ボクの可愛い傀儡ちゃん
真夜中。
本来は人が寝静まる時刻。
ダーレルの歓楽街は眠らない。
煌々とあかりが灯る。
そんな歓楽街の一角。
一人の酔っ払いと、酒場のウェイトレスが物陰へと潜む
「だ~め。まだあたし仕事中だよ~。
そんなに酔っ払ってこんなとこに連れ出してぇ~なにするつもりなの~」
「なにって。決まっているじゃないか?
俺の誘いにのったのも、それが目的だろう?」
ふたりは暗がりで抱きあって激しくキスをする
「だめよ~そんなとこ触っちゃ~。もうすぐあたし仕事上がるから~それまで待ってよ~女将さんに怒られちゃう~!ねぇ聞いてる?」
「あーあ聞いてる!ちっしょうがねぇ、出入り禁止食らったら目もあてられねぇからなぁ……女将さん恐えーし!しょうがねぇ。いつもの場所で待ってっからよぉ!じぁあ!もう一度キスしようぜ」
「しょうがないなぁ~」
キスをぶり返す
「あんた~口の中ぁ~すごくお酒臭いよ~」
「うるせぇ~ほら!つかの間の別れってやつだ。もう一度」
また激しくキスをする
「うぇ!なんなの?鉄臭い~どろってしてる……もしかしてあんたぁ戻しちゃった~やだ!汚ったな~い!」
慌てて引きがす女。男はそんなに女に覆い被さる
「ちょっとお~やめてよぉ!替え着ないんだよ!
こんなに汚してえ!ねぇ!ちょっと聞いてる?ねぇ!
……ちょっと。なにだまってんの?……!……ねぇ?どうしたの?大丈夫?ねぇ?……なに寝ちゃってんの~信じられない!」
女は男を地面に寝かせて酒場へと戻る
カラン
小さな鐘の音と共にドアから入る
「ごめんなさいママぁ!マッドが酔っ払って、あたしの服に吐いちゃった!何か着替え貸してえ~!
……なに?みんな?なんであたしジロジロ見てんの?
あたしになんかついてる?」
「あんた……その姿……」
酒場の奥から現れた女将さんの青ざめた顔に、ウェイトレスは思わず自分の体を見る。
マッドに吐かれた辺りが、血でベットリと濡れていた
キャーーーーーーーーーーーーー!!!
悲鳴が上がる!
そして同時刻!
歓楽街の至るところで悲鳴が上がった!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン
街のアチコチで警鐘が鳴り響いた。
同時多発的に魔物の大規模襲来を受けたのだ。
★★
いつもは寝静まる時刻。
そんな時刻に人が集まる歓楽街。
眠らぬ街
───不夜城───
そこは喧騒と狂乱の坩堝と化していた
魔獣が片っ端から人々に襲いかかり、あたりを悲鳴と血に染め上げていく
街の至るところで命が失われていった。
老いも若きも男も女も醜男も美女も関係なく無数の命が瞬く間にに消えていった。
そんな様子を上空から恍惚とした表情で眺める者がいた。
リリスである。
リリスは宙に羽ばたくグレーターデーモンのデモスの首に跨がって、右手でその牡牛のような巨大な角をつかみ、半身を投げ出すように狂騒を眺めてた
「いいねいいねいいねいいね!
命が消えてゆく!魂がボクの体を通り抜けていく!」
「リリス様。このような街。我が咆哮『煉獄』にて、燃え上がらせてやりますのに」
「それじゃあ~つまらないんだよね」
リリスは角と角の間に腹這いになり、デモスの赤い瞳を覗き込みながら言った
「人間ってね。良く結果が全てっていうんだ。だけどねボクらはそうじゃないって知っている。
過程が大事なんだ。経験ってやつね。
魂は生まれ変わりを幾度も繰り返す。もし、生まれ変わりがなければ結果だけ求めて最効率重視で成果を上げ続ければいい。
だが、生まれ変わっちゃうんだよね。
まあ、ボクはそのサイクルが異常に長いけどさ。
生まれ変わる中で、足掻いたり、苦しんだり、妬んだり、羨ましかったり、嫉んだり、悔しかったり、欲したり、愛したりさ。そんな何気ないことが大切なんだよ。
それを克服したりしなかったりね。
何でもいいんだ。とにかく経験が出会いが魂を大きく太くする!いや。ちがうな。
光の輝きが増していくんだ!」
リリスはデモスの飛空に合わせながら、街でうごめき逃げ惑う人々の群れを笑みを浮かべながら楽しんでいる
「見てごらんこの下界の景色を!
生き残るために人々が足掻く様を!
人を見棄てたり助けたり。
ほら、アイツ!他人をおとりにして、逃げだして真っ先に食われてる!
ねぇあの子見て!いつまでも死んだ母親に助けて貰えるとしがみついている!
その子をさ、初めて会った赤の他人が必死に庇っている。片腕もう使い物にならないのにさ!
でも逃げようと思えば助かるのにさ!
みんなすごいすごいすごいすごい経験してる!
『ん?……おや?』
ジャイアントが一体倒された!
いよいよお出ましだね
成れの果て!
クロエちゃんの成れの果てが!」
リリスは目を閉じた
「では最高のショーを!エンターテイメントショーを拝見致しますか!
……りんく……」
リリスの視界が周辺のモンスターと共有され、統合され、まるで間近て見ているような臨場感溢れる光景が現れる。
そこには大小様々な体型の青い繋ぎのようなダボダボの服を着た五人の者達がいた。
皆白い仮面をつけている。
その中のひとり。
美しい黒髪でボブカットのクロエと同じような背格好の少女。白い仮面に目の部分に赤く真一文字に線が引かれている。
光景はその少女に集約されていた
「さぁ、お手並み拝見と致しますか!
ボクの可愛い傀儡ちゃん」




