた限り、あいつと会った回数なんてたった2回ほどだろう? そこまで入れ込む理由がわからない。」
そんな事私だってわからない。
庇わないであの人が愚物と言われることを受け入れれば、こんな風に隊長に楯突くこともなかった。
たった2回、少し話しただけだ。
祖父のことを知っているらしいから信用してしまったのか?
理由なんて考えるほどわからなくなっていく、でも、もし、祖父が彼を信頼して孤児院へと共に行っていたのだとしたら。
「私は、自分が信じたことを信じたいです。仮に隊長の言った通りでも。」
強い眼差しを込めて隊長を見返す。
彼の人柄なんてわからない、ただの直感でしかない。
でも信じてみたい、何故かそう思った。
すると、隊長は顔を伏せてため息を吐く。
「・・・そうか、やはり君もあの人と同じか。」
・・・?、あの人?
彼はそのまま立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「・・・君には失望した。」
ーーーゾッ
強い寒気を感じ、私は後ろに後ずさった。
「何故愚かな奴を信じられるのか理解ができない。下の者たちはただのコマだ。我々のような上の者たちが導いてようやく役に立つ。役に立たない奴はいらない。」
「・・・人々を守ってこその盾です。」
「違うな、我々は国を守る盾だ、無能を守る盾ではない。いらないものは切り捨てるべきだ。」
そう、淡々と告げる。
隊長の発言は祖父と全く反対であった。
そして、今日一番の衝撃の事実をつけられた。
「・・・だから君の祖父は、簡単に私に殺されたんだよ。」
私は隊長の放った言葉に思わず問い返す。
「・・・どう言う、、、ことですか?」
「まぁ、無能に足を取られてる様な無様な人間も、私にとっては不要と言うことだよ。」
そう言って隊長は懐に手を入れた。
嫌な予感が背筋を走り抜け、私は思わずホルスターに差していた拳銃を引き抜く。
ーージャキッ!
構えられた銃を見ても、隊長は普段の余裕を崩さない。
「・・・そんなもので私を殺せるとでも?」
「・・・何故貴方が祖父を!」
そう聞くと、彼は笑みを黒くする。
「答える必要なんてないだろ? どうせ直ぐに考えることなどできなくなる。」
隊長の目が鋭く、また威圧感が強くなった。
体が強張り、思わず照準がブレる。
「・・・ッ! 殺せないことはわかっています。でも、ここで私が打てば音を聞きつけた他の隊員が入ってくるはずです。」
私だって、なんの対策も無しに来るはずがない。
彼がどんな行動に出るか予測できない、だけどここで銃を打てば人が来る。
銃を持ってる私が疑われるのはわかっているが、ここで死ぬよりはマシだ。
「・・・やはり、頭が回るね。それなのにあんな愚物を選ぶとは残念で仕方がない。まぁ、あと一歩及ばなかったな。『移動:転移』」
彼がそう呟いた瞬間、部屋の絨毯にわからないように刻まれていた魔法陣が光る。
しまったと思った時には視界が歪み、先程まで立っていた執務室の景色がガラリと変わった。
ーー
突如として何もない倉庫のような広い空間に投げ出される。
灯りが入っていないので周りが分かりずらい。
・・・移動魔法。
その中でも転移系統は座標の設定や、相手の指定等が難しく、扱いづらいのに、・・・。
元から作っていた?
なんのために?
いや、私1人を送るために作ったとは考えにくい。それにしては部屋の景色に溶け込む過ぎていたから。
だとしたら、だいぶ前から?
「どう言うつもりですか?」
隊長はいつもの笑みのままいつままにか、背後にあったイクスを手にとった。
「別に、殺すつもりはないよ。ただ、少し言うことを聞くようなってもらおうかなってね。」
慌てて左腰に挿してあった短剣型のイクスをこちらも引き抜く。
イクスの勝負なら発動が遅れるのは致命的、なら先手を取るしかない!
