超絶天才暴爆カリスマッ!!!
一昨日、ベシムに多数あるはずの客間の一つに案内された俺とネルコはベシムからクエストの内容を聞かされていた。
「森が『とんでもなく』荒らされています。『べらぼうに』っ!」
「?」
「とんでもなく? べらぼうに??」
強調具合が引っ掛かった。
「正確にはモスガーデン緑宮の氏族の廟が荒らされているのです。『ヤツ』にっ」
憎々しげに言うベシム。
「魔物? だろうけど??」
「何者ですか? ベシム」
やや気まずそうにするベシム。
「ネルコお嬢様の『姉弟子』ですっ」
「ああ・・」
露骨にゲンナリするネルコ。
「ネルコ、姉弟子がいたのか?」
「います、ねぇ。残念ながら・・わかりました。ヤツを排除すればいいのですねっ?!」
これまで見たことない悪い顔をするネルコ。このパターンの女子との遭遇率高いな・・
「はい。内々に対応してきたのですが、手に負えず『対処法』を心得ているはずのネルコお嬢様が適任、と御父上様も判断されたのだと思います」
「そう、でしょうね・・」
「対処法??」
『姉弟子の対処法』ってなんだ??
「私もお供しますが、モスガーデン緑宮は毒を持つ魔物や植物等がとても多いので、御父上様からこれを」
ベシムは防毒の指輪を俺達に渡した。その名の通りの毒耐性アクセサリーだ。高価だ。
「ネルコお嬢様、勘当は奥様方からネルコ様を守る為に決断されたことです。どうか御父上の御心の内をわかってあげて下さい」
身長2メートルを越える巨体で(近付くと遠近感が狂う)悲しげな犬のような表情をするベシム。
「わかっています。私の役割でもありますし、最後に氏族の廟を守ってみせましょうっ!」
決意に満ちた目でベシムを見返すネルコ。うん。その意思はいいと思うし、家の事情は思ったより大変だったんだな、っとも思うけど、姉弟子云々はどうなってんだ??
・・俺の困惑を他所に、翌日、モスガーデン緑宮への突入は決行された。
まず、朝一でベシムが運転する魔工オフロード4輪車でモスガーデン緑宮の外周部にある有人の番屋(管理拠点)に乗り付け、魔工三輪バギーに乗り換えてモスガーデン緑宮の内部の比較的浅い所にある外壁付きの有人番屋に移動。
ここからは魔除けの林道も特に悪路になってくるので、脚の強い馬に乗り換えて進み、砦状の最後の有人番屋に到着し、一泊。
今朝からは徒歩で行ける所まで安全な林道を進み、後は森に点在する祓い所を経由しつつ、一番マシなルートで目的地であるモスガーデン氏族の廟に向かっていた。
「いやでも、ネルコの姉弟子さん、『設定』てんこ盛りだよな? ハハッ」
「ジンタ君、面白がってますよね?」
「へへっ」
「もうっ! ほんと大変なんですからっ」
「っ! 2人ともっ、敵です!!」
先頭のベシムが警告するのと同時に前方の巨木群の陰から十数体のジャックナスとそこそこ大きなグリーンスライム2体が現れた。
ジャックナスは内に炎を宿した短剣を持つ人の子供程度の大きさの茄子のモンスター。グリーンスライムは有毒のスライムだ。
「ナスっ! ナスっ! ナスっ!」
規則的に呟きながら接近してくるジャックナスっ。
「ジャックナスは姉弟子の眷属ですっ! とうとう来ましたねっ」
身構えるネルコ。
「なんで茄子??」
「炎で森を焼かれると面倒ですっ。私が抑えます! ・・消失魔法っ!!」
ネルコの魔法の打ち消し効果でジャックナス達の内なる炎が大幅に減退し、動きも鈍くなった。
「効果の維持に専念しますよっ」
なぜ茄子かは答えてくれない!
