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悩み相談


ーー



数日後。



「やっと終わったー!」



白花の隊士達から襲撃を受けて数日、

ようやく事件の処理が一区切りがついた。



いやー、本当にめんどくさかった。



黒獣への報告、連行、事情聴取に引き渡し、そっからまた事情説明して、ようやく一息つけたよ。



「お疲れ様です。まさか白花の隊士が襲って来るとは思いませんでしたね。」



クロちゃんが初めて俺にコーヒーを淹れてくれた。

一口飲んでみると、豊かな香りと程よい酸味が口の中で広がりとても美味しい。



「ありがとう。いやー、本当にまさかだったよな。それにイクスを持ち出すとか洒落にならない。」


「・・・やはり、白花の隊士にイクスを持たせるのは禁止すべきでは? 国内の防衛で使う時は少ないと思いますし。」


「ダメだ。そうすると格差ができて不満がたまるし、黒獣の中にもいる馬鹿どもが睨み合ってる白花を脅す可能性が出てくる。抑止力としては必要だし街の中に異物が出てこないとも限らないからね。」



まぁ、理由は他にもあるけどそこまで言わなくても理解してくれるか、

俺がそう思っているとクロちゃんは顎に手を当てて頷く。



「その通りですね。すみません浅慮な考えでした。」



頭が良いと話がすぐに進んで楽だね。



「それにしても、イクスを持った相手を導具だけで相手取るとは流石ですね。」



俺は椅子に深く座り直した。



・・・別に大した事をした気はない。でも他の隊士だったらやばかったのは事実だろう。



「戦い方がなってないだけだよ。てか、相手の目の前でイクスを起動するなって話だし、魔法と組み合わせて使ってこない時点で三流だろ。流石にそんなやつに遅れは取らない。」



端末を眺めながらゲームを起動する。

全く、外が厄介なのに内地にも気に掛けないといけないとかどうなってんだ。



仕事しろよ。



「そもそも、人を攻撃するのにイクスはオーバーすぎる。下手したら周囲が吹っ飛ぶぞ。」


「・・・慣れてないと出力を間違える可能性もあるのでさらに危険ですね。」



・・・ハァ、教育くらいはしっかりとしてほしいな。



おれ? 俺は人に教えられるわけないよ。俺より優秀で教え上手な人なんてたくさんいるからね。



「あ、ところで暁月さん。」


「ん?」



名前を呼ばれたかと思ったら目の前に書類の束が置かれた。

俺は思わずその光景に固まる。



「・・・え?」


「これが最後の確認書類です。暁月さんが諸々の手続きしてる間は進められませんでしたからね。確認をお願いします。」


「・・・やばい、泣きそう。」


「では、泣きながらお願いします。」



冷たい!

心がきっと機械でできてるんだ!


折角手続きが終わったと思ったらまだ仕事が残ってるなんて嫌すぎる。

逃げたい。いや、逃げよう!



「ちなみに逃げたら倍に増えますからね。」


「・・・頑張ります。」



俺は泣く泣く書類確認を進めた。




ーー




「や、やっと終わった。」



俺はフラフラとした足取りでベンチに座る。

今は仕事がひと段落付き、休憩が許可されたのでいつもの噴水広場に来たところだ。


移動販売がきているが、特に何か買う気にもなれなかったので、ベンチに座ってただ空を眺める。


上空では鳥が優雅に飛んでいた。

今のご時世、動物はだいぶ数を減らしている。

そんな中でも生き残って悠々と過ごせている動物を眺めると和むな。

仕事で荒んだ心が癒える気がする。



「何してるのですか?」



俺が空を眺めていると、突如として視界一杯を綺麗な顔に塞がれた。

ベンチの後ろから覗き込まれたらしい。



その彼女っぽいムーブやめてくれない? 心臓に悪いから。



「・・・ちけぇよ。キスするぞ。」



俺がそういうと頭上にあった顔が引っ込み、数歩後ずさる音がした。



「・・・セクハラで逮捕します。」


「俺の人生が終わる可能性があるから勘弁して下さい。」



・・・どうかそれだけは。



彼女はため息を吐きながらわざわざ俺の前へと回ってきた。


なんか用でもあんの?



「隣いいですか?」


「構わんが。」



断る理由もないからね。


ど真ん中に座っていたので右側にスペースを開けておく。

白薙はその空いたスペースに腰掛けた。



「お久しぶりですね。元気でした?」


「全く、元気じゃなかった。隊員のいない隊なんて暇であるべきだろ。なのに書類仕事ばっかり溜まってて、鬱になるわ。」


「あるだけ良いじゃないですか。暇なのはそれはそれで苦痛ですよ。」


「俺は平気。」


「そうですか。ぼーっとしてそうですからね。」



痛い痛い。


棘が刺さるんだけど。

なんだろう、こいつの俺に対する印象ってどうなってるのかね?