「近づかないでください!『起動・・・」
「『移動:転瞬』」
こちらがイクスを起動するタイミングで、隊長は魔法を発動。
一瞬のうちにこちらの間合いに入りこんできた。
ーーードッ!
「・・・ッカハ!」
腹を蹴り飛ばされ後ろに吹き飛び、そのまま床を転がる。
その時にイクスを手放してしまい遠くに転がっていってしまう。
私はそのまま背後にあった壁にぶつかって止まった。
「・・・残念だけど、イクス所有者同士の戦いに慣れてないね。イクスは起動までのタイムラグがあるから、起動するタイミングは相手の隙を見つけてからじゃないとね。」
・・・まずい。
肺から空気が漏れ出て、息がしづらい、手加減されていたようだがそれでも意識を失いそうな威力があった。
「・・・っぐ。は、ハァハァ。」
それでも体に鞭を入れて立ちあがろうとする。
ここで気絶すれば取り返しのつかないことになる気がする。
寝るな、起きろ!
「・・・すごいな。立ち上がれるんだね。」
「・・・ハァ、ハァ、貴方の思い通りなる気だけはありませんから。」
一度は受け入れようとした。
溶け込もうかとも考えた、辛く、寂しく、心が何度も挫けかけた。
でも、ここで諦めたら祖父に顔向けできない!
こいつが犯人なら報いを受けさせる!
体に鞭を入れて立ち上がった。
だが、状況は何もよくなってなんかいない。
こちらのイクスは起動できてないし、体にも力が入らない。
でも、前を見る。終わりたくない!
「・・・本当にそっくりだよ。見てて嫌になる。まぁ、すぐに考えることは無くなるよ。・・・じゃ、少し寝ててね。」
彼が再び導石に魔力を込めようとしたところ、
ーーーガシャアン!!
天井にあった光を差し込まない程に曇ったガラスが砕け散り、降り注いだ。
そして、そこから赤黒い軍服を纏った1人の青年が降り立つ。
その青年は私と隊長の間に立ち塞がり、隊長を見据えた。
私は唖然としてその光景と人物を見る。
「・・・どうして?」
「ん? こいつが俺に喧嘩売ったから買いに来た。・・・ただそれだけ。」
暁月 蓮はそう言って、いつものヘラヘラした表情のまま笑った。
ーー暁月 蓮ーー
わざわざ高い窓から降り立った。
正直衝撃を受け流しきれなかったのか足がジンジンしてめっちゃ痛い。
・・・カッコつけるんじゃなかった。
「・・・さーて、こんな所に女の子連れ込んで何をしようとしてたんだ?いくら同じ隊でも無理矢理は捕まるよ?」
取り敢えず痛がってる素振りがバレないように強がって見せた。
そのまま、ニヤニヤしながら相手を煽っていると、美島は顔を歪ませる。
「・・・よくここがわかったな、愚物。」
「いや、わかるわけないでしょうが。だから、『黒猫部隊』の奴に頼んでおいたんだ。おかげでなんとか間に合ったよ。」
そう、俺はなんとなく嫌な予感を察していた。
そのため、事前に黒猫に依頼し、違和感や変化があったら連絡する様にお願いしていたのだ。
「相変わらずだな、1人じゃ何も出来ない無能が。」
「そーだよ、だからいつも誰かに助けてもらってんだ。こっちはお前と違って優秀じゃないからねー。」
軽口を叩きながら軽く周囲を確認する。
光が入らないため辺りは薄暗く、周囲は見ずらい。
だが、先ほど窓ガラスを割ったおかげで上から光が差し込んでいる。
そして、俺の後ろには白薙がなんとか立ち上がっているが、足はフラフラで今でも倒れ込みそうだ。
でも、気にかける余裕が今の俺にはない、気を抜けるような相手ではないからな。
美島が突然鼻で笑った。
「・・・ッフ。だが、いい機会だ。ここで目障りな愚物を処理できるのだからな。」
「おいおい、随分簡単に人殺し宣言するな? いくらお前でもイクスを使った殺人は重罪だろ。」
「そんなことわかっているさ、だが隠す方法などいくらでもある。」
えぇ、もう証拠隠滅する方法考えてるの?
