悪役令嬢の妹というだけなのに一緒に王国を追放されてしまい地方で住むことになってしまったのだが、そこで素敵な青年伯爵に出会いました
「お主達をこの王国から追い出さねばならなくなった」
私の名前はシステラ、悪役令嬢の妹である。
お姉様と私は今、玉座の前で王にひれ伏し、王国からの追放を宣告されていた。
……どうして私まで……
お姉様が王子の恋路を散々邪魔していたのは知っていたけど……
……むしろ、私は今までお姉様の悪事をできる限り止めようとしてきたのに……
その様子が周りからは一緒に悪事を行っていたように見えたのかもしれない。
「はぁ」
私は大きく溜息をついた。
◇
お姉様と私は地方に飛ばされたが、それくらいではお姉様の性格は変わらないらしい。
お姉様はこの街でも、相変わらず傍若無人に振る舞っていた。
周りの環境が田舎になっただけで、令嬢としての生活は維持されているのも原因だとは思うけど……
「あ、ヘイラーク伯爵!! いらしてたのですね!!」
ドキッ!
お姉様がヘイラーク伯爵の名を呼ぶと、私の胸は高鳴った。
地方に飛ばされたことで、城下街で好きだった物も買えなくなり、一時は辛い気持ちになっていたが、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれたのが青年伯爵のヘイラークだった。
「はい、少し近くに来たので寄らせてもらいました」
「事前に言っていただければ、もっと素敵な衣装でお迎えしましたのに!!」
「……はは、ありがとう……」
ヘイラーク伯爵が苦笑している。
私が好きになった人は何故か必ずお姉様も好きになってしまい、今まではお姉様とひとくくりにされて私も嫌われてしまうということが続いていた。
……ヘイラーク伯爵のお姉様への印象を見る限り、今回もダメなんだろうな……
今まで好きな人に告白ができなかっただけでなく、片想いすら続けられずにその関係性は終わってしまっていた。
いつかお姉様と離れて、たとえ振られたとしても。
……せめて好きな人に告白はしてみたいなぁ……
「……システラは元気に過ごされていますか?」
「あ、はい、お陰様で元気に過ごさせていただいております」
「そうですか、それは良かったです」
正直、お姉様と一緒にいると辛い思いをしてばかりだが……
何故か、ヘイラーク伯爵の微笑みを見ると、その辛さが一瞬で吹き飛んでしまう。
今までの恋とは、何かが違う。
私はそう感じていた。
ヘイラーク伯爵と私が話をしていると、あからさまに嫌そうな顔をしている人がすぐ横にいるのは気になるけど……
◇
「……どうして、私はこんなにもシステアのことが気になるのだろうか……」
システアと話をしていると、何故か心の奥で通じ合っているような、そんな気持ちになる。
「それにしても、システラお嬢様もかわいそうよね。姉妹だからという理由で、姉の悪事と一緒にされて王国から追放されるなんて……」
……姉の悪事で一緒に追放?
庭園で、システアの侍女が庭師と話をしているのを、たまたま聞いてしまった。
「……すみません……。……その話をもう少し詳しく教えていただけませんか?」
「へ、ヘイラーク伯爵様?!」
「……なるほど……」
姉が王国から追放された理由は何となく想像がついていたが、システアが王国から追放された理由がどうしても分からなかった。
……姉の悪事と一緒にされて追放か……
私の父親は早くして亡くなったのだが、悪名高い伯爵だった。
そのこともあって、若くして伯爵についた私の道のりは簡単な道のりではなかった。
領民に、父親とは違う伯爵だということを分かってもらうためには相当な時間が必要だった。
……最近になって、ようやく領民と良好な関係が築けるようになったからな………
そこに至るまでのことを思い出すと、込み上げてくるものがある。
「それにしても、システラと通じ合っている感じがしていたのは、そういうことだったのか……」
目上の家族でずっと苦労してきた。
それが、システラと私の共通点。
そして、そのことを知ったことで、私のシステラへの想いは更に膨れ上がっていった。
◇
「ヘイラーク伯爵!! 今日も来てくださったのですね!!」
今日も元気にいつも通りのお姉様がヘイラーク伯爵を家の中に迎え入れていた。
「はい、ですが、今日はシステラに用事があって、ここに来させていただきました」
「え? ……システラに何の用事でしょうか?」
え、今日は私に逢いに来てくれたってこと?
……私に用事って、何だろう?
ドクン、ドクン!
違うって、勘違いだから!
私の心臓の音収まって!!
ヘイラーク伯爵が用事があると言っただけで、私の心臓の鼓動は早くなっていた。
頻繁に家を訪問してくれて、いつも会話は少しだけだけど、その度に私の胸はドキドキしていた。
ヘイラーク伯爵からにじみ出ている優しさに触れているうちに……
……いつの間にか私も、ヘイラーク伯爵のことが好きになってしまったみたいです……
「………それで、システラへの用事ですが………」
ゴクン!
