吸血鬼ルイゴシとベウラ
5月、時竜王の月の中旬。俺達はペリティカのある海辺の平野との間にある山地を越えた辺りにある温泉町『ユッフ』に来ていた。
泣き笛街道からは離れるが、ペリティカとオールドウィンド領最大限の都市『オールドウィンド市』とを結ぶ『風の道』と呼ばれる高原を貫く街道の出発点だ。
仕事で泥まみれ怪我まみれになる冒険者達は基本的に温泉が好き。勿論、俺達も好き!
「はぁ~っ、生き返る・・」
湯の中で寛ぐ俺。盆を浮かべて酒を飲んでる客もいた。ユッフは町としては辺境その物だが、温泉のお陰で冒険者と観光客が多く、ギルドも発達しているので仕事も受け易いし、冒険者関連の店や施設も多い。
件の『魔物復活させまくるヤツ』の調べにもう少し掛かりそうだったから、下手に動かず暫くここに拠点を構えようか? という話にもなっていた。
「・・俺の剣士Lvが今、12。ネルコの魔術師Lvも12。サンブラは格闘士はもうLv8だ。ルッカは『判定不能』だから置いとくとして・・」
7位から6位認定の冒険者になるには、一回、座学や技術の確認や補完が必要だ。メイン職以外のサブクラスも調整しないと。
このまま件のヤツを追うにせよ切り上げるにせよ、予算を作って3週間くらい修行に専念したいなぁ。
ルッカは嫌がりそうだし、サンブラも件のヤツを追う為に郷を出る形になっているから微妙なところではあるが・・
俺は乳白色の湯の中で今後のことを思案していた。
・・生き返りますね。私、ネルコ・ユシアン・ストレンジキャットは女湯の乳白色の湯の中で身体を伸び伸びさせて寛いでいました。
ユッフに来て、蛇使いの服を+1に強化するついでにようやく防寒特性も点けたのですが、何しろ今まで寒くて! もうっ、腰や首や間接が強張ってしょうがなかったですっ。
「ふぅ~」
「はぁ・・」
私の隣の岩の縁の上に置いた温泉の湯を満たした茶碗の中には羽根を消してだらしなく身体を伸ばしているタオルで髪を纏めたルッカがいました。
サンブラちゃんも温泉で開放的になって首にタオル掛け、上半身は人間で下半身はお馬さんの『馬人体』に変化して、洗い場を裸で鼻歌を歌いながらポクポク歩き回っています。
・・まぁ子供ですし、タオルと湯気で良い感じにカバーできてるからよしとしましょう!
「上がったら、鱒の『スシィ』と地鶏のソイソースフライ食べましょうか?」
「ネルコにしちゃわかってんなっ。オレ様はビール飲むっ!」
「じゃあ私とジンタ君はルートビアかなぁ」
「またルートビアかよ、お前ら。甘ったるいだろっ?」
「ルートビアも御当地次第なんですよっ?」
「ジュースだぜっ」
私達はそれから暫く女湯でルートビア論争をしていました。
丸2日、風呂の無い安宿に泊まりつつ、近くの安い温泉に浸かっては上がってまた浸かる・・というループを繰り返していたが、しまいにルッカとサンブラから「飽きた!」「ケンタウロス族の使命はお風呂じゃないっ!」とクレームが入り、俺達はユッフのギルドでクエストを探すことになった。
俺とネルコは装備周りに注ぎ込んだから金欠気味になってたしな・・
「『ベルモント岳』がマズいことになってるのよ」
ギルドの担当者は声を潜めた。
ベルモント岳はユッフの北側の山地だ。特に高くも険しくもなく、ロブセン山のような立派な山じゃなかった。観光地でもない。
「あそこ、なんかあったかな?」
「素材の収集効率がよくてね。金欠の新米やサポーター、未登録で活動してる素材業者なんかの穴場になってるのよ」
「では何か、山に『強い魔物』が出た。ということでしょうか?」
「やってやろうじゃん?」
「蹴る!」
「まぁ、平たく言えばそうなんだけどね、状況がちょっと・・貴方達、ロブセン山の『ネクロマンサー退治』をしたんでしょ? ちょうどいいと思うのよ」
そう言ってユッフのギルドの担当者は依頼内容を話しだしたが、本当に『状況』が良くなかった。
調べによると、事の発端は10日程前。何者かが、ベルモント岳にある『吸血鬼兄弟』の封じられた祠だか廟だか洞窟だかの封印を破壊!(またこのパターン! 絶対『アイツ』っ。会ったことはないが!)
