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最後の晩餐


【跳ねる子馬亭】は今日が最期の営業日となる。


リリスが周りに結界を張り、一部の者しかここに来れないようにしていた。

一部とは女主人マレーヌと娘シェリルをクリオ伯爵の元へ連れていく予定の、兵士及びその関係者達だ。

シェリルの結婚を挟んでここ数日は臨時休業していた。

この【跳ねる子馬亭】を去る算段をしていたのだ。

貴重品や必要な物。粗方準備を終え、ほとんどの備品と思い出を置き去りにここを去る。


ただ逃げる訳には行かない。

火の粉がこのアルネ村へも降りかかるかもしれないからだ。

そしてマレーヌとシェリル、そして灰色の髪の男がこの世から消える段取りを済ませ、ルルワを使いに出したのだ。


そしてルルワは見事兵士共をここへと導いた。


今【跳ねる子馬亭】の周りは兵士に囲まれている。

冒険者に扮した男がマレーヌに接触し、聞きたかった答え

『寄る辺がないから伯爵の元へ行ってもいい』

を伝えに、指揮官の元へ行った。


その後ろ姿にアカンベーをしたマレーヌは、昨夜のことを思い出していた。





★★★





グレイとシェリルは初夜の翌日も、ほぼ部屋にふたりきりで過ごしていた。部屋の中では服は着ていない。

そして食事のたびに顔をみせるシェリルは子供臭さが消え、次第に一人の大人の女性となっていった。

グレイに当たり前に寄り添うその眼差しや仕草は愛情に満ち溢れ、えもいわれぬ色気を漂わせていた。

マレーヌは我が娘の変わりゆく姿に安心感とともに、なぜか寂しさと小さな嫉妬を感じていた。


そして早い夕食の後グレイはシロエとクロエと添い寝して、それから暫くしてお子様ふたりはマレーヌが預り、長い夜を娘にプレゼントした。


次の日……兵士達をおびき寄せる前日のこと。


シェリルはずっとマレーヌの側にいて、手伝っていた。ここを去る準備だ。

そして娘は言った


「お母さん。長い時間ふたりにしてくれてありがとう。

今グレイさんはシロエちゃんとクロエちゃんと添い寝しています。もうすぐ夕食でしょうから、食後お風呂に入ったらわたし今夜はシロエちゃんとクロエちゃんと寝たいと思います。

お母さんはグレイさんと一緒に夜を過ごしてください」


「シェリル。なにを言っているの?

そんなこと出来る訳ないじゃない。新婚ホヤホヤでしょう?もっとグレイさんの側にいてあげなきゃ」


そしたらシェリルは笑って


「もう。その新婚ホヤホヤ早々グレイさんに『可愛がってください』とのたまったのはだれかしら?

それに一女性マレーヌとしてのグレイへ寄せる強い想いは、わたし誰よりも知っているつもりです。

それに……今夜がこの《跳ねる子馬亭》最後かもしれないのでしょう。いい思い出作らなきゃ。

お父さんのことは残念です。花嫁姿見せたかったな。

母さんも十分尽くしたし今更貞操守らなくても、父さん口答えなんて出来ないでしょう?あんなにあちこちに女こしらえた浮気者なんだし」


「でも……」


マレーヌは自分のグレイさんへのただならぬ想いがあるのは知っている。でもあまりにも年が離れすぎていてそれに……娘の……。

グレイさんもわたしをどう思っているのか?迷惑かもしれない。

今まではからかい半分で接してきたけど、いざ想いが叶いそうな現実に直面すると、二の足を踏んでしまう。


「お母さん。まだ少し時間があるし、それまでに答えをだしたらいいよ。わたしはどのみち今日はシロエちゃんとクロエちゃんと一緒に寝るつもりですから。

今夜も供ににしたら……大切な何かが壊れそうで恐いのです。

腹八分目位が丁度いいのです。

もう夕食の時間ですね。わたし。グレイさんを呼んできますね」


残されたマレーヌは夕食の準備をしながら、頭の中はグレイさんで一杯になっていた。

だからこそ二の足を踏んでしまうところもある。

もしのめり込んでしまったら……一人の男に尽くして周りが見えなくなるいつもの性格がでてしまったら……。

そんな事が頭から離れない。


そしてグレイさんが食堂に来た。


グレイさんは右手をシロエに左手をクロエに引っ張られながら、ここへ来た。背中をチコチコ黒い羊が付いてきている


『ああ。両手が塞がっている。

わたしを招く手はもうないのね……』


そして、マレーヌは恋を諦めた。

身を引くと決めた。

もう深入りはしない。

ここで一線を引き、ただシェリルの母としてグレイの義母として接しよう。

そう決めた。


決めたら心が楽になった。

もう思い悩むことはない。

もう想い焦がれる必要もない。


女としても諦めた。


涙が出そうになったが、無理に笑顔を作って四人を出迎えた



今日は【跳ねる子馬亭】最後の晩餐。


明日の夕飯はもうここでは取れないだろう。


グレイさんや私達は明日にはこの世にいない。


だからできる限りの贅沢をして、秘蔵のワインとかも開けちゃって、高級チーズとかもてんこ盛りしちゃって、お肉も分厚いステーキをレアにしちゃって……悔いは残るけど……それでも悔いを残さぬように楽しんだ。


わたし。シェリル。ルルワちゃん。ここにはいないけど魔族のリリスさん。シロエちゃん。クロエちゃん。羊の角を付けたイチちゃん。そしてグレイさん。


たった一月なのに、わたしの人生をかっさらっていく!

仲間になって家族になって……。




【跳ねる子馬亭】最後の夜なのにわたし愉しくて、嬉しくて、歌っちゃいました!










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