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看守棟が沈むとき

 チェクは換気ダクトの扉を引きながら、顔をしかめた。


「だめ、びくともしない」


 鋼鉄の扉は引手を切断されたうえ、隙間を溶接されている。少し離れた間に看守の手によって封鎖されたのだ。リータも加わり、隙間からバールでこじ開けようとするが、動きそうな気配がない。

 その様子をみた囚人の一人が言った。


「銃を使って開けられないのか?」

「鋼鉄の鉄板よ。弾が無駄になるだけだわ」


 チェクも囚人たちもやきもきしている。リータは、


「別の出口を探そう」


と言って地図を手にとった。


「ここが封鎖されたってことは他の換気ダクトも閉じられているんじゃない?」


 チェクが地図上の細い線を指さして言う。


「その可能性は高いな」


 二人が地図を見ていると、一人の囚人が覗き込んできて尋ねた。


「おい、坑道のほうへ戻ることはできないのか?」

「無理だ。俺たちは坑道からこの監獄に入った。船が墜落して、たまたま山岳地帯に落ち、ここまで行き着いたたんだ。坑道側は広大な地下空間で、仮に外へ出られたとしてもそこにはムバイルの領地が広がっている」

「くそっ。せっかく悪夢から覚めたっていうのに」


 男は苛立ちながら両手をあげると、そのまま二人の前から姿を消した。残虐な方法で洗脳されていたとはいえ、所詮は凶悪犯かとリータは思った。すると別の囚人が言った。


「正面から突破しよう」

「あまりにも危険だ。犠牲者が出る」

「じゃあどうしろって言うんだ!」


 リータの言葉に囚人たちは苛立っていた。叔父さんも、


「みんな一度、落ち着こう」


と場をなだめるが、すでに囚人たちは勝手に行動をはじめていた。囚人たちは看守室から服や食料を奪い、工具や掃除道具で「武装」をしていく。


「看守どもめ、今に見てろ! 俺たちを舐めるなよ!」


 囚人たちは階段を駆け上がり、看守のいる地上階へ向かった。200人近い彼らの動きを誰も止めることはできない。キーオーも声をかけられた囚人に手をひかれる。


「君もいっしょに来い!」

「えっ」


 すると叔父さんが強い口調で、


「駄目だ!」


と男の手を遮った。囚人はそのまま、人の流れのなかへ消える。


「みんな! 怒りに任せて行動してはいけない! 冷静になるんだ!」


 しかし無情にも叔父さんの声はかき消された。キーオーはどうしていいか分からず、ただ叔父さんの側を離れまいと足踏みをした。


☆☆☆


 ババフィンアは最上階にある看守長室で、下層階でおこる反乱の音を聞いていた。頼みの綱だった特捜部にも見捨てられ、彼と部下の看守たちは絶望的な状況にあった。


『囚人たちが登ってきます! もう食い止められません!』


 無線から叫び声にも似た報告が聞こえたあと、何発かの銃声と囚人の怒号が聞こえた。何人かを撃ち殺すと、その倍になって人の波が押し寄せてくる。看守たちがこれまで、囚人たちを操り人形にしてきた代償はあまりにも重かった。

 一人また一人と看守が倒され、囚人たちが階段を登ってくる。ババフィンアは胸についている階級章と略綬を床に叩きつけた。


「この私が捨て駒だと! これほどまでに、連邦に忠誠をつくしたのに!」


 ババンフィアは震える手で、机の木箱から短銃を取り出し、弾を込めた。グリップには美しい水晶の彫刻が埋め込まれている。この銃は看守長に就任した際にライア国務参与から贈呈された品だった。

監獄を利用し、連邦の中で地位を上げる。そんな二人の思惑は一致していたと思っていた。しかし実際にはババフィンアもまた、ライアに利用されていたに過ぎなかった。

 ババフィンアは銃口を室内のコレクションに向けると、迷うことなく引き金を引いていく。イャスの石細工が、デラルの絹織物が、ワートラルの未知生物の骨が、銃声とともに木端微塵になっていった。野蛮な囚人どもに略奪されるくらいなら、命もろとも砕け散ったほうがましだ。

 囚人たちは最後の看守たちの壁を突破し、最上階まで登りつめた。このまま捕まれば、囚人たちから今までの仕返しをされたうえ、連邦との交渉材料になるだろう。しかも連邦はババフィンアのことを交渉材料とは見てくれない。そんな惨めな結末など、彼のプライドが許さなかった。

 ババンフィアはこめかみに銃口を突き付けると、廊下にいる囚人たちや上空にいる特捜部、それに聞こえるはずがない王都にいるライアに向けて叫んだ。


「連邦万歳! ラザール帝国万歳!!」


 そして銃声が響き、囚人が看守長室の扉を開ける前に、彼は事切れた。

 看守棟のガラスは割られ、ところどころ火災が発生しはじめた。特捜戦艦から双眼鏡で看守長室の様子を伺っていたアイリスは、自決したババフィンアの姿に目を背けた。この様子では看守は一人も生きていないだろう。

 アイリスはため息にも似た深い息を吐くと、無線で機関銃架にいる部下たちに指示を出した。


「看守のみでの制圧は不可とみて、これより攻撃を開始する。人影を見つけたら迷わず撃つのだ!」




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