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激闘の跡


マレーヌが大根役者を続ける


「シェリル!あなただけでも逃げなさい」

「でも……お母さん!」


シェリルの演技は少しマシ。

下手なマレーヌは叫ぶ


「いいから早く!」


ここでルルワは目を閉じる。

そして目を開けると一瞬でリリスと変化した


「じゃ。今からニセのマレーヌとシェリルを起こすね。

君たちは隠れていてよ。

コイツらの記憶をルルワが書き換えた。マレーヌとシェリルの記憶を受け継いではいるけどさ。

こいつらの記憶ではボクは殺人鬼で、兵隊がみんな殺されたばかりさ」


言われた通りリリスを除いた全員がカウンターの後ろに隠れる。

偽者のマレーヌとシェリルは立ち上がり、目を開ける。

そして偽シェリルはリリスを見て、慌てて食堂から外へに逃げ出した!

偽マレーヌは偽シェリルを逃がすためにリリスの前に立ち塞がる。


暫くして、外から偽シェリルの悲鳴が聞こえてきた。

偽マレーヌが慌てて外へ飛び出す!


そしてふたりの悲鳴が木霊した。

グレイ達はまたリリスの前に集まった。

リリスは母娘をみて


「まあ。君たちのパパを殺した二人は死んだね。

今外ではボクとグレイが戦っている音だけが響いている。後は君たちは裏口から脱出すればいい。

なんだかんだもっともらしい理由を付けて、兵士達を全部入口に集めといたのサ。

デモスとリーダが睨みを利かせているからね。

周りには結界を張って誰も近づけないようにしているが、結界が切れた所で誰に見られるかわからない。

グレイ。なんか人数分のフード付きのマントか外套無いかな?」


グレイは小汚ないザックから灰色のローブを10枚以上出した。

匂いがぷーんと漂う


「ますた。くさい」

「マスタ。くさすぎる。シヌ」

「グレイさん。これ。ヤバイっすよ」


白。黒。羊が文句垂れる


「洗濯すんのが面倒でな。何枚も持っていて汚れたら入れ替えるんだ。

洗濯はまとめてする」


「くっさいのー」


いつの間にか入れ替わったルルワが鼻を押さえる


「妾を出したからには『この匂いをどうにかせい』ってことじゃろ。ならするしかあるまい」


そして外套やらマントに触れると、それが一瞬で新品のように綺麗になった


「妾は触れた物なら念ずればこのように綺麗にできる。じゃが、新品ではないぞ。汚れを分解するだけじゃ。

破けやほつれは直せん。じゃが。十分じゃろ?」


ルルワの言葉に頷き、グレイは


「お前使えないと思ったが、こんなことも出来たんだな。今度からはヒーラー兼洗濯係だな!」

「うるさいわ!誰が洗濯係じゃ!

もう!リリスが催促しておる」


そしてリリスに入れ替わった


「じゃ。人数分のローブところだし、さっさと逃げ出してよー。

そろそろグレイとそこの女の子三人。みんな殺さなきゃいけないしさ!

ほら!さっさと行く!

なるべく人目につかないように頼むよ!

それから行き先はどこでもいいサ。

ボクはグレイが何処にいても分かるからね。好きに逃げな!」


「じゃ。リリス。後は頼んだ!」


グレイ達一行はリリスを残し裏口から脱出した。

殿のマレーヌはしばらく食堂を名残惜しそうに眺めて、そして涙をポロッと流しフードを目深にかぶり【跳ねる子馬亭】を跡にした




「さてと……やりますか」




リリスは目の前で寝ている指揮官達の取り巻き達を見た


「ボクはね。ルルワと違って死んだ者の身体を自由に変化させることができる。

つまりは君たちはもう生きてる必要はないってね」


右手を伸ばし指三本が長いトゲとなり、取り巻き三人の心臓を貫き絶命させた


「まっ。必要な首は四個。ここにある首は三個。

一個足りなーーい!

なーんてね。あんなのは死体ひとつで十分。

グレイもあの女の子三人の肉体情報はもうインプット済みだからね」


リリスは取り巻き一人の首を引きちぎった。

その首はグニグニ動きグレイの顔になる。

そして首のない胴体を触った。

これもグニグニギョニギョニ蠢き、頭が三個できた。

三個に見えるが、実はひとつに繋がっている。

結合部分は髪の毛で隠れていた


「これじゃあ。綺麗すぎるかな?

