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モスガーデン

2人でそれぞれオフロード魔工原付に乗って泣き笛街道を疾走していた。

俺の車体はパープルカラー、ネルコはライトグリーンだった。

馬ならちょいちょい蛇行している泣き街道をショートカットしたとして、メジハ村からモスグリーン市までギリで2泊3日、といったところだが、魔工原付だと1泊2日で余裕を持って行ける。

ずっと平らな直線なら魔工原付で数時間で着く距離だが、そうはなってない。オフロード仕様でも原付で街道を外れてショートカットを狙い続けるのも厳しい。

街道は悪路が多く途中で一回きっちり整備しないと、魔工原付じゃとてもじゃなかった。


「腰や腕、痛くないか?」


原付と一緒にレンタルして魔工インカムで聞いた。ネルコは通話する魔法も使えるが、ずっとそれを持続して運転する、というのはちょっと無理だ。


「大丈夫です。シートに奮発して対振動カバーを装着してますっ! 腕も、私、棒術を少し習ってますからっ」


「いいね」


ミラーで後ろ走るネルコを見ると、春風の帽子をウワバミのポーチにしまって、ライダーヘルメットとゴーグルを装備したネルコは別人のようだ。

いつも穿いてるスカンツも危ないので今はダンコとモチヨに勧められたレザーパンツを穿き、上は大きめのブルゾンを重ね着していた。

俺も、夜鷹の兜を運転用ヘルメットとゴーグルにするのは目の負荷が強過ぎるから、普通のレンタルしたヘルメットとゴーグルを身に付けてる。いつもより軽快な感じ。

4月、地竜王の月の台4週。色々あったけど、メジハ村に引っ掛かっていた俺は、ようやく目的地モスガーデン市へ向かっていた。

天気は良く、青い草原に吹く風も気持ちいい。知り合いも増えたし、自分の有り無しの基準も見えてきた。なし崩し気味でも旅の仲間も一人できた。幸先いいぞ!



今日の宿泊地に定めていた『モスガーデン南・ニョ・15番』の野営地に着いた。

距離的には1時間半程度で着きそうなもんだが、なんだかんだで3時間以上掛かった。そして、安い魔工原付を借りたから足周りがもうガタガタだ。

朝一でダンコとモチヨと別れて出発したからまだ昼前だったが、魔工車両レンタルショップの工場に原付を預け、今日はもう移動できない。


「ここ、ヨモギのスチームサウナがあるそうですっ!」


「マジで? 宿にチェックインしたら行こうっ」


俺達は魔工電信で予約していた宿の手続きを済ませ、(入れ過ぎじゃないか?)と困惑するくらいヨモギをたっぷり使ったヨモギの蒸し風呂を堪能し、いくつかある食堂(ダイナー)の内、淡水魚料理が美味しいらしいダイナーに入った。

俺はオド鱒のバター包み焼きビーツ沿え、ネルコはオド鱒の香草焼きホースラディッシュソース掛けをメインに頼み、サラダとロッククラブのグラタンはシェアすることにして、後は適当にパンとスープを頼んだ。

飲み物はルートビア(ノンアルコールの甘い発酵ハーブ炭酸飲料。種類は様々)。デザートは後でアイスクリームショップで別に買うことになった。


「乾杯っ!!」


俺達はジョッキを合わせ、『御当地ルートビア』を煽った。


「ぐあっ? ルートビアまでヨモギだっ」


「なんか、料理の下拵えされた気分ですね。ふふっ」


意外とあっさりした味付けの料理を食べ、気になっていたことを聞いてしまうことにした。


「ネルコ」


「はい?」


グラダンに丸ごと放り込まれていたロッククラブのハサミを解体するのに夢中になっていたネルコ。

今は春風の帽子を被っているから『ネルコ感』が増していた。


「霧の猫のクエスト以降、なんとなく一緒に行動してきたけど」


「家に住んでましたからね」


「まぁそうだけど・・その」


「なんですか? ハサミの身、食べたかったですか? 半分くらいなら」


「いや、違う。俺と(パーティー)を組んでていいのかな? って話」


目的地が一緒とはいえ、魔法使いは戦士職よりかなり成り手が少ない。1対9くらい。もう少し選べそうな気もした。


「・・・」


ネルコはナイフとフォークで器用にハサミの身にグラダンの焼き目の付いたチーズのソースを乗せて、それをさらにカットされたパンに乗せてモリモリ食べ、ルートビアで飲み干した。