一応俺隊長だよ?
俺が録音してるとか考えてないのかな。
「あっそ、やってみれば?」
「そうするさ、『移動:転瞬』」
美島は一瞬で距離を詰めてイクスを横薙ぎに振るう。
俺はそれをすんでのところで頭を逸らし躱す。
髪が数本飛ぶが頭がすっ飛ぶより遥かにマシだな。
「『強化:動体視力×脚力』!」
目と足に魔力を込めて底力を上昇させる。
その勢いのまま、美島の胴を目掛けて蹴りを入れるがイクスで防がれ距離を取られてしまった。
そのまま下がったところで相手の呟きが聞こえる。
「『起動』」
ーーッまずい!
遠方から高密度のエネルギーが高まる気配を感じる。
いや、今のタイミングで起動するか!?
ーーーキュオンッ!
「・・・ッ!『隔絶:障壁』!」
高密度のエネルギー弾が前方から放たれる。
俺は、その弾を動体視力を上げた目で見切りながら、障壁で流す。
正面に貼ったら簡単に破られるので障壁を斜めに展開し、上方に弾を逸らす様に受け流した。
上方に逸らされた弾はそのまま倉庫の天井部分にぶち当たり、天井を吹き飛ばす。
「よく防いだな。・・・だが、何故イクスを持って来なかった?」
「・・・。」
そう、俺はイクスを持って来ていなかった。
今右手に握っているのはさっき降りた時に拾った鉄パイプ一本のみ。
「・・・ッフ。貴様のつまらない矜持はわかっている。ユーガル統括隊長の猿真似だろ? 彼の方の真似事をすれば近づけるとでも思っているのか? 愚かな、凡人は所詮凡人だと言うのに。」
・・・えっと、忘れただけなんだけど。
いやさ、本当は持ってこようと思ってたんだよ?
でも、夏希と話してたら時間がギリギリになっちゃって急いで用意してたらウッカリ整備室に置いて来ちゃったんだよね。
「その驕りが貴様を殺す。舐めて来たことを後悔させてやる。」
やべぇ、何も言ってないのに油注いだみたいになってる、忘れたって言ったら許してくれたりしないかな?
・・・よし、とっとと目を潰そう。
「『隔絶:光』」
そう呟いた瞬間辺り一帯の光が失われる。
「視界を奪った程度、何の問題もない。」
ーーガチン!
ーーガウンッ! ガウンッ! ガウンッ!
美島はイクスで的確にこちらを撃ち抜いてくる。
周囲は暗闇に包まれているので何も見えないのに、音や振動、気配でこちらの存在を探り当てているようだ。
まさしく天才だな。
隔絶で光を遮断しているので倉庫の状況はわからないがきっと穴だらけだろう。
天井が落ちて来たりしたらどうするの?
暗闇に紛れながら弾幕を避けていく、姿勢を低くして出来るだけ的を減らすように意識しながら。
だが、次の瞬間。
銃口が白薙に向いた。
・・・チッ、この野郎!
「ックソ!」
暗闇に落とす前に位置を確認しておいた白薙のイクスを回収しながら俺は走りだす。
「『起動』!」
イクスに薄く光が集まるが、間に合わない。
遠くから軽く笑う声が聞こえた。
あいつにとっては俺の行動は予想通りなんだろうな。
いいぜ、踊ってやる。
「『強化:イクス』『付与:イクス×隔絶:障壁』『移動:イクス×短縮』!」
全力で魔法を唱える。
体から力が抜ける感覚がし、軽く頭痛がしてきた。
魔力を一気に使いすぎた影響だな。
イクスの強度を底上げし障壁を纏わせる。
そして、移動魔法で起動にかかる時間を短縮させた。
これをすると機械の寿命が短くなるがここぞと言う時には使えるな。
白薙の前に滑り込み、俺は短剣のイクスを構えた。
ーーギャリリリリリイイイイィ!
