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宴のあと


宴のあと。


この【跳ねる子馬亭】での最後の晩餐を終えたわたしマレーヌは、娘で新婚のシェリルと食堂の後片付けをしていた。


グレイさんたちはみんなでお風呂に入りに行った。


ルルワちゃんがやけに嬉しそうだった。

初めてグレイさんとお風呂に入るらしい。


自分の奴隷なのに……あんなに美しい女の子なのに……グレイさんが手を出さないのが不思議だった


「結局お父さん。奥さん何人いたんだろう?」


おもむろにシェリルが切り出した。

そう。わたしのたぶん最近死んだと思われる旦那はあちこちに女を作っていた。

冒険者仲間から色々な話しも聞いた。

子供もあちこちに何人もいるらしい。


ここへは半年に一度来るか来ないか?

来たら一週間ほどいて、シェリルを可愛がってあちこちつれ回し、そして毎晩朝方までわたしを抱く。

この繰り返しだ。


ただ。わたしは年をとり。

シェリルは成長していく。


なかなか会えないわたしへ旦那はあのネックレスをくれた

『寂しくないように』

離れ離れの時は、それから毎日欠かさずこの互いのネックレスを光らすというやり取りをした。

こんな些細な事だけと……もしかしたらこのやり取りがなかったらわたし達は家族としてとっくの昔に破綻していたかも知れない。


寂しくて寂しくて日々の誘われる誰かの甘い言葉にのって、この身を委ねたかもしれない。

一日二回のやり取りがわたしを旦那の妻。そして女にしていた。


半年に一度の為にわたしは女を磨いた。毎日姿見で裸で体型をチェックした。


今度また会った時。


わたしを抱いた時。


がっかりしないように体型を維持した。



そして二ヶ月程前。冒険者に託されて旦那から手紙がきた


『もうすぐ帰る。一月もかからず会えるだろう。その前に偉い人から直々の依頼があった。此をこなせばお前たちを少しは楽にさせられる。ホントは内緒だがお前にだけは知らせる。

マレーヌはオレ無しでも稼いで生活できるのは知っている。オレからのお金も受け取らない。だが、今回の依頼でまとまった金が入る予定だ。帰ったら少しまとまった金を渡すから、それで二週間お前とシェリルの時間を買う。家族水入らずで旅行でもしよう。