力が戻らない内にすぐ暴れてくれれば、ギルドもやりようがあったが、この兄弟はどうやら賢かった。
まず、貧乏人や欲深い者が多いベルモント岳の素材収集者達の野営地で、自分達と一緒に埋葬されていた財宝の一部と引き替えにと『交渉』を始めた。
要求は素材収集者達の中でも『間抜け』と判断された者達や『態度が悪くて気に入らない』と判断された者達を密かに『餌』として提供すること。
勿論、回復すれば別の土地で狩りをすると『約束』をしていた。
7日程の『密かな食事』で吸血鬼兄弟は回復! だが当然約束が守られるはずもなく、ベルモント岳の野営地は一夜で兄弟に乗っ取られた。
異変の報せに、かつて出身の聖女がこの吸血鬼兄弟を封印していたロブセン修道院からも2人の修道女が派遣されたが昨日、連絡を絶っていた。
大部隊で挑めば遁走される可能性が高い。
アンデッド専門等の精鋭冒険者の急な手配は難しく、ユッフのギルドは対応に苦慮する状態になっていた。
結論から言うと引き受けることにした。時間は無さそうで、俺達は一旦『ネルコ城(ネルコが持ち込んだ家具等が設置された空間名)』と化した宿屋の一室に戻りざっと打ち合わせになった。
「既に先遣隊4組が活動しているようだから合流すれば詳しい状況はわかる」
「野営地は意外と広いですね。ほぼ『郷』と言ってもよいでしょう」
「非合法な取引の場にもなってた、つーから専従の住人も結構いたようだなぁ」
「敵が多いのか?! んっ?」
「吸血鬼の下僕が大量にいるのが問題だ。・・取り敢えず、移動は一番近い山の反対側の別荘地の転送門(テレポート装置)を使おう。経費で落とせるっ!」
「お~っ!」
「プロっぽいですねっ」
『経費で落とせる』ことにちょっと盛り上がってしまう俺達だったが、さっそくユッフの転送門から出発することになった。
転送門でのショートカットのおかげで俺達は昼過ぎにはベルモント岳の野営地近くまで来ることができた。
先遣隊の内、別荘地から一番近い面から野営地を監視している隊と合流した。
「吸血鬼兄弟は兄はルイゴシ、弟はベウラという名前だ。夕方から明け方にかけてベウラは積極的に野営地内や周囲を彷徨いて活動するが、兄のルイゴシは魔除けや神像なんかを破壊した『教会』に籠りきりだな」
見張りのパーティーのリーダー格が言った。
「わざわざ教会に」
「皮肉だろ? ベウラのLvは20程度で兄は推定だが20台中盤だ。ベウラはパワー型の『下位吸血鬼』を3体護衛に付けてる。バンパイアサーバントにされた住人や非戦闘員のサポーターや素材収集業者は合わせて100人くらい、ってとこ」
「非戦闘員だけですか?」
「連中、回復してからは『選り好み』していて、弱者は吸い殺さず、まともな眷属にもしないようだ。逆にお目に叶ったヤツらは吸い殺されるかレッサーバンパイアにされてる!」
「グルメかよっ、ケッ!」
「待って、バンパイアとレッサーバンパイアとバンパイアサーバント???」
似た名称の連打に混乱するサンブラ。
「何にせよだ。明日くらいにはアンデッド退治の専門家が来るそうだから、俺達ゃその中継ぎよ。見張りの手は足りてるからアンタらは近くのまだ補強の済んでない祓い所の補強を」
「ロブセン修道院から派遣された修道女というのは?」
少なくとも半アンデッドのバンパイアサーバントはまだ助かるかもしれないというのもあって、おざなりなスタンスにちょっとムッとしてしまい、話の中途で切り返してしまった。
「んん? いや、新米もいいとこだったよ。不注意でさ、タイミングが悪くてちゃんと話しできなかったてのもあるんだが、2人だけで、ふわ~っと野営地に行っちまってさ。それっきりさ」
嫌な予感しかしないっ。
「お名前は、なんという方達でしたか?」
「ええっと、ミリーちゃんとホムムちゃんだっけな?」
「まぁ」
あ~・・
「あちゃー、だなっ、ジンタ!」
「誰だ??」
俺達は腹を括るより他無くなった。
俺達は別の面から野営地を監視していたパーティーとも協力し、ミリーとホムムを捜しながらバンパイアサーバントの頭数を減らす作戦を決行することになった!
