やばい女
……汝、妾が欲しかろう?……
壁に埋まった妖艶な絶世の美女の問いかけに、グレイはポカーンと口を開けて惚けている。
いや、呆れている
「シロエ。クロエ。帰るぞ!」
踵を返すとさっさと出口へ向かう。
白と黒は返事をして、いそいそとついてゆく
「いいか?シロエ。クロエ。ああいうのは関わりにあったらな、ろくでもない目に遭うのかオチだ。
見なかったことにしよう。
まてよ。誰かがもしあいつを見付けて解放でもされたら、ヤバイ気がする。
いっそのことこのダンジョンを全部瓦礫で埋め尽くしてやろう。
誰もここへはこれねぇし、あいつもずっと埋まったままだ。できるか?」
「ますた。まかせて」
「マスタ。ここ。こんせき。ケス」
後に残されかけいる封印の美女は、事態が呑み込めずポカーンとしていたが、急に慌て出して
「ちょっと待ちや!先刻の妾の話聞いたじゃろう?
妾を解放するだけで、財も名誉も妾という絶世の美女も漏れなくついてくるのじゃ?
えっえっどういうこと?
こら!ちょ、いかないでくれろぉ~~」
先程の自信満々な妖艶な笑みはどこへやら
「うるさい。黙れ。オレは富や名誉など生まれた時から備わっていた。女もだ!そんなものはオレの役には立たなかった。オレはそいつらに捨てられ、オレも捨ててやった」
「な、なら妾を解放してくれればよいではないか?妾を放り出し『お互い赤の他人だ』で済めば、妾も望むところじゃ!の、助けてたもう」
グレイは雑巾でも見るような眼差しで
「お前など解放すれば世の災厄としかならん。
オレの第六感が告げている!では、せいぜい長生きしろよ」
グレイは捨て台詞を残すと、もう数歩でこの部屋を今にも出んとした。
黒き美女は絶叫した
「いやじゃ~~!妾はもう千年も封印されておるのじゃ!もう一人はいやじゃ~!寂しいのじゃ~!なんでもする~!助けてたも~!」
「あ~うるせぇ!」
グレイは立ち止まると女を睨み付けた。
やさぐれた顔が、さらにやさぐれる。
「よし、女。オレはお前にチャンスをやろう」
「くれろ。妾はなんでもするぞよ。どんな課題でもこなして見せよう。
妾にこなせぬことなどないのじゃ。早くチャンスをくれろ」
「そう慌てるな。オレは鬼ではないからな。
だからお前に助かるチャンスをやるのだ。
しかも一度ではない。二回もくれてやろう」
「二回のチャンスを妾にくれるのか?」
「ああ。オレは優しいからな」
グレイは不敵に笑い
「だがそのチャンスをお前が物にできなければ、ここで死ぬまで生きてろ」
「ああ。早く課題を出すのじゃ!妾は助かるなら、なんでもするつもりじゃからな」
「よし、チャンスをくれてやる」
グレイはニヤリと笑うと、シロエとクロエに話しかけた。
「おい!シロエ。あの壁にめり込んでいるウザイ女。
お前欲しいか?」
「しろえ。いらない」
「おい!クロエ。あの裸の変態女。
お前はいるか?」
「クロエ。ぜったい。イラナイ」
そしてグレイは我が意を得たとばかりに、冷たい笑みを女に向けた
「だ……そうだ。これでチャンスは2度共潰えた。
あとはお前はここで、野垂れ死ぬまでここで生きてればいい。もう二度と会うこともないし、会いたくもない。では、サラバだ!」
「な、な、な、な、なにがじゃ?
今のがチャンスかや?妾の入り込む余地など、微塵もないではないか!」
「……」
「……」
「……イコ。マスタ」
三人は部屋を出ようとする
「まっ!まったあー!妾のまけじゃ!
妾が主の僕となろう!そこの黒と白の小娘のように奴隷にでもなんでもするがよい!
この女神を奴隷に落とすがよい!
前代未聞じゃ!女神を人ごときが従えるなぞ、有史以来、空前絶後の出来事ぞ!
お願いじゃー!いかんといてやー」
グレイは喚き散らす自称女神に侮蔑の視線を向け
「誰がお前のような見るからに、やばい女を奴隷なんか」
「先の話は真でしょうか?
