聖谷のハープ
泣き笛街道から外れ、ロブセン山の麓の街でレンタルした魔工三輪バギーでオールドウィンド高原を疾走していた。
幌(やねの覆い)も出せるが窓はフロントガラスしかないので、合わせて借りたヘルメットとゴーグルを付けている。ルッカも玩具のように小さな物を付けていた。
羽根が風を受けるらしく消してしまって(任意で消せる)ピクシーというより『小さな人』といったところだ。
後部シートの背凭れの上にシートベルト付きの小さな椅子を取り付けて座ってる。
「ジンタ君っ! 修正して下さいっ。11時の方向ですっ。ハンドルちょい切ってっ」
ネルコはナビを担当していた。俺はドライバー。修道院のホムムと違って特にムチャはしない。
「わかったっ!」
魔工インカムも借りてはいたが走行音が大きく、少し声を張る必要があった。
「『キックバード』をブッ飛ばそうぜっ!」
翼は退化したが脚が発達したモンスター、キックバードが多く見られるエリアに入っていた。結構強いヤツっ。
「やらないっ!」
「え~っ?」
「ルッカ、安全第一ですっ。大体可哀想でしょっ?」
「ちぇっ、つまら~んっ!」
俺達はオールドウィンド領の冒険者ギルドから依頼で、遊牧民のフウディン氏の一団の春営地(越冬で疲弊した家畜に若草を食べさせる為の放牧地とキャンプ)を目指していた。
『死人使いユニーダ』の封印を解いたとみられる『紫の僧衣を着た翼を持つ者』が、アンブラ村付近の岩場から飛び去る姿が目撃されていた。
その行方を辿ると、どうもフウディン氏の春営地の方へ飛び去ったらしい。
フウディン氏にも既にギルドから魔工電信で連絡は取られてるが『今のところよくわからないが調べてはみる』といった返事が昨日あった。
怪しいヤツがフウディン氏の春営地を素通りしていたり、方向を変えている可能性もあったが調べるだけ調べてみようというワケだ。
俺達が引き続き対応することもなかったんだが、一度遊牧民の暮らしも見てみたかったし『取り敢えず何やら悪さしてるのを追ってみる』というのを当面の旅の目的としてみた!
遊牧民フウディン氏族の春営地は合理的な造りだった。キャンプと放牧地の起点に魔除けの杭を打って安全地帯を作っているのだが、放牧地は広大だから要所にしか打っていない。
魔物に襲われたら家畜を魔除けの範囲内に移動させて避難する。見晴らしのいい草原だからできる芸当ではあったが、無駄がなかった。
キャンプの暮らしも居住用以外のテントは役割分担がはっきりしていて、全てが『必要なこと』だけで完結している!
森育ちの俺は野宿が好きだから、この『持ち運べる範囲で済ませる』スタイルは好ましかった。
「オレ様腹減った『塩肉まん』食べようぜ」
「塩肉まん? もうお腹空いたんですか」
「確か『ボーズ』だよ、殆んど塩だけで味付けした蒸した肉饅頭」
「ふぅん?」
俺達は取り敢えず、工業品の整備を担当しているテントに魔工バギーを預け、フウディン氏族の長のテントに向かった。
「よく来た」
中年の男の族長はそう言って料理を持ってこさせた。朝一で来たからまだ午前9時過ぎで、大食いのルッカ以外はちょっと戸惑った。
最初はバター茶と様々は乳製品と葱類の塩漬け。塩ナッツ。塩豆。全体的に『塩』だが、葱以外はどれも薄味。
続けてボーズ等の火を使った料理と馬乳酒(アルコール分はあまり無い、やや酸っぱい豆乳のようなヨーグルトのような味)とドライフルーツが出され、最後は白湯だった。この締めの白湯が美味い!
「調べさせたが、それらしい者が2日前に近くのケンタウルス族達の郷の方へ飛んでゆくのを見た者が何人かいた。『息子を付ける』から行ってみるといい」
「?」
息子を付ける?
