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任務の終わりに


ーー




「着いたー、、、。」



来た道を戻り、ようやく第八ゲートへと到着する。

そこまで大変な仕事ではなかったけど、少し気疲れした。


ちなみにエリスは来た時よりもなんかスッキリしているのか晴れやかな顔。


色々吹っ切れたっぽいね。



「・・・そう言えばこの扉ってどうやって開くのですか?」


「端末から発せられる信号を察知して敵か味方かを判別するんだって。ただ端末を紛失してる場合に備えて常に誰かがカメラで監視してるから向こうから開けてくれることもあるよ。」



・・・まぁ、目視の時は本人かどうか調べるために網膜、指紋、声なども同時に調べられるけどね。


昔厄介な出来事があったから仕方ないけど、正直めんどい。

だから端末は無くさないように気をつけないと。



「エミィさんは気づいてますかね。」


「んー、アイツも常に見てるわけじゃないからなー。でも行く前やけにソワソワしてたからモニター前に張り付いてんじゃない?」



ーーガコンッ!



そんなことを言ってたら巨大なゲートの横にある壁に扉が出現した。

扉が自動で開き、中はクリーンルームのようになっている。



「・・・なるほど、数人規模ならここから出入りもできるのですか。」


「まぁ、歩いてきた人のためにあんな大扉開けるのも無駄だからな。」



・・・あの大きなゲートを通るの結構好きなんだけど。


仕方ない、今日は諦めよう。


バレないようにため息を吐きながら小さな扉から壁の内部へ向かう。

入ると後ろの扉が閉まり、精密な検査が開始された。


この後血液検査などもあるので少し憂鬱だ。

だって解放されるまでが長いんだもん。


途中、エリスと検査の過程で別々に分かれることになるので、第八ゲート内部にあるカフェで集合しようと伝えておいた。

本来は内部ゲート管理職員専用の休憩スペースだが、検査待ちの隊員たちにも解放されている。


利用したことないけどね、検査終わったらすぐ帰るし。


だから来るのは今回が初めてだったりするのだが、



・・・どうしよう、めっちゃ緊張する。



元々カフェとかオシャレっぽいところは一人で行かないし、一人でご飯食べるなら家派な俺にとってカフェで人を待つなんてレベルが高い。


でも待ち合わせしてるのでバックレるわけにもいかず大人しく店内へと入った。



店内は落ち着くコーヒーの匂いが漂う。

壁にダーツ、広めのスペースにビリヤードやカラオケなどの娯楽設備が置いてあり、邪魔にならないクラシックな音楽が流れていた。


今は休憩時間から外れるため人は少なく、席は選び放題。

なので俺は人目に付かない壁際の席へとそそくさと向かった。



「・・・ふぅ。」



端っこの壁際にあるこの席は入り口との間に観葉植物が置いてあり簡単には見えないようになっている。


・・・これなら誰か来ても見つかることはないだろう。


ようやく落ち着いてきたので注文する為のタブレットにコーヒーと付け合わせでアイスを頼んで待つ。


少し待つと豊かな香りと硬すぎず程よく冷えたバニラアイスが運ばれてきた。

若干店員から「あれ? いつの間に。」って顔をされたのは秘密。



「・・・ここではエリスさんが来た時見つけられないじゃないですか。」



ーービクッ



甘いアイスを食べて、コーヒーを飲んでいたら急に後ろ側から声をかけられ普通にびっくりした。


後ろを見ると呆れた様子でこちらを見つめるエミィさん。

あれ、仕事中のはずでは?



「普通待ち合わせの時は入り口から見つかりやすい場所の方がいいでしょうに、座っても?」


「・・・うん。」



なんかぐちぐち言いながら目の前を座っていいのか聞かれたので許可を出す。わざわざ聞いてくるところは真面目だね。

ちなみに彼女の指摘は右から入って左に抜けてるので全く聞いてない。


まぁ、俺が適当にうんうんって相槌打ってるだけのことは気づいてるはずなのでただ言っときたいだけかな。



「てかエミィ、お前仕事中じゃね? 仕事しなくていいの?」


「あなたにだけは絶対に言われたくないです。」



そりゃそうだ、仕事中堂々とサボってる俺に言われるのはムカつくよね。

でもここいう性格なので我慢してもらおう。


彼女は一度ため息をつく。



「・・・他の方に任せてきました。サボりじゃないですよ? むしろ「ようやく休憩してくれるのですか。」って向こうが半泣きでしたから。」


「休憩で休まないとか馬鹿じゃん。」



ダメだこの人。

何で俺の周りには仕事が大好きな連中しかいないんだろ。

あ、俺がサボろうとするからかな?