腕に大きな衝撃が走り吹き飛ばされそうになるが強化した脚力にものをいわせてギリギリ耐え抜く。
「あ、暁月さん。」
震える声が背後から聞こえた。
今の一撃で白薙のイクスは砕け散り粉々に破壊されてしまう。
そして、消しきれなかった衝撃が左腕に走り俺の左腕は血だらけになった。
「随分と器用な魔法の使い方をするものだ。威力をもてない凡人なりに考えたようだな。」
美島がこちらに歩いてくる音が聞こえる。
こちらに気づかせるようにわざと足音を立てて近づいて来ているようだ。
勝ちを確信したゆったりとした動作で。
「お別れだ。・・・し」
その慢心がお前の敗因だ!
「『付与:鉄パイプ×破壊:閃光』!」
右腕に持っていた鉄パイプの先端に閃光を纏わせ足音の方向に向け、発動。
ーーギャキィイイイイン!
「あがぁ!」
高音と合わせて周囲一帯を眩い閃光が走った。
暗闇に慣れ始めていた美島は目を押さえてフラフラしている。
「『強化:暁月』!」
ーーズガンッ。
俺は、地面がヒビ割れるほどの力を込めて美島に急接近し、腰元に腕を構える。
「じゃあな、イケメン! 愚物相手に惨めに負けな!」
相手の鳩尾目掛け、拳を振り抜いた。
ミシミシミシッ。ーーーーズガンッ!
美島は嫌な音をさせながら錐揉み状に吹っ飛んでいき、そのまま壁に叩きつけられた。
崩れ落ちる音をさせながら美島は地面に倒れた。
「・・・ざまぁねぇな。俺の、、、勝ちだ。」
両手をポケットに入れ、美島を視界から外さないように息をつくのだった。
ーー白薙 エリスーー
「・・・すごい。」
まさか、勝てるとは思っていなかった。
隊長はイクスを装備をしていたし、体術だって負けてるところを見たことがない。
でも負けた。
その事実が私の芯に届く。
勝てたのは彼の機転と度胸によるものだろう、あの銃弾の弾幕の中を走り抜く勇気、迷わない判断力、それが勝利を手元に引き寄せた。
だが、彼の腕を見る。
腕は血だらけで動いてはいるが力は入らないだろう。
・・・あれは、私のせいだ。
悔しくて俯く、強くなった気がしていた。
自分は頑張って来たのだと自負していた。
でも全然足りなかった、足元にも届かなかった、
・・・迷惑をかけてしかいない。
彼に怪我を合わせたのは私だ、もし私がここで倒れていなければ彼は無傷で戦いを終わらせられていたのに。
「白薙、大丈夫だったか?」
声をかけられ上を向く、彼はいつもと変わらない笑みを浮かべていた。
「・・・どうして、助けに来てくれたのですか?」
最初にお礼を言うべきなのに口から出たのはそんな言葉だった。
「ん? どうしてって、俺を庇ったからアイツに狙われたんじゃないの?なら助けるのは当然でしょ。」
言われて驚く、私が彼を庇う気がしただけで彼はここまで助けに来てくれたのだ。
命を奪い合う可能性が考えられていた戦いだったはずなのに。
「ユーガルさんならそうしそうだからな。別に暇だから無駄足なんていくらでも踏めるから。」
彼はそう言って笑う。
「休んでなよ。白薙はこれから忙しいだろうからさ、後はこっちで片付けとくから。」
彼はそう言って手を振りながら隊長の方に歩いて行く。
その背中は決して、逃げ回った者の背中には見えなかった。