緊張し過ぎて、私は思わず唾を飲み込んだ。
「……システラ……、私はあなたと婚約したいと思っています……」
「………………」
一瞬、思考が追いつかなくて、何も言葉が出なかった。
え、え、何が起きてるの?
ヘイラーク伯爵が私と婚約したい?
……き、聞き間違いじゃないよね……
「……今、私と婚約したいと仰っていたように聞こえたのですが……」
「はい、私の婚約者になって欲しいことを伝えたいと思い、今日はシステラに逢いに来ました。……っと何度も言うのは恥ずかしいですね……」
普段は落ち着いた雰囲気のヘイラーク伯爵の頬が赤く染まっている。
その様子につられてか、私の顔も真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
ヘイラーク伯爵の後ろでは、お姉様が衝撃を受けて口をパクパクしている。
「……婚約の話は、すごく嬉しいです……。ですが、私は今まで多くの人に嫌われて生きてきました……。そんな私と婚約したいと聞かされても、信じられないというのが、正直な気持ちです……」
「……誰しも人の好き嫌いはあると思いますが……。今まで何度もお逢いしてきて、システラがそこまで嫌われる理由が私には分かりません……。……何か思い当たる節はありませんか?」
……言われてみれば、そうだ……
嫌われる原因が全くないとは思わないが、どうして王国を追放されるほど嫌われないといけないのか……
「ヘイラーク伯爵、いけません!! システラと婚約をしてしまったら、ヘイラーク伯爵のことが好きなこの私はどうしたらよいのでしょうか!!」
……あー、嫌われてきた原因を思い出したわー……
目の前で起こっているお姉様の暴挙を見ながら、私は全てを理解した。
「すみません、私は今、システラと真剣な話をしていますので、少し黙っていていただけませんか」
穏やかな性格のヘイラーク伯爵が、珍しく語気を強めてそう言った。
「あっ、あっ」
お姉様が圧倒されて言葉に詰まっている。
「今までどのような理由で嫌われてきたのかは分かりませんが、私はシステラのことを心から大切にしたいと思っています。どうか、私の願いを聞き入れていただけませんか……」
「……そこまで言っていただいているのに、その申し出を断るようなことは私にはできません……。実は、私もヘイラーク伯爵のことはずっとお慕いしておりました……」
「……そうだったのですね……」
ヘイラーク伯爵が嬉しそうに微笑する。
「しかし、あまりにも人から嫌われてきたため、自分すら大切にすることができずにいました……。……ですが、私のことを大切にしたいと言ってくださった、ヘイラーク伯爵のためにも、これからは自分自身のことも大切にしていきたいと思います」
「はい、ぜひ、自分のことを大切にしてください。きっと、私だけでなく、システラを愛してくれている人は他にもいるはずですから……」
ヘイラーク伯爵のその言葉を聞いた瞬間に、私の目からは大粒の涙がこぼれ出した。
「あれ、あれ? どうしたんだろう、急に涙が……」
何度拭っても止まらない。
「お、おかしいな……」
ずっと人から嫌われるのが苦しかった。
誰にも言えなかったけど、ずっと傷ついていた。
人を嫌いになりたくなかったから、自分を下げて下げて……
そんな私の心に、ヘイラーク伯爵の一言が突き刺さった。
「……システラ……」
ギュッ!
涙を流し続ける私を、ヘイラーク伯爵は優しく抱きしめてくれた。
「……もういいんです……。もういいんですよ……」
ヘイラーク伯爵の体温と言葉が、私の心の闇を溶かしてくれているのを感じた。
しばらく泣き続けたことで、私の涙は徐々に収まっていった。
うつむいていた顔を上げると、ヘイラーク伯爵と目と目が合った。
すると、ヘイラーク伯爵の顔が私の顔に近づいてきた。
「ま、待ってください!! 私、今涙で顔がグシャグシャで……」
こ、これってキスの流れですよね!!
あまりの恥ずかしさに、私は思わずヘイラーク伯爵を制止させてしまったのだが……
「……そんなあなたも含めて大好きですよ……」
「なっ?!」
ヘイラーク伯爵は微笑みながらそう言った。
「私がシステラのことを好きな気持ちは変わりませんので、どうか観念してください……」
ヘイラーク伯爵のそんな愛の言葉に翻弄されながら……
「……はい……」
私達は口づけを交わした。
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『悪役にされた天然系の令嬢は王都を追放された後も心優しい伯爵の息子達から愛されました』
というタイトルで連載小説を書き始めましたので、興味のある方は、そちらも読んでいただけると幸いです。