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整備班 (1人)


ーー




そのまま広場で白薙と話しながらのんびりとした時を過ごす。


てか、こいついつまで話してるの?

仕事中だった気が済んだけど怒られないのかな。


ちなみに俺は戻ったら怒られる。


すると、前方から人の気配がした。



「エリス?・・・こんなところで何をしてるんだい?」



背の高い金髪碧眼のイケメンに話しかけられた。

彼は白い隊服を着ていて、白花の隊士だということがすぐにわかる。

そして左腕には白薙と同じ薔薇の腕章をつけていた。



(白薔薇部隊、しかも隊長か。)



そう、相手は腕章に3本線の入った隊長だった。

その彼は、黒獣の俺を見つけると露骨に嫌そうな顔を浮かべる。


俺はその様子を鼻で笑った。


隣に座ってた白薙はすでに立ち上がって、姿勢を正していたが、頬を軽く汗が伝っている。



「も、申し訳ありません。すぐに戻ります。」


「・・・いや、構わないよ。だいたい理解したからね。」


「え?」



さーて、どんな文句が飛び出すのか見ものだな。

俺は相手の発言をニヤニヤしながら待つ。



「おおかた、そこの薄汚い獣に絡まれたんだろう。全く、人様の迷惑になることも理解できない愚物が。・・・エリス、次からは私を呼びたまえすぐに駆けつけるからね。」 



イケメンは優しい眼差しを向けながら白薙の手を取る。



「ち、違います! 暁月さんには私が・・・。」


「へぇ、白薔薇の隊長さんって呼ばれたらすぐに来れるくらい暇なんだな。別に白薙だって隊員の1人なんだからもっと信用してあげれば?」



白薙が俺のフォローをしそうだったので間に台詞を入れて中断させる。

すると、イケメンがこちらに体を向けた。


こっちみるな、あっち向いてろ。



「だまれ。仲間が困ってたら助けに入るのは当然だろう。」


「へぇ、随分とお前らしくない台詞だな『美島 優』。」



『美島 優』白花大八連隊、白薔薇部隊隊長。



元々彼はユーガルさんが統括隊長だった時に白百合部隊に所属していた隊員だ。俺はユーガルさんとよく会っていたのでその際に美島とも面識を持っていた。

彼は統括隊長が変わった時に白薔薇部隊の隊長に任命されたはずだ。



「私のことを貴様が語るな。私はあの時とは違う、貴様のようにのうのうと生きてなどいない。」


「ふーん、上ばっか見てないでたまには周りを見ることも大事だと思うぞ?」


「下に這いつくばっている連中に構う暇などない。」



本当にひどい言い様だな。



少しは隊長になって周りを見るようになったかと思ったけど変わってないみたいだ。


でも、自分の仲間を気にかけるくらいには成長したのか?



「行こう、エリス。こいつと話してると脳が腐る。」


「え、俺そんな特殊能力あったの? すごいな、異物退治に役立ちそうだ。」



そうやって適当に煽り返していると、



ーーーヒュンッ



俺の頬スレスレを一本の投げナイフが通り抜けた。



「・・・おいおい、危ねぇよ。」


「その減らず口を閉じなければ次は当てる。」



やっぱり隊長らしい実力を備えているな。

ナイフを投げる時まで予備動作やナイフの存在、そのどちらにも気づかなかった。



「・・・ふん。」



鼻を鳴らしてから白薙と美島は去っていった。



ーー



・・・・・ザザァー




「・・・夜。」



誰もいない虚空に呼びかける。



「・・・頼める?」



周囲には依然として誰の気配も音もしない。

噴水が流れ落ちる音と風に揺られる木々の音が静寂に響き渡っていた。 



「・・・はぁ、・・・帰ろ。」

 


そう一言呟き、俺は後髪をかきながら噴水広場を後にしたのだった。




ーー白薙 エリスーー




噴水広場から戻り、支部の事務所へと向かう廊下。

白薔薇の隊員たちとすれ違いながら、私は隊長と2人で歩いていた。 



「・・・エリス、君には明日から見回りを外れてもらいたい。」


「え?」



最初何を言われたのか分からなかった。


何故こんな唐突に?


いや、理由は一つしかない。暁月さんがあの広場にいたからだろう。

でも、そんな理由では納得できない。 



「どうしてですか?」


「あの愚物に絡まれるからだ、君の格が下がる。」

 


なんて酷い言い様だろう。


いくらあの人が黒獣の人間だからってそこまで言う必要があるのだろうか?