「わかったっ、ベシムは弱ったジャックナスに止めをっ。俺はグリーンスライムを殺るっ!」
「承知っ!」
スライム担当みたいなっているが、オレンジスライム戦でコツは心得た気がするっ。夜鷹の兜のアイガードを下げる。
「来いっ、照明魔法っ!」
俺は蝋燭の火程度の明かりを2つ作って、グリーンスライム2体の側に放ち、それを使って誘導してジャックナスから引き離した。
グリーンスライムは『毒煙』等の特技を使うので下手にジャックナスに混ざってるとややこしい。
引き寄せたグリーンスライム2体にぶつけるようにポロの明かりを炸裂させ、一瞬怯ませる。
俺は距離を詰め、
「ハッ!」
『烈光突き』を放つ。バシュゥッッ!!! 思ったより強烈に発光し焼かれて吹っ飛ばされるグリーンスライム。
剣の光属性の効果が技と相性がいいようだった。
「ミューッ!!」
可愛いような不快なような声で一鳴きして残る1体のグリーンスライムが『毒酸液』を、ベッ! と吐き出して来たが俺は飛び上がって避け、落下の勢いでそのまま真下に烈光突きを放って残ったグリーンスライムを吹き飛ばした。
倒す際に『毒性のスライム汁』を少し浴びたが、モスガーデン卿が間接的に持たせてくれた防毒の指輪の効果で特に害は無かった。
熟れ過ぎたメロンみたいな臭いが不快だったが。
「フンッ! フンッ!」
ベシムも弱ったジャックナス達を容赦無く銀の戦斧で狩り尽くして殲滅した。魔物の群れを掃討できたようだ。
「ジャックナスは弱体化させれば大した脅威ではありません」
魔法の発動の起点にしていたダンシングロッドを腰の後ろの鞘にしまうネルコ。
「死臭に他の魔物が寄る前に去りませんとっ!」
さっさと立ち去ろうとするベシムだったが、俺は素早く『スライムガム・グリーン+1』『茄子の短剣』『大茄子のヘタ』『フレッシュ大茄子の身』を拾い、俺のポーチには収まらないので纏めてネルコのポーチにしまい込んだ。
「勝手に入れないで下さいよぉ、ポーチが茄子臭くなりますっ」
「君っ! 茄子ハラスメントだぞっ?」
「今回、現金報酬無いから、拾える物は拾っとかないとっ」
やらかした姉弟子の後始末にはこれまで討伐失敗に掛かった費用を含めると決行金が掛かるようで、廟解放時の戦利品はモスガーデン家に納めることになっている。
完遂の報酬もギルドへの推薦以外はネルコが断ってしまった。義母達に何を言われるかわかった物ではない、ということだろう・・
基本的にはお嬢なネルコはピンと来てないようだが、消費する持ち道具、消耗する装備品の整備費用、今後の活動費を鑑みるとシビアにならざるを得ない。
「拾う物は拾った! ズラかるぜ?」
俺はさっさと先へ進み出した。
「主旨変わってません?」
「小銭を拾うことに拘ると大金を逃すとも言いますぞっ?」
「はいはい、俺は貧乏性ですよっ」
「そこまで言ってませんよ、スネなくても・・」
「スネてないっ」
若干揉めつつ、俺達は巨龍のような木々が繁る森の中、廟を目指した。
途中幾つか丸太のように巨大な蔓を渡って行かねばならない箇所が数ヶ所あった。
まぁ補助になる魔法を使う程でもないので普通に歩いて渡ったが、ネルコはやはり危なっかしかった。
それでその都度ベシムがヒョイっ、と担いだワケだが、何度も運ばれる内に段々ネルコの機嫌が悪くなったりはした。
「ちょっと悔恨です・・」
呟くネルコ。まぁアスレチックレジャーやトレーニングで来ているのではないので、しょうがない。
時折戦闘もあったが、廟に一番近い祓い所に12時過ぎには付いた。
祓い所は念入りに魔除けが施され、『静穏』の魔法式の施されたトイレは付いていたが、それ以外は剥き出しで特に設備は無かった。
「わたくしは慣れているのでポーション1本飲めば何ともありませんが、お二人は小一時間は仮眠を取って下さい」
「悪い、ベシム。寝させてもらおう」
俺がとっとと寝た方がネルコも応じ易いだろうし。
「ベシムもゆっくりして下さいね」
「はい、お休みなさいませ、お嬢様」
「・・おやすみなさい」
直球の忠義心と親愛にちょっと赤面しつつ、ネルコは大人しくポーチから取り出したブランケットにくるまった。すぐ寝息を立てるネルコ。