「ザァンだ。よろしく」
給仕をしてくれていたフウディン氏族の男女の子供達の中の1人が、不意に皿を持ったままこちらを見て名乗ったので俺とネルコは面食らった。
「おお、ジンタだ」
「・・どうも、ネルコです」
「ルッカだぜ」
12歳くらいのフウディン氏族の息子、ザァンが同行することになった。
整備の済んだ魔工バギーで春営地の近くのケンタウルス族の郷のある『聖蹄の谷』を目指す。
「案内に子供は妙に思うかも知れないけど、俺は『特使』なんだ!」
ネルコからもらった『ロブセンバニラ煎餅』をモリモリ食べながら話すザァン。ザァンもかなり年季の入ったヘルメットとゴーグルを持参している。
「特使? ですか?」
「フウディン氏と谷のケンタウルス達は20年前に谷で取れる珍しい岩塩の取り引きで揉めて、以来、絶縁してんだ。これ美味しいな、もっとくれっ」
「ああ、はいはい」
「オレ様の分は?」
「さっき御飯食べたでしょっ?」
「ええ~っ」
「これを機会に和睦か? ちょっと無理がないか?」
降って湧いたような話だ。
「もう何年も前から交渉はしてる。オレも何度も行ったことがある! 今回、魔物を退治するなら族長の息子の俺が協力して、それで『仁義』が通るだろ?」
「仁義・・」
ザァンは魔力を乗せ易い『チャージボウガン+1(軽量化特化)』と鉈のような短刀『骨切りナイフ+1(軽量化特化)』を装備していて、戦士Lv3騎兵Lv4射手Lv4なんかの職能は持ったいた。
ただの素人の子供じゃないようだが、ちょっと心配だ。
暫く走り、空気と草が乾燥しだすと聖蹄の谷を有する『デンチ渓谷地帯』に着いた。まだ午前11時を過ぎたところ。確かに近い。この距離で20年はキツいな。
絶縁中とはいえ魔工電信で連絡は受付てくれたので、厳重な魔除けの郷の中に入れた。
乾燥した谷(デンチ渓谷地帯の向こうは乾燥草原帯でその先は砂漠地帯になる)の亀裂の一角を利用してケンタウルス族の郷は作られている。
岩壁の窪み、岩穴、裂け目を利用して建物を建てていた。
屋根以外は土壁だ。遊牧民のフウディン氏族よりもさらに工業製品の使用は控え目で、郷自体が寺院のように見えないではなかった。
ケンタウルス族は獣人『馬人』だ。獣人の中では上位種族で身体と魔力が強く、別格扱いになってる。
引き替えに『地』の属性の特定の場所の守護を神から任じられている。オールドウィンド領のケンタウルス族はこの聖蹄の谷を守護していた。
「意外と『人間体』の方も多いですね」
馬の耳と尾だけピョコっと出しているが、それ以外は人と変わらない姿の者が確かに多かった。
「下が馬のまんまじゃ生活し辛いんだろ?」
変化しないケンタウルス族は下半身は馬、上半身は人の姿を取る。特に鍛えなくても大人なら魔工原付と同じくらいの走力を出せる!
「気位が高いらしいから発言注意な」
「実際、すぐ怒るからめんどくさいんだよ」
「ケッ、オレ様、馬の御機嫌取りたくないぜっ」
一抹の不安を抱きつつ、工業製品が苦手なケンタウルス族の代わりに対応しているドワーフ族(小柄で骨太な種族で、こちらは工業製品が大得意!)の一家に魔工バギーを預け、ここでも族長の元へ向かった。
「よく来た」
人間体の初老の女の族長はそう言って蓬茶(苦いっ)と干し棗を持ってこさせた。
(既視感っ!)
