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イクス

ーー



本日ものんびり始業時間ちょい過ぎに出勤した。



「クロちゃんおはよ〜、相変わらず早いね。」


「おはようございます暁月隊長、暁月隊長は相変わらず遅いですね。20分の遅刻です。」



いつものように事務所に出勤すると、すでに仕事を始めていたクロちゃんが相変わらずの口調で出迎えてくれた。


と言ってもクロちゃんの黒犬支部出勤も今日で最後となる。

今やってる仕事も最後の引き継ぎ用に要点をまとめているのだろう。

本当にありがたい。


すると、最近はいつもみる社畜がいないことに気づいた。



「あれ、白薙はまだきてないの?」


「そういえばそうですね。いつもは私よりも早いのですが、・・・何かあったのですかね?」



クロちゃんは時間を気にして少し心配そうにしている。

おぉ、クロちゃんがここまで気にかけるようになるとは、結構気に入られてるみたいだな。

まぁ、仕事はできるし文句は言わないし何より前向きだからな、俺とは正反対だろう。



・・・まぁ、彼女が遅刻している理由はなんとなく察してるけどね。



そうやって自分のデスクに向かい、仕事を始める用意をしていると、廊下から慌てた足音が響いてくる。



バシューー



開かれた事務所の扉からは少し髪が乱れている様子の白薙が入ってきた。



「す、すみません! 遅れました。狗廊さん、本日もよろしくお願いします!」



そう言って自分の席に荷物を置きながら仕事を始めようとしている白薙をクロちゃんは優しげに見ている。



「大丈夫ですよ、気にしないでください。本日は軽い引き継ぎで終わりですから。・・・それよりももっと肩の力を抜いて下さい。ここにはあなたを置いていく方なんていませんから。」



軽く俺の方を見られる。


え、何置いてく?


置いてかれるのは俺の方ですが何か?

すると、白薙も俺を見て軽く息をつく。



「・・・そうですね、すみません気を使わせてしまいました。隊長、今日もよろしくお願いします。」


「お、おん?」



いや、置いてくってなによー、気になるんだけど?

後、多分遅刻した理由は部屋の片付けに手間取ったからだと思うよ。


もし、実力の話なら、もう追い抜かれてる気がするんだけどぉ。


クロちゃんは自分の席で笑いながら俺と白薙をとても頼もしそうな表情で見つめるのだった。




ーー




まぁ、気を張らせる原因がクロちゃんだった気がするのは置いといて。


白薙が出勤したあとはいつも通りの光景に戻る。


白薙とクロちゃんが引き継ぎ業務を行なっている間に俺は棚にしまってあった資料を読み耽っていた。


だってやることないんだもん。あまり、他の部隊の仕事を手伝いに行く気分でもないし。

そう思いまったりとした時間を過ごしていると、一区切りついたのかクロちゃんが俺のデスク前に来た。



・・・っふ、いいってお礼なんて。



「そういえば今日の朝、隊長から暁月隊長宛に仕事の依頼を渡されましたのでどうぞ。」


「あ、いらないです。持ち帰って下さい。」


「・・・ちなみに結構大事な案件らしいので速やかにお願いしたいそうです。」



・・・っぐ、ってことは無視するとまずいのか。


いや、仕事ならやるけどさ、どうせ壁外じゃん?

もっと心の準備がしたい。



「ずっと、体力を温存されてたみたいですし、心の準備は充分では?」


「心を読まないでくれない?」


「顔に出過ぎです。」



そんなにわかりやすいかな?


ポーカーフェイスを常に心がけているつもりなのにな。

いや、きっとクロちゃんが鋭すぎるだけだよね。


仕方ないので渡された手紙を開く、


『暁月


第八壁外区域に設置してあった観測機が昨夜から誤作動を繰り返している。異常がないか見てこい。どうせ暇だろ。 

                        

                    風霧』


「・・・ふん!」



手紙を真ん中きら綺麗に引き裂いてやった。後悔はしてない。


ったく、人が暇だと決めつけやがって俺が常に暇してると思ってんじゃねぇぞ!



