オレの奴隷になれ!
レーナとチーナから別れて、二週間たった。
亜人の国の森の奥。
石の建造物が乱立している。
所々崩れ、蔦がはっている。
古代の遺跡だ。
そこのドーム状の屋根の上に、灰色の髪の偉丈夫と白と黒ふたりの少女がいた。
グレイとその奴隷少女のシロエとクロエだ。
グレイは小汚ない金属の胸当てと小手、そしてすね当ての簡易防御スタイル。
裏地が赤い灰色のマントを羽織っている。
瞳はオッドアイ。白と黒だ。
右側白い瞳は瞳の枠だけが黒い。そちらの方には、白い髪ピンクの瞳の少女が付き従っている。
左側黒い瞳の方は、黒い髪黒い瞳の少女が立っている。
いつもふたりはワンピースなのだが、この頃はメイド服
を着ている。
猫耳グラマラス母猫リーナが、シロエとクロエのために密かに作成しプレゼントしたものだ。
シロエはピンク基調のメイド服。
クロエは黒基調のメイド服。
どちらもゴスロリっぽい。
フリフリエプロンは白。
カチューシャはシロエはピンク。
クロエは白。
そして短めのスカートから覗くのは……。
「しろえ。これ。いや」
「クロエ。モ。これ。イヤ」
ふたりしてスカートをたくしあげた。
短めドロワーズのフリフリ見セパンをグレイに見せる。
シロエは白。クロエは黒
「折角レーナさんが作ってくれたんだ。大事にはけ。
あー寝るときは脱げよ」
「あいさ。しろえ。はだかに。なる」
「アイサ。クロエ。モ。はだかに。ナル」
「寝巻きのワンピースがあるだろ!あれ着ろ」
グレイは取り合わない。
そして当たりを見舞わす
「お前らを拾ったのは、確かこの辺だったよな?」
「ん?もうすこし。さき」
「クロエ。あんない。スル」
三人は連れだってソコから3kmほど離れた遺跡群に着いた。
「ここか?」
「ん。そこの。ななめの。はしらの。した」
「クロエ。しろえ。と。だきあって。イタ」
先が折れた円柱型の柱の元を少女達は指差す。
二人の言うように柱は斜めになっている。
地面は草で覆われているが、所々焦げたような跡ある。
「ずいぶんと綺麗に掃除されているな」
グレイは呟き、そして二人とあった夜のことを思い出していた。
*****
グレイがまだグレイじゃなかったころ。
まだレイハルトと名乗っていた頃の話。
いやレイハルトを止めようと思っていた頃の話だ。
2年前。
レイハルトは王都で婚約者のジュリエッタに会った。
だがレイハルトは金髪碧眼の美丈夫ではなく、灰色の髪で白と黒のオッドアイになっていた。
そして王都でジュリエッタの乗る馬車を止め、会う事は出来たが結果は散々だった。
冷たい口調で拒否されて、ジュリエッタによって焚き付けられた群衆に追われ逐われて逃げ惑い、気が付いたら王国の国境を越えていた。
そして身も心もボロボロで幾日も彷徨った。
ある夜ふと我に返ったら、目の前で白い少女と黒い少女が抱き合って怯えた目でレイハルトを見ていた。
レイハルトはこの場所まで知らずに流れて来たらしい。
レイハルトはこの二人の少女を一瞥すると、何事もなかったように去ろうとした
「たすけて」
「コワイ」
少女二人はレイハルトの足にしがみついた
「なぜオレがお前らなど助けねばらなぬ。
オレはオレのことだけで精一杯だ。お前らにかまっていられん」
「わたし。なんでも。する」
「ワタシモ。なんでも。いうこと。キク」
レイハルトにさらにしがみつき
「だから。たすけて」
「オネガイ。タスケテ」
レイハルトはそんな二人を冷ややかに見ていたが、なんだかニヤリと笑い
「オレの言うことはなんでも聞くんだな?あんなことやこんなことも命令するぞ」
「きく。なんでも。する」
「キク。どうにでも。シテ」
二人の懇願の眼差しに、満足したように
「では、オレの奴隷になれ!お前らを助けて寝首を掻かれたらかなわんからな。それがイヤなら他をあたれ」
「わたし。どれいに。なる」
「ワタシモ。ドレイ。ナル」
「では、手を離せ。そしてそこへ正座しろ」
白い少女と黒い少女は言われたままに従う
「これが最後通告だ。お前たちはまだ小さいから、後で文句を言われても面倒だ。
いいか?奴隷はオレには歯向かえない。オレが命令すればどんなヒドイことでも言いなりだ。
それこそあんなことやこんなこともだ。
それでもいいのか?