もっと激闘の跡をみせつけないとね。

ちょっと気がひけるけどサ」


そして左手に持ったグレイの顔にパンチを一発入れた。

顔は陥没して原型をとどめていない。


灰色の髪を口に咥え眼を瞑る。

するとゴスロリメイド服があちこち破れだし、血の跡がにじみ出た。

さらに左手で右腕を引きちぎった。

痛がる素振りも見せず、今度は太ももを見た。

太ももの一部がモリモリ隆起し、ナイフの柄になった。

見た目にはナイフが刺さっているように見える。

最後に三人の美少女の首一塊を持ちあげると


「こんなもんでいいかな?

それじゃあ。いきますかっト!」



出入り口から外へゆっくりと歩きだした。




──これが先程の種明かしである──




人は真実を知らなくても、材料さえあれば勝手に想像という料理をしてくれる。


兵士達はかつて自分の仲間だった身体をいじくって出来た偽物のマレーヌやシェリル、グレイや美少女三人の生首を見てそれが本人達と確信した。


兵士達は一人残らずマレーヌ、シェリル、シロエ、クロエ、イチそしてグレイの死を認識した。

ついでに【跳ねる子馬亭】にいた仲間の兵士の死も信じた。


それでいいのだ。


リリスは兵士達の誤認を元に新たな歴史を作ったのだ。



グレイ達一行は全員死亡。



【跳ねる子馬亭】女主人マレーヌと娘シェリルも死亡。



そういう歴史を……。





それから……。



丁度赤黒い炎が【跳ねる子馬亭】を包んでいる頃。

アルネ村から少し離れた丘の上の木陰からその様子を見守る一行がいた。


皆お外套を羽織り、フードを深々と被っていた。

一行の人数は六名。



そこへ空から人が落ちてきた



「やあ。みなさん。お揃いで!

上手くいったようだよ!

今日ここにいるみなさんは無事死にました!

どう?死んだ気分は?」


「おい。リリス。

俺の事はどうなったのだ?」


フードの一人が紫のゴスロリメイド服の魔族風の美少女リリスに聞いた


「グレイはグレイのままだよ。

ただあそこにいた冒険者のグレイは死んだ。

その事は皆の記憶に刻まれた。

もしまた君があの村に現れてグレイと名乗っても、死んだグレイとは別人だよ。

そう歴史をほんのちょっと書き換えた。

次元に干渉してね。

でも、ああいう衝撃的な誰にでも理解出来る方法で殺したからこそ、グレイや君たちが死んだ事が皆の記憶に残りボクはその記憶を増幅させこの世界に定着させた。

君たちが死んだ事実をね。

例えあれが本当の君たちじゃ無くてもね」


リリスは燃え上がる【跳ねる子馬亭】を見詰めていた。




★★




兵士達が帰った後、村人達は元【跳ねる子馬亭】のあった場所に誰に言われたのでなく集まった。

そしてここにいた母と娘の死を痛んだ。


村の中央にある臨時の駐屯所の飲み屋兼宿屋から眠りこけている兵士達三人が連れ出された時に、この凄惨な事件を知ったのだ。


ただ不思議なことにここに母娘がいたことも死んだ事も知っているが、なぜか誰も顔を思い出せなかった。

ただ名前は母マレーヌ娘シェリルということを、思い出していた。

村の共同墓地に墓碑だけ立て、名前を刻んだ。




やがて村人達からその記憶が曖昧になっていき母娘……そして灰色の髪の冒険者とその一行が殺されたという事だけが印象深く残された。










これで章の本編は終わりました。

いかがでしたか?


シェリルの結婚から始まり、兵士の襲来、そして母娘思い出の【跳ねる子馬亭】が焼け落ちるまでの物語。


時系列が行ったり来たり忙しかったので

読んでくださって混乱した方も居られたと思います。


これからも、時系列がゴチャゴチャになることも多いです。そういうものだと思って読んでいただけると、有り難いです。



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