さっきポーションを飲んで魔法石の欠片も使っていたが気力は消耗していたんだろう。
俺も剣のベルトを外して鞘を近くに置き、座ったまま目を閉じた。
「・・・」
「・・・」
約一時間後、コーヒーのいい匂いがして俺とネルコは目覚めた。
廟が近いので、煙を嫌ったのかベシムが魔工電熱コンロで沸かしたポットの湯でコーヒーを淹れてくれていた。
「この森は食べ物の匂いに敏感な魔物も多いですが、コーヒーには関心が無いようです。冷たいハーブ水と棒状糧食だけでは味気無いですからね」
「悪いな、ベシム」
「ふふん」
「ありがとう。貴方はいつも優しいですね」
「執事ですので」
「・・お父様と、お母様のお墓のこと、頼みますね」
マグカップを手にネルコが言った。
「はい、お母様のお墓は『ロブセン修道院』にありますから、奥様方も御無体なことはなされられないかと」
ロブセン修道院はモスガーデン領の隣の『オールドウィンド領』にある結構有名な修道院だ。だがかなり、遠いなぁ。
「そう、ですね。落ち着いたら」
「はい」
俺達は黒糖の塊幾つかと、温かいコーヒーと棒状糧食と塩煎りのナッツで食事を済ませた。
そして、それから30分も掛からずに俺達は廟の近くの巨木の陰まで来た。
ここはモスガーデン緑宮の中心部に近く、森の魔力が強く発光粒子が幾らか漂っている。
これだけ植物のエレメントの強い場所に、耐性の無い人間が対策無く長く留まると『植物人族』と化してしまうリスクさえあった。
だがっ、巨木の陰から俺達が見た光景はそんなリスク等構っちゃいられない衝撃の有り様だった!!
「ナス! ナス! ナス!」
「ナス! ナス! ナス! ナス!」
百数十体はいるジャックナス達がその3倍はいる小鬼族を奴隷として使役して廟を砦とも神殿ともつかない施設に改修させているっ!
疲労で作業が滞れば茄子に鞭で打たれ、反抗すれば茄子に鞭で打たれ、逃げようとすれば茄子に鞭で打たれるっ!!
「ナスぅ~っっ!!」
上位個体の『ジャックナスエリート』はサングラスに葉巻といったスタイルで跪いたゴブリンを椅子にしていたっ。
狼藉はそれだけに収まらなかった。『人面霊木』は拘束され、胴体にバームクーヘンの生地を塗られて焚き火の上で回転させてバームクーヘンを焼く『芯』に利用され号泣している!
美しい『森の乙女』達はシャベルで『掘った穴をまた埋め戻す作業』を延々強制され、やつれ果てている!
その他の森のモンスター達は『主』を称えるダンスや歌や楽器の演奏を強要され、原住のワープラント族達は適当に鎖で縛られ吊るされ放置せれてさめざめと泣いていた。
捕虜にされたらしい討伐隊や番屋の職員はフンドシ一丁で泣きながらハリセンで殴り合いをすることを強いられていた!
「荒らされているっ! 凄い勢いで森が荒らされているぞっ?!」
「ぬぅっ、番屋の職員達までっ!」
「予想の『斜め下』行くクオリティっ、相変わらずですねっ」
俺は夜鷹の兜のアイガードを下げ、視力を強化して改めて見た。
森を荒らす主、『ネルコの姉弟子』は砦? の中央奥にある廟への入り口の上部を改造した掌に乗りそうな『小さな台座』に造られた椅子にふんぞり返り、自分の顔くらいの大きさのあるグラスに注がれた煌めく液体をやたらグルグル回していた。
その者は道化じみたドレスともローブともつかない衣を纏い(よく見ると豆粒みたいなウワバミのポーチとなんらかの短杖も身に付けている)、虫のような透けた4枚の羽根を柔らかく自分の身を包むように半ば畳んでいた。
頭には奇妙な王冠を被っていた。『小妖精』の娘だった。ネルコと真逆の派手な顔立ち。
おもむろにグラスを煽る姉弟子。
「ぷっはぁーーーっ!!! 森中から集めさせた『グリーンエリクサー+3』はたまらんのぉっ! わっはっはっはっ!!!」
凄ぇ笑ってるっ。
「オラぁっ! エントぉっ、さっさとバームクーヘン焼き上げんかぁいっ!! オレ様が腹ペコリンになってるだろうがぁっ?! ニンフどももっ、もっと気を入れて穴を掘ったり埋めたりせんかぁいっ! お前達の悲しみ、悔しさ、怒りはオレ様の『力』になるのじゃっ!!! がっはっはっはっ!!! 」
爆笑する姉弟子っ!