「いや、暇でしょう。」


「お願いだから心読まないで。」



クロちゃんはため息を吐きながら眼鏡を押さえている。

全く、クロちゃんはわかっていないな。

これはしっかりと俺が説明してあげないといけないか。



「いいか、暇というのはその時間にやることがないことを言ってだな、俺みたいな時間があるけどゲームしたり、本を呼んでることは決して暇では・・・。」


「今は仕事中です。仕事以外のやることがないなら暇ですよね? ならとっとと行ってきてください。」



にべもない。


途中で遮られて目の前に先ほど破った手紙のコピーを置かれた。

このやろう、俺が破り去ることを読んでいやがったな。

腕時計を見ると今はAM9:00を指していた、今から出発して向かえば夕方くらいには帰れるかな。



・・・仕方ない、嫌だけど行くしかなさそうだ。



デスクを立ち、コートを手に持って事務所を出ようとすると。



「一人連れていくのを忘れてますよ。」



クロちゃんが顎で後ろを示す。

そこにはキョトンとした白薙がいた。



「・・・私もでしょうか?」



白薙は疑問を返した。

それは当然だろう、彼女はまだイクスも持ってないしね。



「引き継ぎはもうすることありませんし一度壁外へ行ってみてもよろしいのでは? 経験しておくに越したことはありませんよ。」



クロちゃんは一度休憩をするのかコーヒーサーバーに向かう。


・・・確かに白薙の実力を鑑みてもそろそろ壁外に向かっても大丈夫だろう。


だが、それは万全の実力が出せるならの話だ。



「・・・まだ俺と白薙の連携が完璧じゃない。しばらく様子を見てからの方がいいだろ。」


「今回の任務は壁外と言っても壁近辺に設置してある観測機の調査です。危険は少ないでしょう。・・・それにいつかは経験する必要があります。それなら今するべきだと私は思います。」



俺とクロちゃんが無言で見つめ合う。

クロちゃんの言うことはもっともだ、壁外での活動、知識を得るには現場に行った方が学べることは多い。


だが、学べることの多さに比例して危険が多いことは確かだ。

対応できるかなんてわからない。



・・・いや、だからこそ危険な任務に赴く前に経験しといた方がいいのか。



「・・・ハァ。本当は任務とか関係なしにつれてこうと思ったんだけどな。」


「その際は装備が制限されますし、帰還後の検診も有料になりますよ。無駄な予算を減らすことを考えるのは文官の仕事ですので。」



相変わらず徹底してるなー。


チラリと白薙を見ると、彼女は訳が分かっていないのか見るからに困惑を浮かべていた。

まぁ、俺とクロちゃんも淡々と話してはいるが決して穏やかな雰囲気じゃないしな。


というか、こう言うのは当人の意思が大切か。



「・・・行ってみるか?」


「えっと、付いていっても大丈夫なのでしょうか?」



俺のせいで明らかに警戒しちゃったね。

大丈夫かどうかって言われると正直わからん。


でもまぁ、



「さっきは変にビビらせたが、大丈夫だ。・・・守ってみせる。」



自分にも言い聞かせながらそう告げた。

俺はもう隊長だ、今度からは俺が人の命を預かる立場になったんだ。

特段危険認定もされてない壁寄りの壁外で隊員1人も守れなくてどうする。



「・・・は、はい。ありがとうございます。」



何故かそう告げると顔を逸らされた。

え、それってどっちの意味? 


少しイタイか?