何なら近くの街まで届けてやってもいい。どうせ行くつもりだからな。
ほんの少し情が沸いただけだ。
それくらいはしてやる。
どうだ?そこで誰かに助けて貰えばいいだろう?」
「わたし。あなたの。どれいに。なる。ほかのひと。こわい。でも。あなた。へいき」
「ワタシモ。どれいに。なる。わたしも。へいき。ずっと。いっしょに。イタイ」
レイハルトはその答えで満足そうに頷き
「なんだか知らないが、奴隷にしてやる。名前を教えろ」
「わたし。なまえ。ない」
「ワタシモ。なまえ。ナイ」
「ほう。それならオレが付けてやろう。シロとクロ。
味気ないな。では、シロア。シロイ。シロウ。シロエ……シロエ……いいな。お前は今からシロエだ!」
白い髪の少女を指差す
「うれしい。わたし。しろえ」
「お前はクロエだ!」
今度は黒い髪の少女を指差す
「スゴく。うれしい。わたし。クロエ」
「シロエ、クロエ!気にいったか?」
レイハルトはやさぐれた顔で悪役のように微笑む
「しろえ。しろえ。きにいった」
「クロエ。クロエ。キニイッタ」
「よしそれなら奴隷の刻印を刻んでやる。
いいか。この奴隷刻印が刻まれると、オレを殺そうとしたりオレにイヤな感情を向けると心臓が痛む。それからさらに激しい殺意を持つと心臓が破けてお前達は死ぬ。
それでもいいんだな?」
怖い顔で睨み付ける
「いい。しろえ。どれいに。して」
「クロエモ。いい。どれいに。シテ」
「よしいいだろう。シロエ。クロエ。お前たちを奴隷にしてやる」
レイハルトは少女ふたりに指示し、裸にした。
そしてシロエの薄っぺらい左胸に手を置き、なにやら呪文を唱える。するとレイハルトの体から紋様が光って出現し、それが腕を通ってシロエの体に流れ込む
「ひあっ!」
シロエは胸を押さえる
「完了した。シロエこれでお前はオレの奴隷だ」
「はい」
シロエはへたり込み、胸を押さえながら返事した
そして次も同じ手順でクロエを奴隷にした。
クロエも胸を押さえて、うずくまっている。
「さっさと服を着ろ」
シロエとクロエは一張羅のワンピースを着た。
シロエは白。クロエは黒のワンピースだ。
下着は元々はいてない。
「オレのことはマスターと呼べ。返事はアイアイサー。長いな。アイサでいい。他のヤツには使うな。
オレが主人だからな」
「あいさ。ますたあ」
「アイサ。マスタア」
「なんだか気が抜けるな。マスタでいい」
「あいさ。ますた。なまえ。おしえて」
「アイサ。マスタ。マスタ。の。なまえ。シリタイ」
レイハルトは自分の名前を教えようと思った。
たが、あの名前はもう要らない。
レイハルトはシロエとクロエを交互にみた。
白と黒。混ぜ会わせれは……。
そして自分の髪の色を思い出した
「オレは……オレの名前はグレイだ」
レイハルトはその名を捨た。
新しくグレイと生まれ変わった。
夜空を覆っていた分厚い雲が晴れ、満月が顔を覗かせた。
「なんだこれは?」
辺り一面、かつて人であったものの残骸。
白いローブの者達と黒いローブを着た者達の死体が、散らばっていた。
ある者は焦げ。
ある者は胴と首を離され。
ある者は手足を失くし。
ある者はその体に矢が刺さり。
ただどれも絶命していた。
「シロエ。クロエ。お前達がしたのか?」
「しろえ。ころして。ない」
「ミンナ。ころし。アッタ」
少女達は首を振った。
それが二年前。
シロエとクロエを拾い。
奴隷にした日の出来事だ。
そして
灰色の大魔王と
彼の半身のように付き従う
聖白の魔女
常闇の魔女
の伝説が幕を開けた