千年ぶりの宴
真夜中リリスは森の中を歩いていた。
リリス。かつて背徳の女神と恐れられた女神は封印され、解放の条件として今はこうしてグレイの奴隷に落ちぶれている。
力の大半も奪われ、姿も妖艶な万人を虜にするような絶世の美女の姿ではなく、15歳の美少女の姿。紫のメイド服を着込んでいる。髪や瞳、そして唇は赤紫で肌も青白い。
他人が見れば魔族の少女に見えるだろう。
「しっかし慣れないなぁこの姿。
いや。体かな。すごくダルいよ。
今までは魔力で常時身体強化していたからね。それがうまく機能出来ていない。それでもそこらの人間からすれば化け物レベルだろうけど……さ。
力も百分の一位になっちやったかなぁ~。
あ~かったるい」
リリスは両腕を頭の後ろで組み、ダルそうに歩いている
「ふむふむ。あっちの方にはザコの群れがいるね。
うん?2キロ先には結構面白いヤツがいる。
いきなりぶち当たって、まあ勝てるだろうけど、この体じゃ苦戦するかもね。
でもザコ過ぎんのもさ。つまらない訳よ。
おや?3キロ先に魔力の反応複数あり。こいつくらいが丁度いいかな。動線上にザコの群れもかぶっているし……久しぶりに虐殺とやらを楽しみますか!
そうと決まれば……」
リリスは四つんばいになった。後ろ脚太ももが盛り上がり、前脚も前腕が太くなり、毛がはえ、爪が伸びる。
背中は猫背になりしっぽが生える。
犬歯が更にのび、耳が大きくなり猫耳のよう。
顔は妖艶可憐な少女のままだが、姿形は猫科の獣。
「じゃ!狩りをはじめますかっと!」
後ろ脚を蹴り上げ、凄まじい速度で森の木々の間を駆けていく。そして
「み~つけた」
犬科の魔獣が、50匹ほど群れている。
こちらに全く気付いていない。もちろんリリスは気配を消して様子を伺っている
「このまま不意打ちすれば、あっという間に終わっちゃうだろうけど、それじゃああまりにも勿体ないわけよ。すこしは楽しみたいじゃない?」
そして気配を消すのを止めた。ついでに力をほんの少し解放した。
魔獣共が唸りながら、一斉にこちらを振り向く。
リリスは獣姿ながら、人間のように二足歩行して近づいていく
「やあ!皆さんお揃いで!
ちょっとお願いがあるんだけど、だいぶ身体がなまっていてさ。ボクのリハビリも兼ねて君たちに、遊んで貰おうと思ってね。
君たちと同じ四つ足になればすぐに決着つくだろうからね、こうして二本足でお相手するよ。
機動力が無くなるじゃない。逃げ切れないよ。ボクをなぶり殺しにしていいよ。ボクは死なないけどね。殺した端から復活する。
もし君らが勝ったら朝までボクを食べ放題さ!
君らもパワーアップできるしね。
どう?悪い条件じゃないだろう?」
リリスは魔獣の群れの中にゆっくりと歩みを進めていく。魔獣達は唸りをあげるだけで、襲わない。
そしてリリスは魔獣の群れの中心に立ち両手を広げた
「レディース アンド ジェントルメーン!
今宵!千年ぶりの宴!血が滴り、肉が飛び散り、命が消える!最高のパーティーにしようじゃあーりませんか!
では皆さん。遠慮は要りません。かかっておいでなさい。ボクを楽しませないと……殺すよ」
シャキン!
リリスの広げた両手の指先が紫の刺か剣のように伸びる。
それを合図に魔獣共が一斉に襲いかかった!
「……なんだかな~」
辺りが血だらけの森の空き地。
先刻まで生を謳歌していた魔獣の群れ。
それが一匹残らず屍と化していた。
その一部屍が山となった頂きに、少女の姿に戻ったリリスがヤンキー座りしている。
「でも、ちょっとは臨場感あったしね。死体も魔石にせずに残したし、殺ったっていう感触は大事だよね。
でも、持ち帰えらないとフェルうるさいだろうからなぁ。
じゃ。名残惜しいけど、皆さん、ご苦労様でした!」
そして右手のひらを屍に向け、それをぐるーっと一周する。手のひらから紫の雫が数十も迸る
「うん。いい感じ。じゃ!お見送り!
パチパチパチパチ」
リリスが拍手すると魔獣の死体からポワッと紫の炎が立ち上る。すべての屍が燃え辺たりが紫に染まる。
その中央に立ち、紫の炎に炙られながらも燃えもせず、恍惚な表情で死を堪能している少女リリス。
燃え尽きるまでの15分。彼女は微動だにせずその光景をただうっとりと眺めていた。
跡には魔石だけが残り、リリスは灰色の袋の口を開け地面に置く。
そしてパチンと指を鳴らした。
魔石はゴロゴロ転がり出して、その灰色の魔法の袋に自ら吸い込まれていく。
すべてが魔法の袋に収まったのを確認すると、リリスは袋の紐を閉じた。だが、また開けて、中から一個魔石を取り出し、今度はきちんと紐を結んだ。
「じゃ!遠慮なくいただきまーす!」
口をあんぐりとあけ、その中に魔石を落とすリリス。
ゴクリと飲み込み、魔石が喉を通ると、魔石の落下に合わせて喉が丸く膨らむ。
「これで少しは楽になるかな?一辺に回復しちゃうと、ボクが強く成りすぎて戦いを楽しめないからね。
では、次のターゲットいきますか!
ん?」
リリスは耳を欹てる。
そして目を閉じる。
『うんうん。ここから五キロ先。人間が群れているね。少し強い反応だ。戦士かな?数は30程。
こんな夜中に……なるほどなるほどキャンプ中。御就寝様ですか?』
リリスはそちらの方を向くと
「嵐の前触れだと面白いけどね。ちょっと冷やかしにいってこよう!」
また獣のような姿ビーストモードになり、リリスは四肢を駆使して、暗い森の中を駆け抜けていった。