日が傾きだして完全な吸血鬼達が活動を始めるまであと3時間程度、急がないとっ。
「グルルッッ」
野営地の物陰から、武器を手にバンパイアサーバント達が出てくる。フレッシュワイト同様、死んではいないので弱体化はしても昼間でも活動できる!
しかも実体にあるから表面を浅く『撫で斬り』するだけじゃ倒せないから厄介だ。
非戦闘員扱いでもサポーターや素材収集業者はただの村人じゃないしな。
「やるかっ」
俺はユッフのギルドで借りてきた「鉄パイプ+1」を霊木の灰で強化して構えた。
大枚はたいて『鉄のロングソード+1』を買っていたが、殺してしまうから使えないっ。くぅ~っっ。ネルコじゃないが、悔恨だっ!
「暴爆ぅっ!」
「豪脚わっしょい!」
「よっ、ほっ!」
俺とルッカとサンブラは打ちのめして倒し、ネルコは魔力を温存してダンシングロッドを足元に投げ付けて次々とすっ転ばしていった。
昏倒させたバンパイアサーバントに霊木の灰をブッ掛けて浄化し、それをルッカがジャックナスに運ばせて野営地の端の2ヵ所で控えている監視組のパーティーに引き渡す。
これを繰り返して2時間半っ! 50体はバンパイアサーバントを浄化しミリーとホムムの捜索を続けたが、2人は見つからない!
残るは教会と『交換所』と呼ばれる2階建ての施設、あとは細々とした小屋もそれなりに・・
「っ!」
2つのパーティーが控える方から撤退信号弾が相次いで上がった。
「ジンタ君っ! どうします? 今日の活動のタイムリミットではありますけどっ」
「最後に交換所を見よう。サーバントの残数からすれば囲まれても離脱くらいはできる。吸血鬼本体がいた場合、初撃でカマして即、撤退だっ」
「うっしっ、やるかぁ!」
「あたし、浄化の歌も歌えるよ?」
俺達は信号弾で捜索続行を監視組に伝え、交換所に足早に向かった。
バリケードを『烈光突き』で破って俺達は交換所に突入した!
「ミリーっ! ホムムっ! ジンタ・アイアンタートルだっ!! いるかっ?!」
「ルッカ様もいるぜぇっ!」
「ネルコもでーす。いらっしゃいますか?」
「誰か知らんけど、サンブラもいるぞっ!」
やはり内部に潜んでいたバンパイアサーバント達を蹴散らしながら進むっ。悪いが回収している余裕はない。昏倒させるまでダメージを受けたらすぐには復帰はできないだろう。
交換所のマップ自体はギルドの資料で把握している。一室一室は探してられないから、一階と地下室全体に声が響くように駆け回る。
すると、
「光破魔法っ!!」
聞き覚えのある2人の女の子の声と共に床が弾け飛んだ。覗き込むと、埃やら土やらでまみれたピンク髪のミリーと前髪長めのホムムが、狭い雑然とした通路のような所からこちらを見上げていた。
「ジンタ様ぁっ!!」
「神よぉっ!『弟くん』も神でしたぁっ」
弟くん、て・・。
ともかく俺の植物魔法の蔓で一階まで引っ張り上げた。
「2人ともバンパイアになってねぇだろなぁっ?」
霊木の灰を容赦なくブッ掛けてるルッカ。
「わぷっ?」
「ゴホッ、ゴホッ! なってませんよっ? 逃げ回ってる内に建物の改修前の作業通路の隙間? みたいなとこに入り込んじゃったんですよぉっ」
バイタリティもだが、運も強いっ。ネルコがポーションとチョコバーを渡してやると、ポーションよりもチョコバーを先に貪るように一瞬で2人は食べきっていた。糧食は尽きていたようだ。
「よしっ、目的達成だっ! 吸血鬼本体は専門家に任せてズラかるぞっ?」
「おーっ!」
俺達は脱出しようと、手近な窓に向かおうとすると、
ザァアアンンンッッッ!!!!!
