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第二章 第八節
おれは、満月の夜が好きだが、嫌いだ。
何度も見上げた夜空を見上げる。どんなときも、人の頭の上の空は変わらない。子供のときも、今も、変わらない色合いの月。この色を、殺意を込めた目でにらんだこともあれば、光の暖かみに救われたこともあった。今は、無心で眺めている。この月を、おれを、「あいつ」の目はどう映すか、どうとらえるか。それだけが心にあった。
凪いだ水面のように静かだった深夜の森が少し騒がしくなる。足音が近づいてくる。本人は音を立てていないつもりだろうし、実際たっていない。だが、おれの“耳”はそれをとらえる。寝転んでいる木の枝に座り直し、気配を完全に消す。目の前を通りすぎたのは人影だった。月明かりに照らされた髪は赤色。襟足で長い髪を軽くくくっていて、黒いスカーフを首に巻いていた。
リトラスだった。