だが、ここでは茶を飲みながらすぐに本題に入った。
「その魔物の封印を解いて回ってるという者、2日前に邪龍が封じられた大穴の近くで見たという話はあった」
やっぱ来てたかぁ・・
「大穴の番屋(見張り小屋)に確認したが、特に異常は無いと報せて来ている。だが、念のために『浄めの楽器』と私の『孫娘』を付ける、一緒に様子を見に行ってくれないか?」
次は孫娘か・・。ザァンが来てる上でのことだから、和睦は案外ケンタウルス族の方も望んでたんだな。
浄めの楽器っていうのも気になるが。
「息子だの孫だの和睦だのっ! 回りくどいなぁっ」
「ルッカっ! すいませんっ」
掴まえて胸ポケットに入れてしまうネルコ。
「むぐぐっ」
「・・・」
名乗るタイミングを逸して少しまごついていたが、さっき茶を出してくれた人間体のケンタウルス族の子供の男女の内、女の子の方が軽く咳払いをしてから俺達に向き直った。
「あたしはサンブラ。案内するよっ?! あたしは『歌』も上手いし『蹴り』も強いっ!」
ザァンと同年代らしいケンタウルス族の少女サンブラは勝ち気に言って、+2はありそうな『竪琴』を手に蹴りの構えをしてみせた。
サンブラは戦士Lv4、騎兵Lv5、格闘士Lv5でそこそこ手練れな上に獣人族の上位種族であるので、身体能力は剣士の俺を軽く上回っていた。
武器は膝から下を全て覆う蹴り用武器『シュートレガース+2(軽量化と履き心地の良好さ特化)』と腰の後ろの鞘に納めた『飾られた匕首+2(強度強化に全振り)』を装備。
竪琴は『聖谷のハープ』といって浄めの効果が強いそうだ。
『馬っぽいウワバミポーチ』も持っていた。戦力としては申し分無さそうなのだが・・
「どぅううらぁっ! 豪脚わっしょいっ!!」
人型の土塊の魔物『マッドウォーカー』2体に『鳳仙花蹴り』を放ち粉砕するサンブラ!
魔工バギーとても抜けられない難所を抜ける大穴までの道行き、俺達はマッドウォーカーの群れに遭遇したワケだが『やるか?』も『どうする?』も無く、サンブラは魔物の群れに突進していたっ。
サンブラをよく知ってるらしいザァンと、好戦的なルッカ以外の俺とネルコは慌てた。
「サンブラ! マッドウォーカーは興奮しない限り動きは鈍いっ、無視できたぞっ?」
「んん?」
何言ってるんだコイツ? という顔のサンブラ。
「郷に近いし、コイツらはすぐ増える。素材も取れるしいい運動になる。倒すだろ?」
「いや、まぁ・・」
「ジンタ君、『体力』の基準が違うんです。ここでは合わせましょう」
「・・了解」
「オレ様の実力も見せるぜぇっ」
「サンブラっ、今回上手くいったら婆ちゃんに上手く言ってくれよっ!」
「不粋だぞ? 戦いに集中しろっ、ザァン!」
「別に戦いたくねーし・・」
とにかく俺達はマッドウォーカー群を倒し『温かな土』『奇妙な土』『不気味な種』等の素材を手に入れ、山分けした。
道中やたら戦うハメになりつつ、件の邪龍が封じられた大穴の近くまで来ると案の定、と言うべきか? 負の力が漂っていた。
「またこのパターンだぜっ」
「同じ相手を数日遅れで追ってますからね・・」
「取り敢えず、対策だ」
俺はロブセン修道院で得た聖水+1を2本を使って全員に光属性を付与した。戦うにせよ、逃げるにせよだ。
聖水+1、あとは霊木の灰は全員で分け直して1人1つずつになった。ポーションは2本ずつ持ってる。
魔法石の欠片は俺達は2つずつ持っているがザァンとサンブラは持ってない。2人に俺とネルコの分を1つずつ分けようかとも思ったが「魔法を使う者が持っておいた方がいい」と断られた。