姉上」
グレイ指輪の中から、赤髪の少女が現れた。
「アズラ!なぜそちがここにいるのじゃ!」
アズラは姉の問いかけを無視して
「姉上。先ほど助かるなら奴隷になると聞こえましたが、間違い無いですね」
「アズラの奴隷には、死んでもならんぞよ。
そちは妾と同じで死なぬではないか?妾は一生端女のままなぞいやじゃ」
「あら、気が合いますわね。あたしも願い下げでしてよ。でも、ここでは二者択一しかございませんの。
あたしの奴隷になるか、それともグレイ様の僕となるか?さあ選びなさい姉上!
今から五数えるまでに答えなければ、あたしもこの場所を瓦礫で一杯にして差し上げるから」
アズラは指を一本立てて
「ひとぉつ」
「妾。そこの男の奴隷になろう」
「えっ、早!」
アズラが思わずすっとんきょうな声を上げる
「断る!」
「ますた。に。どうい」
「ドレイ。ふたりで。ジュウブン」
灰と白と黒はすかさずかぶせた。
グレイは畳み掛ける
「なぜオレがそこのクソビッチの主人にならねばならぬのだ!」
「く、クソビッチじゃと?
おい人間。妾は女神ぞ!人類初の女ぞ!原始の女ぞ!
そんな妾をクソビッチなどと人間風情が!」
「いいえて妙ですね。
姉上はクソビッチ以外の何者でもありません。双子の兄上カインを誘惑し、姉上の夫であたしのもう一人の兄……姉上にとっては弟になるのかしら?アベルを嫉妬に狂わせた。
嫉妬に駈られたアベルはカイン兄様を殺そうとし、返り討ちに合い殺された。
その為にカイン兄様は『人類初の殺人』を犯し呪われ、あのような禍々しい姿となってしまった。人の神話ではそこのところは暈してあるけれど、あなたがすべて元凶ですわね姉上」
「あら、それだけではなくてよ?生まれたばかりの弟。そうねぇ、あなたの夫といえば宜しいのでしょうか?
セトの初めても頂いたわ。
だって仕方ないでしょう?夫アベルは死んでしまって、カイン兄様はああなってしまうし……彼しかいなかったのですもの。今の人間とは違って生まれた時からいい大人ですからね、味見したくなるは自明の理ではなくて?
まあね。あなたが生まれたときにはあなたの夫はわたしの物だったわね」
蛇のように悪魔のように微笑む黒髪の女神。
何だか嬉しそうだ
「アズラ。でもあなたはセトとともに逃げちゃったじゃない?妾この熟れた果実をもて余したわ」
「それで父様にも手をだしたってことね。
そして魂が変貌し、母様から父様を奪い妻となった。
姉上。貴方人間の神話ではすごいことになっているわ。もちろんご存知ですわよねルルワ姉様」
「ええもちろんご存知でしてよ。妾を知恵の果実だの、禁断の果実だの、誘惑の蛇だの、時系列もメチャメチャだし、あんなの素直に書けばいいじゃない。
この妾が……『ルルワがすべての男とヤリました』とね。
まあ神話なんて、所詮人が自分達の都合で作ったものじゃからの、妾のような者の真実は書けんじゃろうな……」
「もうひと名を忘れておりませんか?ルルワ姉上」
アズラは感情を圧し殺した顔で言葉を続けた
「その名を口にすれば腐り落ちるともいわれる悪魔。
悪魔を生み出し魔族の母と崇められる者。
そして世に蔓延る魔獣を生み出した者。
エデンの園を悪魔と魔獣で満たし、魔界に変えた者。
人の神話ではこの名で呼ばれていましたわね」
アズラは言葉を一旦きり、そして絞り出すようにその名を口にした
「リリス」
瞬間黒髪の美女が変貌した。
捕捉です。
この異世界の神話
人類を生み出した半神。
肉体を持った初めての神である
アダムとイヴ
その子供達……不老不死であるが、兄弟に殺されると復活迄に千年かかる。かつてアベルがカインに殺された。
長男カイン
(人類初の男。アワンの夫)
次男アベル
(ルルワの夫)
三男セト
(アズラの夫)
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長女ルルワ
(カインの双子の妹・アベルの妻)
次女アワン
(カインの妻)
三女アズラ
(セトの妻)