「ふうっ・・何か、問題ありましたか?」


逆に聞き返してくるネルコ。


「いや、無い」


「ならこのままで」


「ああ、それはそれで」


俺達はそれからオシカはもう首都に着いたか? とか、メジハ村のダンコとモチヨの話をしながら食事を続け、ダイナーを出た後はアイスクリームを食べ、腹一杯になって、宿に戻った。

隣り合った部屋を取っていた。


「じゃ、夕飯はライス料理のダイナーで」


「昼たくさん食べたから8時くらいにしましょう。入りません」


「わかった」


それぞれ部屋に入った。8時まで自由行動だ。俺は仮眠を取ることにした。自分じゃ買わないセンスの可愛いデザインのドングリ時計のタイマーをセットする。

妙なもので、馬で草原を駆ける夢を見た。



・・簡素な泣き笛街道から外れ、舗装されて『車道』まである領公道に入ると一気に道行く車両が増えた。馬や馬車は敢えて舗装していない専用の道路が別に有った。


「大型魔工車は危ないので気を付けましょう!」


「了解っ!」


俺もネルコも少し緊張して、車道を走り続け、程無く3重の立派な魔除けのゲートを抜けてモスガーデン市内に入った。


「ぬぉおお~~っ??? 都会だぁっ! 建物だらけだぜぇっっ?!」


「あははっ! やめて下さいジンタ君っ。腕に力が入りませんっ」


「人も多いぞっ?! 祭だぁあ~っ!!」


「あはははっ、もうっ、一回路肩に停めますっ! 事故っちゃうっ、悔恨ですよっ?!」


笑い過ぎたネルコが路肩に魔工原付を止めたので、俺も停めた。


「ジンタ君、降りたらダメですよ? この辺は確か路駐の取り締まりが厳しいんですよ。乗って停まってる分にはグレーゾーンですからっ」


「よしっ、そのグレーゾーン、活用しよう!」


俺達が停めたのは車道用の魔除けのゲート近くの倉庫が目立つエリアを抜けたオフィス街だった。

途中に工場エリアもあったが、特に用は無いし、大型車両がバンバン出入りして危ないので迂回してこちらに出てきていた。

ビルが建ち並ぶオフィス街には魔工トラムも通り、飲み屋や飯屋の通りやホテル群も内包していて華やかだった。


「文明がっっ、文明が発達しているぞっ? ネルコっ!」


「あははっ、もうソレやめて下さいってっ!」


俺は一頻りカルチャーショックを受けたが、野営地からここまで走って魔工原付がもうガタガタになっていたので、取り敢えず同じグループの魔工車両レンタルショップに原付やインカム等を返却した。


「さすがに疲れましたからね」


「メジハから完走しちゃったからな」


ショップの脇の利用者用にベンチが並べられたエリアで自販機で瓶飲料を買って、少し休憩することになった。


「回復しますよ? リーマっ!」


ネルコが回復魔法を掛けてくれた。小さな瞬き共に疲労が癒える。


「じゃ、俺も、リーマっ!」


ネルコにも回復魔法を掛けた。顔色が良くなった。ニッコリするネルコ。


「ふふっ、今日は休んで、市のギルドと父の所には明日、向かいましょう」


「構わないが、午後から装備を見に行きたいんだが?」


俺は元々ルフ郷で貯めた旅費に加えてメジハでも旅費を貯める形になったから結構余裕があった。


「いいですね。無事たどり着けたので、余った旅費で私も持ち道具を買い揃えたいです」


俺達は昼食はモスガーデン市でよく食べられるという平打ちの麺を使った『キシウドンヌードル』で軽く済ませ、取り敢えず今日泊まる宿の部屋をそれぞれ取った。



午後3時過ぎ、俺達は市内の冒険者関連の品々を扱うアーケード市に魔工トラムで向かった。


「魔工トラムに乗るのは5ヶ月ぶりくらいです」


「ネルコ、乗り物好きだよな」


「子供の頃から、どこか遠くに連れてってくれるイメージがあります」


「そっか」


感傷に浸っている様子だったから、あまり深くは聞かなかった。

市ではまず、持ち道具類を見て、それからネルコの春風の帽子の調整と俺のブーツ+1の補修をした。

その流れで俺の装備を買いに行こうと思ったが、


「ジンタ君、ウワバミのポーチを買った方がいいと思います」


「ん?」


「リュックは取り回しが悪いでしょうし、本当に荷物が多くなった時も困ります」


ネルコが俺の『リュック』にそんなに注目していたとは知らなかった。


「魔工原付でずっと後ろにいたから。ジンタ君のリュックが常に視界にあって(ウワバミのポーチ、買った方がいいのにな)と思ってました」


「それでか」


俺は苦笑した。


「そうだなぁ・・」


ルフ郷を旅立った時点では、当面はソロで簡単な魔物退治で活動するつもりでいたから、武装以外は邪魔にならなければいい、くらいの意識があったが、ネルコと組んでみると意外と戦ってばかりでもない。