「・・ネルコ、なんか『小っちゃい魔王』みたいになってるぞ?」
「元々アレな人ですけど、頭に被ってる『傲慢な王冠』の効果です。あの呪いの魔法道具を被ると魔力が『50倍』になるのと引き替えに、使用者の『内なる悪』が解放されてしまうのですっ」
「解放し過ぎだろ・・なんであんなモン被ってんだ??」
「状況を見るに、恐らく森のゴブリン族とその配下の魔物達と抗争して物量で負けそうになったけど逃げるのが嫌で、被ったんでしょう。姉弟子『ルッカ・マナ・フレア』は物凄く負けず嫌いですからっ!」
「負けず嫌いって・・」
「お嬢様、このまま放置すれば森の鎮守の要である廟が完全に破壊されてしまいますっ」
「わかっています! 師匠からこんな時の為に、この『封印の虹玉』を預かっているので」
ネルコはポーチから虹色の玉を取り出した。
「あんなややこしいことになるなら、あの王冠、前以て取り上げときゃよかったんじゃないか?」
「ルシフェルクラウンを被れば通常即座に『魔神』と化します。姉弟子はアレ過ぎるのでルシフェルクラウンを被っても『あの程度で』済んでるのです」
あの程度・・
「封印はできないのですかな?」
「過去に何度も封印されていますが、その都度、邪心を持つ者を引き寄せて災いを起こしています。姉弟子は、ルッカだけが! あの厄災の魔法道具を『気まぐれにポーチにしまっておける』のですっ!」
「なんと・・」
「凄い、のか??」
よくわからなくなってきた。
「ルシフェルクラウンの力を奪ってルッカを懲らしめて正気に返すっ! やることはシンプルですっ」
「そだな。なんかインパクトは強かったが・・作戦を立てよう!」
俺達は巨木の陰で『ルッカ・マナ・フレア討伐作戦』を手早く練り上げた。
最初にネルコが魔法石の欠片1つを対価に強烈な照明魔法を十数個炸裂させて、ルッカと茄子達を撹乱させた。ネルコの魔法石の欠片の残数は残り3つ!
続けて、俺も魔法石の欠片1つを対価に加速魔法を自分とベシムに掛け突入っ! 俺も魔法石の欠片は後1つ!
俺は造りかけの砦? の正面から前方の茄子達に、側面から入ったベシムは後方の茄子達に打ち掛かる。
弱体化はさせていないが、ポロの炸裂で動きが止まっている上に奇襲だ。俺達は通常個体は適当にいなし、残すと厄介な8体いるジャックナスエリートを優先して仕止めてゆく。
「ナスぅっ?!」
ゴブリンに座って葉巻吹かしてるヤツを高速で輪切りにしてやるっ。パワーはベシムの方があるが、ラピンの加速に慣れてる俺が4体、ベシムも4体ジャックナスエリートを仕止め殲滅させた。
「ナスっ? ナスっ??」
パニックになるジャックナス達を俺達は加速したまま斬り伏せてゆく。『落ち着いて囲めば物量で勝てる』と気付かれるまでに、物量でも押し切れない数まで減らす!
加速での全力攻撃に全身に負荷が掛かる上に速過ぎてポーションも飲んでられないが、ここで止まったら『詰み』だっ!
「ええいっ! 敵襲かっ?! おのれっ! 俺様の『ゴーレム要塞神殿』にカチ込むとはいい度胸だっ!!」
傀儡巨兵? そういえば、土器でできたバラバラになった『巨人』の装飾が砦? にはあった。
「ぐぅ~っっ、ちょこまかと加速しおってぇええっ! 狼藉者どもめっ、『隕石』落としてちゃうぞっ?!」
ルッカは頭上に人形のような小さな腕を掲げた。上空に巨大な魔方陣が出現するっ。流星を召喚するつもりかっ!