「普段はしっかり休憩とってますからその言葉は撤回してもらいたいですね。」


「え、じゃあ何で今日は?」



俺がそう聞くとエミィは露骨に視線を泳がせた。



「・・・え、えっと、いや何というか、そ、そんな気分じゃなくて、ですね。」



・・・ん?


ふむふむ、普段からしっかり休憩とってる人がどうして休憩を取らなかったのか。

別に急用の仕事が入ったなら堂々とそれが原因だと言えるはずなので別の理由だと伺える。



そしてこいつが気にかけてたことといえば



「・・・あ! エリスが試練を突破できるか不安で休めなかったのか!!」


「どうして人が隠していたことを大声で叫ぶんですか!?」



頭にピーンって来ちゃったからつい。

いやだって謎が解けると気持ちいいし、共有したくなるじゃん。


周りに人は少ないが、全くいないわけではないのでカフェ内の視線がこちらへと集まる。

その視線を受け、エミィは縮こまって席の奥へと身を隠してゆく、元々背が低いのもあるのでしっかりひとつひとつ席を見渡さないと気づかないだろう。



「悪かったよ、もう叫ばないから出て来てくんね?」


「一つも信用してませんが、引きこもる気もないので出て来ます。」



そう言って彼女は席の真ん中に座り直す。

若干耳が赤いので恥ずかしかったらしい。


こいつって結構シャイだよな、、、。



「あなたには言われたくないです。」


「・・・俺ってそんなに口緩い?」


「顔でわかります。」



よかった、口から漏れた訳じゃないみたい。


・・・いやなんで顔見られてバレるんや。



「にしても休憩できないほど心配だったとか、あの短時間でそんなに仲良くなったの?」



ニヤニヤと茶化しながら聞くと思いっきり睨まれる。

なので少し真面目にやろう。



「・・・何度も心が折れて立ち直れなかった人を見ています。心配するのは当然ですよ。」


「だからこそ、ゲートの管理者であるお前達は人との接触を減らしてんだろ。・・・なのに今回はどういう風の吹き回しだ?」



そう、本来であればゲートの管理者である彼女達は隊員との接触を制限されている。

なぜかというと、彼女達は味方を切り捨てる判断をしなくてはならない時がある為だ。

だから、会うのは生存確率の高いベテラン隊員が多くなり、新人などの入ったばっかの隊員には姿を見せることは滅多にない。


すると彼女はまな目を逸らす。



「お前まさか、、、。」


「い、いえ、だって仕方なくないですか? まさか副隊長に任命されているのが新人隊員だとは思いませんでしたし、あの滅多に人といないことで有名な暁月隊長といるのです、気になりますよそれは!!」



なんか逆ギレされた。

でも言いたいこともよくわかる、確かに新人が副隊長になってるだなんて思わないよな。

黒犬は編隊条件も独特だから入る人は滅多にいないし、現状でも俺を除いて二人だけだしね。


てかまって、俺ってそんなに人といない?

なんかぼっち拗らせたやつみたいじゃん、失礼な。



「うぅ、それなのエリスさんは新人で、飛び級で副隊長になったって話なのでそれは気になって話しかけますよ。そしたら想像よりいい子だったんで愛着も湧きます!!」



・・・アイツって案外人たらしなのかな。


なんかもう夏希にも気に入られてるし、エミィも結構入れ込んでるのを見るに天然かもしれん。


まぁでも変な理由じゃなさそうだ。



「なるほど、シャイで仕事人間だから、プライベートな友達が全くできず、久しぶりに仲良くなれそうな子が来てくれたのに初任務で立ち直れずゲートに来なくなったら寂しいって訳だな!!」


「うにゃあーーーーーーーー!!」



今日一番の爆音を聴いた気がした、、、。



・・・・・。

・・・・。

・・・。




「・・・何してるのですか?」



ようやく検査が完了したエリスが観葉植物の影からヒョコッと顔を出した。

その顔は言わずとも「何してるんだ」と表している。

なるほど、これが顔を読むってことか。



「お、よくこの席にいるって気づけたね。」


「それはまぁ、あれだけ大きな声が聞こえれば。・・・叫び声が廊下まで聞こえてましたからね。」



え、そんなに響いてたの?

確かに俺でもビビる声量だったし、声も高いからよく通るのか。


ちなみに叫んだ張本人は再び端の方で丸くなっていた。



「・・・あまり揶揄うと嫌われますよ。」


「反応が面白くてついね。・・・座れば?」


「それでもですよ。・・・失礼します。」



別にサッと座っちゃっていいのに、、、ま、そこは慣れか。



「何飲む?」


「アイスコーヒーお願いできますか。」


「はいよー。」



とりあえずタブレットでエリスの分とエミィの分(何がいいかは聞いてない)と自分のおかわりを注文しておく。



「・・・平然と二人で並んで座るのですね。」



頼んだコーヒーがテーブルに置かれ、店員がさった後にエミィが目を細めながらそう呟いた。


・・・? 別に並んで座るくらい普通じゃね?