『血の刃』が俺達に放たれっ、俺はミリーとホムムを抱えて跳び、ルッカはピクシー念力ワンド+3でネルコを浮かせて一緒に飛び退き、サンブラは自力で素早く回避した。
「・・散々暴れてそれはどうなワケぇ? まだ『クソ太陽』が残っててチリチリすんのに、起きてきちゃったのにさぁっ」
2階に続く交換所の階段を、3体の屈強なレッサーバンパイアを引き連れた、やたら胸元をはだけさせて着崩した貴族服を着た顔色が悪く犬歯の長い男が降りてきた。
4者ともフード付きのコートを羽織っているが、露出した部位に夕陽が当たると焦げていた。
吸血鬼本体っ! おそらく弟のベウラっ。
「ルッカっ! 全力っ!!」
「合点っ! ・・っっ爆破魔法っ!!!」
ルッカは魔法石の欠片1つと霊木の灰3つを対価に光属性の大爆発を起こした。
ドォオオオンンンッッッッ!!!!!
激しい爆発の中、俺は抱えたミリーとホムムとサンブラと共にまだ夕陽の残り建物の外へ飛び出したっ。
・・交換所の外へは出られましたが、どうやらジンタ君とサンブラちゃんとはぐれてしまったようですっ。
「ドン臭ネルコっ、モタモタするなっ! 電撃魔法っ」
ルッカは魔法で死なない程度に追ってきたバンパイアサーバント達を感電させて撃退してゆきます。
手下のジャックナスエリート達も、今回は『|警棒+1(光属性付与)』を二刀流で装備して護衛しています。
いやしかしっ、
「『ドン臭ネルコ』って言うのホントやめて下さいっ! ルッカっ」
「効いてる効いてるぅっ! ジルっ!!」
あったまくるなぁっ! ・・まぁ、とにかく! 私はルッカ程魔法を連発できないし、魔法石の欠片を温存したいので、ダンシングロッドを霊木の灰で強化して無理せず寄ってきた相手を打ち払って応戦していました。
サーバントはかなり数を減らしているので、そろそろ『底』が見えてきた感もありました。
「ジンタ達も動いてるはずだっ。日が落ちる前に、監視組と・・火炎魔法っ!」
気配を察して近くの建物の屋根の上に炎を放つルッカ。底にいた既に身体をあちこち損傷していたフードを被ったレッサーバンパイア1体は焼き尽くされたけど、側にいたフードを被った無傷の吸血鬼は身を翻して避け、通りに着地しましたっ。
「この時代の子達はつまんなくてさぁ、眷属にする価値の無いのばっかりだったんだよ。ま、お陰で『渇き』は癒えたけど」
ドサッッ!!! 吸血鬼はフード付きコートの中から身体に穴を空けられて干からびた冒険者やサポーター達の死骸を数十体を放り出したのですっ。
「なんということをっ!! 許せませんっ!!!」
「・・あ、ごめんね? ちょっと『影キャのモブ子ちゃん』は黙っててくれる?」
なっっっ??!!!!
「『モブ子』下がってろ」
ルッカまでっ。あうあうっ・・・日記! 日記に書きたいっ、この気持ちを日記に書きたいですっ!!
「ボクはね? ベウラ! 愛しいルイゴシ兄さんの、『完璧な弟』さっ!! あはっ」
爪で自分の首を裂いて出血させた血で作った大鎌でルッカに襲い掛かるベウラ! 茄子達は瞬殺っ!!
「ルッカ! わっ?」
バンパイアサーバント達が私に殺到っ!
「モブ子は適当に『喰っていい』ぞっ! ボクはこの子を眷属にするっ」
「喰われてたまりますかっ」
「お前の眷属とかキメぇええっ!! いっ、やっ、じゃーいっっ!!!」
ピクシーナックル+3を装備して応戦するルッカっ。私達はそのまま乱戦に雪崩れ込みました!
