もしお前が勝ったら……抱いてやる
わたしは決戦場近くの街で1日を過ごした。
好きな物を食べて、飲んで、新しい黒い決戦用のワンピースを買った。
キックしたりして少し恥ずかしいから、黒いミセパンも選んだ。
現場で脱ぐけど、膝まであるお揃いの黒いブーツも買った。
甘いお菓子も沢山食べて、豪華な夕食を食べた。
何故か執事姿のデモスも一緒に付き添ってくれた。
リリスに命じられたらしい。
そのことをわたしに伝えた以外、一言も話さなかったし飲食もしなかった。
けれど無表情でわたしの側にいてくれる姿がとても嬉しかった。
宿に帰るとデモスは浴槽に魔法でお湯を張ってくれた。
「お風呂に入るから出て行って」とお願いしたら
「何故だ」と聞くので
「恥ずかしいから」と呟いたら
「分からぬが良かろう。30分だけだ」
と部屋のドアの前で待っててくれた。
わたしは湯船に浸かりながら、この身体を見ていた。
胸の膨らみも乳首すら分からない赤黒い体。
少し摘まんだだけで膿のような黄色い液体が滲んできた。
もしこの体が綺麗だったら、デモスが側にいても良かったかな?
どのみち体が綺麗でも今の姿でも、デモスはわたしに興味ないのは分かっているけど……。
わたしはもう自分の生は諦めている。
でもひとつだけ心残りがあるとするならば、この化物のような身体のまま屍を晒すのは嫌だ。
わたしだって女の子だ。
綺麗に着飾って綺麗な身体で死にたかった。
例えこの身を切り刻まれようとも。
そしてお風呂から上がると、わたしはベッドで眠りに付いた。
そして朝になっていた。
朝食を食べた。
何の変哲もないパンに目玉焼きにベーコン2切れ。
そしてカフェオレ
「何で泣いている」
デモスの問にわたしは流れる涙も鼻水も拭かずに答えた
「今まで食べた中で一番美味しいから……」
本当は味も何もしなかった。
けれどデモスはただ無表情に
「そうか。良かったな」
それだけ言って微かに笑った。
それが堪らなく嬉しかった
─もうわたしはゴミ虫から卒業できたかな?
朝だけどわたしは魔法で眠らされ、気が付いたら夕方になっていた。
そして小高い丘の上にいた。
わたしは軽い食事をし、デモス相手に殺し合いの練習をした。デモスはずっとその場を動かず片腕だけで相手をしていた。
そして時々眠そうにあくびをしながら、全力のわたしをいなしていた。そしてわたしは徐々に力を抜く。
ウォーミングアップは終わった。
もう日が暮れた。
太陽は落ちた。
約束の刻限だ。
月が昇っている。
満月だ。
わたしの屍を晒すには最高の夜だ!
月明かりにリリス様が現れた
「じゃ。行こっか!死にに!」
「はい。全力で死んできます」
そしてわたしはデモスを振り返った
「ありがとう。デモス。
最後の練習相手があなたで良かった」
わたしの仲間を三人も殺した男。
わたしの愛しい人サンを踏み潰した男。
その同じ足でママのニアナを潰した男。
わたしを抱いて逃げた、わたしを好きな稀有な男ゴルロロの心臓を食らった男。
そんな敵のようなヤツなのに。
何故かわたしはこの男を憎めなかった。
あの目を見たからね。
あの目はわたしを、ホントに掛け値なしのゴミとしかみていなかった。
わたしもゴミだから人間なんてみんなゴミだろう。
わたしもゴミや虫を踏むのにいちいち躊躇しない。
次元が違うのだ。
生きてる世界がちがうのだ。
片や一万年以上も生きて。
わたしはたぶん12年でこの世を去る。
重なり合ったことさえ奇跡なのだ。
そしてそのわたしから見れば神の領域のデモスが、退屈ながらもわたしの相手をしてくれた。
それがわたしには堪らなく嬉しい
「わたし死んできます。また。あなたの冗談が聞きたかった」
ふっ
デモスは笑った
「もしお前が勝ったら……生きて帰ってきたら抱いてやる」
あはははは!