「ヤッベっ、ネルコ、まだかっ?!」
「・・・」
ネルコは魔法石の欠片1つを対価に強化した迷彩魔法を使って姿と気配まで消して、混乱する砦? の中をルッカの側まで接近しているはずだった。
封印の虹玉は接近しないと抵抗される可能性があるらしい。
上空の魔方陣の中心に黒く逆巻く空間の歪みの穴が開き、その向こうに『星々の世界』が見えだした。マズいっ! と、
「ルッカ・マナ・フレアっ!!」
廟の入り口の目の前、ルッカのいる『玉座』の真下に封印の虹玉を構えたネルコが姿を現した!
「っ?! ああっ? 誰だお前ぇっ?!」
「思い出せないのですか?! 妹弟子のネルコですっ」
「妹弟子? ネルコぉ?? ・・知らんっ! 知らんけどなんか『お前に対処しないと良くないことが起きる気がする』っ!」
左手は掲げたまま、右手の人差し指をネルコに向け、指先に炎を灯すルッカ。炎は瞬く間に巨大な火球に変わった!
「消し炭になっちゃいなっ!」
「なりませんよっ? ・・封印の虹玉よっ!」
虹玉はネルコの呼び掛けに応じ、虹色に輝き、その光はルッカの被るルシフェルクラウンの力を凄まじい勢いで吸収し初めたっ!!
「っ?! ギャアァーーッッッス!!!!」
白目を剥いて痙攣するルッカ! 指先の炎は萎んで消え、上空の魔方陣も縮まって消えていったっ。
残存のジャックナス達も力を失い、武装だけ残して縮み、『ただの茄子』に戻っていった。
ルッカの頭からズリ落ちたルシフェルクラウンはすぐに人が被れるサイズに拡大し、沈黙した。
「あばばばっ・・・・はっ?!」
玉座で昏倒し泡を吹いていたルッカは意識を取り戻した。
「コンニャロぉっ! オレ様の王冠の力を奪いやがったなっ?! 許さーんっ!!!」
さっきまで程ではないが魔力を爆発的に高め、呼応した砦? のゴーレム像を引き寄せ、合体させ、その頭部をパカッと開いて乗り込むルッカ。
「超絶暴爆天才カリスマっ! 魔導少女ピクシーっ!! このルッカ・マナ・フレア様がこてんぱんにしてやんよっ?!!」
「ジンタ君っ! ベシムっ! 出番ですっ」
「よしきたっ」
「お任せあれっ」
ラピンの加速は2人とも切れてしまったが、お陰でポーションは飲めたっ。
俺達はネルコに代わって前衛に周り、後衛に移ったネルコは虹玉を慎重にポーチにしまい、ダインシングロッドを構えて魔力を練り始めた。
「お供のモブ2人はすっ込みなぁっ!!」
ルッカはゴーレムの巨大な拳を振り下ろしてきた。当たれば即死だが、単純なうごきだ。俺達は回避した。が、砦? の床がブチ割れるっ! 破片の爆散が厄介だった。ネルコも集中を中断してダンシングロッドを旋回させて防いでいた。
俺は2連装のグレネードガンで燃焼弾を2発、ゴーレムの頭部に撃って頭を燃やしてやった。
「アチチっ?! 水流魔法っ!」
慌てて魔法で水を作って消火するルッカ。隙ができた。俺とベシムはアイコンタクトでタイミングで合わせた。
2人とも手持ち最後の魔法石の欠片で力を高め、ベシムはゴーレムの左腕に『ミンチメーカー』を放ち、俺は烈光突きを右足に放った!
投げ付けられた魔力を帯びた銀の戦斧がゴーレムの左腕を破壊し、突き込まれた俺の剣がゴーレムの右足を粉砕したっ。
「うわぁああーーーっ?!! なんだぁああっ??」
バランスが保てなくなってゴーレムを転倒させるルッカ。俺とベシムは巻き込まれないように素早く飛び退いた。
「力が溜まりましたっ! ルッカ覚悟っ。植物魔法っ!!」
ネルコは魔法石の欠片1つを対価に猛烈な勢いで茨を発生させて、倒れたゴーレムを絡め取り、『隙間』にまで茨を差し入れた。ネルコのナシャは茨なんだな。
「ちょっ?! 痛たたたっ???」
操縦席にまで茨が入ったらしいルッカ。
「成敗ですっ! 電撃魔法っ!!!」
最後の魔法石の欠片を対価に強力な電流を発生させ、茨を伝わせてゴーレム内部まで感電させるネルコ!
