第二章 第三節
「ふ~ん」
「えーっと…」
「うーむ」
「あ~」
「……」
フィオナ姉、あたし、ルル、リトラス、キール、それぞれの唸り声が馬車の中に響く。窓からは夕暮れの光が入り込んでくる。あの、馬車独走騒動(?)から、冒険せずおとなしく馬車を進めたあたしたち。ついさっき、夕飯の用意も、焚き火の準備も外に整っている。で、今何をしているのかというと…。
「案外難しいものだな、脚本づくりとは」
ルルの声が空虚に聞こえる。
「ね、そうでしょ?」
脚本担当のフィオナ姉が何故か自慢げに言う。脚本担当のフィオナ姉が、脚本づくりに音を上げたのが、早一時間ほど前。で、あまりにも騒ぐから団員総出で考え出したはいいものの…。
「これ、方向性が決まってないから決まんないんじゃない?」
「方向性って…。どういうのよ?」
「いっそのこと、劇の脚本、という大前提を取り払うのはどうだ?」
「とってどうする?」
ルルの提案にキールの返し。うん、これは迷宮入りしそうだ。
とりあえず、全員の担当楽器をメモに書き出すことになった。
「妾は、お主らの脳内に刻まれている通り、トロンボーンと歌ができる」
「あたしは、ハーモニカと踊り、かな。あ、朗読もすこしできる、かも」
「僕は裏方かな。あ、でも、機巧使えばシンセサイザーとか、ドラムとかできるよ」
「おれは歌とアコーディオン。本の朗読は明らかにセレナより上手い」
「はぁ!?喧嘩売ってんの!?」
「はいはい、セレナ落ち着く。キールも、変に人を挑発しないのね。えーと、で、うちがエレクトーンと歌と踊りと朗読っと」
「多才なのだな」
「まあね」
「でも、これだけ個々人のできることのバリエーションがあるなら、なんとかなるんじゃない?まあ、人に見せられるものであれば、の話だけど」
「今の時点であまりまとまっていないのなら、急いで脚本や担当を決める必要はない。急いては事を仕損じる、だ」
「なら、今確実にできることは、それぞれのできることの質を上げることね」
その次の日から、あたしの地獄の舞台役者特訓が始まった。