「おかしいな? 出発前に大穴の番屋に確認した時は『異常無し』としか返信がなかった」
不審がるサンブラ。
「『敵』に乗っ取られてんだろ? 確認したら郷に戻った方がいいんじゃないか?」
なるべく拾いながら立ち回っていたが、チャージボウガンの矢の残数が20本程度しかなくなったことを気にしているザァン。
「オレ様が一飛び見てきてやんよっ」
「おう、頼むルッカ」
「気を付けて下さいね」
「大穴の前に封印の神像か3つある! その様子も見てきてくれっ」
「任せとけっ」
ルッカが偵察に出て、すぐに戻ってきた。
「大穴周辺は魔物だらけだった。『ツーヘッドキングパイソン』が1体、『ギガスカルパイソン』が2体、あとは『キラーパイソン』がワラワラいた」
「ツーヘッドキングパイソンはマズいな」
小屋くらいの大きさの首が2本ある大蛇の魔物だ。強い。
「神像はっ?!」
「1つブッ壊されてた。残り2つも負荷が増して壊れそうだったなぁ」
「サンブラ、一旦戻ろう。番屋ももうダメだろ?」
撤退モードのザァン。
「どうします? 私達は基本的には調査に来ていますが・・」
「番屋の確認した方がいいな。魔工電信を乗っ取られてるなら流言を撒かれると面倒だ」
「番屋にいたのは親戚の者だ。確認したいぞっ」
俺達は大穴近くの高台にある番屋に向かった。
番屋のドアを慎重に開けると、腐敗臭と蝿の大群っ!
部屋の床に下半身を馬にしたケンタウルス族の本来の姿『馬人体』の男の死骸が転がっていた。腐敗もしていたが、喰い荒された痕があった。
「大穴は異常無しっ! ヨシッ! 大穴は異常無しっ! ヨシッ! ギャハハハッ!!!」
「ヨシッ! ヨシッ! ケヒヒッ!!」
奥にあった魔工電信機に前には『機械の小悪魔』が2体いた。
「悔恨ですねっ」
「人間が怒ったぁっ、ギャッハーッッ!!!」
「ゲヒッ」
グレムリン達は『鋭い歯車』を多数投げ付けてきた。俺とサンブラがこれを打ち払う。
「烈風魔法っ!」
ネルコが魔法でカマイタチを起こして1体仕止め、ザァンがチャージボウガンを残る1体に撃ち込んで悶絶させた。
「ゲフッゲフッ! 痛いなぁっ、イヒっ」
「お前達の主は」
俺は矢を受け血塗れで薄笑いを浮かべるグレムリンに詰問しようとしたが、すぐにグレムリンの身体が膨張しだした。
「っ!」
「障壁魔法っ!」
ルッカが膨張したグレムリンを鱗状の魔力の壁で全面球形に覆い、グレムリンはその中で炸裂して死んだ。
「グロぉっ、負けてまだ生きてたら自爆する条件付けだろな。ケッ!」
「・・・」
酷い有り様で、目も閉じさせられず腕も組ませられそうにない親類らしいケンタウルス族の遺体を見詰めるサンブラ。
「サンブラ」
「大丈夫。ケンタウルス族は戦士の種族だ。敗れることもある。・・郷に報せる」
サンブラは気遣うザァンに言って魔工電信機に向かったが、
「ジンタ! 魔工電信機の使い方がわからないっ」
「ああ、ちょっとまて、電信を打つのは俺がやろう」
俺達はケンタウルス郷に魔工電信を打ち、現状を報せた。あとはまぁ今回も応援を待てばいいワケだが・・
「聖谷のハープを使って魔物弱らせて、壊れた神像を補修すればばあたし達だけで勝てるぞっ」
「面白そうじゃーんっ」
好戦的なサンブラとルッカに引っ張られ、『ヤバくなったら霊木の灰を使って撤収する』という条件で、段取りを組んで大穴の前の魔物達に挑んでみることになった!
大穴近くの岩の陰から飛び出し、初手はルッカ!
「超絶暴爆天才カリスマっ! 魔導少女ピクシーっ!! ルッカ様のっ、聖なるぅ~~~っっ、爆破魔法っ!!」
ドドドドドドドッッッ!!!!!!