実際クエストが長引いたり荒れたりすると(リュック、邪魔だな)と思うこともしばしばあった。

持ち物の携帯状況の改善を優先する、というのも有りといえば有りだ。纏まった金がないとウワバミのポーチなんて買えないしな。


「よしっ! 中古でいいのないか探してみようっ」


「私っ、いい店知ってます!」


俺達はネルコのよく知るという『ウワバミの鞄』専門店に向かった。


「予算は60万ゼム、中古可、前衛職、少なくとも今背負ってるリュックと同等の収納力・・そうだねぇ」


爬虫類人のワークロコダイル(鰐ベース)の店主は店のストックから探し始めた。


「ネルコお嬢様の『お友達』で、アイアンタートル家の次男坊ときてるからね。ウチもいい物紹介しないと、店の名がすたるよ・・これだな」


ワークロコダイルの店主はよく使い込まれた頑丈そうなウワバミのポーチを持ってきた。


「収納力はそのリュック2つ分。内部温度は常温よりやや低い。頑丈だ。ちょっと重いのと空気の自動入れ替え機能が無いから管理に注意が必要だ。生き物を入れるのもよした方がいい。値段は・・36万ゼムでいい」


「安いっ! ええっ? いいの? 親父さんっ」


機能だけでいったら新品の市価のほぼ半額だった。


「あんたの両親に若い頃、世話になったんだよ。売れ筋じゃないし、まけとくよ」


「そう、なんだ・・」


「ジンタ君、どうします?」


「買いますっ! お願いしますっ。大事に使いますっ」


「毎度あり」


俺は『古風なウワバミのポーチ』を購入した。

店主からから扱い方をレクチャーされ、早速リュックと、それまで使っていた普通のポーチの中身を収納した。嘘のように入って、ポーチ自体以外の重さもない。


「凄いっ!」


「でしょう?」


なぜか自慢気なネルコ。まぁネルコのウワバミのポーチは実際一級品で、平屋の小屋一つ分くらいの収納力がある。

実は『ネルコ城』家財道具の内、ダンコとモチヨに譲らなかった物は殆んど纏めてそのままポーチの内に収納していた。

ネルコは『私がいる所がネルコ城です』と言っていたけれど、本当にネルコ城は『持ち運び』されている。


「残りの金で剣を買い換えたらいい、石器の剣くらいじゃ、登録してもいい仕事は来ないぜ?」


「いやぁ、でもさすがに20万ゼムちょっとじゃ・・」


「領衛兵の払い下げ専門の店がある。状態の悪いのばかりだが、銅製なら相当安い、浮いた金で錬成鍛冶で強化してもらえやいい。銅の錬成は簡単だ。安くやってくれるよ」


俺は店主に感心した。


「テクニカルな買い物だ! やってみるっ」


「ぼったくられないようにな」


俺は店主に礼を言って、空のリュックとポーチは畳んでウワバミのポーチにしまい、ネルコと共にいそいそと教えてもらった市の裏手にあった領衛兵の払い下げ専門店に向かった。


「私は気を遣われとよくないんで、外で待ってます」


「あ、そっか。そこのワッフル屋で待ってて。早く済ますよ」


そう言えばネルコは領主の娘だった。直属の衛兵の払い下げ店に行ったら店の方が困ってしまうだろう。

俺は1人で店に入った。


「銅製? ああ、錬成し直すんッスね。だったらこの特にゴツい儀礼用のロングソードがいいッスね」


払い下げ店の若い店員がボロボロにはなっているが派手な装飾の銅のロングソードを取り出した。俺は戸惑った。実戦品じゃない。


「儀礼剣はちょっと・・」


「いやいや、造りはしっかりしてるんッスよ。それに錬成鍛冶で直すなら縮むんで、細いの買うとロングソード(小振りな両手持ち剣)がブロードソード(片手剣)になっちゃうッスよ」