わたしは笑った!最高の冗談だ!
わたしはつかつかとデモスに近寄り
「ちょっと。かがんでくれます?
最後の願いってヤツですよ」
「……こうか?」
意外にあっさりと言うこと聞いてくれた。
ゴミ虫の覚悟が伝わったのだろう。
そして遠慮なくキスをした。
甘ったるいやつじゃない。
激しくて凄まじくてわたしの全精力を傾けたようなキス!
デモスはされるがままであった。
わたしはその頭をぎゅーーーーっと抱いて最後の別れをした。
─シニタクナイ
心の底から思った
─シニタクナイヨ
そして激しく願った
わたし生きて帰って
─デモスニダカレタイ
叶わぬ夢だけど
冗談を真に受けているけれど
─デモスノオンナニナリタイ
理屈じゃ無いんだ。
わたしデモスが好き。
サンとは違う好き。
サンはね。今に思うと身内的な愛情。ニアナママが抱かれているのが羨ましかっただけ。独り占めしたかっただけ。
ホントに抱かれたかったか?と言うとちがうと思う。裸て抱き合う意味すらわからなかった。
でもわたしは女としてデモスに抱かれたい。こんなにも醜い体だけど、全てを投げ棄ててでも抱かれたい。
こんなにも死に背中合わせの状況で不謹慎かもしれないけど、それが本音
─それが本能!
わたし心が体がはち切れんばかりにデモスが欲っしている!
わたしは感情の無いデモスの赤い瞳を見詰めながらいった
「わたしが心から愛した人があなたで良かった。
これだけで生きていた価値がありましたよ」
「……そうか。お前いいヤツだな」
デモスは凄惨に笑った。
わたしはその顔を目に脳裏に焼き付けると、わたしは決闘に向かった。
もう振り向かなかった。
わたしはほんのひと欠片でもあの愛する男の心に残ったであろうか?
まあ。それはどうでもいい。
わたしのキモチが一番大事!
この想いを胸にわたしは
─シンデキマス
丘を降りた先。
そこはだだっ広い草原。
緩やかな夜風が月明かりを受けた草々をサワサワと靡かせる。
ゼロ。ううん。クロエはまだ来ていない。
わたしの隣には見届け人としてリリスがいる。
わたしはリリスにお願いした
「リリス。わたしのこの格好。
最後この姿で死ぬの嫌なんだ。心残り。
リリス。指をパチンとして服装変えられたよね。
それ……お願いできる?」
わたしは黒い膝上までのワンピース。
ワンピースのそではラッパのように膨らいでいる。
足は裸足。
あっ。リリスに対する言葉使い。これリリスに命令されてるから。
いちいちビビって「はい。わかりました」なんてやっていてら、半殺しにされて今の少し乱暴な言葉になった。でないと殺される。
「できるし、してあげるよ。最後になるかもしれないしね。最期の晴れ姿ってやつかな?
どんなのがいい?
まさかあの変な仮面を着けたダボダボなやつ?
あれは流石にオススメしないなあー」
わたしは首をふった。
もう【死の円舞団】は終わった。
今更哀愁はかんじない。
メンバーの一人一人は今も心の中で色づいている。
それで充分。
それにすぐにみんなとは会えるから……
「ううん。違う。あれはもういいの。
わたし。デモスのようになりたい。
顔はこのままでいいよ。頭の両脇にぐるぐるの羊の角を着けてほしい。
それともしかしてデモスの女でその傍らに立つことができたなら、それに相応しい格好がいい。
見てくれだけでもデモスの女に見られたい。
デモスは見てないけど……いいんだ……死に様は見られたくない」
そっか
リリスは相槌をうった
そしてパチンと指を鳴らした。