魔法石の欠片1つと聖水+1を使って浄めの力を付与した同時多発爆発を魔法で引き起こし、魔物達に先制するルッカ。
毒の大蛇、キラーパイソン群は7割方吹き飛ばせた。
「次はあたしだっ!」
馬っぽいウワバミポーチから聖谷のハープを取り出し、奏で、勇ましく歌いだすサンブラ。
響く蹄の勇敢な 我ら大地の盾 光り輝き・・
音楽と共に光の粒子が飛び交い、残る2つの神像も共鳴し、浄めの力が増して辺りの負の力を打ち消し、魔物達を弱体化させた。
「行くぞっ?! チビっ」
「チビにチビって言われたっ」
「植物魔法っ!」
ルッカとザァンと茄子達は白骨化したデカい蛇の頭部の魔物、ギガスカルパイソン2体の対処に向かった。
俺は夜鷹の兜のアイガードを下げ聖水+1で剣を強化した上で、魔法石の欠片を1つ使って強力な蔓を発生させてツーヘッドキングパイソンの動きを封じ、単独で突っ込んでいった。
「加速魔法っ!」
さらに速度も高めるっ。
最後にネルコも魔法石の欠片1つを使って、自分とルッカに護衛に付けてもらったジャックナスエリート3体にドガラの魔法を掛けて守りを固め、壊れた神像の補修に向かいだしたはず。
茄子は歌うサンブラの護衛にも3体、ザァンの護衛には2体付けられていた。
ルッカは茄子召喚でも魔法石の欠片を使っていて、これで手持ちはゼロだ。
ネルコも応急補修には魔法石の欠片を使うのでゼロになる。あとは俺の1つだけ! カツカツだぜ。
「ジャアアアァッッッ!!!!」
蔓で抑えられても暴れる2つの首の大蛇っ! 俺は相手が対応できてない初見の一撃で首の1つの眉間を叩き斬って仕止めてやった。
もう1つの首が激怒して『毒のブレス』を吐いてきたが、『防毒の指輪』で無効化できた。但し酷い悪臭で息苦しいっ! ただでさえ、加速中は呼吸が難しいっ。俺は慌てて転がってブレスの範囲から逃れた。
完全に『速い敵』として認識されたっ。こっからが本番だ。俺は素早く起き上がり、早くも刃零れしだした剣を構えた。
ネルコは壊れた神像に取り付き、残存のキラーパイソンから茄子達に護られながら応急補修を始めていた。
ルッカは地上からザァンに掩護射撃を受けつつ、ギガスカルパイソン2体と交戦中。ザァンも茄子に護られているが、牽制するのがやっとの様子。
サンブラは茄子に護られ、聖谷のハープを奏でながら歌い続けている。
どの程度知性があるか微妙だが、『サンブラを最初に討つべき』とバレると厄介だなっ。
「・・・っっっ!」
そのまま約2分、時が過ぎた。戦闘膠着しているが、茄子が次々倒されていた。
魔力はまだあったが、加速負荷に俺の体力も限界っ! 加速中はポーションが飲めないっ。
魔法も『使い足す』のは難しいが、回復魔法を無理しても使うしかないか? と思っていると、
イイィイイィンンッッッ!!!!
カン高い音共にネルコが補修していた神像が光を発し、他の2つの神像と共に強い浄めの光を放ち魔物達をさらに弱体化させ、残るキラーパイソン群に関しては全て打ち砕いて滅ぼした。
「や、・・やりましたっ。ふうっ」
へたり込むネルコ。付いてる茄子も1体だけになっていた。
「よしっ、参戦するっ! お前は『足に来てる』ジンタをっ」
サンブラは演奏を止め、残る1体の茄子を俺の元へ向かわせ、自分は馬人体に変化するとザァンの元へ高速で駆けた。
「ザァンっ!」
ちょうどザァンに付いていた最後の茄子がギガスカルパイソンの『死の衝撃』を喰らって倒されたタイミングで、サンブラはザァンを抱え上げて自分の『馬の背』に乗せた。
「わぁっ?! サンブラっ、急過ぎるっ!」
「フウディン民なら乗りこなせっ! ルッカをちゃんと援護するっ」
「わかった!」
しっかり狙いを済まし出すザァン。残る矢は4本だった。
俺の方は茄子1体が助っ人に来てくれたが、そこまで状況は改善してない。思ったより自分の疲労が激しいっ。と、
「っ!」
加速する時の中、サングラスをして葉巻を咥えた茄子が俺に微笑み掛け、グッと親指を立ててみせた。くっ、すまねぇ、茄子っ!!