「ええ~?」


「錬成屋で『萎み対策』に精製銅を別に買うと高いッスよ? それにこの儀礼剣、元は魔除けの効果があったから錬成し直したら素材足さなくても光属性持ちにできるッスよ?」


「ホントかよ~??」


探知してみると、確かにうっすら光属性を感じた。

正直半信半疑だったが、他に適当な銅剣が無く、装飾は派手だがボロボロの鞘と一緒に『儀礼剣-1』を10万ゼムで、俺は購入した。


「大丈夫ですかソレ?」


ワッフルを齧りながら聞いてくるネルコ。


「いや、重さは鉄剣程度だ。一度はちゃんと錬成鍛冶で整形されてる」


銅製の武具は重く、柔らかいので普通、未加工の鉄程度に軽く強く錬成し直される。パチモン銅武具は『やたら重い』のですぐわかる。

とはいうものの、なんだか不安になりつつ、最初の鞄屋に紹介してもらった錬成鍛冶屋に向かった。


「またスゲェの持ってきたなっ!」


額に角が生えているヤシャ族の筋骨隆々な女の錬成鍛冶師は俺が持ってきたボロボロの儀礼剣-1と鞘を手に呆れていた。


「鞘はすぐ隣の『武具周り品』専門のヤツに直させる。この儀礼剣は任せなっ。合わせて12万ゼムでやってやるっ!」


「頼むっ、正直流れで買っちまった」


「何言ってんだか・・彼氏、優柔不断の気があるから気を付けな!」


「いやっ、彼氏ではっ」


「そうそうそうっ」


慌てる俺達。


「あーん? まぁいい、一応確認するけど『立派な儀礼剣』に直すんじゃなくて、実戦用のロングソードに打ち直すんだね?」


「勿論だ!」


「頼みますっ」


「任せなっ! 男にしてやるっ」


「俺は元々男だっ!」


「あーん?」


クセの強いヤシャ族の鍛冶師は助手に鞘を隣の店に届けさせ、早速作業に取り掛かった。

見学させてもらったが、まず、剣を万力で固定して別の回転させらる万力でバキャッ! と柄頭を外し、柄も鍔もバキバキに解体っ!

次にとんでもない勢いで砥石で錆びを削り出した。


ザリザリザリザリッッ!!!!


どんどん削られてゆく儀礼剣-1っ! そりゃ体積減るわっ。

剣身(けんしん)が粗方綺麗になると戻ってきた助手に錬成前段の仕上げを任し、次にバラバラになった柄部位を万力と金鑢(かなやすり)と様々な形の砥石でガリガリと凄い勢いでまた削る。

それも速攻終えると、必要な素材を置いた錬成陣の中央の打ち台の上に炉で焼き直した剣心が置かれた。ハンマーを手に集中するヤシャ族の錬成鍛冶師。


「火花が危ないんでこれを」


助手がフェイスガードと耐火剤を縫った木板の盾を俺達に貸してくれた。


「っ! ソイヤッッ!!!」


目を見開き気合いと共に焼けた剣身をハンマーで叩きだすヤシャ族の鍛冶師。火花が散り、錬成陣が反応し、配置された素材も輝いて剣身に吸い込まれ合わさってゆく。


「おお~っ!」


「圧縮される感じですっ」


最後にガツンッッ!!! とハンマーが振り下ろされ、焼けた剣身をやっとこで掴んで水にジュウゥゥッッと潜らせ、冷まし出すと・・


「銅のロングソード+1だねっ。光属性だ。地金(じがね)がいいよ」


「凄っ」


「綺麗っ!」


その後、錬成し直した柄も取り付けてもらい、同じく錬成し直された鞘+1(これも光属性)も戻ってきた。


「掘り出し物だったよ。普通に買ったら銅の錬成品でも『3桁』万はイッたよ? 盗難対策に鞘と柄の造りは地味にしておいた」


俺は仕上がった剣を鞘から抜いてみた。俺の魔力に呼応して僅かに瞬く。こりゃビギナーの装備じゃないぜっ。


「ありがとうっ! 助かったよ」


「いい買い物でしたねっ」


俺は名残惜しい気もしたが石器の剣は売り、ベルトで固定して銅のロングソード+1を背中に背負った。背負ってるだけで頼もしいっ。



興奮気味の俺達は夕飯後に、『勢いのある内にギルドにも言ってしまおう』と夜の8時も過ぎてからモスガーデン市の冒険者ギルドに乗り込むことになった。

設備が大きいが、俺達は気が大きくなっていた! しかし、


「え~と、落ち着いてね。紹介状と推薦状をモスガーデン卿の所に持ってゆくんだよね? ネルコお嬢様も」


対応に出た30過ぎくらい職員は困惑気味だった。


「うっ、やっぱり領主の許しが先か」


「やはりお父様が『山』ですねっ」


「いや、2人のメジハ村での活躍の報告を受けてるし、メイン職のレベルももう8くらいあるよね? ジンタ・アイアンタートル君は紹介状云々がなければ普通に登録できるよ? ネルコお嬢様も、他の領なら問題無いはず。ただまぁウチはモスガーデンのギルドだから、2人の紹介状と推薦状も無下にできないから」


