初心者泣かせ
臨時パーティー[紅魔の剣]の一行は、ダンジョンに突入した。
先行は斥候役のハーフエルフのファーラ。
明かりのないダンジョンを探索するには光源が必要だ。
精霊使いなら光の精霊を現出させ、ダンジョン内を照らす。エルフの血を濃く受け継ぐファーラは精霊との親和性も高く、光の精霊の力を借りるのも容易だが今回は光源無しで探索している。
このダンジョンに何が出現するかしれないが、一度攻略したので地図はある。道に迷う事はない。
ファーラは、全体的に緑っぽくなるが暗闇で良く見える[暗視の魔法]で敵を探っている。
灯りを付ければ敵からすればこちらの居所が丸分かりだから、今斥候に従事しているファーラには光は要らない。
ファーラは身を屈め足音と気配を消しながら、洞窟内を先行している。もうダンジョンの中程まで来たのに、魔物一匹とも出くわさない。シンと静まりかえって不気味だ。
そうこうするうちに少し開けたエリアに出た。
そしてファーラの動きは止まった
──何なのあれ?
それは群れていた。
身体は間違いなくコボルトの物だろう。だがその頭部は蛇に成っていた。蛇の頭がそのまま乗っているのではなくて、大蛇の胴体の半分がコボルトの胴体から生えている。
クネクネと鎌首をもたげて動いている。
それらコボルト大蛇が10匹ほど要るのだ。
それだけではない
──トロールよね。あれ?
トロール。この[初心者泣かせ]のボスだったはずだ。
トロールは250cmくらいの身長で体が肥満体だから相当デカくみえる。首が無く大きな顔が直接身体から生えているような印象を受ける魔物だ。
力は強く武器を持たぬ素手でも、コボルトくらいならミンチに出来る。武器を持てばヒューマンでも潰れてしまう。
反面動きは遅く、足も比例して遅い。
だから遠距離攻撃には弱い。皮膚が厚いので初心者の弓矢では傷を付けるのは難しいが、魔法には滅法弱いので黒魔法士が一人居れば攻略も楽だろう。
近距離でもトロールの動きを観察しながら慌てずに攻撃をすれば、トロール単体なら不覚をとることもないだろう。
もちろんトロール一匹ならファーラの敵ではないが、このトロールの頭部からは一際大きな蛇の頭が二体、ウネウネと身を踊らせていた。
大蛇は魔気に当てられ魔物化したもので、体色が黒っぽい紫色で毒もある。トロールの頭の変わりに付いている二体の蛇体は、人間の子供の胴体ほどもある
──これは戻って報告した方が良いわね
ファーラは後戻りすると、シュヒル達に合流した。
★
「成る程。見たこともない魔物……」
顎に手を置き考え事をするシュヒル。
まだ洞窟内では戦闘をしていないが、こういう訳の分からない存在は放置せず直ぐにギルドに報告した方が良さそうだ
「これは提案です。一旦引きましょう。
我々の手には負えそうもありません。理解の範疇を越えてます。どうでしょうか?
先ずは副リーダーのマーリンに意見を求めます」
「そうね。問題ないわね。行っちゃいましょう!
面白そうじゃない?」
「ですが。危険ではないですか?
魔物の正体も分からないし……」
「あー。あれね。あれはキメラね」
「「「キメラ!」」」
キメラは多数の獣の特徴を持つ魔物の総称である。個体数が少なく強力な魔物で、人語を話す者もいる。
上級ダンジョンに主に生息する魔物で、代表的なのはキマイラ。頭部がライオンで、ヤギのような胴体を持ち、尾が頭のある蛇である。上級種になると頭がライオン、ヤギ、蛇の三頭でそれぞれ属性の違う魔法を使うので、S級パーティーでも討伐に手間取る。
他には有名なのはマンティコラ。獅子の胴体に蠍の尾。そして人の顔。人語を話し、人を惑わせ罠に嵌め死んだら食す。
魔物でありながら魔導師のようで、その強靭な身体で守りと逃げに徹し、戦う時にいきなり魔法をぶっ放す!
単体でも非常に厄介だが、他の魔物の群れに一体でも紛れ込んでいたら難易度が大幅に上がる。
だからキメラと聞くと、条件反射的に身構えるのだ。
けれどマーリンは涼しい顔で続ける
「ファーラさんの話を聞いたところ、大したこと無いわよ。素体がコボルトやトロールでしょう?頭が蛇なんて、元の素体より弱いわよ。
ホントにヤバいキメラはまるっきり素体そのままのやつね。突然変形するから厄介なのよ。
特に人型のキメラは出会ったら即逃げることね。
手や足を刃物やランスみたいにも変形させるし、近接戦では間合いが掴めないのよ。それは戦士にとっては非常に厄介で危険極まりないって分かるでしょう?シュヒルさん?」
「ええ。前衛にとっては間合いの見極めこそが生命線ですから、その前提が崩れれば危険度は遥かに増します。
もし出会ったら忠告に従い、逃げるとしましょう」
シュヒルが険しい顔で同意する。
人型のキメラなんて聞いたことがないけど、もし実在するなら今も人間社会に溶け込んで暮らしているのかもしれない
「そう。それが大正解。
人型のキメラからすれば、キマイラやマンティコラなんて雑魚よ。これは忠告。覚えていて。
それとね……きっと作り出した者がいるから会ってみたいのよ。多分……あいつのような気がするけど……」
「あいつ……ですか?」
「ええ。古い知り合いね。
もしあいつが関わっていたら、それこそ貴方達の手には負えないわね。でもわたしなら古い馴染みですから説得も可能でしょう。
でも説得も何も、彼は自分のテリトリーが侵されるのを嫌うから、直ぐに逃げ出すわ!
でも憶えて置いて。逃げるからと言って決して弱い訳ではないわ。わたしを除いた[紅魔の剣]のメンバーなら、なす術無く殺されるでしょうから、もし出会ったら彼を敬って決して挑発してはダメよ!」
それなら、ここは大人しく撤退して、そのヤバいヤツが逃げ出すのを待っていた方が良いと思うが、皆口をつぐんで黙っていた。
何故ならマーリンが急に嬉しそうな雰囲気でキャピキャピし出したから。
ここで水を差す勇気は誰にもなかった。
それに……皆はこのマーリンがいる限り何とかなると達観していた。
そしてこのキメラを作り出した者がどのような輩か、会ってみたいと興味が芽生えた。もしここで会えなかったら、二度と同じ機会が訪れないと分かっていたから。
人型キメラ?
グレイの仲間にそんな女の子がいたような……。
羊の角が生えてるヤツ……