「てか、白薙って暇なの? いつもここらへんにいない?」


「一緒にしないでください。私の見回りルートにこの噴水広場が含まれているだけです。」


「へー、そーなのね。」



仕事中の割にはこうやって話をしたりしてるけど平気なのか?



「「・・・。」」



ザザァーーー。



噴水の落ちる音だけが耳に入り心地いい。


その横で白薙はいつもと同じ感情を感じさせない表情で噴水を眺めている。


あんたもぼーっとしてるやん。

2人で流れ落ちる噴水を見続ける。



・・・いや、別に俺は無言の空間とかあまり気にしないけど、流石にこの状況って何? え、何か話しかけた方がいいのか?



俺がそうやって考え込んでいると、



「そういえば、最近白花の隊士が除隊処分になったみたいなんですよね。」


「・・・へぇー、そりゃ大変だな。何かあったのか?」



めちゃくちゃ心当たりがあるけど知らないふりをしとこう。

同じ白花の隊士として思うところがあるかもしれないし。



「知らないのですか? 黒獣の隊員を襲撃したらしいです。返り討ちにあったらしく、相手は怪我などされていないそうですが、白花の隊士がイクスを持ち出したらしいので、連隊内で結構な問題になってますよ。」



・・・そりゃそうだろうな。



相手が俺だったから何とかなったが、もし、一隊士だったら死人が出てただろう。

イクスを持った隊士同士の戦闘は周囲にも被害が及ぶ可能性が高いので、連隊規則にも禁止事項として書かれているし、破ったら重い厳罰がかせられる。

今回の事件は殺意があまりにも高すぎた。



・・・でも、俺が狙われる理由に心当たりがないんだよな。



「本当に何をしているのですかね。・・・馬鹿馬鹿しい。」


「心より同意。」


「お陰で私たちの立ち位置も悪くなりました、しばらくは黒獣からの当たりも強くなるでしょうね。」


「それはさせないようにするわ。」



俺は背もたれに全体重をかけながら気怠げにそう返す。

すると、白薙は目をパチパチさせてこちらを見つめていた。



「・・・白花を庇うのですか?」


「いんや、庇う気はないね。だけど今回の件は意図がまだわかってないんだ。ただのいつもの諍いではない可能性も高い。・・・別に関わってない奴らを含めて弾圧させる気はないよ。」



まぁ、自分達の組織のことだからもちろん他の奴らに責任が全くないと言う訳ではないけど。

でもまぁ、良い奴が理不尽な目に遭うのはのはできるだけ避けたいからな。



「・・・知ってるじゃないですか。」


「あっ。」



やべ、知らない体で話を聞いてたのについ反応しちまった。



「・・・誘導されたか。」


「誘導してません。勝手に喋っただけです。」



ま、バレても困らないけどね。



「・・・はぁ、知ってて黙ってたのですか? 変に気を遣ってもらわなくても大丈夫ですよ。」



どうしよ。一つも気にしてなかったって言ったら怒られるのかな?

それはなんか理不尽じゃない?



「まぁ、何となくね。」



とりあえず合わせとこ。



「・・・暁月さん。白花大八連隊の入隊条件って知ってますか?」



え、急に何の話? 一気に話が飛んでついていけないな。

戸惑いながらも一応黒獣に入る前の古い記憶を遡り、答えを返しておく。



「えっと、たしか、高度教育を修了してることと、入隊する時に受ける戦闘検定に合格する事だよね。」


「いえ、顔です。」



・・・・・え?


今なんて言った?



「えっと、内地の守護を担当する、白花大八連隊は清廉なる精神と何者からも住民を守り抜く強靭な・・・。」


「いえ、顔らしいです。」



な、何を言ってるんだこの人は。

いや、確かに白花には美男美女が揃ってるなーとは前々から思ってたけど、流石に顔だけで集めたわけじゃないでしょ。



白薙は憂鬱そうな顔をしている。



「本当ですよ、以前隊長が言ってましたから。分かります? この気持ち。私は祖父に憧れて白花大八連隊に入るために必死で勉強して、辛い特訓にも耐えてきました。それなのに入隊できた理由は顔だなんて言われるのですよ? 積み重ねてきた物が全て無視された気分です。」