「あぱぶぽぼぽあなぁああーーーっっ??!!!!」
ゴーレムの全身が砕け、操縦席の頭部も崩れた。
これを見た、ゴブリン達と魔物達は一目散に森の中に逃げてゆき、ハリセンやシャベルを手に当惑していた討伐隊や番屋職員、ニンフ達もその場にへたり込んで一息付いていた。
エントは炙られたまま、ワープラント達は吊るされたままだったが・・
「やりましたね」
「感服しましたっ、お嬢様っ!」
「いや、やり過ぎじゃないかっ? 大丈夫なのか?」
「問題ありません。ルッカは妖精界で『世界樹の実』を盗み喰いした結果、霊的エントロピーが」
その時! 崩れたゴーレムの頭部から目映い光が立ち上がり、様々な服装のルッカが『十数体』浮かび上がった。
「???」
なんだ? 増えた??
「おおっ! 我が妹弟子よっ。お前が敬愛し、探し求めているのは・・『スポカジ系』のオレ様かなっ?」
カジュアルでスポーティーな格好のルッカが悪戯っぽいポージングでちょっと舌を出した。
「それとも『コンサバ系』のオレ様かなっ?」
シュッとした感じの服装でお高く止まったポーズを取ってこれ見よがしに詩集本を開くルッカ。
「それとも『ガーリッシュ系』のオレ様かなっ?」
ぶりっ子な感じの服装で、無意味にレモンを噛ってみせるルッカ。
「・・・」
真顔のネルコ。
「それとも『トラッド系』なオレ様かな?」
中性的なチェック柄等も取り入れた身軽な格好で空中でキックボードを乗り回してみせるルッカ。
「それとも『ゴスロリ系』な」
「やかましいわぁあーーいっっ!!!!」
ネルコは残る全ての魔力を乗せて、棒術技『旋風棍』を発動させてダンシングロッドを投げ付け、『ルッカ達』を纏めて吹っ飛ばした!
「ギャアァーーーッッス??!!!!」
今度こそ倒されたルッカ達は道化のドレスを着た元の『1人』のルッカに戻り、昏倒した。
「はぁはぁ・・うんざりして別行動をしたら、半年も大人しくしてられなかったようですねっ」
「お嬢様、心中お察し致しますっ」
なぜか泣くベシム。
「・・よしっ、取り敢えずエントとワープラント達を解放して戦利品を整理しよう、後で『すんごい賠償』するだろうし・・」
「ですね・・」
俺達はもそもそと今できる範囲の後始末に取り掛かるのだった。
翌日の夕方、俺達は『ピクシー封じの籠』に収容されたルッカを連れてモスガーデン卿の前に来ていた。
「オレ様悪くないもーんっ。廟の魔除けを壊して荒らそうとしてたのはゴブリン達だしっ、オレ様がいなかったら廟、ゴブリンに廟を乗っ取られてたんだぜぇ?」
居直るルッカ。
「代わりに君に乗っ取られていたようだが?」
「記憶にございませーんっ!」
籠の中で寝転がって口笛を吹き出すルッカ。溜め息を吐くモスガーデン卿。
「お父様、ルシフェルクラウンを管理できるのはルッカだけです」
管理できてないけどな。
「結果的に貴重な素材やゴブリン達の財宝も集めていたから金銭的な損害は無かったですし、酷い目にはあっていましたが・・幸い死者も出ていません」
多数の被害者がトラウマを刻印されたようではあるっ!
