にゃんころ亭
「クロエちゃん。三番のテーブルにお肉運んで!」
「シロエちゃんはこのラガーを五番テーブルに三杯!」
「ラジャ」
「らじゃ」
カウンターに置かれた焼きたてお肉を、クロエがいそいそともっていく。
カウンターの向こう側、厨房ではコック帽をかぶった老齢の男と猫耳のグラマサラスな女が忙しく料理をつくっている。
「にゃんであたちは、こんなことしてるのニャ!」
洗い場では溜まった食器を猫耳スレンダー少女が洗って、ブツブツ文句を言っている。
ここはグレイが下宿している家の一階。
食堂【にゃんころ亭】だ。
ここはカウンターに五つのテーブル。30席の食事処だ。
今は夕食時、全ての席が埋まりすし詰め状態だ!
安くて早くて旨い!三拍子揃った名物食堂。
冒険者や近所の独り身野郎の溜まり場!
朝あれ程ガランとしてたのが嘘のようだ。
猫耳美人グラマーな女主人レーナと、昔王都の一流店で腕をふるっていた老コック。
レーナの娘で見た目も性格も可愛い猫娘チーナ。
そして半年程ここでウェイトレスをやっている双子のような美少女ふたり。
シロエとクロエ。
白い髪でピンクの瞳の美少女は白いメイド服。
黒い髪で黒い瞳の美少女は黒いメイド服。
ふたりを目当てにこの頃は若い客も増えた。入口には、順番待ちの客もいる。
「シッロエちゃ~ん!エールもう一杯!」
「クッロエちゃ~ん!こっちはスープお代わり!」
「うけたまわた」
「タマワタ」
「次はこっちの注文頼むね~」
ふたりのメイド服の短いスカートから覗く白いスラッとした足が、さっきからひっきりなしに動いている。
喧騒が凄まじい!
「少し前まで……あちきがアイドルだったニャ!
ちやほやされたいニャ!羨ましいニャ!」
「おいチーナ、肉焼けた。そこに皿おいてくれ!」
「うーわかったニャ!はいニャ。ハイハイニャ!
じい。皿ここに置いたニャ!うニャ!」
老コックの前にデカい皿を置く。
誰もチーナの愚痴を聞いちゃくれない。
「ママにゃん!いつもグレイさんいないけど、この時間いつも何してるのニャ?」
「わたしもあまり知らないけど、シロエに聞いたら訓練してるらしいわ。後で本人に聞いてみたらいいわよ。
……それからこのお皿も洗ってね」
ドンと食べ終わりの食器が置かれる。
「う~~扱いが雑いニャ~!ひどいニャ~!」
こなしてもこなしても次々と襲いかかる雑用に、チーナは悲鳴をあげ続けた……。
★
満月。
朧気に明るい草原に黒々とした男と灰色の髪の男が向かい合っていた。
灰の髪はグレイ。
漆黒のプレートメールの男は190㎝オーバーのグレイの身長をさらに上回り、禍々しいオーラを放っている。
男の周りだけがやけに黒さが増している。
兜から覗く瞳は真っ赤で炎のように揺らめいている。
背中に大剣。
手にはこれも漆黒のブレードソード。
天高く振り上げると、グレイ目掛けて振り下ろした!
キーーーン
グレイが剣を受け止めいなす。
漆黒の剣士はいなされても動じず、さらに畳み掛ける!
キン!
キーン!
カキン!
何合も剣を打ち合う!
突いて!
弾いて!
避けて!
いなして!
