わたしもすぐ……逝くから
ゼェゼェゼェゼェゼェゼェ
あれからあまり走れていない。
でも息切れが激しい。
逃げ切れない。
そんな事は重々承知。
でも行けるところまで……何処までも……何処までも……
「おだ。ぜったい。イチをまもる」
ゴこと、ゴルロロは全身全霊をかけて走っている。
その懐にはちいさな相棒。
仲間。
世界で一番好きな女の子。
イチがいる。
イチが肌着の薄布のみでゴルロロを抱きしめている。
温かくて。柔らかくて。いい匂いがする。
その小さな小さな体は、ゴルロロには世界で一番大きな宝物
─誰にも渡さない
ゼェゼェゼェゼェゼェゼェゼェゼェ
『ゴルロロ。もういいよ。無理だよ。そんなに息を切らして。わたしたち。もう。助からない。走ってもムダ。逃げてもムダ。サンパパを愛していた。ううん。愛してる。今も。胸が熱い。サンを想うと。胸が痛い。ママも死んだ。シローも死んだ。わたしもすぐ死ぬ。死が迫っている。ゴルロロの背中。その向こう。ゆっくりとゆっくりと。少しづつ少しづつ。死が迫って来ている。気配がする。絶望の塊のような気配。ゴルロロ。息が苦しそう。そして。わたしを。宝物のようにやさしく。抱いてくれている。好きなんでしょ。わたしのこと。でもわたし。サンが好きだった。ああ。もう目と鼻の先。ほんのキワ。もう。無理』
ゴルロロと目があった
ゴルロロ微笑んだ
不恰好でカッコ悪い不細工なほほえみ
仮面はもう何処かに棄てた
もう要らない
だって【死の円舞団】はもう二人きり
そしてその命もすぐに尽きる
「……イチ……おで……」
ゴルロロはそれで精一杯
──最期の言葉──
ゴルロロの口から鮮血が溢れる
「ゴルロロ!わたしもすぐ逝くから!」
わたしはゴルロロの大きな顔に抱きつく
血がわたしの下着を赤く染める
ゴルロロはわたしの小さな……
……平べったい胸のなかで笑った気がした
ゴルロロは最後の力を振り絞って
わたしを潰さないように
仰向けに倒れた。
わたしはその大きな顔にしがみついたまま
泣いた
もうわたしはひとりボッチだ
─みんな死んだ
─みんなみんな死んだ
そしてわたしもすぐに死ぬ
わたしはいっぱい人を殺した
その報いは受ける
わたしはわたしの死を見上げた
そこには暗闇に満月を背負った、赤い瞳を燃やす男の姿があった
男は黒いスーツに身を包み、上背は190㎝を越えよう
赤い蝶ネクタイ
長い前髪
黒い髪
白い肌
切れ長の目
青紫の唇
尖った耳
誰もが焦がれるような美男子
そして頭にぐるるととぐろをまく角。
羊の角
そして高々と掲げる右手には
いまだに脈打つ心臓
ゴルロロの心臓から
滴る血を口中に注いでいる
そして口を大きく開けた
『無理だよ。そんな小さな口じゃ。
大きなゴルロロの心臓は入らないよ』
思考停止のなかで導き出す答え
でもそれは不正解
男の口は耳まで裂け
ガマグチのように大きく開き
その中にゴルロロの命は飲まれた
次はわたしの番だ
わたしは体中の力を緩めた
諦めた
男は右手を伸ばしてきた
青紫の尖った爪がやけに目につく
あのゴルロロの背中を
鎧もろとも貫いたのだ
わたしの薄っぺらな胸板など
無きも同然
死を受け入れよう
胸を張る
でも恐い
シニタクナイ
─コワイ
シニタクナイ
─ハヤク
シニタクナイ
─コロシテ
「いだい!!!」
わたしは悲鳴をあげた!
髪の毛を捕まれて引き摺られてる
これわたし……動物以下
─わかる
ゴミ扱い
汚れるの嫌だから引き摺るでしょ?
あれ
わたし
わたしあれ
─ゴミ
容赦なく引き摺られて、憐憫もなにもない
太ももの皮がずり剥ける
わたしは髪の毛を抑えただ耐える
声がする
「なにやってくれてんのデモスくん!
女の子は優しくお姫様抱っこでしょ!
ジョーセキジョーセキ。
早くしてあげなよ!」
─ヤメロ
アンナコワイ
オトコノ
フトコロナンテ
シンデモ
─イヤダ
「あがっ……!」
ぶちぶちぶちぶち
頭髪が一部千切れる
わたしは髪の毛持たれて
カブのように持ち上げられている
目があった
やっぱりわたしを見ていない
ゴミを見ている
「ぎゅああ!」
ぶん
わたしは凄い勢いで髪の毛を引っ張られ
宙に投げ出された
そして落ちたら
お姫様抱っこされていた
コノオソロシイオトコニ
ギロリ
睨まれる
初めての人間扱いされた
でもゴミは変わらない
わたしは彫像になり
息を潜めて
小さく固まった
そしてぶん投げられた
彫像のわたしは受身も取らず
地面に叩きつけられる
「ちょっとなにしてくれてんのさ!
女の子はもう少し優しく扱ってあげなきゃダメでしょ!どういうつもり!デモスくん!」
「わたしはリリス様をお姫様抱っこしたいのです。
このようなクソ袋なぜ後生大事に抱かねばならぬのか、府に落ちません。故に一瞬だけ抱き投げ捨てました」
ふーんって顔をしているリリスと呼ばれる少女。
神話の頃から存在するらしいけど、思考がいっちゃってて何も共感できない。
ただどうしようもなくアブナイヤツだというのはわかるよ
「ところでデモスくん?
ずっと前から気になってたんだけど、デカブツのとき牛の角だよね。
なぜさ?
今。羊の角生やしてんの。
なんでさ?」
「わたくし人間モードのときはリリス様の執事でごさいますれば……」
しつじ→ひつじ
面白い!
馬鹿みたい!
アホみたい!
あはは!
わたしは笑った!
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
─もうどうにでもなれ
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ギロリ
デモスくん睨む
「なに笑っている」
「今の冗談おもしろかったから」
「…………」
絶句している
そして
「お前いいヤツだな」
デモスくんは顔を赤らめポツリと言った
凄く嬉しいらしい……わかるよ