「魔除けの劣化していた廟を補修する切っ掛けにもなりました」
「おっ? わかってるじゃんネルコぉっ? さすがオレ様の妹弟子っ!」
「黙っててもらえますか?」
冷たい目のネルコ。
「うっ・・」
「わかった。ルッカ・マナ・フレア、今回だけは見逃そう」
「マジでっ?! よしっ、オッサン! 特別にオレ様のサイン付きプレミアムブロマイドを」
小さなポーチから身体より大きなキメキメのポーズの自分の写真を取り出し、ペンでサインを書きに掛かるルッカ。
「ただしっ! 条件がある」
「ええ~っ?」
面倒臭そうなルッカ。
「ネルコと、私の娘と一緒にいなさい。アイアンタートル家の次男、ジンタ君ともね。他に世話ができる者もいないだろう」
「え~?? コイツらかよぉっ」
「お父様、ありがとうございます」
一先ずルッカは無視するネルコ。
「俺はまぁ別に構いませんが」
『ちょっと面白そう』と、この時の俺は思ってしまった・・
「ネルコのギルドへの推薦の件、間違いませんか?」
「ジンタ君」
随分回り道したが、ネルコに関してはそれがずっと本線だった。
「勿論だ。認めるよ。もう認めざる得ないね・・ネルコ、ストレンジキャット氏族の先祖には当時の勇者とも旅をした偉大な魔法使いがいたそうだ」
初耳だっ。けど、そういえば勇者伝説に『黒猫の魔女』ってのがいたような?
「お前の母には最後まで不自由な思いをさせてしまったが、お前はお前の血の赴くまま、自由に生きなさい」
「お父様」
「・・しかし、現実は甘くなく、その後、ネルコは15歳にして夜の蝶へと身を持ち崩し」
「ルッカ! 不吉なナレーションを付けるの止めて下さいっ」
「へーん、っだ。さっさとこの籠から出せよっ! ドン臭ネルコっ」
「くっ」
モスガーデン卿は呆れつつ、俺に向き直った。
「娘を頼んだよ、君」
「はい、アイアンタートルの名に懸けて!」
我ながら安請け合いだな、と思いつつ。
3日後、俺達は馬を2頭借り、モスガーデン市の騎馬用のオールドウィンド方面口のゲート近くに来ていた。
俺が散々拾った素材と、ルッカがポーチの中に隠し持っていたゴブリンの財宝の一部が利いて、俺達は装備の補修費と持ち道具の買い足し費、そして当面の旅費を獲得していた。
俺とネルコは冒険者ギルドに正規登録し、モスガーデン卿の推薦のお陰で冒険者としての階位も一番下の『8位』ではなく1つ上の『7位』から活動を始められるようになったし、ルッカの戸籍も適当に捏造してもらいまでもしてはいた。
それでもやはりモスガーデン市に留まり続けるのはネルコの義母や義姉達を刺激するようで、その手の者と見られる監視にチラチラを後をつけられたりもした。
親族同士の無駄な争いは避けるべき、との判断だった。ルッカが素で反撃し出したら目も当てられないしなっ。
「お嬢様ぁ~っっ!! お元気でぇっ!!!」
「元気でなぁっ」
執事服のベシムと、なんだかんだで数日装備周りで世話になった最初に剣を鍛えてくれたヤシャ族の錬成鍛冶師とその助手が街乗り用の華奢なモスガーデン家の魔工自動車で見送りに来てくれていた。
「ありがとうっ! 行ってきますっ!!」
泣いているネルコ。
「また来ますっ!」
「・・オレ様、特に思い入れ無いから乗れねー感じ」
俺の夜鷹の兜の上に乗っているルッカ。俺達はモスガーデン市の魔除けのゲートを抜けていった。
正直、これといって目的の無い旅だが、取り敢えず、ネルコの母親の墓のあるというオールドウィンド領のロブセン修道院を訪ねてみるつもりだった。
「遠いよな? 旅費あるんなら奮発して『転送門』でパーンと現地まで飛んだ方が楽じゃんか?」
「ルッカ、旅を楽しみましょう!」
「修行にもなるしなっ」
「しょうもなぁ~っ、大体目的地が『墓参り』って、辛気臭ぁ。もっと、こう、ドラゴンとか倒しに行こうぜっ?! オレ様、刺激が欲しいぜっ?」
「懲りてませんねっ」
「アレ、被るなよ?」
ルシフェルクラウンは結局、ルッカのポーチの中だ。
「んん? つまらーんっ!」
俺達はオールドウィンドに繋がる泣き笛街道へ向け、領公道を馬でポクポクと並足で進んでいった。