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あなただけの女になります


これは【跳ねる子馬亭】を去る前日のこと。


明日には兵士達がこの宿屋兼食堂に押し寄せるだろう。

そうなれば私たちはここには居られない。

明日にはこの地を去る。


わたしはこの【跳ねる子馬亭】最後の夜をグレイさんと過ごしていた。

わたし達は、ワインを嗜みながらテーブルを挟んで向かい合っていた。


わたしはほとんど一方的に話をした。


この【跳ねる子馬亭】の思い出。

シェリルのこと。

旦那のこと。

杯を重ね。

酔っ払って。

へべれけになって。


その間。グレイさんはほとんど口を挟むことなく、わたしの話しを聞いていた。

もしかしたら聞き流していただけかもしれない。それでもただ聞いてもらえるだけで嬉しかった。

たぶんどうしようもない酔っ払いだろう。

椅子を寄せて肩をくんだり、キスをしたり、グレイさんはされるがままだった。

ただ。なんというか。優しさが伝わってきた。


わたしは突然オイオイ泣き出し、そんなわたしをグレイさんは慰めるでもなく、ただ見ていた。

そして泣き止んだ頃合いで


「そろそろ寝た方がいい。明日に堪えるぞ」


そしてわたしをヒョイとお姫様抱っこして、わたしの自室に連れていった。わたしは首につかまってその間キスの嵐をお見舞いしていた。

ホント只の酔っ払いだ。


グレイさんはわたしをベッドへ優しく横たえる


「じゃ。これでまた明日な」

「いやよ」


わたしは離れた腕を掴んで引き寄せた。


そしてグレイさんを我武者羅(がむしゃら)に襲った。


酔ったせいと言い訳できるかもしれない。

でも酔いが醒めてからも容赦なく襲い続けた。


グレイさんを裸に剥いて、わたしも裸になって。

半年分溜め込んだ諸々を一気に発散した。


─いいえ


旦那を失った哀しみも!

この先の不安も!




─全てを掻き消す程に狂いたかった!!!




グレイさんはされるがままであったが


「マレーヌ。オレの女になるか?」


そう聞いてきた。

わたしは躊躇わず間髪入れず答えた


「なります。あなただけの女になります」

「よかろう」


そう言うな否やグレイさんは本気になった。

わたしは何度も昇天した。



朝方。間もなく日も昇ろうかという頃、わたしはグレイさんに聞いた


「別に詮索するつもりはありません。

グレイさんずいぶんと女の扱いに慣れていらっしゃるのね……若いのに……。

もし差し支えなければ教えて欲しいのです。どうしたらそんなに様々な(すべ)をご存知なのですか?」


わたしは冒険者の頃。様々な男に抱かれた。

そういうことに興味を持ち初めた頃は、それは手当たり次第に漁っていた。

そしてその色の道にくわしいベテランの冒険者にいいようにされた事もある。


そのこなれた感じがする。

快楽に呑まれずにひとつ上の視点から眺めるかのように、わたしの反応を見てわたしが一番して欲しい事をして触って欲しいところを触ってくれた。


もちろんグレイの不能は治ってはいない。

それでもわたしを完膚なきまでに虜にした。

こんな若いのに、どこでそのような経験を積んだのであろうか?

それがすごく気になったのだ


「オレはある国の大きな商家の跡を継ぐはずだった」


グレイさんはおもむろに切り出した。

そして話し初めた。


商人は女で身を崩すことが多いから、父の方針で女に呑まれないように徹底的に女漬けにされた。

15歳で成人してから一日置きに女があてがわれた。

下は同い年の娘から、上は四十歳位まで経験豊富な者やまだ初々しい者まで、醜女から絶世の美女にいたるまで国籍問わず人種を問わず、獣人やらエルフなどの亜人も含めてありとあらゆる女と一夜を共にした。

どれも一夜かぎりの関係だったが、経験だけはひといちばいつめた。


それが18歳まで続いた。


いつもお付きの侍女が五人。グレイの全ての世話をやいた。

お風呂ではグレイの体を洗うのも、タオルなどは使わずに全て手や体を使って奉仕したそうだ。



『それでね!』

マレーヌは合点がいった。

女性に対して馬鹿みたいな耐性があること。

わたしのこの多くの男を虜にした体にも目もくれず、初々しいシェリルの裸体にも興味を示さず、あんな見たこともない美女と美少女を奴隷にしても手を出さずにいれた訳も。


そして当たり前のようにお風呂場では、女性に囲まれて、いいように洗われている訳も。


それが日常だったのだ。

そしてその日常を今も繰り返しているに過ぎない。


そして詳しくは話せないが……と前置きされて、グレイさんの身に何があったのかも話してくれた


グレイさんの実家は一夜にして国の政争に巻き込まれて、商家は潰された。家族は離散し行方もしれない。父と母はもう生きてはいないだろう。

兄弟はいたらしいが(めかけ)の子で、男か女かすらわからず会ったこともない。

そして自分は生かされた。だが魔法で姿をこのように変えられた。


そしてある日道でバッタリ婚約者と会った。

だが徹底的に冷たくされ、足蹴にされ、視界から消えるまで供の者に国境まで文字通り殴られながら逐われた。

ずっと何年も愛を誓いあっていたのに……。



そのショックから不能になったという。




──これは本当の話は伏せてある──




グレイが帝国の皇子であったことは、完全な秘密である。

ただ、成人してからの女の事は本当だ。

侍女に身の回りの世話をされていたことも……。


赤髪の少女姿の女神。ルルワの妹アズラの兄であり夫の、これまたルルワの弟でもあるセトという神に

『聞かれたらこの話をする』ようにインプットされていた。

【にゃんころ亭】の女将レーナにも、これのもっと(ぼか)した話を聞かされてある。


セトはいう


「君の場合、周りの誰かがホントの事を知れば火傷じゃすまないしね命を落とすだろうさ。だから君はホントの事を話せないようにしてある。

ホントの君の正体を知る者以外はね。

それに人は別に全てホントの事を知らなくてもいいのさ。納得できる答えがそこに転がっていれば、勝手に食いついて合点して察してくれる。

それが知恵というものさ」



その言葉通り、マレーヌはグレイの今の在り方に納得し合点し、察した。

その上でこれから人生をかけて、この新たな

『愛する男グレイ』

を支え、癒し、例え体は離れていようともいつも心が繋がっていたいと感じ、そうありたいと決意した。




そしてグレイにおねだりして、日が昇るまで快楽に身を任せた。





朝方。娘シェリルにあった。

わたしの顔を見て、たぶん色々察したのだろう


「良かったね。マレーヌさん♪」


とにこやかな笑顔をくれた。

わたしを母ではなく、グレイを愛する只の女として扱ってくれた。


わたしは幾分気が楽になった。


ただ……流石に結婚は出来ないだろうと、積極的に諦めた。母娘は事実な訳だからどう取り繕っても醜聞にしか成り得ないだろう。内縁のなんたらでジューブン。



また時々可愛がって貰えればそれでいい。













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