俺は加速を解除し、フラフラになりながらポーションを一息で飲み干し、その横で茄子がツーヘッドキングパイソンに噛み砕かれ、新鮮な『茄子汁』を撒き散らしていった・・
「ぷはっ! うぉおおおーーっっ茄ぁああ子ぅっっ!!!!」
回復した俺は怒りに任せ、グレネードガンで炸裂弾を2発撃ち込み、大蛇の左目を破壊っ。俺は銃を放って、ボロボロになっている剣を構え直し、さらにまだ発動が効いている蔓を引き締め、ツーヘッドキングパイソンの動きを制限した!
一方、
「ちょっとはまともに射てるようになったけど、矢が切れちまうかっ! やるかぁっ。エレメントチェンジ・ファイアっ!!」
『炎の属性』を帯び、髪も瞳も服も真っ赤になるルッカ。
「からのブリンクピアスっ!」
+3はあるピアスが光り、ルッカが『5人』に分身した!
「『灼火拳×5』じゃーいっ!!」
5人掛かりでギガスカルパイソン1体に燃える拳を打ち込み粉砕するルッカ。即、分身を解き、炎のルッカ1人になった。
「こっちはもういいっ、チビ2人はジンタんとこ行けっ!」
「またチビって言ったアイツっ」
「ザァン行くよっ、降りて!」
「ええっ?」
いきなり人間体に変化されて降ろされたザァンと、サンブラは俺の助っ人に来るようだった。ザァンにもう矢は無い。
「ジンタっ! 待たせたっ」
「いやっ、別に待っちゃいないけどなっ」
もう一息というところまで詰めてはいたが、剣が砕けてしまいそうではあった。
「速いってサンブラっ!」
遅れてきて、取り敢えず聖水+1を投げ付けてツーヘッドキングパイソンの身体を燃やして仰け反らせ、思ったより効果があったことに驚くザァン。
「聖ケンタウルス脚闘術壱ノ型で倒すっ! ふぅううっ」
魔力を『左脚』に集めるサンブラっ。なんだ? なんだ??
「ジンタっ! サンブラの近くに誘き寄せろっ」
撤退用の霊木の灰も投げ付けだしているザァン。
「動けないのか? ええっ?」
俺は最後の魔法石の欠片を使い発動中の蔓を強化して思い切り引っ張ってやった。
「ほらよっ!」
「シャアアッ!」
「ゼラっ!」
暴れる大蛇は毒のブレスをサンブラに吐こうとしたが、ネルコが神像の側からカマイタチを放って牽制し防いだ。
「奥義っ! 勝鬨一閃っ!!」
スパァアアアンンンッッッ!!!!!
神速で左脚を振るい、高圧の魔力の刃でツーヘッドキングパイソンの頭部を切断するサンブラっ。脳を輪切りにされ、大蛇の魔物は倒された。
「フッ、人参を食べる間も無く居ねっ!!!!」
他の種族には判り難い決め台詞を言い放つサンブラ!
「おっらっー!」
ルッカも最後のギガスカルパイソンを打ち倒していた。
「ま、いけたか」
俺達は邪龍の大穴の(前にいた)魔物達を殲滅した! グッジョブっ!!
