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ジュリエッタ


わたしはジュリエッタ。


ジュリエッタ・ウリエル・セルフィア


セルフィア王国の第一王女。

そして消えたグランドロス帝国皇太子


レイハルト・カエサル・グランドロスの婚約者だった。


いえ。今も婚約は解消されていない。

名目上は婚約者のままね。


密室から突然消えたレイハルト殿下。

それからわたしは王国と帝国の戦争を避けるために、レイハルト殿下の婚約者の名目を残したまま、客人という人質のような扱いでずっと城に囚われていた。


けれどレイハルト殿下の代わりに後継者に浮上した第二皇子は、あまりにも欲望に忠実な、悪欲の権化。

その妃となればわたしは利用され、祖国のセルフィア王国を攻める材料とされる。


辛うじてわたしが慰み者になっていないのは、内々で二年後に第二皇子と婚約し結ばれる予定だから。



だからその前にわたしは、皆の前から姿を消すことにした。



わたしはもしもの時の為に日々鍛錬に明け暮れていた。

剣の腕を磨き、魔法の訓練も続けてきた。



あの日。

そう……今から半年前の事。


真夜中。わたしは把握していた帝国の城の抜け穴から、外へ出た。


新月の夜。

暗闇に暗視の魔法を行使し、逃げに逃げた。

無事逃げられた!と思ったその時、突然声を掛けられた


「ジュリエッタ様。こんな夜更けにこんな場所に何の御用がお有りですか?」


わたしは驚愕した。

目の前にはわたしへ帝国から付けられた侍女がいたからだ。城からもう数キロ離れているのに……黒づくめで顔も隠しているのに……見抜かれていた。

わたしは覚悟を決めて愛用レイピアを構えた。


侍女を無力化し、最悪殺すのもやむ無しと決心した。


ここで戻るわけには行かない。

連れ戻されれば問答無用でレイハルト様との婚約は破棄され、あの化物じみたの第二皇子に婚姻を結ばされるだろう


「消えなさい。

今この場から立ち去れば、命は取らない。

わたしは行く。

二年後には必ず帰る。

だから今はわたしとの出会いは忘れなさい」

「あら?

忘れる訳ないでしょう?

水臭いわ王女様。

何故わたしを誘って下さらなかったのかしら?

せっかく仲良く成れたと思ったのに……。

貴女が何と言おうが、ついて行きますよ」


この侍女はなにを言っているのだろう?


「どういうつもり。

わたしはまだ王国の人間。

貴女は帝国の者。

相容れない筈よ!

機会をみて通報し、わたしを連れ戻すつもりでしょう?」

「そんな事しないわよ。

確かに私は帝国の人間。

切っても切れない者よ。

でも聞いて下さる?

あの方と築いた帝国に膿があふれ、無様に腐っても行く様をもう見ていられないわ。

貴女ならどうにか出来るかも知れない。

どうにか出来なくても、綺麗さっぱり壊してくれるかも知れない。

残念ながら私はもう過去の者。

このステージに立つ権利はないわ。

むしろ裏方として貴女を支えようと思うの。

貴女は主役やヒロインに成れる人間。

でもまだ舞台に立つには役不足ね。

何故って……貴女は余りにも弱すぎるのよ」


侍女はそう言うと、一気に距離を詰めて来た!

無刀でこのレイピアに対抗するというのか?

わたしは命を奪うつもりで一撃を繰り出した


「ぐふっ」


レイピアはあっさり躱され、侍女の拳がわたしの腹部にめり込む。わたしは余りの痛みにあっさりと無力化され、地面に踞る


カツン


侍女は足でレイピアの刃を踏み、屈んでわたしの顎を持ちあげ視線を合わせた


「どうかしら?

自分の無力さを自覚出来て?

今ひとりでノコノコ出て行って何が出来るのかしら?

貴女は存在自体が目立ち過ぎるの。

隠れて生きるなんてとても無理な話。

それに手を抜いた私にもこのザマよ。

どこぞの無法者に捕まって慰み者にされるのがオチね。

もっと強くならなきゃ……」


あのわたしに仕えていた侍女とはとても思えない。

大人しくて控えめで決して礼を逸しない、そつなく仕事をこなす熟練侍女。

そんな何処にでも居そうな侍女なのに、目の前の女は別人のよう……


「さあ。ここで二択とまいりましょうか?

先ずは一択目。

このまま大人しく城に帰るか?

今なら誰にもバレずに何事も無かったように出来るわ。

あの置き手紙も回収いたしますわ」


とても受け入れられない。

何事も成さずあの城で朽ちていくのなら、死んだ方がまし。侍女はニッコリ笑って、指を二本立てた


「次いで二択目。

これは私の本命でもあるわね。

このまま私と共に旅へ出るか?

私を師匠と仰ぎ、私の指示に従うか?

勿論全て指示通りに動けとも言わないわ。

正当な理由があれば、変更もやむ無しよ。

で。どうするの?

質問は無しよ。

私の正体は二択目の選択肢を選んだら教えてあげる。

勘違いしないでね。

私は貴女の味方。どう?どちらにするの?」


どちらにせよ。わたしには選択肢はひとつしかない。

この女を信じられるかどうか?

信じるのは余程の馬鹿だろうけど、わたしはその馬鹿に成ると決めた


「モチロン。貴女と行く。

申し訳ないけどお師匠様。手を貸していただけませんか?」


侍女はわたしを助け起こすと、もう一度腹にパンチを入れた。わたしは意識を刈り取られた。


次の日。

わたしは見慣れぬ部屋の中にいた。

そして目の前には青い髪でエメラルドのように煌めく瞳の絶世の美女がいた


「あなたは……」

「あら?お姫様。もうお忘れで?

昨日殺し合ったばかりなのに?」


わたしは目を点にして彼女の顔に釘付けとなった。

彼女の話が本当ならば、あの地味な侍女がこの美女と同一人物と云うことになる


「あら?まだ頭が覚めていないようね。

では眠気覚ましにお茶をして、今後の話を致しましょうか?あっ。服装はそのままで結構ですことよ。

お姫様のお着替えは慣れているので、代えさせて頂きました」


自分の体を見れば黒尽くめの衣裳からシンプルな部屋着に成っている。ここは帝国内のある街の一軒家で、彼女の持ち家だという。

わたしは招かれるままにテーブル席に付く。

けれどテーブルの上は真っさらで、お茶の用意はしていない。

すると彼女は何も無い空間に手を入れる……空間に亀裂が入りそこに手を突っ込むと、次々とティーセットを出してきた。熱々の紅茶が注がれ、美味しそうなお菓子も並ぶ


わたしは呆けて思考を諦め、勧められるまま紅茶をすする


「ねぇ。お姫様。マーリンって聞いたことある?」

「もちろん有ります。帝国初代皇帝アーサーを支えた大賢者様です」


「それ。私」

「えっ?」


彼女の発言に驚くわたしを尻目に彼女は告げる


「私の名前はマーリン。

かつては大賢者と称された者。

そして……初代皇帝アーサーの妻よ」


それがわたしと師匠マーリンの本当の出会いの場面であった。






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