知らない人でも無いし、付き合いで言えばエミィより俺の方が長い。

なら知ってる人の隣の方が気楽じゃん。


それなのに何故か隣のエリスが慌て出した。



「い、いえ! エ、エミィさんとお話しするのに隣だと話しずらいかなと! た、隊長は、ほ、ほら空気みたいなものなので!!」


「うん、そこはかとなく俺に失礼だね。」



言うに事欠いて空気は酷くね?

前向きに捉えるとそれだけ気を遣わなくて平気になったとも言えるけどさ。



「あ! す、すみません、、、。」


「ん? 別に気にしてないよ。」



・・・むしろ何でそんなに慌ててるのかが気になる。


でもそれを聞くとめんどくさそうな感じがしたので深く追求しないことにした。



「・・・コホン。すみません、エミィさん取り乱しました。」


「すごい面白かったのでもう一回お願いしていいですか?」


「絶対いやですよ!?」



あ、なんかエミィが揶揄う側に回ってるの初めて見た。

確かにエリスもいい反応するよな、俺も今度やってみよ。


エミィはそんな彼女の反応に対して優しく微笑む。



「元気そうで良かったです。改めまして、お帰りなさい。暁月隊長、エリスさん。」


「おう、ただいま。」


「た、ただいま。」



最近の黒獣は生還率が高いが決して殉職者が出ないわけではない。

強くて、長く勤めている隊員でもあっさりと次の日会えなくなることもあるのだ。


その為、壁外任務に行った後はこう言った挨拶が主流になっていた。

強制されてる訳ではないけど一種の願掛けみたいなものだろう。


ちなみにそのことはエリスも知っているので少し噛んでたけど挨拶を返した。

まぁ、家族でもない人にただいまって返すのは気恥ずかしいところがあるよね(個人の考え)



「あ、そうだエミィ少し聞きたいんだけどさ、今日の夜って暇?」


「今日ですか?」



エミィは少し考えるそぶりをした後、顔を歪めた。



「んー、仕事が溜まってるので正直厳しいですね。何かあるのですか?」


「あ、じゃあ仕方ないか。いやさ、折角だから今日の夜にエリスの歓迎会兼初任務達成祝い兼クロちゃんの送別会をやろうと思ったんだけど、忙しいなら、、、。」


「行きます。」


「え? いや無理なら、、、」


「絶対行きます。」



流石に忙しいなら仕方ないとは思ったけど、声を被せられて断言された。

何その断固たる意思。

主役であるエリスも複雑な表情、来てはもらいたいけど無理されるのも申し訳ないって感じかな。



「あの、エミィさん別に無理しなくても。」


「いえダメです。こう言うのに一度でも参加を見送らせるとなぁなぁで交流がなくなって行くんです!!」


「・・・ちなみに経験談?」


「もちろんです!」



そこは力説するところじゃないと思うけどね。

なるほど、普通に自分のためだったわ。一瞬でも優しいなーって勘違いしたのが恥ずかしい。(いやまぁ、優しくはあるんだけどさ)



「そ、それに狗廊さんも来るのですよね?」


「まぁね。」


「それなら尚のこと断れませんよ。」



横にいるエリスからソッと耳打ちされた。


「・・・えっと、どうして狗廊さんがいると断れないのですか?」


「あー、エミィにとってクロちゃんは憧れの存在だからなー、多分それ目的。」


「それって恋愛感情の方ですか?」


「いや違うよ、ただの憧れ。それにクロちゃん結婚してるしね。」


そう返すとエリスは目を見開いて驚くが、すぐに納得した表情になった。



「・・・確かに狗廊さんの年齢であれば結婚しててもおかしくはないですね。」


「それだと俺もそろそろ彼女いないとおかしいんだが?」



クロちゃんは26歳で俺は23歳。

出会いもないのに後3年で結婚とか想像できないのだが。


そんなことを話してたらエミィは突然立ち上がり、



「ならこんなことしていられませんね。今すぐ仕事を片付けて来ます!!」



そう言い残してサッサとカフェを後にした。


元気だなー。



「・・・。」


「・・・あの、隊長。」


「ん?」


「ちなみに何ですけど、狗廊さんって誘ってみたのですか?」


「いや全く。」


「・・・・・エミィさんが落胆するような事にならなければいいですね。」



エリスが遠くを見ながらそう呟く。

そうならないことを祈ろうか。




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