「ですが・・・。」 



私が話そうとした時に彼は後ろを振り向く、そしてその美しい碧眼をこちらに向けてきた。

それだけで冷や汗が流れ、呼吸がし辛くなる。

彼の碧眼は普段であれば見惚れるくらい綺麗ではあるが、彼が不機嫌な時はまるで獰猛な鷹のような鋭さを秘めていた。



「なんだ?」



ただ、質問されただけ、それが重い重圧としてのしかかる。


そうだ、彼は隊長で、とても高い実力を認められて選ばれた1人だ。

私が白薔薇に所属しているのは彼からの推薦によるものでもあった。

恩義もあるし、助けられたことだってある。

でも、ここで何も言えなければ何も変わらない、変えれなんてしない。



・・・間違ってないって言ってもらえた。



私は、必死で彼の目を見つめ返す。 



「私が暁月さんに相談させていただいてたのです。彼に二度、助けていただきました。あの人は愚物ではありません。」



私がそう返すと、隊長の動きが止まる。

何を考えているのか分からない碧眼が細められ、その目には不快感が滲んでいた。



「・・・そうか。」 



彼はそれだけ言うと振り返り再び廊下を歩き出した。

私は後ろで気付かれないように息を吐く、緊張が解け全身から力が抜けそうになる。


いや、ここで止まっちゃいけない、ついて行かないと。


そのまま無言で歩き続ける。


すると、


 

「エリス、後で執務室に来るように。」



・・・どうやら、まだ話は終わっていないようだ。




ーー暁月 蓮ーー




昼明けの午後、帰りに買ってきたカレーをチンして食べようと準備する。

事務所にカレーの匂いが充満しとてもお腹が空いた。 



「いただきます。」



蓋を開けて食べようとすると、  



「おっすー! 蓮くん元気にしてた? 私がきてあげたよ!」



ドアが勢いよく開かれ、大きな頭に響く声が部屋中に響いた。



「・・・あー! カレー食べてる! 一口ちょうだい。」


「ふざけんな、一口もあげん。」

 

「えー、ケチー。」



あ? ケチってなんだ? なんで自分が買った物を自分が1人で食べたいだけでケチって言われなきゃならないんだ?


彼女は特に気にしてないのかそのまま空いてる席に腰掛けた。



「なんのようだよ?」


「えぇー、大体わかってるでしょ?・・・本日より黒犬部隊『整備班』に配属されました。『司馬 夏希』です。よろしくー。」



そう言って彼女は自己紹介を始めた。


彼女は整備班らしく作業着を着ていて、頭につけた大きめなゴーグルがトレードマークらしい活発な女性。


短く切り揃えられた銀髪とクリクリした目が容姿を幼く見せる。



「・・・まぁ、確かに思ったけど、流石にお前が黒犬の整備員ってどうなの?」


「なに、不満?」


「ちげぇよ。お前がたった一人しかいない部隊の整備班に配属されるのは勿体無いだろって話。」



彼女はこう見えてとても優秀なエンジニアだ。


俺が現在所持しているイクスも彼女がいちから手がけてくれた専用モデルとなっている。


そもそもイクスを製造、及び整備できる人物なんて連隊を見回しても少ない。

だから、俺は基本的にイクスの整備をいつも彼女に任せているのだが、流石に専属にするのはあまりにも無駄な感じがする。



「ふふーん。ありがと、でもいいんだ。そもそも私の技術は量産向けじゃないしね。私は新しいのを作り続けたいんだ。」



そう言いながら彼女は俺の机の上に一枚の紙を置いた。



「はい、後は蓮くんが承諾してくれれば私も晴れて黒犬部隊の一員だよ。」



渡された承諾書を見て俺は頭を悩ませた。



「・・・作り続けたいって言っても、今この隊にある仕事は俺が所持してるイクスの整備だけだぞ?」


「んー、別に私イクス作りたいわけじゃないから、言ってくれれば面白いものとか作るよ?」



・・・変な物たくさん作ったりしないよね?



こいつは優秀だけどやりすぎるところがあるからな。


ここに来る前は兄貴と一緒に開発してたからストッパーがいたが、今は野放しだから怖いんだけど。


机に置かれた紙を持ち上げる。後は俺がハンコを押せば彼女は黒犬部隊の一員になる。悩むな。



「・・・絶対後悔するからな?」


「しないよ、蓮くんがいるから。楽しいことは間違いなし。」



何その謎の信頼。答える気はないからね?



「・・・はぁ、わかった。まぁ、俺もいちいち頼みに行く手間が省けるからな。これからよろしく頼むよ。」


「うん!よろしく。」



俺たちはそう言って握手を交わした。



ーー



「そういや夏希。一つ聞きたいことがあるんだけどさ。」


「・・・んー、なに?」



早速、空いてる机で荷物を広げて、なんかガチャガチャやってる夏希に話かける。


そう言うのは下の整備室でやってくれないかな?

