安心して悶えていろ
それから四時間後。
グルイ一行は森の中にいた。
グレイは大木の裾に体を預け、ウトウトしている。
その真ん前は主人の眠りを妨げぬように、しっかりと仁王立ちするシロエ。
そしてクロエとリリスは片っ端から獲物を狩っていた。
二人の戦い方は良く似ている。ふたり共、指先を刺のように伸ばし、踊るように舞うように目の前の敵をはふっていった。
リリスは宙返り際一匹のモンスターを仕留めると、着地して直ぐクロエと背中を合わせた
「中々やるねぇクロエちゃん。
誰から戦いを教わったんだい?」
「ワカラナイ。でも。タタカエル」
ふふふーんと嬉しそうに微笑むリリス
「君にはルルワの他にボクの血統も混じっているね。
果たして君を世に出すために何人の乙女が犠牲になった事やら……まあ。ひとつ面白い事を教えてあげよう。
もう少しで君の成れの果てに出会える。
君に成れなかった君の分身さ」
「ドウ。いう。コト?」
シュッ。飛び出してきた犬型のモンスターの首を切り落とすリリス
「すぐに会えるさ。もうすぐね。
でもどうだろう?
向こうは君が嫌いだろうね。
もしかしたら……もしかしなくても君を殺そうとするだろう。その時はどうするんだい?
まだ君。人を殺した事ないだろう?」
「モシ。わたしを。ころそうと。するなら。かえりうち。コロス」
決意を込めるクロエに。
リリスはほくそ笑み
「いい心掛けだ。甘さは禁物。
普通に渡り合えば君の勝ちは揺るがない。
地力が違いすぎるし、伸び代も桁違いだ。
たが、彼女は……君の成れの果ては君を殺せる。
そこのところをその幼き胸に刻み込んでくれたまえ。
と
そうこうするうちに、皆全滅したようだね。
では!鎮魂歌を奏でよう!」
リリスは恍惚とした表情でゆっくりと歩きながら、拡げた両手から紫の雫を飛ばす。
雫が触れた死体からは紫の炎が燃え上がる。
そのあちこちで迸る炎の真ん中で口角をあげ愉しげに笑い、自らの体を抱き締め、ブルブル震える
「あーーー!命がボクの体を!魂を駆け抜けてゆく!
たまらない!やめられない!殺し足りない!
あーーー!誰か!ボクを殺して!」
「うるせーリリス。黙れ!
おい。クロエ。人殺しの練習だ。
そいつの眉間に指をぶっ刺せ!」
グレイは物騒な事をいう
「クロエ。心配するな。
そいつは殺しても死なねえ。
つうか。死ねねえ。
だから安心してぶっ刺せ!」
瞬間クロエは人差し指を刺にして、リリスの眉間を貫いた
「わーお。クロエちゃん。殺るとなったら躊躇しないね。いい心がけだよ!
御褒美にちょっとだけ力を分けてあげたよ。
そのボクの頭を貫いている指からボクの血が少し侵入した。
只の血じゃないよ。ボクの魔力がこもった意思を持った血さ。これから君の諸々をこねくりまわすよ。これから五分くらいかな?
死ぬほど痛いよ」
かはっ
いきなりクロエは吐血し跪いた。
そして首を掻きむしり出した。
そしてうつ伏せになり、激しく痙攣しだした
「おい。リリス。お前も趣味悪いーな!
いきなりやる馬鹿がいるか?」
「どう?グレイ。
あなたの大切なクロエちゃんが苦しんでいる姿をみるのは?興奮するでしょ?
でも手加減してあげたよ。あまりボクの血をあげると変貌しちゃうからね。どうなるかボクにも分からないし……。これくらいで丁度いいね。
あと残り時間後四分。
これからもっともっと苦しくなるよ」
がはっ!
口からドス黒い血の塊を吐き出し、仰向けになり体をよじり始める。痛みや苦しみ合わせて露になった両足が、踊り狂う。
「くろえ!」
シロエが思わず駆け寄る。が……
シャキン!
リリスの五本の指先が伸び、刃物となって、シロエの進路を遮る
「くろえ。くるしんで。いる。たすけ。ないと」
「残念だけどね、君には何も出来ない。
それどころか君が触れれば折角のボクのプレゼントが台無しさ。心配することないよ。
見た目は何も変わらないから……見た目はね」
あ……いたい……がああ……
今度はクロエ。胸を押さえる。
口の端から血が止めどなく流れ、両白目も血の色に染まる。
そこへグレイが歩み寄る
「苦しいか?痛いか?クロエ」
「マスタ……くるし……いたい……しぬ……タスケテ」
血の涙を流し利き手の左手をグレイの方へ伸ばし懇願する
「だめだ。助けられない……いや。違うな。
たぶんリリスはお前を助けてる。
今までのお前じゃ、お前の成れの果てに殺られるだろうからな。
大丈夫だクロエ。オレがずっとお前の側に居てやる。
だから安心して悶えていろ!」
「ワカッタ……かはっ……クロエ……モダエル」
瞬間。クロエは大きくエビ剃りになり、体の穴という穴から血を流しビクンっと大きく痙攣すると、脱力して地面に横たわった。
そして流れた血がうねうねとアメーバのように動きだし、クロエの体の中へ出た穴から戻っていく。
そして血だらけの体は綺麗になり、まるで眠ったように大人しくなった
「ほら。王子様。目覚めのキスをしてあげなきゃ。
これは君の役目。誰にも目覚めさせることは出来ないよ。ほらっ、さっさとやる……って!早すぎ。
もう少しで余韻とか無いわけ」
リリスのちょっかいに関せず、グルイはクロエを抱き抱えると長い口づけをした。
シロエが羨ましそうに見ている。
やがてクロエが目を覚ます
グレイの口づけに気づくとうっとりとした眼でグレイを抱き締める。
グレイはしばらくそうされていたが、優しくクロエを地面に横たえ
「クロエ。良く頑張った。流石オレ様の奴隷だ。
少しの間そのまま寝ていろ。
その間側にいてやる」
「ウン。マスタ。うれしい。おねがい。てを。ニギッテ」
グレイはクロエの手を握り、安心したのかクロエはそのまま眠りについた……。




