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ジークの宮殿

 謁見の間から出てきたキーオーを、リト婆さんは額に皺を寄せた顔で出迎えた。満足そうな、自慢げな表情をしている。


「女王陛下とお話することはできたかい?」

「はい。とても有意義なお話でした。渡さなくてはいけないものも渡せましたし」

「それはよかった。ところで昨日は宮殿の救護所に泊ったようじゃが、よく眠れたかね?」

「はい。久々のベッドだったので、夜が明けるまで一度も目覚めることなく、ぐっすり眠れました」

「そりゃ何よりじゃ。しかしいつまでも救護所にいるわけにもいかんじゃろう」


 リト婆さんはそう言うと、指を小さく丸めて後に付いて来るように促した。


「来なさい。お前さんのために部屋を一つ空けてある」

「いいんですか?」

「もちろん、お前さんはわしらの大切な仲間じゃからな」


 キーオーはリト婆さんに連れられて謁見の間の前から宮殿の真ん中にある広い中庭まで歩いた。中央には小さな池があり、その周りを芝の生えた中庭が、さらにその周りを琥珀色の宮殿が囲んでいる。

 人が住むためだけに建てられたようなラザール帝国の建物とは違い、宮殿の屋根や柱にはいくつかの彫刻が掘られていた。なかには漁師が使う網のように小さな穴があいた彫刻もみられる。

 キーオーはこうした繊細な装飾と琥珀色の材質から、宮殿は木造の建物だと思っていた。しかしよくよく細部を見てみると、どうやら石造りのようだ。石をここまで細工するなんて、二億年前の人々の技術力は恐ろしい。

 宮殿の内部はフクロー女王と側近たちが暮らす一部を除き、一般に公開されていた。中庭には王族ではない市民の子供たちが楽しそうに遊んでいる。赤や青、緑色の地毛を持つジークの子供たちはよく目についた。


「わしが初めてここへ来たとき、その賑やかさに驚かされた。宮殿とはもっと神聖で厳かなものだと思っていたからの。でも今となっては、この方が宮殿らしい」

「リト婆さんがここに来た頃から、ずっとこうなんですか?」

「いいや。わしがここへ来るうーんとずっと前から、古都ベルローラの宮殿はみんなの遊び場なんじゃ」


 皇族のいる宮殿に自由に市民が入れるなんて連邦では考えられない。ラザール帝国もフラシリス皇国も、行ったことはないが、宮殿には憲兵いて皇族を守っていると聞いている。

 宮殿に市民を入れることができるくらいにテロや襲撃の心配がない。それだけジークの女王が愛されている証なのだろう。

 そんな開放された宮殿とは違って、古都ベルローラ自体はまるで山脈のような巨大な壁に囲まれていた。『ジークの長壁』と呼ばれているそれは、ジークと連邦の国境に建てられ、陸にあるほぼすべての場所で二つの国を隔てている。

 その高さは王都ラッツァルキアにある巨大なビル群よりも高く、垂直で連邦側には傾斜も穴も突起もない。まるで一枚の板かのようにジークへの侵略を阻んでいる。

 これも二億年前にはあったものだという。古都ベルローラはその名の通り、世界の都市のなかで最も古く、失われた超古代文明を髣髴とさせるものだった。

 広い中庭をキーオーとリト婆さんが抜けると、宮殿に努めている侍女や兵士たちの宿泊所があった。

 連邦ほどではないがジークも国土は広い。古都ベルローラ以外で生まれたものたちは、みなここで暮らしているそうだ。

 アーチ状になっている門をくぐると、侍女たちの宿泊所とは思えない空間が広がっていた。赤く尖った屋根の建物が何個も並び、みな日が昇る東を向いて建っている。その建物の間を小さな川が流れ、空いているスペースに作られた菜園に綺麗な水を注いでいる。

 ここは宮殿の中というよりは、小さな村のようだ。

 驚くキーオーをよそに、リト婆さんはそそくさと先に進んでいった。そして一番南の日当たりのいい赤屋根の建物を紹介する。


「さあ着いたぞ。ここがわしら『家族』の家じゃ!」


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