てか、ここでやるな。うるさい。



「白薔薇部隊、隊長のイクスってどんな物だったか知ってる?」



俺がそう聞くと、夏希は作業の手を止めて顔を上げた。



「・・・んー、名前は? ってか、急にどうしたの?」


「名前は 美島 優 理由は聞かないでくれると助かる。」 



俺がそう言うと、彼女は訝しんだ目でこちらをみた。



「・・・別にいいけど、イクスの所持は個人情報に当たるから、下手したら私、罰則受けるんだけど?」


「責任は俺が持つよ。それに隊長には情報の開示は平気だったろ。」


「うわー、権力をフルに使ってるよ。」


「使えるもんは使うべきだろ。」



俺が責任を持つと宣言したからか、彼女は端末を取り出して、スクロールしていく。



「うーん、美島、美島。あ、あった。」



端末に保存してあるのね。

てか、仮にも顧客情報なら覚えてようよ。



・・・別に注文した客ではないのか。



「えっと、形状はロングバレルのハンドガンタイプだね。開発者は・・・うわー、兄貴じゃん。」



彼女は苦い顔をしながら画面を操作している。

最近喧嘩したばかりらしいからあまり見たくない名前だったのだろう。

別に普段は仲が悪いとかは一切ないのにね。



「・・・てことは、近距離に弱かったりする?」


「んー、ないかな、所有者の練度によると思う。イクスだから本体の強度が高いから鈍器にもなるし、中距離にも対応できるから結構バランスいいよ。ってか、喧嘩でもするの?」



いや、せんけど。

今のところそんな予定はない。



「喧嘩売る気はないけど、買わされそうな気はする。流石に対策ぐらいはしとこうかなと。んで、俺とあいつだとイクスの性能ってどっちが上?」


「んー、性能差は基本的にないよ。でも夜や暗いところなら蓮くんが勝てる、昼とか明るいところならイーブンかな。でもどちらかと言うと相手の方が有利だと思う。相手は中距離にも対応できるからね、蓮くんは中距離戦だとどうしても魔法に頼った戦い方になっちゃうと思うし。・・・戦ってるところ見してもらったことないから推測しかできないけど。」



そう言いながら、ジト目で見られた。



確かに見せたことないな。データが欲しいから戦闘情報取らせてって言われたことが何回かあったけどめんどくさくて断り続けていまに至る。

おかげで最近は言われることが無くなったけどふと瞬間にチクチク言われるようなったね。



「まぁ、それはおいおいね。」


「ふーん。まぁ、蓮くんのイクス『夜開』なら性能で負けることはないよ。だから後は当事者たちの実力次第ってところかな。」



なるほどね。

イクスの練度なら異物との戦闘経験が多いこちらに分があるけど、対人能力だと相手の方が有利かな。



「・・・まぁ、なるようになるか。」



結局投げやりに考えることにした。

準備できることはあるが、対策なんて考えれば考えるほど沢山出てきてしまい、まとまらない。 


なら、その場で臨機応変に対応するとしよう。

無理だったら逃げればいいし。



「相変わらず、大変そうだね?・・・そんな君にいい物をあげよう!」



うわー、早速かよ。

怖っ。



そう言って彼女は机に置いてあった一本のボールペンを差し出した。



「・・・何これ?」


「え、ペン先から粘度の高い真っ黒な液体が飛び出すだけだよ? 圧縮して結構な量入ってるから、人に使えば動きを阻害できるよ。・・・後めっちゃ燃える。」 



危険物だろうが!

そんな物を日常で使うペンと同じ形にしとくんだよ!?


間違って使ったらどうすんの!?



「・・・本当だったら自動燃焼機能もつけようと思ったけど流石に殺意高いかなって。」



当たり前だ! てか、何に使うんだよ。



「それ、絶対認可降りないよね?」


「人に認められるより、自分が納得できるか。だから私は妥協しない。」



だめだこいつ、多分マッドの方なエンジニアだ。

こいつ、兄貴ところに追い返した方が安全なんじゃない?


チラリと時計を見る、会話をしてたら思ったより時間が経っていたようだ。



「・・・はぁ、とりあえず出かけるわ。好きに過ごしてていいけど物は壊さないでね。」


「大丈夫、直すから。」


「そう言う問題じゃねぇから!」



俺は頭痛を感じながら席を立つ、そして押し付けられたボールペンを持って支部から出て行った。


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