駆け付けてきたケンタウルス族達に後処理を引き継ぎ、俺達は郷に戻った。
「ジンタ、ネルコ、ルッカ、ザァン、サンブラよ。よくやってくれた。時代も変わったフウディン氏族との絶縁も解く方向で話し合おう。・・正直、春期の交易相手が無くなって郷が貧乏になってしまったしの。ホッホッホッ」
機嫌好く笑うケンタウルスの族長。
「やった! 春営地に戻ったら父にも話してみるよっ」
「ホッホッ、そうせいそうせい。ところでサンブラよ」
「あたし? 何、婆ちゃん。お風呂入りたいんだけど?」
「寛ぐのが早いっ! サンブラよ、お前はこの者達と共に元凶になった怪しき翼を持つ者を追い、討ち果たしてくるのだ。この地の護り手たるケンタウルス族の務めだ。お前にとって良い修行にもなるだろう」
「あ~、わかった! やるっ」
あっさり同意し、俺達を振り返るサンブラ。
「あたし、サンブラ・グランバレーっ! 脚強いし、歌上手いよ? よろしくっ」
「お、おお、隊に入るのか」
俺以外女子ばっかりになるな・・
「ふふっ、よろしくですサンブラちゃん」
「それより、魔物倒したんだから『なんかくれ』っ!」
「ルッカ、やらしいですよっ?」
「正当報酬っ!」
「ネルコ。実際、装備の消耗がキてるから」
「ジンタ君までっ」
・・俺達は現金の代わりに色々珍しい素材等をもらい、さらに風呂を借り、食事も出してもらい、サンブラが大穴の後処理に行っていない非戦闘員の親族と『それでいいの?』と言いたくなる程あっさりとした別れを済ませ、バギーを預けていたドワーフ一家の元へ向かった。
「おう、バギーはなんともないぜ? けどよ、帽子のお嬢ちゃん、コレ買わないか?『蛇使いの服』。サイズの直しも少ないと思うんだよ」
ドワーフの主人は箱の蓋を取って入った蛇使いの服を見せてきた。
「服も売ってるのか?」
「いや、ここに来る前、俺達ゃ砂漠の街にいたんだが、向こうでコレが安く買えてな。こっちで差額で儲けようと思ったんだけど、ケンタウルス族が思ったより交易しなくてさぁ。あと3着売れ残ってんだよ、どうだコレ? 買値で売ってやるよ。『見習い法師シリーズ』より守備力高いし、毒や麻痺も防げるぜ?」
「う~ん、・・おいくらですか?」
「買うのか?」
「可愛いぞ、コレ」
「ネルコ、もうシルバーカード持ってないんだぜ?」
「ネルコは金持ちなのか?」
「今の装備は帽子と杖類と指輪以外は家のお金で買ったので、お金を貯めて買い替えようとは思ってました」
結局、ネルコはほぼスッテンテンになってしまっていたが、蛇使使いの服を購入した。錬成屋で調整してもらわなくてならないからまだ着てはいなかったが、『自腹』で買った装備を大事そうにウワバミのポーチにしまっていた。
帰りのバギーは子供が2人になって後部席が狭くなっていたが、真ん中に座ったネルコがサンブラとザァンを抱え寄せてワーワー言わせて騒いていた。
「あーうるさい、こうなると普通に子供2人だぜっ」
うんざり顔でルッカが運転席の方に来た。羽根は消しているので、『念力のピクシーワンド+3』で自分を持ち上げて操り飛んでいる。
「岩塩なんかの交易、戻りそうでよかったな。電信も速攻返事来てたもんな」
「・・それよか、あちこち封印解いて回ってる、多分魔族。ギルドの調べがもう一段済むまで追うのはストップしようぜ?」
「お、珍しく慎重だな」
「ただ愉快犯とかじゃない。『うっかり追い付いちまったら』ヤバいかも知れねーよ。魔族なら『ルシフェルクラウン』を欲しがるしな」
「あー、それなぁ・・」
俺は今後の活動方針の修正をちょっと考えつつ、フウディン氏族の春営地へ向け魔工バギーを走らせていった。