いやイテェな、なんか恥ずかしくなってきた。



「では私もついて行ってよろしいですか? この前は無理矢理連れてかれただけなので実際自分の目で見てみたいです。」



あ、そう言えばそうでしたね。


この前は美島のやつに誘拐されて壁外に連れてかれたので周りを確認する余裕などなかっただろう。

助けた後も他の黒獣部隊が直ぐに迎えに来たから、息吐く間も無く帰ったしね。


まぁ、運が良かっただけで本来あの場所は厄介な奴がテリトリーにしてる筈だ。


それを思うと黒獣が早めに迎えにきてくれて助かった。



「では、留守番は私がしておきますので行ってきてください。・・・ではお二人とも、ご武運を。」



そう言って俺と白薙はクロちゃんに送り出される。

これが、黒犬部隊としての、初任務となったのだった。




ーー




俺と白薙は車に揺られながら、第八番街の壁面に設置されている『第八ゲート』へと向かっていた。


今は俺が運転しながら人通りの少ない外周区を走っている。



「いやー、イクス借りれて良かったね。」


「はい、夏希さんは難色を示してましたけど流石に壁外に行くのならと言って持たせてくれましたね。」



夏希はせっかく自分が作ってるのに別のイクスを使われるのは少し嫌だったらしい。

といっても今作ってるのはまだまだ調整が必要らしく、実戦に投入するには時間がかかるだろう。

それまでは量産型のイクスを使うしか無いよね。



・・・なんか少し細工加えたみたいだけど。



「そういえば、白薙は初の実戦か。・・・一応イクスのおさらいでもしとく?」



念の為そう尋ねておく。

白薙は実技のみならず筆記でも優秀な成績を収めているので基礎知識はあると思うが初めての壁外だしな。



「・・・そうですね。お願いできますか?」



白薙は素直にそう返した。

相変わらず真面目だな、もう少し否定とかしてもいいんだよ?


・・・いや、否定されても困るんだけどさ。



「じゃあまず、イクスって何?」



俺がそう尋ねると彼女は即座に返した。



「イクスとは、異物戦における人類が唯一対抗できる最終兵器です。

他の一般兵装や兵器では傷一つ付けることができない異物の外骨格を破壊することができます。」



数十年前、異物が現れた際、人類は勿論抵抗した。


だが、どれだけ強力なミサイルや爆弾を用いても異物を倒すことはできなかった。

そのため、人類は必死になって異物の足止めを行い、何とか対抗手段を探そうと躍起になっていたのだ。


それからしばらくして、ある人物が異物に対抗できる未知のエネルギーを発見した。


その力は異物が現れた際に生じる次元の切れ間から漏れ出て、今や世界中の大気に混じっている。


しかし、その力は異物のみならず人間にも馴染み、大きな影響を及ぼす。

異物が現れた後に生まれた子供達は特殊な力が芽生え、使える様になったのだ。


それが『魔法』である。


大気に満ちたエネルギーを見つけた人物『不楼 禅』彼はその力を『魔素』と名付けた。


魔素は人に混じり、生まれてくる子供に作用した。

魔素を溜め込む容器となる器、『魔核』を宿して生まれてくる様になる。


そして、その大気中に漂っている魔素を凝縮し、兵器としたものが『イクス』である。



「異物の外殻は魔素を纏った『魔装』と呼ばれ、あらゆる通常兵器に絶対の耐性があります。・・・ですが、魔力には弱いため、魔装に対抗するためには魔法、もしくは凝縮した魔素を使用するイクスを使用することが異物戦においての基本となります。」


「 そ。・・・まぁ通常兵器でも爆風とかの衝撃で足止めとかはできるけど魔装を壊すには魔力しかない。魔装を壊した内側なら今までの通常兵器も通じるけどね。」



魔装という外殻はあっても内側は普通の生物と何も変わらない。

そのため外装を壊した所をつけば通常兵器でも異物を殺すことはできる。

でも、イクスと言う兵器があるのにわざわざ持ち替えて戦うことなんてないけどね。



「なるほど、では爆弾系統は装備に入れても役立ちそうですね。」


「・・・役立つとは思うけど、音に反応して後から他の異物がやってくる可能性はあるからね? 魔法にも起爆系はあるんだからそこら辺は要らないと思うんだけどなぁ。」


「常に魔力が残ってるとは限りません。どんな状況でも対応できる様にしておいた方がいいですよ。」



・・・正論ですね。


確かに各人が保有する魔力量は別々だからな、いざって時魔力切れになったら困るか。



「それにしても、魔力の凝縮とはどうやっているのですかね?」



すると、白薙はイクスの性能というより構造が気になったみたいだ。


確かにどうやってるんだろうね? 