俺達は一転、テンションが下がってしまった。


「ですよね・・」


「早まりました・・」


俺達はそのまますごすごと宿に戻ろうとしたが、


「折角来たんだからレベル判定していったらどうだい? データがあった方がこっちも対応しやすいし」


職員の人の進めで、俺達は『鑑定水晶』でレベル判定を行うことにした。


「ジンタ・アイアンタートル、剣士Lv8、格闘士Lv5、機械工Lv3、大工Lv4・・・」


「ネルコ・ユシアン・モスガーデン、魔術師Lv8、戦士Lv3、薬師Lv5、裁縫師Lv3・・・」


水晶は俺達の能力(ステータス)を鑑定し、淡々と読み上げていった。


「剣士Lv8になってる!」


「私も魔術師Lv8になってました!」


ギルドの養成所なんかを出ると最初はメイン職のLvが4前後らしいから、そこそこの腕前だった。


「これは、いけるなっ!」


「私はこれでダメなら本格的に出奔するしかありませんっ」


「う~ん・・」


それもちょっと微妙だなぁ。



とにかく宿の戻ると魔工電話で(都会だから市内ならわりと魔工電話線が通ってる)でモスガーデン家にアポイントメントを取り(緊張したし、結局ネルコに電話を代わってもらった)、翌朝、俺達は市の東側の案外外れにあるモスガーデン市の館に乗り込んだ!


「どぉおおーーーーっ?!!! 城じゃんかっ?」


ネルコの実家は、広かった幻のスミス邸が『物置』に思えてくるような大邸宅だった。


「この市の東側の外れは農地との境で、建築に制限があるんです。殆んど許可なんて出さないから、土地が余ってるんですよ?」


面白くもなさそうに言うネルコ。基準がわからなさ過ぎて相槌も打ち難いぜっ。


「お嬢様ぁ~~~っ!!」


門番に最敬礼で中に通されて前庭の道を2人でとぼとぼ歩いていると、館の方から執事服を着た大男が窮屈そうに『魔工カート』に乗ってこちらに向かったくる。


「『ベシム』ですね。執事兼護衛を務めてくれている者です」


「そんな感じするなぁ」


ベシムの魔工カートが俺達の前に停まった。


「徒歩で来られるとはっ?! ブライアン(確かネルコの馬)は?」


「オレンジスライムの食べられちゃいました」


「なんとぉっ?! ブライアァーーーンッッッ!!!!」


天を仰いで号泣するブライアン。オレンジスライムが巨悪に思えてきたな・・


「ところで君はっ?!」


凄まじい殺気で俺を見てくるベシム。怖い怖いっ。


「昨夜も魔工電話で名乗りましたが、ジンタ・アイアンタートルですっ。ネルコさんと(パーティー)を組ませてもらってますっ! 一切やましい所はありませんっ!!」


「高名なソウスケ・アイアンタートルさんの弟さんですよ? 御両親のことをお父様も御存知とか」


「・・アイアンタートル家の御次男様でしたか」


「ええ、まぁ」


『御次男様』って初めて言われたな。


「ともかくっ」


ベシムは素早く魔工カートから降り、ネルコの為に後部席のドアを開けた。


「ありがとう、ベシム。ジンタ君も」


「ああ、それじゃ」


バタンっ!


俺が乗る前にドアを閉められたっ。


「御次男様は『ダッシュ』あそばせっ」


魔工カートなりのフルスピード発進させるベシム。


「ベシム! ジンタ君も乗せてっ。もう! 私も降りますっ。ベシムっ」


断固停めないベシム。


「こんな感じかっ、加速魔法(ラピン)っ!」


俺は自分を加速させて魔工カートを追った。



無駄に追い駆けっこするハメになったが、なんとか俺とネルコは領主の書斎まで何食わぬ顔のベシムに案内された。

応接間じゃなくて書斎なのはやっぱネルコが親族だからかな?

