あなたの娘になりたかった
朝になった。
リリスは消えた。
また。夜来るという
─やっぱり吸血鬼じゃなかろうか?
あの後わたしは言われた。
「今の君じゃ勝てないよ」
って。
スペックとやらが違いすぎるらしい。
今夜また教えてくれるって言った。
わたしは独りだ。
サンはもういない。ニアナも。
たった2年の家族。
でもゴッコじゃなかった。
ちゃんとパパとママしてくれていた。
今になって思う。
こうなったのはわたしのせいだと。
パパが大怪我をして帰ったその日。
わたしがパパと共に冒険者になると決めた。
それが分かれ道。
あの日
「もう戦わないでパパ!」
と泣きつけば、きっとパパは戦いに明け暮れる冒険者をやっていなかった。
ニアナさんも冒険者に復帰したけど、本当はお店を開く準備をしていた。
わたしそれを知っていた。
いつでも冒険者を辞められるようにお金も貯めていたし、お店に必要な経験も知識もきっとあった。
サンは冒険者は続けていたかもしれない。
でもそれは戦いではなく薬草や素材集めの為の冒険者で、傭兵や命のやり取りはもうしなかったに違いない。
わたしがもう限界だったんだ。
──殺しをしたかった──
人を殺したいわけじゃない。
殺したくて殺したくて殺したくて仕方なかった。
魔物でもいい。とにかく殺したかった。
だから……わたしが家族の団欒を断ち切って、修羅の道に引き摺り込んだ。
だからわたしがサンとニアナを殺したようなものだ。
そしてシローもゴルロロも死んだ。
わたしは独りだ。
あんな心地よい居場所はきっともいない。
わたしが全て壊した。
今更どうしようもない。
──そしてわたしは死に場所を探している──
そして全身全霊をかけてクロエと戦い。
殺される。あの時は
『殺して殺して殺し尽くす』
つもりだった。
でも、冷めた。
サンとニアナとの日々がわたしの心を悪魔から人間にしてくれていた。
そしてわたしは知っている
『わたしは生きていてはいけない人間だ』
ゴルロロ……わたしを愛してくれてありがとう。
すぐ逝くって言ったけど、もう少し待ってくれる?
ちゃんと戦って全身全霊をかけて戦って手加減なんか一切しないで魂を燃やして燃やして燃やし尽くして、そして死にたいんだ。
─わたしの姉妹に殺されるんだ
クロエ。
あの子には居場所があって、わたしにはない。
たとえ奴隷でも自ら堕ちたのなら、それは自業自得。
男に慰み者にされる日々からは抜けられない。
でもクロエの気持ち。
今も
ヤスラカで
アタタカクて
シアワセで
ココチイイ
─そんな事ある?
奴隷なのに?
─ちょっとは興味あるかな?
あっちの方もね。
わたしまだ子供だけど……こんな体じゃなかったらもう少し生きて、好きな人に抱かれてみたかったな。
パパとママみたいに……。
★★★
ゾワっ
気配と共に飛び起きた。
ここはダーレルの街の宿屋。
店の女将さんがわたし達が街を救ってくれたと言って、わたしを無償で泊まらせてくれていた。
わたしはそれじゃあ悪いからって、宿のお手伝いを始めた。街は復興の為の土方の人達があふれて、宿屋はどこも満杯だった。
わたしは自分から従業員用の部屋に泊まると言ったが、何故か女将さんはわたしを一緒の部屋の同じベットで寝かせてくれていた。
─襲撃の日からもう一ヶ月が経っている─
女将さんの名前はマルタ。ニアナと同年代だ。
そしてわたしたちは裸で抱き合っていた。
考え違いしないで……そういう関係じゃないから……わたしがこの体の事を気にしていたから、マルタが
「全然平気よ。なんなら裸で抱っこしてあげるわ」
となって、それから毎日裸で抱っこされている。
だからこの体の事も知っている。
そしてわたしの仲間がみんな殺された事も。
女将さん。この前の魔物の襲撃で一人娘を失くしたらしい。わたしと同じくらいなんだって。
きっとわたし、その娘の代わり。
それでもいい。
しばらくは代わりでいてあげた
─この束の間の命
誰かの役に立てればそれでいい
「じゃさ。行こっか。果たし合い」
開け放たれた窓辺にリリス。
闇夜に佇むその姿。
この一ヶ月。彼女に訓練をつけて貰っていた。
リリス。化け物。
夜の特訓。
毎日私を切り刻み、半殺しにして全回復。
手も。足も。腸も。耳も。目ん玉も。
切られぐちょぐちょにされた。
痛くて痛くて死にそうなわたしを、シレッと回復させ、嬉々としてまた半殺しにした。
訓練十日目でリリスはわたしに血をくれた。
ほんの三滴。リリスの魔力のこもった血をわたしの心臓をぶっ刺した指から入れたらしい。
わたしはのたうち回った。
ああ。そうそう。その時わたしはまた裸にされた
『クロエの時はうっかり裸にするの忘れたんだって!』
わたしの体に混ざり込んだ魔物や獣や虫やらが覚醒し、わたしの体は別の生き物のように変化した。胸から猫の顔が現れたり、腹が魔物の口になったり、腕がヘビになったり、片足が化物になってもう片足を食ったり……。
そんなわたしを
「いいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねぇ!」
リリスはずっと愉しんでた。
そしてなんとかわたしは、わたしの中のそいつらに勝って押さえつけて服従させた。
わたしは以前とは別次元の強さになった。
でもそれから毎日切り刻まれ半殺しにされるのは変わらなかった。
そして今。
「ちょっと待って」
わたしは身支度をした。
そして剥き出しの裸のマルタさんに掛け布団をかけてあげた。
そして額にキスをした。
「ありがとうマルタさん。
わたし。あなたの娘になりたかった」
そしてわたしは髪の毛を一房、手をナイフに変化させて切り落とすとそれを縛ってマルタさんの手に握らせた。
そしてリリスは窓から消えた。
わたしは足をウサギのように変化させ、窓からリリスの後を追った。
わたしは振り返らなかった。
二日後。
果たし合い。
きっと私はその日死ぬ。