俺たちも魔力を利用して魔法を使うがそれは体内の魔核から導石を通して魔素を使用しているに過ぎない。

大気中の魔素をどうやって取り込んで凝縮してるのかは俺もわからないな。



「ま、そこら辺は俺じゃなくて夏希の専門分野だしな。でも、イクスの製造は秘匿技術らしいから教えてはくれないと思うよ。」


「そうですね。一般に普及すれば悪用されそうですから。なので、私達は異物の対処に全力を注ぐのがベストというわけですね。」



いやその通りだけど、そんなドヤ顔で言われても、、、。


君は半年前くらいまで白花だったよね?

まぁ、本人が楽しそうならいいけどさ。



「話が逸れたね。それがイクスの攻撃性能だけど、他は分かる?」


「はい、防御性能の面ですね。イクスは起動を行えば擬似的な魔装を生じさせます。それは透明であり、魔力で出来ているため動きを阻害される事なく行動できます。」



そう、イクスは起動を行うと体表を魔力が覆い、薄い膜の様になる。

これは『マジックシールド』と呼ばれていて、長いから『シールド』って略される事が多い。



「これによってイクスは起動さえしていれば異物の攻撃を数回であれば耐える事ができます。」


「そうだね、守れる回数は異物の攻撃力の高さにもよるけど魔素が存在し続ける限りシールドは維持されるから俺達は過酷な壁外で重装する必要はなくなるってわけだ。」



絶対防御ってわけじゃ無いけどね。


一度壊されると再構成まで時間かかるし、貫通力の高い攻撃だと一撃で貫かれる可能性もある。


でも、それで言ったら鎧を着たって一撃で貫かれるから壁外行動は軽装が基本となっていた。



「でもシールドにはもう一つ重要な役割があるのは知ってる?」


「・・・もう一つですか?」



そう、シールドにはもう一つ必要な理由があった。



「意味的には使用者を守る事だから同じなんだけど、1番の理由はイクスの負荷から肉体を守る事。」



俺がそこまで言うと気付いたのか、白薙はハッとした。

相変わらず理解が早いですね。



「なるほど、確かにイクスの威力は絶大です。その分使用者に負荷がかかるのは当然ですね。そのためにシールドは必須になるのですか。」


「 そ、夏希に聞いたんだけどイクスってだいぶ威力を抑えてるんだって。なぜかと言うとイクスが本来の出力で攻撃を行えば人の体なんて簡単に吹っ飛んじゃうみたいだから。」



イクスを人間が安全に起動できるのは本来の性能の5分の1だけらしい。

それを超えると使用者に過負荷となってしまうため、肉体にダメージを負わせてしまうのだとか。



「では、それ以上は使用できないと言うことですか?」


「いや、解除すれば使えるけど肉体ダメージが凄いからオススメはできない。それに出来ても解放していいのは2段階までだ。それ以上は死に直結するからな。」



イクスのセーフティーは5段階に分けて設けられている。

1段階は常に解放されているが、それ以上は自分で解除しなくてはならないのだ。


つまり、自己責任ってわけだね。



「・・・では、携行せず自動砲台の様にした方がいいのでは?」


「それも一つの案として上がってはいたけど、それだと起動できないんだって。イクスは各人が保有している魔力によって反応するみたいだから魔力が無いものにイクスは使えないらしいんだよ。」



昔は白薙の様に無人兵器として製造しようと試みた様だが、イクスが上手く動作しなかったので頓挫したみたい。


なのでまだまだ俺たちみたいな軍隊は必要ってわけだ。



そうやって話し込んでいるとようやく大きな門が見えてきた。



「・・・着きましたね。」



白薙も視界に入ったのか少し表情が強張っていた。

これからは白花時代では決して足を踏み入れることのなかった壁外に自分から足を踏み入れるのだ。緊張はして当然だろう。



でも、まだ門に着いただけ。



ここからは俺も気を引き締めないとな。



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