俺は鉄パイプ+1は交換所で手離してしまったから、サーバントの1人が落とした折れた草掻きフォークの柄、まぁ『長い棒』を霊木の灰で強化して獲物にしていた。
だいぶ減った感触もあるがまだまだ涌いてくるバンパイアサーバント達を撃退する。空が暗くなってきたから力は増していた。
「ネルコとルッカも外には出られたはずっ! 俺達は俺達で撤退しようっ」
撃つ間がなかった『任務成功』の信号弾をグレードガンで上空に撃つ!
「お二人大丈夫ですかねっ?!」
『お仕置きハンマー』を振るっているミリー。
「ネルコさんの方はちょっと心配かも・・」
『お仕置きモーニングスター』を振るっているホムム。
「ネルコは『被ってる帽子』が強い! 大丈夫だぞっ」
「春風の帽子かぁ」
野営地の大きな通りに出た。サーバントの数も目に見えて減った。倒したと視認した範囲で既に80体以上昏倒させてる。
日が沈むまでギリギリ時間もある。監視組は持ち道具を豊富に持っているし、祓い所までは持ちそうだな。
ズズズズ・・・ッッ!!!!
悪寒を感じて振り向くと、夕陽に焼かれる逆巻く血溜まりが涌き出し、そこから無数の血の蝙蝠達が噴出し、手近なミリーを巻き上げて『教会』へと連れ去っていった。
「なっ?!」
「ミリーぃっ!」
「ヤバいぞジンタっ?!」
「・・くっ」
迂闊さもだが、次の台詞を吐かざるを得ないのが無念だった。
「俺、1人で教会に行く。って言いたいとこだが実力が足りない。手伝ってくれるか?」
「当たり前だぁっ!」
「勿論ですよっ、弟くんっ! ミリーは相棒っ」
俺達は持ち道具を確認しつつ、教会へ走った。
バンパイアサーバントはあと7体っ! けどもう日は落ちようとしていますっ。ルッカは上空で吸血鬼ベウラと激しく交戦していました。
「いいなっ! 君っ。いいなっ! どんな血の味がするんだろう? ほんの一滴だっていいんだっ。味わいたいっ!『本当に価値のある命』をっ! 一緒に永遠の夜の楽しもうよっ?!」
「絡み方がキモいんだよっ。大体はお前は『永遠』を享受できる程の器じゃない。『不死になったくらいで』壊れるようなヤワなハートじゃっ! オレ様のパートナーなんてぇええっっ」
ピクシーナックル+3がヒビ割れる程魔力を高めるルッカっ。
「1000年早いわぁああーーーっっっ!!!!」
ルッカは『超・鳳仙花パンチ』を放ち、爆発的な拳打で吸血鬼ベウラの全身を打ち砕きましたっ!
沈みゆく夕陽に焼かれるベウラ。
「ああ・・、刺激的だね。君」
吸血鬼ベウラは滅び去りました。
「やりましたねっ! ルッカっ」
「はぁはぁっ、・・ドン臭ネルコっ! お前もいつまで雑魚に手こずってんだよっ」
「酷いっ。烈風魔法っ!」
春風の帽子の力を借りてパワーを増した風の砲弾で吹っ飛ばし、7体のバンパイアサーバントを纏めて昏倒させました。
「ふうっ。さっき、信号弾が上がってましたけど、ジンタ君達はもう撤退したのでしょうか?」
「いや、上から見えた。ピンク髪か前髪かわかんねぇけど、どっちかが眷属みたいなのに拐われてた。ジンタ達は教会に行った!」
「え~っ??」
もう疲れましたし、夜になりますし、持ち道具も少ないです・・
俺は扉を開け、ズタボロになってる教会に入った。
「お邪魔しますっ!!」
もう隠れるも何もない。初手で『勝てる形』を作れるかどうか? くらいのもんだ。猶予も無い。
気絶したミリーは砕かれた教会の聖印に『血の薔薇』で強く縛り付けられていた。
滴る血をグラスに受け、日を避け、フードを被った吸血鬼はそれを飲み干した。
「んん・・いい血だ。やはりロブセンの聖なる娘達は格別だ」
「お前っ、気持ち悪いぞっ?!」
