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第二章 第二節
「ふう…」
執務机の上の書類と機巧のパネルから目をあげる。大きな窓の外には、セルカートの街並みが見える。ここは鏡月一高い建物だ。酷使した目をしばたたかせつつ、ぐっと伸びをする。ああ、目が痛い。
ここ最近、元老院に回ってくる仕事の量が多すぎる。特に元老院長の私はもっとだ。帝国王に現状打破を訴えても、善処しようの言葉だけが返ってくる。善処されたことはない。しかも、今取り掛かっている仕事が魔術師がらみなんだからもっといや。魔力も魔術も嫌いだ。あんな汚らわしいもの、関わりたくもない。
「失礼します。団長、劇団の練習時間ですが」
ノックの音と同時に滑り込んできたのは、副団長。全く、いつもノックの返事が返ってきてから扉を開けろと言っているのに…。
でも、演劇はいい。今のこの私を解放してくれる。
「分かった。すぐ行くわ」
私のトレードマーク、白衣とセーラー服と長い黒髪を翻し、元老院長の執務室の扉を開ける。