第一章 第四節
声のした左側を見ると、金髪のポニーテールを揺らしながら、一人の女の人がこっちに歩いてきているところだった。
「んあ!?何だテメェ、やんのか、あぁ?」
「ええ、やりますとも」
「何様だ、テメエ!!」
「通行人にタカるとか、そっちが何様だ」
三人のうち、右と左の二人がすごむ。怒鳴り声に身をすくませるあたしと対照的に、女の人は毅然とした態度を崩さず、かばうようにあたしの前に立つ。宣戦布告、という言葉が似合う立ち方だ。
「貴様ッ!」
向かって右の男が声を荒げ、こちらに向かって殴りかかってきた。危ない!
あたしは思わず目を閉じる。でも、聞こえてきたのは悲鳴ではなく金属音。
「っがぁ!」
「うちの短剣は切れ味抜群よ。そうね…、あなたをこの剣の錆にしてもいいかも。」
「そいつを放せ」
突然、今まで黙っていた真ん中の男が口を開いた。ほかの二人と比べて雰囲気が違い、強そうな印象だ。
「あ、兄貴…!」
「なら、今すぐここから立ち去りな、兄貴さん。弟さんは返してやるから」
女の人が、どさっと、捕まえていた男を放す。
「行くぞ」
「は、はい…」
「ま、待ってくれ~!」
と、何が何やら分からないうちに、チンピラ三人組は去っていった。一見普通の女性に見えるこの人は、戦わずしてしつこいことで有名のチンピラを退散させてしまった。一体何者…?
「けが、ない?」
女の人はあたしの方を振り返り、さっきのドスの効いた声とは一変、温かささえ覚えるハスキーボイスで尋ねてきた。
「は、はい、大丈夫です…。あの、助けてくださり、ありがとうございました」
「いいよ、そんなの。気を付けなよ、あいつらしつこいから。」
そこで女の人は一旦言葉を切る。
「で、何でこんな夜にあなたのような女の子が歩いているの?南の三十五番街は危ないって聞かなかった?」
「月猫劇団、という劇団の事務所を探しているんです。この先の五十一番街にあるはずなんですけど、ご存じないですか?」
すると、女の人のガラス玉を思わせるようなオレンジの瞳が見開かれた。
「知ってるも何も、うちは月猫劇団の団長よ。」
「え、そうなんですか!?」
「ええ。ちなみに何の用なの?…新規入団ならとても嬉しいのだけれど…」
「はい、その新規入団の件で伺おうと思っていたんです!あの、そちらであたしを雇ってくださいませんか?」
すると、団長さんは満面の笑みでサムズアップした。
「もちろんよ!うちは月猫劇団団長のフィオナ。団長かフィオナって呼んで。よろしくね!」
「あたしはセレナです。こちらこそよろしくお願いします、フィオナ団長!」
ここからがスタートだった。あたしはこれをきっかけにして、月猫劇団と劇団のみんなと出会い、多くが変わった。
これはその、始まりの物語。