「ううっ、ミリーを返せっ!」
「返せ? しかし願っても返らない物というのもあるものだ」
吸血鬼は振り返った。フード付きコートを着て、顔色が悪く犬歯が長い以外は芝居に出てくるような古典的な『貴族』だった。
「例えば『命』。命は取り返しのつかないものだ。それゆえ尊い。吸血鬼もそれは変わらない。先程、私の愛しい弟、ベウラもようやく死を迎えたようだ。私にはわかる。たった1人の肉親だからね。勿論だとも。・・取り返しのつかない『死』それは命に等しい」
再び逆巻く血の蝙蝠を噴出させる吸血鬼、兄のルイゴシか。
「サンブラっ! ホムムっ」
「わかった!」
「障壁魔法っ!」
ホムムの張った鱗状の魔力の壁に守られながら、サンブラは馬っぽいウワバミポーチから聖谷のハープを取り出し、奏で、歌いだした。
響く蹄の勇敢な 我ら大地の盾 光り輝き・・
聖なる風が吹き荒れ、ルイゴシの血の蝙蝠の蝙蝠の大半は消し飛び、ミリーの拘束の半分は解けた。
俺は棒きれを捨て、抜いた鉄のロングソード+1を霊木の灰で強化し、自身は聖水+1を振り掛けて浄めた。
兄貴なら、きっと上手くやってみせるはずだ。
「加速魔法っ!」
俺は加速して夕闇の、壊された聖堂を駆け抜け、ルイゴシに斬り掛かったっ。
「命は確認しなければなりませんねっ。我々のような者はなおさらにっ! 死と向きあい、死を越えるっ! それは命を肌で感じればこそです。そうして初めて、『不死』は私達に祝福と永遠をもたらすのです」
残った血の蝙蝠を双剣に変えて二刀流で加速を見切って斬り返してくるルイゴシ! 手前勝手なことを言っているから反論してやりたいが、加速中は普通に喋るのが難しい上に呼吸にも動きにも余裕が無いっ。
「試練の日々でした。オールドウィンドの特権階級として、永遠の退屈を逃れるべく越えた命の壁が、我ら兄弟に新たな退屈を与え、それをまた乗り越えるべく、殺して殺して殺して殺して殺して・・」
「うぅっっるさいよっ、あんたぁっ??!!!!」
余裕無いけど無理して加速したまま口挟んじまったから、肺が爆発しそうだっ。
「ハハッ、元気があるな、君。そうだ」
ガガガガガッッッッ!!!!
方向を変えようとした瞬間、いつの間にか、影に紛れて床に拡がっていたルイゴシの血が数百の槍と化して真下から俺に突き掛かり、縫い止めた。
「がっはっ?!」
加速を強制的に解除された。吐血するっ。
「君、『君が次の私の弟にならないか?』実はね『私も2人目の兄なんだ』。『吸血鬼ルイゴシとベウラ』は、そんなような者なんだよ」
「っっ!!! サンブラっ! 絶対歌い続けろっ。即、全滅するっ!!!」
サンブラは泣きながら歌い続け、ホムムも発動の起点にしているモーニングスターの柄を血が滲むほど握り締めながら障壁を張り続けた。
「さて、君は聖水を被ってしまったから『弟に改造するのが』少々大変だな・・」
ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
貫く血の槍を通して、ルイゴシの穢れた吸血鬼の血液が俺の体内に入ったくるっ。
「ごぉっ、ぐああっ!!!」
「可愛い弟になあれぇ、可愛い弟になあれぇ、可愛い弟に」
「熱線魔法っ!!!」
ルッカの声が響き、ステンドグラスを撃ち抜いて、無属性の魔力の光がルイゴシの右腕を焼き払い、吹っ飛ばした。
血の槍も解除される。血まみれで倒れ込む俺。
「どぉらぁっ!」
「ジンタ君っ! えいっ」
ルイゴシに飛び掛かるルッカに続いて、春風の帽子で起こした風に乗ってネルコも教会の中に入ってきた。
「回復魔法っ! リーマっ! リーマっ!」