攻防が激しく入れ替わる
だが、少しづつグレイスが押されだし
ガキン
という響きと共に剣を大きく弾かれ、グレイは体勢を立て直そうと後ろに飛ぶ。
だが漆黒の剣士は影のように付きまとい、グレイの首を突き刺した……かに見えた。
剣先は首の皮一枚で止まっていた。
「オレの負けだカイン」
漆黒の剣士カインは、剣をひき、グレイと対峙した。
「オレがもし今アイツと剣を交えれば、オレはどれくらい生きていられる?」
グレイの問いにカインが重々しい声で答えた
「一分も持たんでしょうな」
「そうか……やはりな」
「ただ逃げに徹すれば、生きる道はございます」
グレイは首を振った
「それでは意味がないだろう」
「ハッハッハッ、さようでありますな。
だが勝つ道はございます」
「それは……どうすれば勝てる」
グレイは睨むように見据える
「簡単なことです。後十年修行に明け暮れればよいのです。若ほどの才があれば、勝てるやもしれませぬ。」
「からかうな」
「では本題を。一人で戦わぬことです」
「仲間を探せと……」
カインは頷き
「はい。奴めは誇り高く、孤高です。
正々堂々全身全霊で一人で戦おうとするでしょう。
だが、若はそれに付き合うことはございませぬ。
要は勝てばよいのです。どんな手を使っても勝たねば意味がありませぬ。
そして勝たねば、あの魔王の皮を被った化け物には届きませぬ」
「一人では勝てぬが、仲間を集めれば勝てる目もあるということだな?」
漆黒の剣士は首を振る
「いや。少しちがいます。
仲間を集めなければ、勝ちの目はないということです」
「時間はあるのか?」
「後二年。あるかどうか……あの白と黒の魔女が化ければよいのですが、まだ幼過ぎますな。
後五年あれば、若と三人でも何とかなるやもしれませぬが……未確定のものに命はかけられませぬ。
ん?……そろそろ時間でこざいますな。
今日覚えた型を忘れず修練に励むのですぞ。
では若。次の満月まで」
そう言うないなや、漆黒の剣士カインの体はユラユラとゆらぎ、差し出したグレイの右手中指の指輪に吸い込まれていった。
「あそこは居心地がよかったが……そろそろ潮時か」
グレイは満月を見ながら、ため息をついた。
★★
「ふうぅ~~やっと一息ついたニャ」
食べ終わりの皿の山々に囲まれて、チーナはぐんのびていた。口を半開きにして、舌を出している。
22時を回り、客が引けて、ようやくの休憩である。
シロエとクロエはカウンターに突っ伏している。
半眼で眠気と必死に戦っていた。
主人の帰りを待っているのだ。
ガタッ
そこへ待望の灰色の髪の男が帰ってきた。
白と黒はカウンターのイスから飛び下りると、グレイに抱きついた
「ますた。おかえり」
「マスタ。マッテタ」
グレイはふたりの頭をくしゃくしゃ撫でる
「これから風呂に入る。お前たちはどうする?」
「ちろん。いっしょに。おふろ。はいる」
「チロン。マスタと。いっしょ。ハイル」
もちろんとモチロンの略語から我が意をつたえる。
「そうか。シロエ。クロエ。着替えを用意しろ。
オレは風呂場で待っている」
「アイサ」
「あいさ」
そう言うと白と黒は二階に駆け上がった。
「レーナさん。風呂。いただくぞ」
「どうぞ。ゆっくり浸かって。
それと今日もシロエちゃんとクロエちゃん、すごく頑張りましたよ。ちゃんと褒めてあげてくださいね」
「……あっ……あたちも……」
チーナが何か言い掛けようとしたが、その頃にはグレイの姿はなかった。
チーナは悲しそうに俯く
「あたちも一緒に混ぜてニャ……お風呂……」
小さく呟く
「チーナ。ほらよ。元気だしな」
老コックはカウンターに大きな肉の塊をだす。
レアの最高の焼き加減のステーキだ。
「こんにゃにぃ~いいのかニャ?」
チーナは母レーナを見る
「今日はすごいお客さまだったから、御褒美に私たちも戴くわ。だから遠慮しないで食べなさい。
なんせこんないいお肉なのに、グレイさんが狩ってきたタダのお肉なんですもの。
わたしたちもたまには贅沢しないとね。にゃん」
可愛くポーズする。
老コックがそれを見て顔を赤らめる。
「いっただっきにゃ~す!」
チーナはしっぽをピンと立てて、カウンター側にまわり、美味しそうに肉にかぶりついた。
機嫌が治ったようだ。
単純だ。
単細胞だ。
バ…………
それ以上は言うまい。