マレーヌなら大丈夫と、つい何もかも任せきりになってしまった。これからもそうなるだろう。

クズだと笑ってくれ。

また近くになったら連絡する。

二週間の家族旅行。オレが何より楽しみにしている。

ps

それでも毎日の寝不足は覚悟してくれ。

マレーヌ。お前を直ぐには寝かさない。

ホント楽しみだ』


こんな手紙。最後ちょっとお馬鹿な手紙。

わたしはその手紙の上にネックレスを置いた。

ネックレスが光った。

このネックレスは旦那の魔力にも反応して光る。

手紙は特殊な紙で魔力を込められる。

込められた旦那の魔力にネックレスが反応したのだ。旦那の手紙で間違いない。


それから一月後。グレイさんが来る少し前。こんな手紙がきた。


『ダーレルの街へ魔物狩にいく。

大規模な魔物の掃討がある。

それが終わったら帰る』


そんな味も素っ気もないやり取りだ。

ネックレスを置いた。

全然反応しない。

その時。

わたしは感じた



──もう旦那は生きてはいない──



そして直ぐ三ヶ月前の『わたしとシェリルを欲しい』

というクリオ伯爵の使いの言葉を思い出した。

それはキッパリと断った。

クリオ伯爵の女に対する執着は知っていたからだ。

わたしだけではなく、シェリルもだなんて……。

贅沢をさせると言われたけど

「旦那を愛している」

いつも誘われるたびに使う断り文句をつい使ってしまった。


たぶんそれが旦那の命を奪った。


わたしが悪い訳ではない。

もし殺されていたら、クリオ伯爵が全て悪い。

それでも罪悪感は拭えない。

『わたしが旦那を殺した』

ついそう思ってしまう。



そしてヒタヒタと迫り来るような嫌な予感に囚われて、いつでもこの【跳ねる子馬亭】から夜逃げできるように準備だけはしてきた。

わたしはともかく、シェリルは絶対守らないと。

わたしと旦那の愛の結晶シェリル。

もうシェリルしかわたしの愛する者はいない。



そして……グレイさん達一行が来た。



なんだか、今に思うと旦那がグレイさん達をここに導いてくれたような気がしてならない。


わたしが勘でこのまだ二十歳かそこらの若造に、わたし達家族を委ねようと思ったのも変な話だ。

あの時はなりふり構わずグレイさんを虜にするつもりだった。

シェリルを守るため。シェリルだけでも守って貰うため。その時はこの体を惜しげもなく武器にして、わたしがずっと守ってきた貞操を捧げるつもりだった。


それがダメなら本意ではないが……シェリルをグレイさんに託して、わたしだけクリオ伯爵の元へ行くという考えもあった。



なのにあれよあれよという間にグレイとシェリルは結婚した。

グレイさんにシェリルをどうこうしようという気はなかったであろう。性欲がスッコリと抜けているグレイさん。目の前を裸エプロンの年頃の娘がうろついても、眉毛一つ動かさない。

「グレイさん。似合ってますか♪」

なんてシェリルがクルクルクルっと三回転した時、シェリルのお尻を見た瞬間興味を失くして半回転で無視を決め込んだ。


それから一時間もしないうちにふたりが結婚するなんて、誰が予想できるであろう。



そして……


……グレイさんに身を捧げるつもりであったわたしマレーヌは、いざそれが現実になりそうな時、諦めた。


「お母さん。わたし手伝ってくる。そのままわたし寝るね」


お風呂からグレイさん達が上がった気配がする。そのままシロエとクロエと寝るのだろう


「あのねシェリル。やっぱり母さんグレイさんとそんな関係出来ないわ」


わたしはそう告げた。

シェリルは


「そう。母さんがそう決めたのならば……グレイさんにはそう伝えとくね」


微笑んで、わたしをハグしてこの食堂から出て行った。



わたしだけがこの空間に残された。

わたしが人生の半分を捧げた食堂。

シェリルを養う為に、冒険者の時に稼いだ金を殆ど使って【跳ねる子馬亭】を建てた。


思いの外、繁盛した。

村から少し離れているのに、村人達が来てくれた。

シェリルが成長して12歳を越えたあたりから、村の若者達も増えた。


シェリルは案外モテて、殆どがシェリル目当ての者達だった。

けれどその反面、村の同じ年頃の女の子達からは目の敵にされていたみたい。

結局同年代の女子の友達は作れなかったようだ。

だからルルワちゃんが、初めての女の子の友達かもしれない。


それにかつてのわたしの冒険者時代の仲間達も立ち寄ってくれた。中には結婚前に肌を許した相手も何人かいたけど、誘われることはなかった。


この食堂には思い出がたくさん詰まっている。

今日でここから眺める夜空も見納めかもしれない。


灯りをを消した。


窓から差し込む月明かりでほんのり室内が見えるだけ。

わたしはただボーッとしていた。


ここには旦那の思い出はほとんどない。一般客に紛れて食事をしていた。

わたしがいつものように誰かに口説かれていても、それをニヤニヤ笑って見ているだけで助けてくれなかった。

そして「旦那を愛してますから」の断り文句に嬉しそうにウィンクするだけ。

その度に『死ね』と思ったものだ。


旦那とはベットで過ごすことが多かった。

シェリルが寝静まってから、わたしは半年分の姿態と醜態をさらけ出した。旦那のどんな恥ずかしい要求にも嬉々として従った。

ホントはもうひとり位子供が欲しかった。

避妊なんかしなかったけど、ついぞ授かることはなかった。



わたしはワインを片手に、窓辺の席に移動した。

満天の星空をただ眺めていた。

旦那との想い出に浸っていると、暫くしてグレイさんが来た。


ひとりだった。


昼間シロエとクロエと添い寝していたから、眠れないという。

珍しく葡萄酒を所望されたからわたしも付き合いで、月明かりの差し込む窓辺のテーブル席でふたりでグラスを傾けた。




それから二時間後。




わたしはベットの上でグレイさんに抱かれていた。
















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