ネルコは回復魔法を連発しながら俺の側に着地し、続けて聖水+1を『2本』俺に結構な勢いで飲み干させた。
「ぶはっ、ごぽぽっ??」
死ぬっ! むしろこれで死ぬっっ。
「大丈夫ですか? ジンタ君っ?」
「ご、ふっ・・ありがとう、ネルコ」
「はい」
ニッコリ笑うネルコだったが、すぐに厳しい顔で立ち上がった。
「ジンタ君っ!『落とし前』をつけさせて頂きましょうっ」
「・・よしきたっ!」
どうにか呼吸を整え、立ち上がった。サンブラとホムムはまだ大丈夫そうで、ミリーも出血は多いが息はあった。
ルイゴシはルッカと激しく交戦しているが、左手の血の剣は砕けかけていた。ただルッカも疲労困憊の様子で、ピクシーナックルが壊れかけている。
「捕獲だけじゃ倒せそうにないっ。援護してくれ、1個アイディアがある!」
「了解です!」
俺は最後の聖水+1を自分に掛け、魔法石の欠片を自分に使って魔力も回復した。めちゃくちゃ具合が悪い。吐きそうなのに眠いし、寒気がした。
加速はもうコントロールできない。見切られてもいるだろう。俺は夜鷹の兜の視力強化を頼りに一歩一歩集中して、争うルッカとルイゴシに近付いた。
「凍結魔法っ! ヴァルっ!」
また血を操って小細工しようとするルイゴシの床を這う血液を、ネルコが魔法で次々と凍結させていった。
「・・興醒めだな、あの女」
初めて苛立ちの表情をするルイゴシ。その隙を逃さないルッカ。
「ボディが空いてるぜっ?」
強烈な拳打をルイゴシの脇腹に打ち込むルッカっ。ピクシーナックルは砕けたが、ルイゴシを悶絶させた。今だっ!
「せぇあっ!!」
飛び込んで放って『十字抜き』で左手の血の剣を砕き、さらに踏み込んで、投げた『霊木の灰の小袋越し』にルイゴシの胸部に剣を突き刺した! 同時に、
「ナシャっ!!!」
俺は霊木の灰を巻き込んで植物魔法を炸裂させて、ルイゴシの身体を引き裂きながら『浄めの楠』でも生やしてやろうとしたが、ルイゴシの血と反応した結果『狂い咲く浄めの薔薇の樹』となってしまった。
「ごぉっっ?! ハハハッ、最高の死だっ! 芳しい香りっ! 美しいっ!! まさに私の命だっ!!!」
「エル」
ルッカは最後の魔法石の欠片を対価に、暗い夕陽の教会で、ルイゴシの薔薇を焼き尽くした。
ミリーの血の薔薇も解除され、無事だった。
報酬は多かったが、ボロボロになった俺はユッフの病院に3日程入院するハメになった。『コイツ、吸血鬼になってないよな?』と疑われてすんごいしつこく検査もされてる・・。
「最悪だ」
「ホントですよね」
ミリーも吸血鬼化疑惑のせいで隣のベッドで入院させられていた。
「ま、お給金もよかったですし、生存者も多かったですし、よかったじゃないですか。ジンタ君、林檎ですよ? はい、あ~ん」
「あ、どうも、もむもむっ」
見舞いに来たネルコは林檎を剥いてカットしてフォークで食べさせてはくれるが・・
「いいですよねっ、ジンタさんはっ! ホムムなんて入院初日に5分くらい見舞いに来ただけですよ?」
「ホムムちゃん、ユッフで『執事カフェ』にハマッてしまったようですからね」
さすがに疲れたらしいルッカは温泉三昧、サンブラはユッフのギルドのスキルスクールで腕を磨いていた。
「堕落ですっ! 堕落っ! 修道女失格っ!! コンビも解散ですっ」
「コンビなんだ」
「ふふっ、はい、も1つどうぞ。あ~ん」
「あ、はい。もむもむっ」
「ちょっとそれっ! 別の部屋でやってもらえませんっ?!」
「ミリーちゃんの分もありますよ?」
「施しなんてっ、悔恨ですっ!」
「あっ、それ私の台詞ぅ~」
そんな感じで、吸血鬼騒動はマッタリと幕を引いたのだった・・