・・・それは、確かにやるせないな。



必死な努力を切って捨てられることと同じようなんもんだ。

てか、もう一つ気になる単語が出てきたな。



「・・・えっと、祖父ってまさか、『ユーガル』さん?」



すると、今度は白薙が驚いた顔をした。



「知ってるのですか?」


「まぁ、俺は入隊してからそれなりに長いからね。元白花大八連隊『白百合部隊』の隊長だった、ユーガルさんにはお世話になったからな。」



てか、やっぱりそうだったのか、確かユーガルさんの苗字も白薙だったから、初めて名前を聞いた時はまさかと思ってたんだよね。



「え、でも俺がユーガルさんに聞いた時は実力が大切って言ってたよ?」


「・・・はい、祖父が統括隊長だった時は暁月さんが言ったような感じでした。ですが、祖父が亡くなり、隊長が変わってから選考基準も変わってしまったみたいです。」



俺は片手で顔を覆う。


・・・ユーガルさんはとても良い人格者だった。


白花と黒獣が争っていたら真っ先に仲介してたし、迷ってたり、困ってる人を見かけたらすぐに手を差し伸べていた。


自分を後回しにしてでもね。


でも、そんな良い人でも最終的には人に裏切られて命を落とした。

あの時は若いながらも強い怒りを覚えたもんだ。



「ですから、私は祖父の意思を継ごうと必死でした。変わっていく連隊の中、迷ってる人を導き、困ってる人を助けようと頑張ってきました。ですが、流れは止まりません。白花は今や外交や政治に最も力を入れている組織です。隊士が考えているのは自分と地位だけです、他人なんか見ている人なんかもういませんよ。」



彼女の手から血が滲む、悔しくて、止められなかった自分が情けなくて。



「だから、人の命を簡単に奪おうとする人が隊士になれるのですよ。以前習っていた、白花の規律なんてだいぶ薄れてきました。・・・国を護る盾のはずなのに、今や国の内部に入り込み、国民の血を啜り咲き誇る花ですよ。」



・・・よっぽどな言い方だな。それだけ今回の件は頭に来てるのか。



彼女はそう言いながら、こちらに自嘲気味な笑みを見せる。

俺はその笑顔をただ黙って見守った。



「・・・すみません。弱音を吐きました。まぁ、そんな訳ですよ。祖父の時代の白花は変わりつつある。・・・私もいつか変わっていく気がします。」



俺は流れ落ちてゆく噴水を眺めながら溜息をついた。



「・・・変わらないだろ。」


「変わりますよ。最近は頑張ろうより、楽な方に行きたくなってきましたし、こうやってあなたに話しかけてるのも、きっと楽だからでしょうね。」



その寂しそうな表情からは諦観の思想が見て取れる。

だが、なぜか俺はそれに納得できなかった。



「変わらなかったよ。」


「・・・? 何がですか?」


「ユーガルさんは変わらなかった。挫けても、一度は諦めても、最後は立ち上がってた。・・・俺はそんなあの人を見てることしかできなかった。危うかったのは理解してたんだ。でも俺はあの人の愚痴を聞いてあげることしかできなかった。」



俺はふと地面に視線を移した。

昔、お世話になった恩師の顔を思い出しながら。



「だから、きっとお前も変わらない。あの人そっくりだからな。考え方もやり方もね。そんで、俺から言えることはひとつだけ。」



あの人に伝えたことと同じことを伝える。



「お前は間違ってなんかない。俺はそう思ってる。・・・ただ、それだけだよ。」



救えなかったあの人を思い出せばこの後押しは間違ってるだろう。

でも、彼女を否定することだけはしたくなかった。



「・・・ふ、ふふッ。」



すると、白薙は静かに笑い始めた。



「・・・何笑ってんの?変なこと言った?」



せっかく真面目な顔をして、得意でもない励ましをしたのに笑われるとか傷つくんだけど。



「いえ。・・・暁月さんに慰められるとは思ってませんでした。てっきり、適当に相槌打たれて放り出されると思ってましたので。」 



こいつの中の俺の印象すごく悪くない?

俺こいつの前でそんなに酷いことした記憶がないんだけどなー。



「へいへい、んじゃ今からそうしましょうか?」



少しムカついたので、言われた通り適当に返事してやろうかな?



「・・・ふふ、すみません。私の発言をしっかりと受け止めてくれたのは祖父以来だったので、少し嬉しくなってしまいました。」



一瞬でなんとも言えなくなったんですけど、てか、そもそもなんでこんなに重い話してるんだっけ?



「・・・そりゃ良かったよ。」


「はい、ありがとうございます。」



そう言って彼女は初めて、優しく微笑んだのだった。



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