ベシムは当然、といった様子でネルコのメジハ村ギルドの紹介状と、俺からルフ郷の里長の推薦状を受け取り、領主モスガーデン卿に渡した。


「・・・」


どちらもざっと目を通し溜め息を吐くモスガーデン卿。目元なんかがちょっとネルコに似てる。


「ジンタ・アイアンタートル君についてはわかった。市のギルドに話を通しておく。ネルコは・・気は変わらないのか?」


「はい、許してもらえないなら別の領に移ります!」


「そうか」


モスガーデン卿は眉間に皺を寄せ、一瞬弱ったような表情を見せた。


「ネルコ。ならばお前をモスガーデン家から勘当し、氏族から除籍する。以後、モスガーデンではなく、母の氏族名ストレンジキャットを名乗るがいい」


声を圧し殺してまた泣くベシム。俺も焦った。勘当されるのか?!


「ユシアンのミドルネームは名乗って良いでしょうか?」


「それは好きにしろ。それから餞別だ。私から仕事(クエスト)を発注しよう。見事完遂できたら私からギルドにお前の活動も推薦しよう。ただ、失敗するようなら、このモスガーデン市から早々に立ち去るといい。お前の考えは甘い、ということだ」


「お父様・・」


「詳しい話はベシムから聞け」


「お二人ともこちらに」


ベシムは案内に掛かったが、


「ネルコは確かに世間知らずな印象ですがっ! 真剣に取り組んでいましたよっ? 確かに他にも道はあるかな? って気はしますけどっ」


カッとなった俺は食い下がってしまった。


「ジンタ君、いいんです。お父様を責めないでっ。行きましょう。失礼します・・」


俺は全力で引っ張ろうとするネルコの気迫に根負けして、モスガーデン卿の書斎を後にした。



廊下の出た所で待ち構えていたようなマキシワンピースドレス(裾の長いシンプルなドレス)を着た3人組が迫ってきた。今度はなんだよっ?

中年の婦人と、ネルコより少し歳上くらいの女の子と二十歳前後くらいの女性だった。すぐに頭を下げて畏まるベシム。


「あらぁっ? 泥棒猫の娘が帰ってきてしまったわぁ!」


「お父様に取り入るつもりでしょうっ?! モスガーデンの富は何一つ渡さないわっ」


「ベシムっ! 猫缶でも恵んであげなさいっ」


通り過ぎ様にネルコに肩をぶつけ、散々悪態を吐いて歩き去っていった。俺は唖然とした。


「なっ? ななっ??」


こんなわかりやすい嫌がらせが実在するのかっ?!


「お義母様とお義姉様達です。亡くなった私の母はこの家のメイドだったので・・」


「ああ、えっと」


そういう事情だったのか・・



モスガーデン氏族がモスガーデンの姓を名乗ることになったのはモスガーデン市の東にある大森林『モスガーデン緑宮(りょくきゅう)』の各所に祓い所と安全な林道を切り開いた功績を国王に認められたからだった。

だが開発されて直、モスガーデン緑宮は魔物の巣窟だった。

そのモスガーデン緑宮で俺達は、


「せぇあっ!」


夜高の兜のアイガードを下ろした俺は『十字抜き』の技で、植物の力を宿す鬼火『グリーンウィスプ』3体を纏めて撃破した。光属性の銅のロングソード+1は効果抜群だっ。


「ふんっ!」


執事服ではなく、『野獣のブルゾン』『野獣のパンツ』を着込んでワイルドな格好をしているベシムは魔力を込めた鈍器を投げ付ける技『ミンチメーカー』で、『銀の戦斧』を投げ付け、切り株モンスター『打ち首の木』の群体を撃ち抜いて一掃した。


烈風魔法(ゼラ)っ! 電撃魔法(ジル)っ!」


魔法で放ったカマイタチで足の大きな鳥型モンスター『キックバード』を両断し、電撃でキノコ型モンスター『ショウキダケ』を吹き飛ばすネルコ。

どうにか魔物の群れを退けていた。


「まったくっ! とんだ課題ですっ」


目が据わっているネルコ。


「今回ばかりはお供しますよっ?」


銀の戦斧を拾いつつ、鋼の胸筋を見せ付けるベシム。


「ま、『命は大事に』で行こう」


俺は仲間全員の回復アイテムの残数を頭の中で計算し直していた。

俺達がモスガーデン卿に与えられたクエストはこの巨大植物が繁茂し、その名の通り一面苔に覆われたモスガーデン緑宮を舞台とした物だった。

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